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KLEVGRAND Tomofon レビュー:オーディオからウェーブテーブルを作成できるソフト・シンセ

KLEVGRAND Tomofon レビュー:インポートしたオーディオからウェーブテーブルを作り出せるソフト・シンセ

 KLEVGRANDは、2014年に設立されたスウェーデンのプラグイン・デザイナーズ・ブランドで、たくさんのユニークなインストゥルメント/エフェクトを発表してきている。パーカッション音源のSlammerやテープ・デッキ・エミュレーションのDAW Cassetteなどは、音が面白くて個人的にも愛用しているプラグインだ。今回新たにリリースされたTomofonは、リアル・オーディオ・シンセと銘打たれているインストゥルメント。早速試してみよう。

複数帯域に分けてウェーブテーブル化

 Tomofonの構成は大きく2つの段階に分かれていて、エディターとシンセの2つの画面を切り替える仕様となっている。エディター画面では、オーディオ・ファイルをインポート(モノラル。ステレオ信号の場合はLchのみを読み込む)し、ピッチ・ゾーンに切り分け、それぞれのゾーンで時間的に変化するウェーブテーブルを作成。この構造をTomofonでは、“Audio Model”としている。Audio Modelは、自動的に作る(これが優秀)こともできるし、ピッチ・ゾーンをユーザーが自由に設定することも可能だ。

エディター画面。赤枠部分にてオーディオ・ファイルをインポートして解析し、Audio Modelを作成する。楽音からノイズまで、さらには10分を超える長い素材でもインポート可能。解析方法は6種類から選ぶことができる。黄枠部分はAudio Modelを視覚的に表したもので、ピッチ・ゾーンを各列として表している。緑枠部分は、Normalize、Smooth、Clean upといったパラメーターでウェーブテーブルを調節できる

エディター画面。赤枠部分にてオーディオ・ファイルをインポートして解析し、Audio Modelを作成する。楽音からノイズまで、さらには10分を超える長い素材でもインポート可能。解析方法は6種類から選ぶことができる。黄枠部分はAudio Modelを視覚的に表したもので、ピッチ・ゾーンを各列として表している。緑枠部分は、Normalize、Smooth、Clean upといったパラメーターでウェーブテーブルを調節できる

 インポートには6種類のモードがあり、それぞれに働きが違うのだが、特筆すべきは現在のAudio Modelに新たなオーディオを混ぜ合わせる“Merge”のモードが3つある点。斬新なAudio Modelを次々に作っていくことができるのだ。同じことをソフト・サンプラーで行おうとすると気が遠くなるほど時間がかかる作業なのだが、Tomofonは優秀なAudio Model機能のおかげで、どんどん新しい音をキーボード演奏可能な形に整えてくれる。流れとしては、エディターで自作のAudio Modelを作っておき、シンセ画面で音色のプログラム作りをさらに整えていくというものだ。

 シンセ画面には、中央上にADSRなどを調整するエンベロープ・セクションを配置。GAIN、DEPTH、PITCH、FILTER(Driveも搭載)の4つに分かれ、それぞれの機能ごとに作り込むことができる。持続音、減衰音、ゆっくり立ち上がる音など、いろいろな音の動きが作成可能だ。

エンベロープ・セクションから、ウェーブテーブルの動きを設定するDEPTHを選択した状態。ADSRの動きに加えて、画面右にはLFOやSample & Holdも付加できるようになっている。Sample & HoldのRandomを上げると、予測不能な動きの音色変化を生成する

エンベロープ・セクションから、ウェーブテーブルの動きを設定するDEPTHを選択した状態。ADSRの動きに加えて、画面右にはLFOやSample & Holdも付加できるようになっている。Sample & HoldのRandomを上げると、予測不能な動きの音色変化を生成する

 さらに、左上のController SettingsのMatrixでモジュレーションやVelocity、Keymapを上の4つのADSRにどのように反映させるかを視覚的に分かりやすく設定できる。

Controller Settingsでは、モジュレーション・ホイールの動作、ピッチベンドの幅、グライドやレガートを設定。リードやシンセ・ベースには、肝心となるパラメーターだ

