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LINDELL AUDIO Lintec レビュー:調整帯域を拡張したソリッド・ステート設計のPULTECスタイルEQ

LINDELL AUDIO Lintec レビュー:調整帯域を拡張したソリッド・ステート設計のPULTECスタイルEQ

 スウェーデンのオーディオ機器ブランドLINDELL AUDIOより、PULTECスタイルEQのLintecが発表されました。以前にレビューした同社のLin76も、オリジナル機への愛情と新しい挑戦が同居した素晴らしい製品でしたので、今回も期待を胸にチェックしていきます。

低域/高域共に中域寄りの周波数ポイントを追加 低域にスピード感があり明瞭な音に

 まずはインスパイア元となっているPULTEC EQP-1Aについて軽く触れておきましょう。EQP-1Aは、前身機EQP-1を元に改良を加えて1960年ごろに発売された製品で、60年以上たった今もスタジオではバリバリ現役で大活躍している、ビンテージEQの代名詞のような存在です。筆者もキックやベース、そしてボーカルといった曲中で核となるトラックに幾度となく使用してきました。電源を必要とする素子を使用せずに処理をする、いわゆるパッシブEQなのですが、ユニティ・ゲインでの出力を担保するために真空管のアンプを積んでいます。そのため、“通すだけで音が良くなる”と称される稀代の名機となっているのです。そんなEQP-1Aを、LINDELL AUDIOがどのようにモダンにアップデートし、どんな製品に作り上げたのかチェックしていきます。

 まずは外観から。パネルとツマミ類はLin76と同様の配色で、右下にはトレードマークのスウェーデンの国旗があります。ツマミはすべてステップ式です。パッと見て気づいたのは、セレクトできる周波数帯域がEQP-1Aと違うこと。低域はEQP-1Aと同様の20/30/60/100Hzに加え、その上の150Hzが追加されています。高域のブーストも、EQP-1Aの最低ポイントだった3kHzの下に1/1.5/2kHz、12kHzと16kHzの間に14kHzが加わっているようです。低域&高域共に中域寄りのポイントを増やし、より広い帯域をカバーしていますね。一番大きな変更は高域のアッテネートのポイントで、EQP-1Aが5/10/20kHzなのに対し、Lintecでは4/8/12/16/20kHzの5ポイントに設定されています。

リア・パネル。左端にはOUTPUT(TRSフォーン)とINPUT(TRSフォーン)が並ぶ。右側には、メーターを調整するMETER CALIBRATIONと、出力レベルを調整するOUTPUT LEVELのツマミが用意されている。

リア・パネル。左端にはOUTPUT(TRSフォーン)とINPUT(TRSフォーン)が並ぶ。右側には、メーターを調整するMETER CALIBRATIONと、出力レベルを調整するOUTPUT LEVELのツマミが用意されている。

 続いてサウンドのチェックをしていきましょう。PULTECタイプのプラグインがたくさんリリースされていることもあり、このタイプならではの低域処理は既に広く知られています。“同帯域のブーストとアッテネートを併用し、それぞれのシェルビング・カーブの違いによって中域にディップを作り出し、ファットかつスッキリした低域を生む”という手法です。本来、メーカー的には禁忌とされていた方法にもかかわらず、今や定番となったこの手法は本機でも有用なのでしょうか?いつもEQP-1Aを使うときと同じ感覚で試してみます。

 まずは筆者がEQP-1Aを使用することの多いキックから。ちょうど進行中のレコーディング現場で、OBERHEIM DMXを使ってリズム・トラックを構築する機会があったので、そこで試してみました。音を聴きながらポイントを探り、低域の周波数は60Hzをチョイス。実はLintecは真空管ではなくソリッド・ステート設計になっているのですが、そのためか低域にスピード感があり、非常に明瞭度の高い音の仕上がりになります。使用感や、バイパスと聴き比べたときの“もう元の音に戻れない!”という感じもまさにEQP-1Aライクです。続いてスネアに高域のブーストを使用してみたところ、シルキーでスムーズ、かつ押し出しの強い音色に。結果、素晴らしいリズム・トラックが出来上がりました。

