「ANTELOPE AUDIO Satori」製品レビュー:8系統の入力を備えるモニター・コントローラー&サミング・アンプ

ANTELOPE AUDIOと言えば、高性能クロック・ジェネレーターを武器に数々のデジタル機器をヒットさせてきたブランド。サンレコ読者はこのようなイメージを持っているでしょうが、最近になってアナログ機材もリリースし始めました。今回レビューするSatoriもその一つで、機材名は日本語の“悟り”から引用したという、サミング・ミキサー付きのモニター・コントローラーです。

アウトプットはステレオ4系統
ソフトを介してシビアなレベル設定が可能

 ANTELOPE AUDIOがこのような機材を作るのであれば、先述したブランド・イメージから、本体にAD/DAとクロック・ジェネレーターを内蔵し、入力ソースを同じD/Aで聴き比べたり、サミングした信号を内蔵A/DでDAWに戻したり……といった機能を妄想しがちですが、本機はデジタル制御のアナログ回路を採用。AD/DAに関しては外部機器、特に同社のEclipse 384やOrion 32との組み合わせを意識して設計されたとのことです。 モニター・コントローラーで最も大事なのはもちろん音質ですが、スタジオのシステムの中枢となる機材だけに、入出力などの機能面もかなり重要です。本機はうまくトレンドを取り入れた構成になっていますので、順に紹介していきたいと思います。

 インプットはすべてアナログで、ステレオ8系統と豊富。CH 1入力はXLR、CH 2~4はフォーン、CH 5~8はD-Sub 25ピン端子となります。また本機はトークバック用マイクを内蔵していますが、それとは別に外部マイク入力端子(フォーン)が一つ用意されています。 アウトプットはステレオでXLR×1系統+フォーン×3系統。4系統用意されているのはうれしいですね。ここ、ポイント高いです。ヘッドフォン出力はフロント/リア・パネルに計4つ用意されています。もちろん個別にコントロールが可能で、ヘッドフォンでの確認が増えてきた昨今においてはありがたい仕様です。詳細なレベル設定が可能なので、外部のアナログ・メーターやラジカセなどの出力にも使えそうですね。ほかにサブウーファー用のLFEアウトが1系統、CH 5〜8入力のスルー・アウトに加え、インプットの信号をサミングしたステレオのSUMアウトを1系統装備(すべてフォーン)。よくこれだけの入出力を1Uサイズのボディに収めたものです。

 また本機は、リア・パネルのUSB端子でコンピューター(Mac/Windows)と接続することで、専用のコントロール・ソフトを介して設定が可能になります。本体だけでもインプットの切り替え、モニターの選択、ボリュームの調整など主な機能は操作できますが、トークバックの設定やヘッドフォンへのルーティング、デジタル制御ならではと言える各入出力の1dB単位でのトリムなどは、ソフトからのコントロールとなります。位相を切り替えてモノラル・ソースのチェックなどができるのも便利ですね。また“録音時”“ミックス時”といった具合にセッティングをボタン一つで変えられるのも現場では有効だと感じました。ソフトはそれらが一画面に表示され、大変分かりやすいレイアウトとなっています(画面①)。

▲画面① 付属のコントロール・ソフト(Mac/Windows)。実機のフロント・パネルに準じたレイアウトで各種の設定が可能。各入出力のトリムを数字を見ながら正確に合わせられるのは、こうした機材には必須の仕様と言える ▲画面① 付属のコントロール・ソフト(Mac/Windows)。実機のフロント・パネルに準じたレイアウトで各種の設定が可能。各入出力のトリムを数字を見ながら正確に合わせられるのは、こうした機材には必須の仕様と言える

中低域が張り出したサウンド
エフェクトとして積極的に使いたい個性

 モニター・コントローラーとしての音質ですが、今回は学び舎であるビクタースタジオと自宅での検証となりました。まず、ミックスを始める前に必ず聴くことにしているアコースティックな女性ボーカル曲でチェックしてみました。出音は“太くもっちりしている”というのが第一印象。中低域の押し出し感にまず耳がいきます。やや張り付く感じはあるものの、その分声の色気が感じられ、ひずみ感も無くなまめかしく再生されます。100Hz〜1kHzという大切な帯域にフォーカスが合うのがいいですね。

 次にソースをレンジの広いダンス・トラックに切り替えてラージ・モニターで低域をチェックしてみましたが、十分に伸びていました。こちらもやや音がスピーカーに張り付いて聴こえる印象でしたが、この方が音程感は分かりやすいかもしれません。意外だったのは、空間の感じがやや見えづらかったことでしょうか。筆者の先入観では空間表現が得意なブランド・イメージだったので、痛くない繊細な高域を想像していたのですが、金物の空気感や歌のリバーブなどの表現がやや甘く聴こえました。この辺りは同社のAD/DAを併用することで良い案配になるのかもしれません。なおヘッドフォン・アウトも同様の傾向でした。

 次にサミング・ミキサー部の音質をチェックしました。ミックス済みの音源をステムにしてSatoriでサミングしたものと2ミックスを比較試聴してみたところ、“こんなにも違うものか”と驚きました。ミックス済みのセッションだったため最初はコンプレッションが過剰に聴こえましたが、音量を調整していくとキックとベースが寄り添って聴こえるようになったり、ボーカルが前に出てくるなど独特の効果が得られました。“味付け程度”と言うよりはエフ ェクトとして積極的に使っていきたいキャラクターです。一つ気付いたのは、CH 5〜8入力はサミング機能をオンにしなくてもこの音質傾向にあるということ。CH 1〜4入力とは回路が違うのでしょうね。

 随分駆け足になりましたが、本機はこの価格で入出力、音質、便利で分かりやすいコントロール・ソフトなど機能が充実しています。人の出入りの多いプロジェクト・スタジオなどに向いた一台ではないでしょうか。

▲リア・パネル。左よりAC In、USB端子、CH 1入力L/R(XLR)、CH 2〜4入力L/R(フォーン)、CH 5〜8 THRU(D-Sub 25ピン)、CH 5〜8入力(D-Sub 25ピン)、MON 1出力L/R(XLR)、MON 2〜4出力L/R(フォーン)、SUM出力L/R(フォーン)、トークバック用マイク入力(フォーン)、LFE出力(フォーン)、ヘッドフォン出力3/4(フォーン) ▲リア・パネル。左よりAC In、USB端子、CH 1入力L/R(XLR)、CH 2〜4入力L/R(フォーン)、CH 5〜8 THRU(D-Sub 25ピン)、CH 5〜8入力(D-Sub 25ピン)、MON 1出力L/R(XLR)、MON 2〜4出力L/R(フォーン)、SUM出力L/R(フォーン)、トークバック用マイク入力(フォーン)、LFE出力(フォーン)、ヘッドフォン出力3/4(フォーン)

サウンド&レコーディング・マガジン 2015年7月号より)

ANTELOPE AUDIO
Satori
183,000円
▪アナログ入力レベル:−20dBu ▪アナログ出力レベル:−20dBu ▪外形寸法:483(W)×44(H)×206(D)mm ▪重量:約3kg(実測値)