松隈ケンタが使う Studio One 第3回

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第3回
Studio Oneを使った
ドラムのマルチトラック・レコーディング

こんにちは、SCRAMBLES松隈ケンタです! 今年もあと1カ月、早いですね。僕が応援する福岡ソフトバンクホークスもシーズンぶっちぎりで優勝、さらに日本シリーズも制覇しまして、ますます音楽制作意欲がわいている今日このごろです。さて今月は、いよいよStudio One(以降S1)を使ったレコーディングについて。サウンド・チーム“SCRAMBLES”は、コンポーザー、プレイヤー、エンジニアが常駐して音楽制作を行っているので、スピードやクオリティにおいて、ほかの現場にない利点がたくさんあります。今回はそんな、我々SCRAMBLESが実際に行っているドラム録音の具体例を挙げながら、こだわりなどを紹介していきましょう!

操作がシンプルで動作が軽く
音が良いことに魅了された

まずはドラム・セッティング後にマイクを立てます。

▲スクランブル・スタジオでのドラム・セッティング例。ここでは、キックのオン/オフ/サブにそれぞれAUDIO-TECHNICA ATM25、AKG D112、YAMAHA NS-10Mのウーファー改造マイクの3本を使用。スネアはトップにTELEFUNKEN M80SHとボトムにSHURE Beta57の2本。タムには、ハイ・タム、フロア・タムともにLEWITT 340TT。そしてハットにSHURE SM57、ライドにAKG C451Bを1本ずつセット。さらにオーバヘッドに2本のSHURE SM57を使用している ▲スクランブル・スタジオでのドラム・セッティング例。ここでは、キックのオン/オフ/サブにそれぞれAUDIO-TECHNICA ATM25、AKG D112、YAMAHA NS-10Mのウーファー改造マイクの3本を使用。スネアはトップにTELEFUNKEN M80SHとボトムにSHURE Beta57の2本。タムには、ハイ・タム、フロア・タムともにLEWITT 340TT。そしてハットにSHURE SM57、ライドにAKG C451Bを1本ずつセット。さらにオーバヘッドに2本のSHURE SM57を使用している

ここでは、キックのオン/オフ/サブに3本。スネアはトップとボトムの2本。タムは、ハイ・タムとフロア・タムに、そしてハイハットとライドにも1本ずつセットし、全部で15chほど使っています。特に、トップのマイクだけでシンバルがバランス良く鳴るよう丁寧にマイキングしているのですが、それは、ハットとライドは、ミックス時に聴かせたい部分しか使わないことがあるからです。なので、録音時もあまり大きめにモニターしていません。また、こだわりとして、トップのステレオ2本はコンデンサー・マイクではなくSHURE SM57を使っています。なぜなら昔と違って今の音楽はトラック数も多くなり、上の帯域にもギラギラしたシンセやFXがたくさん乗っかるので、あえてドラム自体をリッチに録り過ぎない方がパンチもありますし、ミックスもしっくりくるからです。もちろん、ジャンルにもよると思いますが、興味ある方はぜひ試してみてください!

録音のビット・レートは、24ビットが業界標準とされることが多いのですが、S1では32ビットでもサクサク録れるので、僕らは32ビットを採用しています。同時に20トラック以上録音しても全く問題なく、レイテンシーも感じられないのです。

録音時にEQやコンプをインプット・チャンネルに挿して、簡単かつ積極的に音を作ることもあります。このときに使うのはS1付属のPro EQとCompressor。

▲Studio One付属のPro EQ。7バンドのパラメトリック・イコライザーで、スペクトラム・メータリングや、可変式のローカット、ハイカット、低域、高域のマルチモード・フィルター、アウトプット・ゲインの自動設定などが備わっている。ここでは不要な周波数を録りの段階でカットしている ▲Studio One付属のPro EQ。7バンドのパラメトリック・イコライザーで、スペクトラム・メータリングや、可変式のローカット、ハイカット、低域、高域のマルチモード・フィルター、アウトプット・ゲインの自動設定などが備わっている。ここでは不要な周波数を録りの段階でカットしている

EQは周波数がアナライザーとして表示可能で、耳だけではなく視覚的にも処理を確認できるのが非常に便利ですね。それでは僕のオススメの機能を見ていきましょう。

録音は、録音パネルの“テイクをレイヤーに録音”をオンにして行います。そうすると、録音ごとに1レイヤーが作られます。ある程度録音テイクがそろったら(僕の場合3〜5テイク)、“FIX”という名前のレイヤー・トラックを別に作成して、“コンピング機能”を利用して最高のテイクを選んでつなげていきます。

