「STEINBERG Nuendo 7」製品レビュー:ゲーム・サウンド向け機能ほか大幅な強化を果たしたDAWソフト

STEINBERGNuendo 7

ポスプロ用のDAWとしてユーザーの多いNuendo。Cubaseの上位版として認識している方も多いだろう。実はこのNuendo、音楽制作からMA/ポスプロ、映画のダビング制作から音響実験に至るまで、どんなワークフローにも柔軟に対応するハイエンドDAWとして設計されており、筆者はこれらに加えマスタリングもNuendoで行っている。サンプリング・レートは384kHzまで対応し、192kHzで96tr同時録音しても安定して動作する点からも、ハイエンドなDAWだとお分かりいただけるだろう。もちろんVST、ASIOの本家であるSTEINBERG製ならではのプラグインの動作安定性やサウンド・クオリティについてはここで述べるまでもない。

そんなNuendo、ついにバージョン7にアップデートされた。たくさんの機能が追加されたのはもちろんのこと、ゲーム制作用ミドルウェアであるAUDIOKINETIC Wwiseとの接続もできるようになり、DAWとしての使用範囲はさらに広がった。すべての機能を解説するのは難しいので、ポイントを絞って紹介したいと思う。

ASIO-Guard 2で安定した再生を実現
映像の変更に追随するMA編集機能

新バージョンでは、これまでのNuendoと基本的なレイアウトは変わることはないが、各所でCubase Pro 8で取り入れられたデザインが踏襲され、飛躍的に見やすくなり、作業しやすくなった。プロジェクトウインドウも、固定しない状態で複数のディスプレイにまたがってミキサーウィンドウやプラグイン画面を移動させることが可能に。より洗練されたインターフェース・デザインになったが、操作感は変わることなく、十分にその恩恵が受けられるだろう。筆者が前々から望んでいた、“イベントを移動する際にイベントが半透明化し、重なったレイヤーのイベントと両方を見比べる機能”も追加され、波形のタイミングを合わせる際などには便利になった(画面①)。

▲画面① イベントを重ねると透明化されるので、波形を見比べてタイミングをそろえるといった作業がしやすくなった ▲画面① イベントを重ねると透明化されるので、波形を見比べてタイミングをそろえるといった作業がしやすくなった

Cubase Pro 8で好評だったVCAフェーダーもNuendo 7では少し設定方法を変えて搭載された。チャンネル・ストリップ上にVCAオプションが表示され、あらかじめ準備したVCAフェーダーにアサインするだけで簡単に設定が可能だ(画面②)。

▲画面② VCAのアサインはチャンネル・ストリップ側から行う。VCAフェーダーは各チャンネルでのフェーダー・オートメーションに対して相対的な操作が可能。両フェーダーのオートメーションの結合も可能だ ▲画面② VCAのアサインはチャンネル・ストリップ側から行う。VCAフェーダーは各チャンネルでのフェーダー・オートメーションに対して相対的な操作が可能。両フェーダーのオートメーションの結合も可能だ

Nuendo 7ではオーディオ・エンジンの見直しもされた。また、CPU負荷の軽減のために、プロジェクトを先読みしてパフォーマンスを向上させるASIO-Guard 2が搭載され、コンピューターのスペックや使用環境に合わせてLow/Normal/Highという3段階のオプションが用意された。これにより、オーディオ・ドライバーであるASIOがピークに達し、再生中にノイズが走ったり、音が途切れたりする心配が少なくなった。プラグインを多く使うユーザーやハイレゾ環境下で制作しているヘビー・ユーザーにはうれしいアップデートだ。ここでオプションをHighにした場合、ASIOのreal-time peakメーターは驚くほど下がる傾向にある。このASIO-Guard 2、最適な設定をすれば、かなり快適な作業環境になるだろう(画面③)。

▲画面③ “デバイス設定”→“VSTオーディオシステム”内にあるASIO-Guard 2の設定。トラック単位で用途に応じて負荷とレイテンシーをコントロールすることで、再生時のパフォーマンスを高める。VSTパフォーマンス・メーターが瞬間的に振れることもほとんどなくなる ▲画面③ “デバイス設定”→“VSTオーディオシステム”内にあるASIO-Guard 2の設定。トラック単位で用途に応じて負荷とレイテンシーをコントロールすることで、再生時のパフォーマンスを高める。VSTパフォーマンス・メーターが瞬間的に振れることもほとんどなくなる

