一部の環境において、会員限定記事の表示がうまくいかない場合が報告されています。その場合、まずはブラウザを最新にアップデートした上、WindowsではCtrl+Shift+R、Macではcommand+shift+Rでの再読み込みをお試しください。また、ほかのブラウザの利用もご検討いただけましたら幸いです。

国産イヤモニMaestraudio MAPro1000を試してみた〜1万4千円の入門機の実力

Maestraudio MAPro1000

 型取りするカスタムタイプから市販イヤホン同様のユニバーサルタイプ、シングルドライバーから10基以上のドライバーを有するモデルまで、数多くのラインナップが登場しているインイヤモニター(イヤモニ、IEM)。ポータブルオーディオの世界でも注目を集め、中には数十万円クラスの高級機も存在している。この5月にMaestraudio(マエストローディオ)から登場した新製品MAPro1000(エムエープロ・セン)は、IEMとしては入門機に相当する、14,300円という価格。この入手しやすい価格で、しかも国産だというから驚きだ。サンレコWeb編集部では販売元のアユートからお借りして試すことができた。

シングルドライバー+パッシブツィーターのハイブリッド仕様

MAPro1000。左からBoost Red、Garal Blue、Shower Blueの3色をラインナップ

MAPro1000。左からBoost Red、Garal Blue、Shower Blueの3色をラインナップ

 Maestraudioは、群馬県高崎市に本拠を構えるオーツェイドのIEMブランド。圧電セラミックスを使用した技術に長けており、それをIEMに応用することで広いサウンドステージ表現を得意としているという。

MAPro1000の内部構造

MAPro1000の内部構造。茶色いリング状のパーツがRST

 その大きなポイントは、10mm径グラフェンコートダイナミックドライバーに加え、独自技術のパッシブ型セラミックコートツィーターRST(Reactive Sympathetic Tweeter)によるハイブリッド方式を採用している点だ。パッシブ、ということはRSTには再生機器からの電気信号は流れていない。RSTはダイナミックドライバーからの音波をダイアフラムに照射して振動を誘発。同軸上から外れても高音が効率的に前方に伝わり、シンバルやオルゴール等のように分割振動を有するという。似たような仕組みで有名なのは、電気的に分離したウーファーで低域を増強するパッシブウーファー(パッシブラジエーター)搭載のスピーカーだが、ドライバーが小さいIEMでは、高域側を補う方が理に適っているのだろうか。

MA1000Pro(Shower Blue)。シングルのダイナミックドライバー搭載機のように見えるが、パッシブツィーターのRSTとのハイブリッド仕様となっている

MAPro1000(Shower Blue)。シングルのダイナミックドライバー搭載機のように見えるが、パッシブツィーターのRSTとのハイブリッド仕様となっている

 MAPro1000では、5.8mm径のRSTを専用に新開発。Garal Blue、Boost Red、Shower Blueの3色がラインナップされているMAPro1000の中で、最もシェルの透明度が高いShower Blueで見てみると、コネクターから1つのドライバーに配線が届いているのが見える。実際、RSTはグラフェンコートの10mm径ダイナミックドライバーと一体化しているため、ダイナミックドライバー×1基のように見えるが、その実は上述のようにハイブリッド方式だ。

ノズル側。ノズルの先端にはワックスガードが取り付けられている

ノズル側。ノズルの先端にはワックスガードが取り付けられている

小型のボディとノズル角度でホールド感が増強

 実際に手に取ってみると、MAPro1000は驚くほど小型だ。バックプレート面積も、見たところドライバー口径(10mm)の2倍程度。もちろん個人差はあるだろうが、耳の穴手前の盛り上がった部分(耳珠というらしい)や、その下の盛り上がった部分(同じく対耳珠というらしい)にしっかりとホールドされる。耳道に対してノズルの角度を設けたことで、ホールド感を増しているという。

MAPro1000本体が耳にしっかりとホールドされる設計となっている

MAPro1000本体が耳にしっかりとホールドされる設計となっている

 ケーブルは、耳の上から頭の後ろに通す形。柔軟性があって絡みにくい。機器への接続はL字型のステレオミニ(3.5mm/3極)。MAPro1000側はMMCX端子なので、ケーブルの交換も容易だ。IEMやポータブルオーディオ用としては付属1.2mケーブルがちょうど良いが、制作などで使いたい場合はもう少し長いケーブルの方が都合よいこともあるだろう。

MAPro1000本体のコネクターにはMMCXを採用し、リケーブルにも対応
付属ケーブルにはスライダーがあり、頭の後ろでしっかりと固定できる
MAPro1000本体のコネクターにはMMCXを採用し、リケーブルにも対応。付属ケーブルにはスライダーがあり、頭の後ろでしっかりと固定できる

付属ケーブルは耳の上にかかる部分も柔軟性に富む。R側のコネクターにはドットがついていて、左右の識別もしやすい

付属ケーブルは耳の上にかかる部分も柔軟性に富む。R側のコネクターにはドットがついていて、左右の識別もしやすい

ハイハットが聴き取りやすく適切なイヤピースで低域もきちんと出る

付属のイヤピースとケース

付属のイヤピースとケース

 MAPro1000にはシリコンゴム製のイヤピースiSep02が4サイズ、フォームタイプのiFep01が3サイズ付属する。まずiSep02から試してみることにした。

