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VENGEANCE SOUND AVENGER 2 レビュー:多彩な音源方式や高機能アルペジエイターを搭載した総合的シンセ音源

VENGEANCE SOUND AVENGER 2 レビュー:多彩な音源方式や高機能アルペジエイターを搭載した総合的シンセ音源

 ドイツの音楽制作ソフトメーカーVENGEANCE SOUNDとKEILWERTH AUDIOによって開発され、2016年に発売されたソフトシンセAVENGERが、多くの新機能と新GUIを備えたAVENGER 2にバージョンアップしました。ドラムキットやドラム専用シーケンサーも搭載するなど、いわゆるシンセの枠に留まらない総合音源として知られる本ソフト。私は初めて使用しますが、同じように未体験の方にも、その魅力が伝わるようにレビューしていきたいと思います。

ダンス系音色を網羅した完成度の高いプリセット

 メイン画面を時計周りに紹介していきましょう。まず上段左端はプリセット音色を選択するためのブラウザーです。プリセット名をクリックすると、ロードせずにサウンドを試聴できます。ファクトリープリセットは1,000種以上で、音色に関しては文句のない完成度です。EDMなどモダンなダンスミュージック音色が多いイメージでしたが、それだけではなく、FMシンセ系エレピサウンドや近年ビヨンセが引用して話題になった1990年代のハウスクラシックで聴かれるオルガン音色なども含んでいます。もちろん、派手めのシンセリードやトランス風アルペジエイター音色、シーケンス音色、そしてエフェクティブな音色もあり、1980年代から現代まで続くダンス系音色を網羅していると言えるでしょう。ドラムキットも182種と専用音源並みの充実ぶりです。

 メイン画面の上段中央が音作りの基になるオシレーターセクション。

オシレーターセクション。+アイコン(赤枠)をクリックしてオシレーターを追加する(その右にはDRUMSタブとTRIGタブも常に表示されている)。黄枠内はV-Saw、Voicing(CHORDERやサブオシレーターを設定)、Quantizeのタブが並び、音の厚みや広がり、鳴らし方などを設定できる。緑枠内は上部に波形名が、中央には波形が表示される。その周囲に音作り用のパラメーターが並ぶが、波形表示部の右側は選択したオシレーターによってその内容が変化する。さらにその右にあるROUTE欄(青枠)では、オシレーターごとにアルペジエイター(ARP)、ピッチエンベロープ(PITCH)、シェイパー(SHAPER)、フィルター(FILTER)、ステップシーケンサー(STEP SQ.)、エフェクトなどのルーティングをオン/オフ可能

オシレーターセクション。+アイコン(赤枠)をクリックしてオシレーターを追加する(その右にはDRUMSタブとTRIGタブも常に表示されている)。黄枠内はV-Saw、Voicing(CHORDERやサブオシレーターを設定)、Quantizeのタブが並び、音の厚みや広がり、鳴らし方などを設定できる。緑枠内は上部に波形名が、中央には波形が表示される。その周囲に音作り用のパラメーターが並ぶが、波形表示部の右側は選択したオシレーターによってその内容が変化する。さらにその右にあるROUTE欄(青枠)では、オシレーターごとにアルペジエイター(ARP)、ピッチエンベロープ(PITCH)、シェイパー(SHAPER)、フィルター(FILTER)、ステップシーケンサー(STEP SQ.)、エフェクトなどのルーティングをオン/オフ可能

新オシレーターのSpectralを搭載

 オシレーターは8基まで追加でき、それだけでもすごいのですが、ドラム専用のDRUMSとループなどのサンプル素材再生用のTRIGの両モジュールも同時に使用可能。各オシレーターは音域のスプリットも設定できるので、本ソフト1台だけで多くのパートを担えそうです。

 オシレーターの音源方式も豊富で、バーチャルアナログ系などを含むVA Shapes、波形を手書きできるFreeformのほか、Wavetables、Resample、Samples、Special Samples、Granular、Spectral、Single Loops、Multi Loopsの10種類を搭載。各オシレーターにはプリセットが多数用意されています。中でも注目なのが、新搭載のSpectral。サンプル素材を基にするという点では、以前からあるグラニュラーシンセシスのGranularと似ていますが、ショートリバーブ的な効果が得られるMAGN.DECAYや位相を変化させるRND.PHASE、ピッチが変化したサウンドが付加されるTONE SHIFTなどのパラメーター、それにDrum/LofiやPluckedなど素材に応じた7種類のFFTモードなどを使って、独特な質感のサウンドを作ることができます。