150Hzのポイントが追加されたことでローミッドのコントロール性が向上

 次にエレキギターでLintecを使用してみたところ、これが今回最大のヒット。実はこのとき既に本機のチェックを一旦終え、通常のレコーディングに戻っていたのですが、ギターの音作りに難航していました。“音の抜けがあまり良くないけれど、アンプで明るくすると硬くなりすぎるから、どうしようか……”と悩んでいたのですが、Lintecを試しに入れてみたところ、大満足の仕上がりに! ここで大活躍したのが4kHzのアッテネートです。3kHzをぐいっとブーストしつつ、4kHzのシェルビング・アッテネートを併用すると、パリッと抜けが良く、かつジャリジャリと耳に痛い響きもしない理想のクランチ・サウンドが出来上がりました。3kHzや4kHzのポイントは、下手に使うと音が細くなったり硬くなったりと、無惨な仕上がりになることもままあるのですが、エッジィかつ太い高域が実現できるのはPULTECタイプならではです。Lintecで作ったサウンドにはクライアントも大満足で、“自分も2台くらい買おうかな……”と声を漏らしたほどでした。

 エレキギターの処理では、Lintec独自の周波数ポイントである150Hzのブーストも加えました。このポイントがあることで、低音楽器以外のソースにおけるローミッドのコントロールもしやすくなり、より幅広いサウンド・メイクが可能となっています。以前チェックしたLin76もエレキギターと相性が良かったので、LINDELL AUDIOのサウンド・デザインとエレキギターとのコンビネーションが筆者の好みのツボを刺激するのかもしれません。

 ここまでくるとインスパイア元であるPULTECとの比較もしたくなってしまい、筆者が以前所属していたスタジオ・サウンド・ダリにてEQP-1A3と並べてチェックも行いました。EQP-1A3は真空管とソリッド・ステートの両タイプが存在しますが、比較で使ったものは真空管タイプです。ここでは、前述のチェックでは試せなかったボーカル・トラックで使用してみました。

 普段、筆者はボーカル・チェインの最終段にEQP-1Aを使用することが多いです。パラメトリックEQやコンプレッサー、ディエッサーなどで大枠の音作りをした後に、オケ中での歌の存在感やツヤ感、エアー感をEQP-1Aで最終調整するような感覚で使用しています。今回の比較もそのような使い方で行いました。EQP-1A3で処理した音は中域が太く、パンチがあって押し出しの強い質感です。一方、Lintecはシルキーでスムーズ、かつスピード感もあり、ソリッド・ステートならではのタイトさも感じました。前述したギター・トラックの処理で滑らかなEQ感が得られたのも納得です。

 あらためて“アナログEQは良いなぁ”と痛感し、いつも優れたコスト・パフォーマンスの製品をリリースしてくれるLINDELL AUDIOの企業努力に頭が下がる思いです。LintecをよりハイグレードにカスタムしたLintec Toneflake Custom(オープン・プライス:市場予想価格134,200円前後)もいつか試してみたいと思います。

 

大野順平
【Profile】フリーランスで活動するエンジニア。中田裕二、SUGIZO、 大森靖子らの作品を手掛けるほか、浜端ヨウヘイ、神はサイコロを振らない、TOMOO、ZOCなど個性的なアーティストの作品に携わる。

 

 

 

LINDELL AUDIO Lintec

オープン・プライス

(市場予想価格:79,200円前後)

LINDELL AUDIO Lintec

SPECIFICATIONS
▪パラメーター:【低域】LOW FREQ(20/30/60/100/150Hz)、BOOST、ATTEN/【高域】HIGH FREQ(1/1.5/2/3/4/5/6/10/12/14/16kz)、BANDWIDTH、BOOST、ATTEN、ATTEN FREQ(4/8/12/16/20kHz)/【リア・パネル】METER CALIBRATION、OUTPUT LEVEL ▪入出力:INPUT(TRSフォーン)、OUTPUT(TRSフォーン) ▪外形寸法:438(W)×88(H)×250(D)mm ▪重量:3.96kg

製品情報

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