音楽制作をする上でEQポイントを探る場合、音程に合わせた周波数を探す場面に出くわすことがある。Nuendo 7からはノート・ナンバーを指定すれば、自動的に周波数に変換してくれる機能が付加された。例えばEQの周波数欄に“A3”と打ち込めば440HzにEQポイントが設定されるので、より音楽的な編集やミックスが可能になった。音楽制作する上でこの機能はとても便利だ。

ポスプロ用途においての大きなアップデートはReConform機能だ。MAなどでナレーションやSE、音楽などを配置したあとに、映像が一部変更になった場合、これらのポスプロ作業の一部がやり直しになることが多い。ところが、EDL(Edit Decision List)データを読み込んだ上で作業を進め、後に変更になった映像と新しいEDLを読み込めば、配置した素材が新しい映像に合わせて最適化されるのだ。追従させたいトラックはオプションで選択が可能で、音楽トラックなどの追従させたくないものはEDLから外すこともできる。

ゲーム用ミドルウェアWwiseと
双方向にサウンドのやり取りが可能

さて、Nuendo 7の新機能を幾つか見てきたが、今回のもっとも大きなアップデートとも言えるのがゲーム制作用ミドルウェアWwiseとの接続だ。音楽やポスプロは時間軸で制作や編集をするが、ゲームは時間軸で音をコントロールするのではなく“イベント”、つまりユーザーのアクション(ボタンを押すなど)や、プログラム上の判定に従って、音が配置されていく。DAWソフトで作ったサウンドはWwiseで決められたフォルダーに配置してから、あらためてWwiseのプロジェクト上で読み込み、こうしたイベントと紐付けしていくことになる。簡単に言えば、作ったサウンドはWAVファイルに書き出し、違うソフトの決められた場所にデータを移動したり、コピーしたりする必要があるわけだ。

今回Nuendo 7で搭載されたGame Audio Connectを起動させると、同一ネットワーク上にあるWwiseへ自動的に接続し、プロジェクトからのドラッグ&ドロップだけで指定したフォルダーへ書き出し、Wwiseでの読み込むことができる。一見地味にも感じる機能だが、何千種もの音楽/SE/効果音などが必要なゲーム制作の現場では、非常に役に立つ機能であることは分かっていただけると思う。Nuendo 7からはイベントを選択してその範囲でオーディオに書き出しできるインプレイス・レンダリング(後述)にも対応しているが、その書き出し先としてもWwiseのフォルダーを指定可能。しかもWwiseに配置したサウンドで修正が必要になった場合、Wwise側でそのファイルから“Edit In Nuendo”を選択すると、Nuendo 7側のプロジェクトのイベントに直接つながる仕様になっている。ひとつのプロジェクトにたくさんのデータが混在する場合などに、的確に修正したいデータにアクセスできることは作業効率も上がる。

ちなみにこのインプレイス・レンダリングはCubase Pro 8でも搭載されたもので、指定範囲を一瞬でオーディオ化する機能(エフェクトのオン/オフなども含む)。ちょっとした一部分のオーディオ書き出しが便利になった。ファイルの命名パターンを設定しておけば、ファイルの管理もしやすく、インストゥルメント・トラックなどのMIDIデータにも対応しているので、MIDIノート編集から波形編集にスムーズに移行もできる。

▲中央のGame Audio Connectウィンドウへオーディオ・イベントをドラッグ&ドロップすると、画面下のAUDIOKINETIC Wwiseであらかじめ指定したフォルダーへ送られる。反対にWwiseに読み込んだサウンドから、元のNuendoプロジェクトの該当部分を呼び出すことも可能。ここでは同一のコンピューター上でNuendoとWwiseを立ち上げているが、同一ネットワーク上でもこうした連携を図ることができる ▲中央のGame Audio Connectウィンドウへオーディオ・イベントをドラッグ&ドロップすると、画面下のAUDIOKINETIC Wwiseであらかじめ指定したフォルダーへ送られる。反対にWwiseに読み込んだサウンドから、元のNuendoプロジェクトの該当部分を呼び出すことも可能。ここでは同一のコンピューター上でNuendoとWwiseを立ち上げているが、同一ネットワーク上でもこうした連携を図ることができる

ユニークなマルチバンド・エフェクトが追加
VSTインストルゥメントも2種付属

DAWを使用する際に欠かすことができないのが、プラグインの存在。ところが、増え過ぎて使いたいプラグインを探すまでに時間がかかってしまうといったことはないだろうか。そんなときに力を発揮するのがプラグイン・マネージャーだ。必要なプラグインだけのセットを作ることで、迷うことなくプラグインを選択できる。このセットは複数保存が可能なので、自分の制作環境ごとに合わせたプラグイン・セットを作れば、作業効率も上がる。