オシレーターにSpectralを選択した状態。赤枠の波形ディスプレイのほかに、画面下部にも波形が表示され、再生範囲の設定が行える(黄枠)。画面中央のディスプレイ(緑枠)でEDITORタブを選択すると、サンプルの読み出し位置をグラフィカルに編集可能で、そのグラフはプリセットも用意。長さやスピード、反転などの再生方法も設定できる

オシレーターにSpectralを選択した状態。赤枠の波形ディスプレイのほかに、画面下部にも波形が表示され、再生範囲の設定が行える(黄枠)。画面中央のディスプレイ(緑枠)でEDITORタブを選択すると、サンプルの読み出し位置をグラフィカルに編集可能で、そのグラフはプリセットも用意。長さやスピード、反転などの再生方法も設定できる

 オシレーターセクションの左側にはいわゆるSuperSaw波形を作るためのV-Sawや和音を作れるCHORDER、サブオシレーター、指定したスケールやピッチのみが発音されるQuantizeなどの機能が用意されています。また波形ディスプレイの左側と下側にはレベルやトランスポーズ、ノイズなどのほかに、エグい音作りが可能なFMやAMも装備。上部にはハイパス/ローパスフィルターまであります。波形ディスプレイ右側には選択したオシレーターに応じて独自の機能が表示され、例えばVA-Shapesでは波形を変形させるためのX-SIDEやFORMANT X、ビットクラッシャーのBITS、オシレーターシンク用のSYNCといったノブが並び、ここだけでも多彩な音色変化を得られます。

 試しに、VA-ShapesオシレーターのプリセットSawで、オシレーターセクションのみをいろいろ触ってみたのですが、1オシレーターとは思えないほど分厚くアナログシンセ的な揺らぎのある音色を作ることができました。また同じ設定でオシレーターをWavetablesやSamplesのボイスサンプルなどに差し替えると全く違う印象になり興味深かったです。

 DRUMSタブをセレクトすると、ドラムキット画面に切り替わります。

DRUMSタブ(赤枠)を選択した状態。黄枠内には各ピッチに割り当てられたドラムの各パートが並び、波形が表示されている部分をクリックして、個別にサンプルを差し替えることが可能。ワンショットだけでなく、ループも読み込める。緑枠内ではドラムキットとドラムシーケンスのプリセットをロードする。デフォルトではドラムキットを読み込むと、それに応じたドラムシーケンスも同時に読み込まれるが、緑色の鍵マークをオフにすることで個別にロード可能になる。ROUTE欄のDRUM SQ(青枠)をクリックすると、ドラムキットをドラムシーケンサーで再生することができる。このドラムシーケンサーは、オシレーターセクション下のDRM SQタブ(白枠)をクリックして表示する。ドラムシーケンサーはマウスクリックで打ち込み可能で、ノートごとにベロシティ、パン、ピッチ、長さを設定できる

DRUMSタブ(赤枠)を選択した状態。黄枠内には各ピッチに割り当てられたドラムの各パートが並び、波形が表示されている部分をクリックして、個別にサンプルを差し替えることが可能。ワンショットだけでなく、ループも読み込める。緑枠内ではドラムキットとドラムシーケンスのプリセットをロードする。デフォルトではドラムキットを読み込むと、それに応じたドラムシーケンスも同時に読み込まれるが、緑色の鍵マークをオフにすることで個別にロード可能になる。ROUTE欄のDRUM SQ(青枠)をクリックすると、ドラムキットをドラムシーケンサーで再生することができる。このドラムシーケンサーは、オシレーターセクション下のDRM SQタブ(白枠)をクリックして表示する。ドラムシーケンサーはマウスクリックで打ち込み可能で、ノートごとにベロシティ、パン、ピッチ、長さを設定できる

 冒頭でも触れた通り、多数のドラムキットが用意されているほか、例えばスネアだけを別のスネア音色に差し替えるといった自由度の高い音作りを行えます。サンプルもワンショットだけでなく、ジャンルごとに振り分けられた3,000種類以上のループを利用可能です。また、オシレーターセクション下にあるDRM SQタブをクリックすると、ドラムシーケンサーが表示され、パターンを編集できます。シーケンスもプリセットが豊富で、ドラムキットと組み合わせれば楽曲制作の強力なツールとして機能するでしょう。

アルペジエイターに音符分割とユニークなランダマイズ機能を装備

 オシレーターセクションで基となる音が決まったら、メイン画面右端のアンプ、フィルター、シェイパー、LFOの各セクションでさらに細かく音作りを行えます。

上からアンプ、フィルター、シェイパー、モジュレーションマトリクス(LFOはモジュレーションマトリクスと切り替えて表示)。画面内のLFO 1タブからFILTER 1のCUTOFFノブに伸びている赤い線はモジュレーションの設定を行っている様子で、ソースのタブをディスティネーションにドラッグするとこの状態になる。あとはドロップすれば設定完了。CUTOFFノブの左上に見える赤い三角をドラッグするとアマウントを設定でき、左クリック(Mac:control+クリック)でソース名の表示や解除などが行える。タブに赤い丸が付いている機能はモジュレーションソースとして機能することを意味している。モジュレーションマトリクス画面でもモジュレーション設定などは可能

