ナカシマヤスヒロが使う Studio One 2 第1回

第1回
動作の軽いStudio Oneの
音楽制作におけるメリットについて

 初めまして。作曲家のナカシマヤスヒロと申します! 前回までのご担当の田辺恵二さんより引き継ぎまして今回から数回にわたってStudio One 2(以下、S1)について書かせていただきたいと思います。

 私は主にCMなどの映像に音楽を付ける仕事をしておりまして、以前は仕上げ工程や互換性を考えてAVID Pro Toolsを使っていました。しかし、その互換性などを補って余りある軽さと音質の良さをメリットと取り、ここ数年はS1を使い続けています。そうした魅力を僕なりにご紹介できればと思っております。

軽くて音質が良い
ストレスフリーな環境を実現

作曲という営みはかなり気分やノリが大事なものですよね? 降りてくるのを待ったり、ひねり出したり気分転換にFacebookを見たりの連続で、ロジカルに作業を進められないことが多くないでしょうか? そんな自分との戦いの中で、使っているDAWに“書き出しできません”“重くて発音数足りない”“……フリーズ”といった創作以外のストレスはできるだけ排除したいし、集中したいものです。

そういう意味でS1は非常に動作が軽い(CPUの使用率が低い)ので、待ち時間が少なく“あ〜、いいアレンジ思い付いたのに、これ以上インストゥルメントを立ち上げると音切れるしな……”と言った悩みがあまり起きません。そしてもう一つ重要なのは“音質がクリア”だということです。音質に関しては好みの部分がありますし、本当に微弱な差なのですが筆者の場合は“音質が良い”と感じています。特にたくさんのトラックを2ミックスにしたり、たくさんのプラグイン・エフェクトを使ったときに大きな音質の差を感じます。精度が高いということでしょうか。多くの先輩S1ユーザーの方がおっしゃるように“飽和感が無い”というのが筆者の印象です。

以前、日本の販売代理店であるMI7の担当者に「なぜ、S1は音が良いと感じるのですか?」と聞いたところ、「モダンなプログラムだから余計な計算をしていないからです。計算の回数が少ないということは多い場合に比べて音の処理回数が少ないので劣化を防ぐことができ、同時に処理も軽くなるのです」とのご返答。これは目から鱗でした! “軽くて音質が良い”というより“軽いから音質が良い”ということなのでしょうね。

ソフト音源の重さを軽減させる
Vienna Ensemble Proとの組み合わせ

ここで、筆者の環境を説明しますしょう。コンピューターはAPPLE iMac 27inch(late 2012)/3.4GHz IINTEL Core i7/メモリー24GB/Fusion Drive仕様です。今となってはそれほど最新のスペックでもないですが、最新のAPPLE Mac Proが出る前のマシンの中では最強でした。また、筆者の場合は、CPUリソース節約のためにVIENNA SYMPHONIC LIBRARY Vienna Ensemble Pro(以下、VEP)を併用しています。ご存じない方のために説明しますと、VEPはソフト・シンセの計算を分散処理できるソフトウェアで、DAWのオーディオ・バッファーの後段にVEPのバッファーを設けることで、若干のレイテンシーを犠牲にしつつトータルでCPU使用率を引き下げることができます。つまりさらに動作が軽くなるということですね。

▲VIENNA SYMPHONIC LIBRARY Vienna Ensemble Proのプラグイン画面。こちらには、DAWのバッファーとは別のバッファー設定パラメーターがある。こちらのサイズも大きくすればさらにCPUの負荷が減るが、レイテンシーが大きくなるので注意が必要だ ▲VIENNA SYMPHONIC LIBRARY Vienna Ensemble Proのプラグイン画面。こちらには、DAWのバッファーとは別のバッファー設定パラメーターがある。こちらのサイズも大きくすればさらにCPUの負荷が減るが、レイテンシーが大きくなるので注意が必要だ

“もともと軽いS1+処理が重くなる音源部分はVEPで分散”という組み合わせで、激重ソフト音源を使うときの精神的な負担も軽くできるというわけです。

今回CPU占有率テストに使用したのは、mo2というアイドル・グループの筆者が作編曲を担当している「my sailing route」という楽曲です。弦/金管/木管/シンセ/ピアノ/ドラム/ベースという大編成で、NATIVE INSTRUMENTS Kontaktの音源だけでも4.32GBのサンプルをメモリーにロードしています。