Controller Settingsでは、モジュレーション・ホイールの動作、ピッチベンドの幅、グライドやレガートを設定。リードやシンセ・ベースには、肝心となるパラメーターだ

 また、左下のVoice Settingsでは、最大4系統のPitch/Pan/Volumeを組み合わせられる。Makeup Gain、Humanize、Pitch Zone Offsetなどのパラメーターも、音色のニュアンスに大いに関係するものだ。

Voice Settingsでは、1つのAudio Modelに対し、同時に4系統の設定まで組み合わせることができる。ステレオ化したり、オクターブ下の音を加えて芯となるサウンドを生成。右側にあるMakeup Gainなど4つのツマミも、音色のキャラクター作りに大きく作用する

Voice Settingsでは、1つのAudio Modelに対し、同時に4系統の設定まで組み合わせることができる。ステレオ化したり、オクターブ下の音を加えて芯となるサウンドを生成。右側にあるMakeup Gainなど4つのツマミも、音色のキャラクター作りに大きく作用する

音が持続している間に生まれる変化が面白い

 音色のプリセットは100種類以上。一通りMIDIキーボードで演奏してみると、まさにウェーブテーブル・シンセとサンプラーの中間の音がする。Tomofon独自の音色感としては、中域が柔らかくぬくもりがあり、音が持続している間に面白い変化がある。また、モジュレーションやコントロール信号による音色変化も特徴的だ。パッドやボイスには、多彩な音色がそろっている。音色を切り替えたときの読み込みがとても速いことや、和音演奏時のコンピューター負荷の低さも特筆に値する。ハイエンドのコンピューターでなくてもサクサク動くのは、ユーザーには大きなメリットだ。

シンセ画面の右上のタイトルから、声や楽器などあらゆる音色により作成されたプリセットを選択できる。また中央左に配置するイジェクト・ボタンでは、Audio Modelのプリセット・パックを変更可能だ

シンセ画面の右上のタイトルから、声や楽器などあらゆる音色により作成されたプリセットを選択できる。また中央左に配置するイジェクト・ボタンでは、Audio Modelのプリセット・パックを変更可能だ

 実際に自分でいろいろな音をインポートして作業してみたところ、同じ楽器の低音から高音までを一続きのオーディオとして読み込めば、ハイクオリティなサンプリング音源がすぐにできる。さらに、短い打撃音、普通の楽曲、フィールド録音、ギターやバイオリンのフリー演奏、不安定なボーカルや朗読などを読み込んでみて自動でAudio Model化すると、低音から高音まで正しいピッチに並べられる。楽音として演奏はできるが、これまで聴いたことのないようなシンセ音がどんどん出来上がる。初めてサンプラーを試したときのように、新しい音を作っていくのがとても楽しい。

 プリセットの中からADSRの組み合わせ(パッド、減衰音、LFOやフィルターの動きが面白いものなど)をあらかじめセレクトしてめぼしをつけておき、これにオリジナルのAudio Modelを当てはめると、風変わりなベース、動きの意外なパッド、ディストーション風のリード音などが簡単に作れる。

 操作手順やいろいろなパラメーターによる音変化は、1回使って慣れてしまえば全く難しくないし、画面のサイズもディスプレイに応じて変更できるので、とてもユーザー・フレンドリーだ。さまざまなエディットの動作が軽く、音色切り替えや演奏時の負荷が軽い分、音が柔らかい傾向があるが、Tomofonの後にEQやコンプをインサートすることで、十分パンチの効いた抜けの良い音色に仕上げることができる。

 自分でオリジナルな音を作ることに興味のある人は、ぜひTomofonを使ってみるといいと思う。新たな発見のあるオーディオ・シンセとして、Tomofonはとても面白い。

 

横川理彦
【Profile】1982年にデビュー後、4-DやP-MODEL、After Dinnerなどに参加。主宰するレーベルCycleからのリリースや即興演奏、演劇やダンスのための音楽制作など幅広く活動する。

 

KLEVGRAND Tomofon

19,875円

KLEVGRAND Tomofon

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.10以降(M1プロセッサーに最適化)
▪Windows:Windows 7以降
▪対応フォーマット:VST、AU、AAX(ともに64ビット)

製品情報

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