
第3回 Studio Oneにおける
ミックス/マスタリング作業について
今月はStudio One(以降S1)におけるミックスとマスタリングの話をしたいと思います。ミックスだけを依頼されることはあまりないのですが、TVドラマ『ノーコン・キッド 〜ぼくらのゲーム史〜』の劇伴では、ミックス〜マスタリングまでS1ですべて行いましたし、METAFIVEの『METAHALF』のマスタリング、また、12月にリリースされる石野(卓球)君のリミックス・アルバムの中から「Fetish」のリミックスもS1で作業しました。
S1は音がクリアなので
ミックスがやりやすい
僕のミックスの経験は、学生のころまでさかのぼると、4trのテープ・レコーダーで作曲していたときからで、当時からバランスを取ってエフェクターをかけて2trに落とすということをやっていました。作曲にミックスが付随していたんですね。やっぱり打ち込み主体で曲作りしていると、そこまで含めてワンセットで作業をやっていたのです。当時は今のようにミックスをするとは思っていなかったのですが、S1のようなソフトウェアの恩恵ですね。

S1は音がクリアなので、ミックスがやりやすいです。以前のソフトでミックスしていて、なかなかうまくいかず一度放置していたファイルがあったのですが、S1でミックスしてみたら、すんなり解決したという例は幾つかあります。だから、S1でのミックスは好きなんです。
石野君の楽曲「Fetish」はリミックスしてからミックスも行ったのですが、まずはマルチのデータをもらい、リアレンジとして新しい楽器の音を足したり、減らしたり、入れ替えたり。この曲はテンポも少し落としたので、そこからリズム・パターンも再構築しました。リミックスのポイントは、原曲の持っている雰囲気が絶妙なテンポ感だったので、それをどう処理するかでした。彼は意識的にクオンタイズで割り切れないところに音を置いてグルーブを作っていたんですけど、僕はクオンタイズされているのが大好きなので、一回オーディオベンドをかけて、ジャストの位置にクオンタイズしてみたら雰囲気が全然変わってしまったんです。そのタイミングのズレがかなり効いているんだなと。自分のジャストのクオンタイズで作る方法論にどううまく組み合わせるかが、一番気を遣った点ですね。石野君は昔から、ジャストではないクオンタイズの良さを言っていて、僕はずっと反発していたんですけど(笑)、やっと彼の言っていることが分かりましたね。でも、それが分かったのも、S1で簡単にオーディオのクオンタイズができたからだと思います。

結果、ジャストに合わせたパートもあるし、そのまま残したパートもある。そうやって自分なりのグルーブを作っていったんです。
僕は、これまでミックスを行うときは、MIDIでの打ち込み作業をいったん終了させて、すべてオーディオに書き出していました。それは、いつまでも戻れる状態にしておくのではなく、脳みそをミックスの頭にするためだったのですが、「Fetish」では、あえてオーディオ化せずにそのまま作業を行いました。というのは、TB-303系の音を足して、それにフィルターやレゾナンスのオートメーションを書いたので、ミックスしながら調整したかったから。実機を手で操作するのに慣れているので、肉体感覚で変化させたいのですが、S1のオートメーションは書きやすいので、リアルに再現することができましたね。

僕のミックスの手順に決まった法則はありません。基本的にはボリュームやパンなど、バランスを取ることがメインになります。もちろんプラグインを使いますが、ダイナミクス系のプラグイン……主にコンプですが、キックやベースの絡みをうまく整えるためにインサートしています。WAVES Renaissance Compressorが多いですが、S1内蔵のCompressorもよくできているので、こちらですんなりいくときは、そのまま使っています。

あとは初回にお話しした、トレモロ・エフェクトのX-Tremは重宝しています。「Fetish」のミックスでも使いました。
ミックス全体のイメージがなかなか定まらないときは、どこにその原因があるのか見つけるために、リズム、ウワモノ、効果音など、グループに分けて作業することがあります。「Fetish」のミックスは、全体でうまくまとめることができたので、グループに分けることはありませんでした。また最近は、マスタリングした音を想定するために、マスター・トラックにリミッターをインサートしています。

あくまで簡易的なものですが、プラグインをオン/オフするだけで、マスタリングされた音をイメージできますし、両方のファイルを参考として納品もしているのです。
マスタリング時における操作感も
きびきびしている
S1でのマスタリングは、プロジェクト画面を開いて、全体のボリューム確認、曲間のフェードを書く、といったことがメインになります。

その操作感もきびきびしていて、やりやすいですね。ちなみに2ミックスの波形処理はS1では行っていません。今はSONY Sound Forge Proを使っているのですが、S1とシームレスに対応した波形編集ソフトがあれば、作業も一気にはかどるので、ぜひPRESONUSから出て欲しいですね。マスタリングが完了すると、イメージのコマンドから16ビット/44.1kHzと24ビット/48kHzのファイルを書き出します。そして、スタジオのスピーカー、ラジカセ、テレビ、カー・ステレオでチェック。低音のチェックは車でやる方が、スタジオよりも分かりやすいんです。すべてOKなら、DDPで書き出してマスタリング完了となります。
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今月でこの連載は最終回となります。僕もまだまだ勉強中で、今はマクロを使ってみようと思っているのですが、この記事を通して、少しでもS1の魅力が伝わり、乗り換えてくれるユーザーがいたらうれしいですね。
*Studio One 3の詳細は→http://www.mi7.co.jp/products/presonus/studioone/