AUDEZE MM-500 レビュー:マニー・マロクィンと共同開発した平面磁界駆動式の開放型ヘッドフォン

AUDEZE MM-500 レビュー:マニー・マロクィンと共同開発された平面磁界駆動式の開放型ヘッドフォン

 AUDEZEは2008年にアメリカで設立されました。比較的新しいヘッドフォン・メーカーで、日本ではまだあまりメジャーでないかもしれませんが、海外では使用している著名エンジニアも多いです。今回は最新機種MM-500を紹介します。

場所を問わずスタジオ・クオリティで再生

 AUDEZEのヘッドフォンは平面磁界/全面駆動式を採用しています。ヘッドフォン内のダイアフラムを磁界の力でピストン運動させるそうで、ダイアフラム全体が均一に駆動して位相差を少なくするというメリットがあります。

 MM-500は開放型で、周波数特性は5Hz〜50kHz、入力インピーダンスは18Ω、最大出力は130dB SPLです。重量は495gで、モニター・ヘッドフォンとしては重い部類になってくるかもしれませんが、昨今は同様の重量感があるハイエンドのヘッドフォンが増えてきていますので、特に気にする必要もないかと思います。また、インピーダンスが低いため、使いやすい印象を持ちます。

 筆者はMM-500を既に入手しており、ヘッドフォン・アンプは何個か試した中から、LITTLE LABS Monotorを使用しています。最初は“ジョシュ・ガドウィンがAUDEZE LCD-4とMonotorを組み合わせて使っていたから”という理由で試したのですが、ヘッドフォンのカラーを生かしてくれるアンプだと思います。

 MM-500には、専用のアルミ・ケースと専用ケーブル(ミニXLR-TRS)、ソフト・ケースが付属。アルミ・ケースはラック・ケースと同じようにヘッドフォンをしっかりと保護してくれますし、コンパクトなのでどこへでも運べます。

付属のアルミニウム・ケース

付属のアルミニウム・ケース

ケース内は本体に合った構造を持つ

ケース内は本体に合った構造を持つ

250cmケーブル(ミニXLR-ステレオ標準)が付属

250cmケーブル(ミニXLR-ステレオ標準)が付属

本革製レザー・パッドで優れた装着感を実現

 筆者自身は、AUDEZEのヘッドフォンLCD-Xを5年ほど使用し続けていて、ミックス作業においてかなり頼もしい存在なので、マニー・マロクィン氏が監修したMM-500が発売されることを知り非常に楽しみにしていました。

 実際に手に取ってみると、AUDEZEの別シリーズより一回りほど小さく、さらに軽くなっています。マロクィン氏も“このヘッドフォンは自身がいつも使っているララビー・サウンド・スタジオのモニターと同じくらい信頼している”“時間、場所を問わずにスタジオ・クオリティが手に入る”と言っていますから、可搬性といった点でも試行錯誤されたと思います。イア・パッドは本革製になっており、ほかのレザー・パッドのヘッドフォンと比べ感触が柔らかく、装着感がとても良いです。

イア・パッドは本革製で、フィットしやすい3D形状

イア・パッドは本革製で、フィットしやすい3D形状

サスペンション付きワイド・ヘッド・バンドを採用

サスペンション付きワイド・ヘッド・バンドを採用

開放型でありつつ密閉型のような音の近さ

 ヘッドフォンは密閉型と開放型の2種類があり、両者の特徴として、個人的には密閉型は音が全体的に近く、よく見えやすい一方で、“木を見て森を見ず”ではありませんが、音楽の全体のムード感をキャッチするのには少し向かない部分もあるように思います。対して開放型は、音の鳴りは自然ですが、どこか音像が遠いような感覚に陥りやすいので、開放型だけで作業するとオーバーな処理をしがちというのが個人的な見解です。

 しかしこのMM-500は、開放型に分類される製品でありつつ、密閉型のような音の近さもあるため、エンジニアリングをするにあたり、とてもやりやすく感じます。

 実際に自宅でMM-500だけで作業を進めていき、普段利用しているスタジオで確認したところ、イメージ通りの音像のままスタジオで聴くことができました。EQ感やコンプ感、リバーブの分量なども差異がまるで無かったです。

 エンジニアリングをする上で聴いていて気持ち良い音、楽しい音、それだけではなく正しい判断ができる音というのが一番大事だと思いますが、その点において、これほどまでに表現できる機材はほかにはありませんでした。まだ本機を手にして日が浅く、これからもっと気付くことがあると思いますが、現段階での所見ではこういったところです。

30Hz辺りが把握しやすく中低域は色気がある

 音色でいうと、低域から高域までバランスが良く、低域は30Hz辺りのサブベースの動き、キックの余韻辺りなどしっかり把握することができ、高域はシルキーでありながらも、とても聴きやすく、中低域は色気があります。

 ただ、非常にシビアなヘッドフォンなので、あまりバランスが作り込めていないと、退屈なサウンドにも聴こえてしまうと思います。今までミキシング・スタイル的にはモニター・スピーカーで音を作り、ヘッドフォンや小型スピーカーで詰めていき、最終的にまたモニター・スピーカーに戻る、というルーティンでやってきましたが、このMM-500があればモニター・スピーカーでやるべきところも取って代わることが可能だと思いました。

 価格帯はヘッドフォンとしては高額帯かもしれませんが、良いモニター環境を手に入れるためにルーム・チューニングや大型のモニター・スピーカー導入など、いろいろとコストや手間がかかる中、このMM-500を手に入れることはコスト・パフォーマンスに優れた選択の一つだと思います。

 

諏訪桂輔
【Profile】PLANET KINGDOM、studio MSRを経て、現在フリーランスのレコーディング・エンジニアとして活動。汐れいら、MoMo、三月のパンタシアなどのほか、アニメ作品から劇伴まで手掛ける。

 

AUDEZE MM-500

オープン・プライス

(市場予想価格:300,000円前後)

AUDEZE MM-500

SPECIFICATIONS
▪形式:開放型 ▪ドライバー方式:平面磁界駆動型 ▪マグネット:ネオジウム N50 ▪感度:100dB/1mW ▪最大SPL:130dB以上 ▪インピーダンス:18Ω ▪重量:495g ▪付属品:ケーブル(ミニXLR-ステレオ、250cm)、プレミアム・アルミニウム・ケース

製品情報

関連記事