▲S1のコンピング機能は、録音パネルの“テイクをレイヤーに録音”をオンにしてから録音した後、ベストなテイクを選択ツールで選んでいくだけで完了する ▲S1のコンピング機能は、録音パネルの“テイクをレイヤーに録音”をオンにしてから録音した後、ベストなテイクを選択ツールで選んでいくだけで完了する

S1のコンピング機能は、レイヤーを選択ツールで選ぶだけで、自動的にテイクが追加されるのでスピーディに作業可能です。この辺の抜群の操作性はS1ならでは!といった感じで、非常にシンプルかつ使いやすいですね。

ベースをドラムと同時にレコーディングしている場合は、このときにベースのテイクも選んでいきます。できるだけドラムとのグルーブが良いものをセレクトします。最後に、ミス・ショットがあった場合や、後に解説する“Impact”に取り込むための単発素材を録っておくと便利ですので、忘れずに録音しておきましょう!

Triggerを使用し
今風なドラム・サウンドを作り上げる

ベストなテイクが完成したら次は、SLATE DIGITAL Trigger 2を使用して音を作り込みます。Trigger 2はドラム・リプレイサー・プラグイン。近年ラウド・ロック・バンドや、メタル系を中心に主流となっているようですが、ポップス界でも定番になりつつあるみたいですね!

ここではTrigger 2をスネア、キック、タムのパートに立ち上げてみます。Trigger 2は、元の波形のタイミングに合わせて自分の好きなサンプルに張り変えることができるので、通常のミックスでは作り切れない、派手でパンチのあるサウンドを生み出すことが可能なのです!と、文字で説明すると簡単そうですが、実は自然にかけるのが非常に難しいんです。というのは、Trigger 2は元の波形のダイナミクスによって反応するので、ブレンド量や、スレッショルド量をシビアに調整して全体のドラム・サウンドになじむようにしなければいけません。タムなど“かぶり”のあるトラックはうまくゲートをかければ奇麗に処理できるので非常に便利。ドラマーによってはこのトリガー処理を嫌がる人もいますが、良い音を追求するためと思い心を鬼にしてバシバシ張り変えていきましょう!

▲ドラム・リプレイサー・プラグインSLATE DIGITAL Trigger 2。マルチレイヤー・トリガー・エンジンにより、最大127のベロシティ・レイヤーを持つステレオ・サンプルをトリガーとして使用することができる ▲ドラム・リプレイサー・プラグインSLATE DIGITAL Trigger 2。マルチレイヤー・トリガー・エンジンにより、最大127のベロシティ・レイヤーを持つステレオ・サンプルをトリガーとして使用することができる

ここで、録音時に録っておいた“ショット”と呼ばれるドラム単発サンプルをImpactに取り込んで、自分好みのリズム・マシンを作ってみましょう。

▲ドラム・サンプル・プレイヤーImpact。16個のパッドにサンプルを割り当て再生できる。それぞれのパッドにはピッチ、アンプ、フィルターの各コントロールがエンベロープとともに備わっているほか、ベロシティによるレイヤーも可能となっている ▲ドラム・サンプル・プレイヤーImpact。16個のパッドにサンプルを割り当て再生できる。それぞれのパッドにはピッチ、アンプ、フィルターの各コントロールがエンベロープとともに備わっているほか、ベロシティによるレイヤーも可能となっている

取り込み方は超簡単。画面上の任意のパッドに、入れたいファイルをドラッグ&ドロップするだけです。例えばC1にキック、D1にスネアを入れておけば、後はMIDIで打ち込むだけ。また、一コマに最大8つの音量違いのサンプルを入れておくことができるので(Shift+ドラッグでレイヤー)、弱い音から強い音までのサンプルを録音しておけば、かなりリアルなドラム・キットが作れます。僕のチームには数人のドラマーがいまして、それぞれ音色の個性が違うので、“誰々キット”と名前をつけてデモ作りに使っています!

さて、ザックリではありますが、SCRAMBLES流のドラム・レコーディングについて解説してみました。いかがでしたでしょうか? レコーディング方法についてはプロデューサーごとに個性が出てくるのが面白いですね。次回はボーカル・レコーディングとミックスについて解説していきます。また来月お会いしましょう、ROCK!!

*Studio One 3の詳細は→http://www.mi7.co.jp/products/presonus/studioone/