上からアンプ、フィルター、シェイパー、モジュレーションマトリクス(LFOはモジュレーションマトリクスと切り替えて表示)。画面内のLFO 1タブからFILTER 1のCUTOFFノブに伸びている赤い線はモジュレーションの設定を行っている様子で、ソースのタブをディスティネーションにドラッグするとこの状態になる。あとはドロップすれば設定完了。CUTOFFノブの左上に見える赤い三角をドラッグするとアマウントを設定でき、左クリック(Mac:control+クリック)でソース名の表示や解除などが行える。タブに赤い丸が付いている機能はモジュレーションソースとして機能することを意味している。モジュレーションマトリクス画面でもモジュレーション設定などは可能

 すごいことに、これらは5つまで追加可能(フィルターはマスター用にも別途装備)。アンプ、フィルターのエンベロープはともにAHDSRタイプです。フィルターの種類も豊富で、ローパス/ハイパス/バンドパス/バンドストップ/スペシャルという5カテゴリーから47タイプを選択できます。

 ひずみ系の音作りが可能なシェイパーはフィルターの前後に配置でき、ソフトなものからファズ系まで用意。なお、モジュレーションソース用としてのエンベロープは後述するMOD ENVを8系統まで利用できます。

 LFOやエンベロープなどのモジュレーションソースを、フィルターのカットオフやオシレーターのピッチといったディスティネーションにかけたい場合は、各ソース名のタブをクリックして、目的のノブまでドラッグします。すると赤い線が伸びて、目的のノブまで達したら、そのノブの周囲も赤く点灯します。この状態でドロップすれば設定完了。設定したモジュレーションは、LFOタブの左横にあるMOD MATRIXタブをクリックして表示されるモジュレーションマトリクス画面で確認/調整が行えます。

 メイン画面の下段中央にあるディスプレイの表示内容は、タブでEDITOR(オシレーター波形の編集)、ARP(アルペジエイター)、DRM SQ(ドラムシーケンサー)、STEP SQ(ステップシーケンサー)、PITCH(ピッチ用マルチエンベロープ)、MOD ENV(汎用マルチエンベロープ)、MIXER(ミキサー)、ZONES(オシレーターの音域/ベロシティのゾーン割り当て)などに切り替えられます。EDITORの内容はオシレーターによって異なりますが、VA-ShapesではFFTフィルターをマウスで描画できるFREEモードが面白いと感じました。

FFTフィルターをFREEモード(赤枠)にすると、マウスのドラッグで波形をデザインできる。ほかに倍音のグループでコントロールできるHARMONIC、全周波数帯域を256バンドに分割した状態で編集できるBINの3モードが用意されている。黄枠からプリセットを選んでエディットすることも可能

FFTフィルターをFREEモード(赤枠)にすると、マウスのドラッグで波形をデザインできる。ほかに倍音のグループでコントロールできるHARMONIC、全周波数帯域を256バンドに分割した状態で編集できるBINの3モードが用意されている。黄枠からプリセットを選んでエディットすることも可能

 また、Samplesではスタートポイントやそのランダマイズ、Single LoopsやMulti Loopsではループ範囲の設定などを行えます。

 アルペジエイターには多彩なパターンがプリセットされていますが、AVENGER 2では新たにラチェット機能が追加されました。これはパターン内の1音を2〜8音に分割して、その分割したノートごとにベロシティやピッチを設定できる機能。

アルペジエイター。赤枠はラチェット機能で1音を4分割して、ベロシティ(棒グラフ)とピッチ(原音からのオフセット)を設定している様子。ラチェット機能を使用したノートには黄枠のように分割数がベロシティの棒グラフで表示される

アルペジエイター。赤枠はラチェット機能で1音を4分割して、ベロシティ(棒グラフ)とピッチ(原音からのオフセット)を設定している様子。ラチェット機能を使用したノートには黄枠のように分割数がベロシティの棒グラフで表示される

 これにより新たに音符を追加することなく、フレーズを変化させることが可能です。また、ランダムにパターンを生成できるオートダイスも新機能。

オートダイス機能の設定画面(鍵盤部分に置き換わって表示される)。上の画面は1オクターブ内の各ノートの出現確率を設定している様子。そのほかに休符、長さ、オクターブ、ベロシティ、ラチェット、タイなどもそれぞれ設定できる