 筆者の場合、MSサイズ(緑)だとややきつめ、Sサイズ(ピンク)だとやや緩めに感じたので、まずはMSサイズで試聴する。

 まず驚くのは、このサイズだとは思えないレンジの広さだ。10年くらい前、興味本位で同価格帯のシングルドライバーIEMを購入したことがあったが、シングルであるためかどうしてもレンジが中域に寄っているイメージがあった。

 MAPro1000のサウンドは、それとは全く異なる。キックのローエンドから高域のシャリっとした部分まで、奇麗に聴こえる。定位も正確で、ボーカルの息遣いの生々しさもはっきりと分かる。バランスを崩すことなく、ハイハットの刻みがしっかり分かるような印象だ。つまり、アタックの再現性が高いということだろうか。プレイヤーが使うIEMにとって、ビートが聴き取れることは重要であるはずで、これはRSTの効果によるものと推察する。

 一点、どうしても中低域が薄く感じられ、芯が薄いように思えたのも事実。IEMとして演奏しやすいようにあえてそうチューニングしているのかとも思ったが、気になったのでイヤピースのiSep02をSサイズに交換してみた。

 すると、ほかのバランスはそのままに、気になっていた中低域が出てきて、中域から低域のつながりが改善された。恐らく筆者にはきつめだったMSサイズでは、しっかりと耳道の奥にノズルの先端が届かなかったからだろうか。やはりIEMはしっかりとフィティングすることが重要であると感じた。サウンドのイメージとしては、フラットなモニター環境と、低域の増した再生機器の中間といったところだろうか。このサイズでこのサウンドが出せることに、驚きを禁じ得ない。

 他方で、やや緩く感じたSサイズのイヤピースでしっかり装着できるのか?という疑問も浮かぶ。正直に言えば、この組み合わせで再生していない状態の遮音性は耳栓のようには高くなく、耳道内でノズルが動く感じこそないが、耳道へしっかりフィットしているのかは判断しにくい。しかし、それも杞憂だ。斜めに取り付けられたノズル、小型ボディのおかげで、先述の耳珠、対耳珠にボディがしっかり固定されて、脱落の心配はない。つまり、耳全体がMAPro1000をきちんとホールドしてくれる設計なのだ。そしていったん再生すれば、外部の音が気になることもない。耳道を圧迫する負担も少なく感じられる。

耳にしっかりとホールドされるので、浮いた感じがない

耳にしっかりとホールドされるので、浮いた感じがない

 これに気を良くして、フォームタイプiFep01(Sサイズ)に交換。こちらは耳栓として機能するほどしっかりと耳道に固定される感じがある。密閉性が高い分、低音がより増した印象だ。個人的にはシリコンタイプの方が閉塞感や圧迫感が少なく好みだが、1パッケージでチョイスできるのはうれしいポイントとなっている。

アタックの再生能力が空間再現力につながる

 さて、冒頭で「Maestraudioは広いサウンドステージ表現を得意としている」と記した。IEM本来の使い方とは異なるが、これまでサンレコでかかわった作品を中心に、空間オーディオの作品をスマートフォンで、Apple MusicやAmazon Musicで聴いてみた。

過去のサンレコの企画で、スピーカーやヘッドホンで何度も聴いた楽曲を中心に空間オーディオ作品も聴いてみた

過去のサンレコの企画で、スピーカーやヘッドホンで何度も聴いた楽曲を中心に空間オーディオ作品も聴いてみた

 密閉性の高いイヤホンで空間オーディオの作品を聴くのもなかなか再現性が難しいところではあるが、結論から言えば作品によって程度の差はあるものの、空間オーディオらしい左右や後ろの定位感が感じられた。

 特に定位を感じやすいのが、アタックのはっきりしたギターやパーカッションなどだ。これは先述した、MAPro1000をモニター機器として見たときのアタックの再現力と通じる部分で、ダイナミックドライバーとRSTとのハイブリッド効果なのだろう。

 最後に、オーディオインターフェースのヘッドホン出力で、普段使っている開放型モニターヘッドホンと比較してみた。両者のスペックを見ると、インピーダンスはほぼ同じで、感度はMAPro1000の方が12dBほど高い。スペック通り、同じ出力設定だとMAPro1000の方が音量が大きく感じられる。サウンドの傾向としても、MAPro1000の方がさまざまな要素が少し張り出して聴こえる印象があった。とはいえ、大きな脚色があるというわけでもなく、演奏の要素が心地よく聴こえる印象。IEMとしての必要十分を満たしているし、制作用のイヤホンとしても、過不足なく、しかもビートが聴き取りやすいので楽しく聴けるだろう。

 また、編集部のスタッフにも試聴してもらったところ、「アタックのはっきりした音」「フィット感がよく、耳にイヤホンを入れている感じがあまりしない」「広がりがある音のため、密閉されている感じがあまりしない」と共通した感想が返ってきた。

 繰り返しになるが、この音が1万4千円で、しかも国産で実現できるということに、大変驚かされた。機会があればぜひ一度、店頭などで試してみてほしい。

製品情報

 

関連記事