そして、Nuendo 7には新しく4つのVSTプラグインが追加された。その中でもユニークなのがQuadra Fuzz V2だ(画面④)。

▲画面④ 新VSTエフェクトのQuadraFuzz V2。バンドごとに異なるアルゴリズムが選択できる4バンド構成のひずみ系エフェクト ▲画面④ 新VSTエフェクトのQuadraFuzz V2。バンドごとに異なるアルゴリズムが選択できる4バンド構成のひずみ系エフェクト

マルチバンド・ファズという珍しいタイプで、バンドごとにTAPE、TUBE、DIST、AMP、DECが選択可能。かなり個性的なひずみでのサウンド・メイキングが可能になる。試してみたところ、各バンドに搭載されているディレイがこのプラグインのポイントだと感じた。ひずんだサウンドを効果的に拡げることもできる。

4バンドのMultiband Compressorはインターフェースが一新され、新規追加されたMultiband Expander、Multiband Envelope Shaperと共通したデザインに。Multiband Envelope Shaperは帯域別にAttackのレベル、Length(Decayに相当するもの)、そしてReleaseのレベルが決められる(画面⑤)。

▲画面⑤ Multiband Envelope Shaper。4バンドのダイナミクス系エフェクトで、アタックやリリースをシンセのようにコントロールできる ▲画面⑤ Multiband Envelope Shaper。4バンドのダイナミクス系エフェクトで、アタックやリリースをシンセのようにコントロールできる

サウンドのエッジを立てたいときなどには重宝しそうだ。プリセットもたくさん用意されているので、これらを試しながらパラメーターをエディットするのも楽しいだろう。

加えて、今までNuendo Expansion Kit(NEK)にバンドルされていたVSTインストゥルメントのHalion Sonic SE 2とPadshopが標準で追加された。ちょっとしたSEやジングルなどを制作する際にはこの2つのVSTインストゥルメントはかなり有用だ。Halion Sonic SE 2はYAMAHA Motif直系の厳選されたサウンドをプリセットとして用意。Padshopはその名の通り多種多様なパッド・サウンドが魅力だ。これらをインプレイス・レンダリングと併せて使えば、SE制作などはかなり簡単にかつ効率的に行える。

今回のバージョンでは、他のプロジェクト・ファイルから任意のオーディオ・トラックをインポートできるようにもなった。今までほかのプロジェクトからオーディオトラックをインポートしたいときは両方のプロジェクトを立ち上げて、コピーする必要があったが、今回のバージョンからは“プロジェクトファイルのオーディオトラック”というオプションを選択するだけで任意のオーディオ・トラックのインポートが可能になったのだ。チャンネル・ストリップのパラメーター、プラグイン情報も併せてインポートできる。効率的なトラック管理が可能になった。

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ここ数年、どのDAWも目覚ましい進化を遂げており、それぞれに特色があるように感じられる。ただ、Nuendoに関しては、音に携わるエンジニア、ミュージシャン、プロデューサーなど、どの分野の方にも高いポテンシャルで活用ができる仕様になっている。今回、追加されたGame Audio Connectに代表されるように、ますます幅広いDAWユーザーへ向けたアップデートが続いている。

そして、CPUネイティブ環境下でのワークフローを最大限生かせるようにチューニングされており、WindowsであれMacであれ、プラットフォームを選ばない。親和性の高い同社のCubaseとで、プロジェクトファイルのやりとりがそのまま行えるメリットも大きい。さらに使いやすくなり、多くの機能をアップデートしたNuendo 7、いろいろな現場での活躍が期待される。

製品サイト:http://japan.steinberg.net/

サウンド&レコーディング・マガジン 2015年9月号より)

STEINBERG
Nuendo 7
オープン・プライス(市場予想価格:180,000円前後)
▪Mac:OS X 10.9〜10.10(32/64ビット)、 INTELデュアル・コア・プロセッサー、Core Audio対応オーディオ・デバイス ▪Windows:Windows 7/8/8.1(32/64ビット)、INTELまたはAMDデュアル・コア・プロセッサー、Windows対応オーディオ・デバイス(ASIO対応推奨)、DirectX 10およびWDDM 1.1対応グラフィック・カード ▪共通項目:8GB以上のRAM、15GB以上のディスク空き容量、1,920×1,080ピクセル以上のフルカラー・ディスプレイ、DVD-RO Mドライブ、USB端子、インターネット接続環境