TK audio M/S Station レビュー:入力音のM/S変換&パラレル処理やステレオ幅の調整を行うハードウェア

TK audio M/S Station レビュー:入力音のM/S変換&パラレル処理やステレオ幅の調整を行うハードウェア

 スウェーデンの技術者、トーマス“TK”クリスチャンソンによるブランド、TK audioから最新作のM/S Stationが登場しました。アナログ領域でのM/Sエンコード/デコード、外部プロセッサーを組み合わせてのM/S処理、低域のモノラル化、ステレオ幅の調整などが行える機材で、ミキサーのメインバスでの使用に適した設計です。さらに、“Lだけ”“Sideだけ”というように、任意の信号を取り出してモニターできる高度なキューセクションも搭載。TK audio製品の評判は以前から知っていたので、試すのが非常に楽しみです。

M/Sの各信号にパラレル処理できるBlend Split 色付けを全く感じない音質

 まずはフロントパネル。左のInsertセクションは外部プロセッサーのインサートが可能で、入力音(ドライ信号)と処理済みの音(ウェット信号)のブレンドバランスを16段階で調整できます。M/S ActiveボタンをオンにするとM/Sモードになり、入力音がM/Sエンコードされます。そしてBlend Splitボタンをオンにすれば、MidとSideの各信号に対して個別のブレンドコントロールが可能に。

Insertセクションはアウトボードをインサートするための部分。M/S Activeボタンを押すと入力音をM/S変換できる。またBlend Splitボタンを押せば、2つのBlendツマミでMidとSideそれぞれのドライ/ウェットバランスを調整可能

Insertセクションはアウトボードをインサートするための部分。M/S Activeボタンを押すと入力音をM/S変換できる。またBlend Splitボタンを押せば、2つのBlendツマミでMidとSideそれぞれのドライ/ウェットバランスを調整可能

 パネル中央辺りのElliptical EQは、低域をモノラル化するためのものです。16種類の周波数が用意され、選んだ周波数以下の全帯域をモノラルにできます。低域がセンターにより集中して感じられるため、作品に力強さが加わります。右隣のStereo Widthは、Sideの情報量を調整することでステレオの広がりをコントロールする機能。以上の機能を扱うためのツマミはすべてステップ式で、設定のリコールも容易です。

Elliptical EQは低域をモノラル化する機能で、クロスオーバーを36〜302Hzの間で設定できる。その右には、全帯域のステレオ幅をモノラル〜エクストラワイドまでコントロール可能なStereo Widthがスタンバイ

Elliptical EQは低域をモノラル化する機能で、クロスオーバーを36〜302Hzの間で設定できる。その右には、全帯域のステレオ幅をモノラル〜エクストラワイドまでコントロール可能なStereo Widthがスタンバイ

 パネル右のCue Sectionでは、 L、R、Stereo、Mid、Sideのソースセレクトで任意の信号を選び、個別にモニターすることが可能。InsertボタンはInsertセクションの信号をモニターするためのもので、M/Sモード時にBlend Splitが有効になっている場合は、Lボタンを押すとMidのウェット信号が、Rボタンを押すとSideのウェット信号がモニターできます。EEQボタンでは、Elliptical EQが作用する低域のみをモニター可能です。そして、このCue Sectionはリレーを用いてキューソースを選択するパッシブ設計となっています。

リアパネル

リアパネル。Insertセクションと、Ellipital EQ+Stereo Width+Cue Sectionの両者は、標準状態ではリンクしているが、筐体内のジャンパーを取り除けば独立して機能する。リンク時は、背面右部のL InとR Inがメイン入力、左部のEEQ L OutとEEQ R Outがメイン出力、中央のIns L SendとIns R SendがInsertセクションの送り、Ins L RetとIns R RetがInsertセクションのリターンとなる。非リンク時は、“EEQ”を冠する端子がEllipital EQ+Stereo Width+Cue Section用の入出力となり、背面右部のL OutとR Outがメイン出力として機能。“Ins”を冠する端子の働きは、リンク時と同じ