オートダイス機能の設定画面(鍵盤部分に置き換わって表示される)。上の画面は1オクターブ内の各ノートの出現確率を設定している様子。そのほかに休符、長さ、オクターブ、ベロシティ、ラチェット、タイなどもそれぞれ設定できる

 これはスケールを指定したり、ノート、休符、長さ、オクターブ、ベロシティ、ラチェット、タイの発生確率まで設定できるという優れもの。パターンはMIDIファイルへの書き出しも可能なので、ここで生まれたアイディアを幅広く活用できるでしょう。

 前述のドラムシーケンサーに加え、ステップシーケンサーもマウスで視覚的に細かな編集を行えるため、スムーズに作業できるという印象を受けました。

ステップシーケンサー画面。デフォルトではボリュームにアサインされており、棒グラフの有無でノートの発音を、バーの髙さで音量を調節する。STEREOモードにすると左右それぞれでシーケンスを組むことができる。ほとんどのパラメーターにモジュレーションソースとして利用可能

ステップシーケンサー画面。デフォルトではボリュームにアサインされており、棒グラフの有無でノートの発音を、バーの髙さで音量を調節する。STEREOモードにすると左右それぞれでシーケンスを組むことができる。ほとんどのパラメーターにモジュレーションソースとして利用可能

 メイン画面下段の左側はエフェクトセクション。8エフェクトを同時使用可能な4系統のインサートと1系統のセンド、それにマスターという3つの設定方法があり、リバーブ/ディレイ系、モジュレーション系、ディストーション系、ダイナミクス系、ステレオ系という5カテゴリーに多彩なエフェクトが用意されています。AVENGER 2で追加された新エフェクトQ4NTUM FXは、4系統のディレイそれぞれに3つまでエフェクトをインサートでき、しかもそれらのパラメーターをステップシーケンサーでコントロールできるという多機能なマルチタップディレイ。

マルチタップディレイのQ4NTUM FX。4系統のディレイそれぞれに3個までエフェクトをインサート可能。しかも、各エフェクトのパラメーターをステップシーケンサーで変化させることができる。用意されているエフェクトはフィルターやモジュレーション系、ひずみ系、それにスタッターやリバースなど多彩だ

マルチタップディレイのQ4NTUM FX。4系統のディレイそれぞれに3個までエフェクトをインサート可能。しかも、各エフェクトのパラメーターをステップシーケンサーで変化させることができる。用意されているエフェクトはフィルターやモジュレーション系、ひずみ系、それにスタッターやリバースなど多彩だ

 ディレイ音にスタッターやリバースなどの効果を加えることも可能です。またBITBITEはひずみ系で暴力的な音を演出可能。さらに、リバーブのRUTA VERBはエレクトロニカやアンビエントなどで重宝しそうなシマー機能を搭載しています。これらは単体で販売されても不思議ではない(してほしい!)と思えるクオリティでした。

 AVENGER 2は、ダンスミュージック全般をはじめ、アンビエントやチルアウト、エレクトロニカなどの楽曲制作を行う上で強力なパートナーになる、まさにモンスターシンセだと思います。しかも、メイン画面に主要機能がほぼ表示されているため深い階層に入る必要がありません。またここまで見てきた通り、ルーティングやモジュレーション、それに波形やアルペジエイター、シーケンサーなども視覚的に変化を把握できるように工夫されており、コンピューターでの音楽制作におけるストレスを軽減できるように考えられたシンセと感じました。プリセットの完成度が非常に高いので、それを元にしてもよいですし、私のように鍵盤以外のパートが苦手な方ならドラム音色など、あるパートに特化して使用するのもアリだと思います。実際、レビュー中にアイディアの元になるリズムパターンを見つけることができました。さまざまなジャンルに特化した拡張プリセットも発売されているので、そちらもチェックしてみてください。

 

Naive Super
【Profile】ニューウェーブ/インディーロック/シティポップ/チルアウトなどを軸に、エキゾチックな雰囲気も漂わせるシンセポップアーティスト。2020年の4月より、デジタルにて連続リリースを続ける。

 

 

 

VENGEANCE SOUND AVENGER 2

39,204円(価格は為替レートによって変動)

VENGEANCE SOUND AVENGER 2

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.15/11(intel CPU/ARM)/12(intel CPU/ARM)/13(intel CPU/ARM)/14(intel CPU/ARM)、intel Mac 2.8GHzもしくはM1以上のCPU
▪Windows:Windows 10(64ビット)/11、intel Core 2.8GHz(AVX)以上のCPU
▪共通項目:8GB以上のRAM、OpenGL 3.2以上、ディスク空き容量1GB以上、インターネット接続環境、E-Mailアドレス、フルHDディスプレイ推奨
▪対応フォーマット:AU、AAX、VST

製品情報

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