M-5000によるフラットで上品な音質
香川県の県庁所在地である高松は、とても元気な街。JR高松駅から高松琴平電鉄・瓦町駅にかけての中心市街地がにぎわいを見せているのだ。市街地の核である中央商店街には平日の昼間からたくさんの人々が行き交い、そこを囲むようにライブ・ハウスやホールが点在している。festhalleもその一つだ。まずは開店の経緯について支配人の和田年美氏に聞く。
「高松の中心市街地では、毎年春分の日のころに“サヌキロックコロシアム”という2デイズのライブ・サーキットが開催されます。その会場の一つとして、2014年まで中央商店街のジャンヌガーデンというビルを用いていたのですが、建物の老朽化により使えなくなってしまいました。それでイベンターのデュークさんが代わりの物件を探したところ、2015年3月に今の建物が見つかり、“せっかくなら四国で一番のライブ・ハウスを作ろう”という話が持ち上がったのです。四国にはこれだけのキャパシティを持つライブ・ハウスが無かったので、大バコに出演したいアーティストを招聘しづらかったのですが、高松は広島や岡山、関西などからもアクセスが良く、集客が見込めると考えてオープンに踏み切りました」
festhalleの音響を務めているのは、PAカンパニーのエムエスアイジャパン大阪。システムのルーティングについては、マイクのインプットとして12chのマルチボックスが4台用意されており、それぞれの出力がジャンクション・ボックスに入った後FOH/モニター/収録の3つのセクションにパラで送られている。FOHのステージ・ボックスは24イン/16アウトのROLAND S-2416が2台用意され、それぞれのREAC端子(RJ45イーサーコン)がROLAND M-5000につながっている形だ。
このM-5000は、2015年に2,500,000円で発売されたデジタル卓。最高24ビット/96kHzのAD/DAや72ビット処理のサミング・バスなど、高音質を特徴としている。最大入出力数は96kHz時で300イン/296アウト。128ch分のチャンネル・ストリップを内蔵し、それらをインプットやサブグループ、AUX、マトリクス、メインなどの各入出力へ自由に割り当てることが可能だ。また、さまざまなデジタル・フォーマットに対応できるようインターフェース・モジュール(オプション)用のスロットを2基備えており、REACやDante、MADI、SoundGridなどをサポートすることもできる。本機を導入した動機について、エムエスアイジャパン大阪の足達仁志氏に聞く。
「弊社では以前からROLANDのデジタル卓を使っていて、M-400に始まり、M-380やM-300、M-480などを導入してきました。M-5000もその流れにあるのですが、決め手になったのは性能と価格、拡張性ですね。音質面に関しては、音がとても奇麗です。上品かつフラットで、たくさんのインプット・チャンネルをミックスしても音が飽和せずに分離が良い。また個人的には内蔵のマルチエフェクトが気に入っていて、ROLAND SRV-2000やSDE-3000、SDD-320、BOSSのコンパクト・エフェクターなどのモデリングをよく使っています。実機を使っていたので勝手がよく分かり、“こういう音が欲しい”と思ったらすぐに設定できるのが良いですね。おかげさまで操作がとてもスムーズです。音については、以前の機種よりもS/Nが向上しています。ただ、乗り込みのエンジニアの方にはM-5000の操作に慣れていない人も多いので、LEXICON PCM70やYAMAHA Pro R3、SPX990なども用意しています」
調整が素早く行える“ユーザー・レイヤー”
M-5000の性能面に関しては、“ユーザー・レイヤー”も重宝していると言う。
「任意のチャンネルを好きな順番に並べて、それを物理フェーダーに素早くアサインできる機能です。フェーダーの数は24本なので、それ以上のチャンネルを扱う際にはフェーダー・バンクの切り替えが必要になります。しかし例えば、パート別にチャンネルを並べてレイヤー化しておくとどうでしょう? ボーカルとコーラスのチャンネルを集めておけば、声のバランスを調整したくなったとき即座に操作できます。またグループ化できるチャンネルをDCAでくくり、それとFXリターンをレイヤーにしておくような使い方も便利だと思います。24本のフェーダーとは別途装備された4本の“アサイナブル・フェーダー”、それから“ユーザー・アサイナブル・セクション”もうれしい機能です。常に触れるようにしておきたいものをアサインできるので、僕はアサイナブル・フェーダーにボーカルのボリューム、ユーザー・アサイナブル・セクションにはディレイのタップやフィードバック、各エフェクトのエディット画面の呼び出しなどを割り当てています。特にこのアサイナブル・フェーダーは、周囲の評判も良いですね」
そのほか、本体のUSB端子にUSBメモリーを接続し、ステレオ・ミックスを手軽に録音できるのも気に入っているそう。「機能と価格のバランスが素晴らしいの一言です。もうそれは、周りにも言っていますね」と語る。
会場とのバランスを考えV-Doscを選択
ミキシングされたサウンドはM-5000のマトリクスを介し、メイン・スピーカーとインフィルのそれぞれに向けて2系統の回線で出力。メイン・スピーカー用の出力はグラフィックEQのKLARK TEKNIK DN360を通った後、スピーカー・プロセッサーのXILICA XP-4080でサブロー/ロー/ミッド/ハイの4つの帯域に分かれ、パワー・アンプのCROWN Macro-Tech 5000VZに入力されている。一方インフィルのための出力は、スピーカー・プロセッサーのAUDIENT Oneを介してパワー・アンプのCREST AUDIO 8001につながっている形だ。
メイン・スピーカーの構成は、片チャンネルあたり4台のL-ACOUSTICS V-Doscに2台のサブウーファーAPS PPD-2を加えたもの。インフィルもAPSのもので、ユニットの構成は2ウェイである。足達氏はV-Doscについて「ライブ・ハウス全体の機材の量やキャパシティを考慮した結果、バランスが良いと思ったのでインストールしました。音も奇麗で扱いやすいです」と語っていた。
M-5000を核とした充実の音響設備を有するfesthalle。今後ますます高松、そして四国の音楽シーンを盛り上げてほしいものだ。