 さて筆者は普段、DAWとアウトボードを併用していて、2ミックスがアウトボード類を通るようにマスタリングチェインを組んでいます。今回はマスターEQをM/S Stationに置き換えて、そのマスターEQをM/S Stationにインサートし、どのような結果が得られるかチェックします。

 M/S Stationは、ただ信号を通すだけでも驚くほどの音質です。音の透明性と精度が一貫して高水準で、色付けなどの不要な変化が感じられません。M/Sモードをアクティブにすると、ステレオのマスターEQがまるで異なる機材に変身するかのような感動があります。MidとSideへの個別処理とBlend Splitによって音作りの幅が大きく広がり、EQのポテンシャルが最大限に引き出されたような感覚です。

 M/S処理はプラグインでも行えるものの、本機のように物理操作子で直感的に音作りできるのは革新的です。たとえEQ側の設定が極端でもM/S Stationでブレンドバランスを原音寄りにすることができるので、音作りの方法が劇的に変わります。またMidのローエンドを強調しつつ、Sideは可聴域を超えるようなハイエンドを強めるなど、個別に調整できる点を生かしてレンジをフルに拡張し、極限までビルドアップした屈強なサウンドを作ることも可能。これまでは絶対に出てこなかったような発想が生まれ、直感的にチャレンジしていけるのも本機ならではの魅力でしょう。

力強い低域が得られるモノラル化 Cue Sectionは処理を細かく監視できる

 特に気に入ったのはElliptical EQで、基本的に常に使う必要があると感じるくらい素晴らしい。Elliptical EQでのモノラル化は、低域に明確な力強さを与えてくれて、効果が分かりやすいのです。隣に配置されているStereo Widthも魅力的で、M/S処理の後に最終的なステレオ感を微調整できるため、Elliptical EQとの併用で音の立体感を増強させるようなことも可能です。

 そしてCue Section。これもまた非常に優秀で、単にモニター用途というよりは、音作りの場面で重宝します。例えばMidやSideの音色を調整したり、両者のブレンド具合を変えたり、はたまた低域をどの程度モノラル化するか吟味するときなど、各処理にフォーカスしてモニターできるので、迷わずに確信を持って追い込んでいけます。このセクションがあるおかげで、処理が複雑になり過ぎて迷子になってしまった……ということがなくなるでしょう。

 M/S Stationは、手持ちのステレオアウトボードを新たな次元に引き上げ、2ミックスのダイナミクスや色彩感を豊かに拡張できるツールとして、特にマスタリングにお薦めです。また、これだけの機能を1Uに収めつつ、コストと音質の両方を妥協していないところも特筆に値。アウトボードユーザーにとって衝撃的な一台だと思いますし、音楽制作の概念を変えるような体験ができるかもしれません。

 

Hiro
【Profile】METAL SAFARIのギタリストを経てプロデューサー/エンジニアに。録音〜マスタリングまでこなす。NOCTURNAL BLOODLUSTやUnlucky Morpheusなど多くのメタルバンドを手掛ける。

 

 

 

TK audio M/S Station

349,800円

IK Multimedia iRig Stream MIC USB

SPECIFICATIONS
▪最大入出力レベル:入出力共に+26dBu ▪周波数特性:20Hz〜80kHz(±0.1dB) ▪ダイナミックレンジ:119dB ▪全高調波ひずみ率:0.0004%(Insert部、M/Sモード時、完全ウェット時)、0.0004%(Elliptical EQ部)、0.0003%(Stereo Width部)/すべて@+4dBuの値 ▪SN比:97dB(Insert部、M/Sモード時、完全ウェット時)、98dB(Elliptical EQ部およびStereo Width部) ▪対応電圧:115Vまたは230V(インターナル・ボルトスイッチで選択) ▪外形寸法:483(W)×44(H)×260(D)mm ▪重量:3.34kg

製品情報

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