第3回
オーディオ作業にも強い
Studio Oneの便利機能について
秋も深まって参りました。学生の方は試験などに向けて、社会人の方は徐々に年末進行に向けて忙しくしているころでしょうか。筆者はあと1カ月ちょっとで2014年が終わるという事実(!)に焦燥感を感じながらバタバタと制作しています。連載3回目の今回は、Studio One(以下S1)のオーディオ部分をメインに、S1ならではの機能などを紹介できればと思います。
シンプルかつ使いやすいミキサーを搭載
作業しやすいトラックリスト
S1の開発者の中にはSTEINBERGでCubaseの開発にかかわったエンジニアが何人もいるだけあって、全体的な操作感はCubaseの操作感に近いのが特徴です。ミキサー画面(S1ではコンソールと呼ぶ)はシンプルにできていて、オーディオ・トラックの信号をモニターする“オーディオ・チャンネル”、ロードしたインストゥルメントのアウトをモニターする“インストゥルメント・チャンネル”、エフェクト専用の“FXチャンネル”、そして各チャンネルをまとめることができる“バス・チャンネル”の4つで構成。すべてのチャンネルにエフェクトをインサート可能で、FXチャンネル以外にはセンドも付いています。要するにものすごくシンプルで使いやすいミキサーなのです。
そして、チャンネルの設定やオーディオ・クリップの状態を確認できるのが、画面左に表示される“インスペクター”。
ここでは、コンソール画面を開かず選択したチャンネルのエフェクトやフェーダーを監視できたり、タイム・ストレッチのアルゴリズム変更、後述するイベントFXの調整などが一つのセクションで可能です。
さらに、“トラックリスト”という画面には、AVID Pro Toolsに近い機能があります。それはトラック数が多くなったときに、表示/非表示の切り替えをして、表示トラックの整理が簡単に行える機能です。Pro Toolsほど充実したトラック整理機能ではありませんが、あるのと無いのとでは大違い。かなりのトラック数になったとしてもソング・ファイルの全トラックを俯瞰できるので非常に便利です。
オーディオやエフェクトなどの配置は
ドラッグ&ドロップでアサイン可能
S1は、オーディオのインポートからエフェクトのアサインまでのほとんどをドラッグ&ドロップで行います。先述のトラック・チャンネル関連の画面が左側のカラムに集中していたのに対して、右側のカラムには5つの画面が1つにまとまっています。Audio Units/VSTのプラグインをメーカー別/カテゴリー別に表示できるインストゥルメント画面とエフェクト画面、S1専用のライブラリーを一覧表示するサウンド画面、任意のフォルダーを簡単に呼び出せるファイル画面、ソング・ファイルの中で使っているクリップをさまざまなソート条件で一覧表示できるプール画面。ファイルもプラグインもすべてをドラッグ&ドロップですぐに呼び出すことができるのでとても便利です。
さらに、S1ではエフェクト・プリセットまでがドラッグ&ドロップが可能です。例えば内蔵のAnalog Delayをアサインしたい場合、プリセットをドラッグ&ドロップするだけで、即座にエフェクトを適用できます。
そして、もう1つドラッグ&ドロップで効果的なのが、FXチェーンです。FXチェーンは複数のプラグインの設定とインサートの順序を一つのプリセットとして記録しておく機能で、こちらもドラッグ&ドロップ一発でアサインできるのです。ディレイやコーラス、ディストーションなどの複数のエフェクトを組み合わせた飛び道具的な効果は、パラメーターがとても多くなり、実際作ろうとするとものすごく時間がかかりますが、FXチェーンの機能を使えば1クリックで済んでしまいます。苦労して作ったエフェクト・ルーティングを気軽に活用できますし、マスター・バスにかけるエフェクトのAB比較などにも重宝しますね。
作業効率の良い
高度なバウンス機能
CPU負荷の高いインストゥルメントをたくさん起動しているときや、ミックスを詰めていく際に最も面倒(筆者個人の主観です)なバウンス作業。MIDIをオーディオにするという単純な作業な割に、ミスをすると後でとてつもなく面倒ですよね? S1はこの部分では非常に優秀で、“オーディオトラックに変換”という機能で文字通りMIDIを簡単にオーディオに変換できます。トラックを選択して右クリック(Macの場合はcontrol+クリック)のコンテクスト・メニューから“オーディオトラックに変換”を選ぶとオーディオにバウンスするときの設定が現れます。
ここで“インサートをレンダー”と“インストゥルメントトラック状態を維持”の2つにチェックを入れてOKボタンを押すと即座にMIDIトラックがオーディオ・トラックに変換され、MIDIノートが波形に変わります。これだけなら普通のバウンスとなんら変わりありませんが、S1ではこうして作られたトラックを“インストゥルメントトラック状態を維持”の機能で、トラックを分けてMIDIデータを残しておかなくても、バウンス前のMIDIデータに戻すことができるのです。「バウンスしたのにここのノート間違えてた!」なんてことはよくあることだと思いますが、元のMIDIトラックを探してもう一度……という手間が1クリックで済みます。さらに、インストゥルメント変換時に“すべてのチャンネルをレンダリング”にチェックを入れてバウンスすると、インストゥルメントが持っているパラアウトのチャンネルも一気に書き出してくれます。ドラム音源の各マイクごとのアウトプットをオーディオ化する際にかなりの威力を発揮します。1クリックです。
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筆者自身ここまで書いてきて、S1の設計ポリシーが画面はシンプルに、作業的でクリエイティブでないことは1クリックで済むようになっているんだなと強く感じました。もちろん改善すべき点はあると思いますが、バージョンを重ねる度に使いやすいDAWになっていっているのが頼もしいですね。バージョン3も大いに期待しています。
さて、3回にわたり細かい特徴を書き連ねて参りましたが、なんと来月が最終回です! 4回目は特別編ということで、実際のレコーディングを例にして、S1の実践的な解説をしたいと思います。有終の美を飾りたい! ぜひお楽しみに!