▲筆者が作編曲を手掛けたアイドル・グループmo2の楽曲「my sailing route」のS1のタイムラインとVEP上で動作するNATIVE INSTRUMENTS Kontakt 5。もし激重のVEP側がフリーズ起こしてしまったとしても、大事な曲はS1にあるので作業時間のロスを最小限に抑えることが可能 ▲筆者が作編曲を手掛けたアイドル・グループmo2の楽曲「my sailing route」のS1のタイムラインとVEP上で動作するNATIVE INSTRUMENTS Kontakt 5。もし激重のVEP側がフリーズ起こしてしまったとしても、大事な曲はS1にあるので作業時間のロスを最小限に抑えることが可能

サビの最もCPU付加がかかる部分でも、S1+VEPの組み合わせなら平均35%程度のCPU使用率で音切れなども起きませんでした。ちなみにS1のバッファーは128サンプルで、VEPのバッファーは“1BUFFER(192sample)”という設定にしてあります。

▲S1上のパフォーマンス・モニターを再生しているときの画面。各プラグインのレイテンシーやCPU使用率をソートして監視することが可能 ▲S1上のパフォーマンス・モニターを再生しているときの画面。各プラグインのレイテンシーやCPU使用率をソートして監視することが可能

ほかのDAWでほぼ同一環境を再現したところ(VEP使用)、筆者の環境ではDAWのバッファー・サイズを1,024サンプルにしても音切れが時々起こるほどでした。

軽さを追求することで
さまざまな利点が生まれる

ここまでS1+VEPの軽さについて書きましたが、具体的な利点を挙げていきましょう。

まず一つ目は、動作が軽いことでフリーズしにくく、CPU負荷を考えてしまい重くて良い音の音源を使うことにおっくうにならずに済むことです。道具に求められる第一条件として、冒頭で書いた“作曲という営みの中で、ノリやひらめきを邪魔しない”ということだと考えているので、思いついたことをすぐ実行し確認できるのが動作が軽い環境で作曲することの最大のメリットでしょう。

二つ目に、演奏が気持ち良いということ! 意外と忘れられがちですが、軽いということはレイテンシーを小さく抑えられるということです。ソフト・シンセを鍵盤で鳴らすと、このレイテンシーの分発音が遅れるということですが、16分音符の細かいフレーズを演奏するときなどはどうしても突っ込んで演奏してしまい記録されたMIDIデータがズレるだけでなく、演奏のフィールも失われがちです。

▲S1のバッファーが128サンプル、オーディオ・クロックが48kHzの設定で筆者が使うAPOGEE Duet2の環境下だと、レイテンシーは3.69msとなっている ▲S1のバッファーが128サンプル、オーディオ・クロックが48kHzの設定で筆者が使うAPOGEE Duet2の環境下だと、レイテンシーは3.69msとなっている

三つ目は、制作にかける時間が短縮できるということです。軽いことでDAWが落ちにくいというのも時間短縮ですし、多くの待ち時間を要するソフト・シンセのオーディオ化もS1は非常にスムーズです。時間が短縮できるということは、その分作曲そのものに時間をかけられますし、睡眠時間もより長く取れますね!

四つ目に、ミュージシャンにとって何よりも大事な“音質”が良いということ。内部の処理が64ビット(Professional版のみ)なのでより高い精度でミックスすることができ、細かな音のニュアンスが維持されるのだと思います。

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今回は、筆者が思うS1の魅力の一つ“軽さ”をテーマに書きました。見た目が地味で派手な機能も多くはないDAWですが、だからこそ使いやすく仕事に集中できる優秀なソフトだと思います。今後もそんなS1の底力をできるだけ分かりやすくお伝えしていければと思っています。

次回はS1を使う上での基本操作やTipsなどをメインにご紹介したいと思っています。S1には、30日間フル機能が使えるデモ版が用意されていますので、ぜひダウンロードして試してみると、予習になって次号も楽しめるかもしれません。どうぞお楽しみに!