
まずはROLIがどのような理念をもって生まれ、現時点でどのような展開を目指しているのか。創設者でありCEOのローランド・ラム氏に答えていただこう。

ーROLI Seaboard を開発し始めたのはいつごろで、最初はどのようなアイディアがあったのでしょうか?
ローランド 私はロンドンにあるロイヤル・カレッジ・オブ・アート在学中の2009年にSeaboardを開発しました。私はジャズ・ピアノが得意で、ピアノの鍵盤と鍵盤の中間に存在する音を弾きたいと思っていたのです。ほかのジャズ楽器……例えばサクソフォンやダブル・ベースなどと同じような表現をしたいと。実際に、ピアノの鍵盤と鍵盤の中間音を弾きたいと考える人たちはこれまでもたくさんいましたが、私は工業デザインの視点からアプローチする方法を選んだのです。最初のアイディアは白鍵と黒鍵をなくすことでした。そして、表面が波打っているソフト・シリコンを使い、音符から音符へのスライドがスムーズにできるようにしました。バイオリンやギターの弦の上で指を滑らすイメージです。そしてSeaboardの初の商業モデル、Seaboard Grandを2014年初頭に発売しました。
ー開発に苦労したパートやプロセスがあれば教えてください。
ローランド 最大のチャレンジは、新しい楽器と一体化する音楽ソフトの開発でした。Seaboardのフィジカル・インターフェースは、新たなアプローチでサウンドをコントロールできるものだったので、幾多の考察とエンジニアリングを経てソフトを完成させたのです。しかしフィジカル・インターフェース作り自体は、実際には簡単なパートでした。このインターフェースはマルチディメンショナル(多次元)でサウンドをコントロールできます。例を挙げるなら、左指1本でサウンドの音色を変えながら、右指1本でピッチ・ベンドする、という感じです。そのため、このインターフェースには非常に高度な最新ソフトが必要でした。ソフトの開発にはハードの開発と同等の労力を要し、カスタム・メイドのソフト・シンセEquatorを2015年に発表することができました。我々はこのソフト・シンセの開発を非常に誇らしく思っています。Equatorは現在、Seaboard GrandとSeaboard Riseそれぞれの機種に適したバージョンをそろえています。
ーEquatorは初めからSeaboard用として開発されたのですか?
ローランド その通り、EquatorはSeaboard用にカスタム・メイドしたものです。最初のバージョンはSeaboard Grand用に開発され、すべてのSeaboard Grandに内蔵されています。Seaboard RiseではEquatorをソフト・シンセ兼サウンド・エンジンとして改良しました。Seaboard用に構築されているとは言え、Equatorは多くの他社のハードウェア楽器、ソフトウェア楽器と互換性を持っています。
ーEquatorの特徴は?
ローランド Equatorは高度なソフト・シンセの上にアクセシブルな点が非常にレアな存在なのです。一般的なソフト・シンセでは多様性に欠けていて、Seaboardの多次元パフォーマンスの表現データの処理が十分に行えないためにEquatorが開発されました。中には多次元データをすべて取り込むことが可能なプログラムもあったのですが、それを実際に演奏で使うとなると、使う側にシンセシスの学者並の知識が要求されるほどでした。そのため、ソフトの開発で目指したものは、表現データをすべて処理できるプログラムであり、あらゆるミュージシャン(シンセシスに慣れていないミュージシャンも含む)が簡単にプログラムできる快適なインターフェースでした。Equatorはとても進歩的で、非常にユーザー・フレンドリーです。これがEquatorの最大の利点と言えるでしょう
ー今後Equator以外にSeaboard専用のソフトを開発する計画はありますか?
ローランド 現在製作中なのが、ハードウェア、ソフトウェア、プラットフォーム、デベロッパー・プロダクト用のコネクティッド・ミュージック・エコシステムです。例を挙げると、Seaboard(ハードウェア)、Equator(ソフトウェア)、Blend(プラットフォーム)、JUCE(デベロッパー)がそれに当たります。これは始まりに過ぎず、今後新しい製品がコネクティッド・ミュージック・エコシステムに追加される予定です。

ーSeaboardを開発中にミュージシャンからのフィードバックはありましたか?
ローランド コンスタントにありましたね。ROLIを始めた当時からSeaboardに対するミュージシャンたちの感想や意見を歓迎していたし、彼らが好む点や今後改良した方がいい点などを教えてもらっています。さまざまな音楽バックグラウンドを持つミュージシャンたちのために私たちはSeaboardを作っているわけです。ミュージシャンが新たな楽器の演奏方法を一から覚えたいと感じるデザインがあってこそ、Seaboardが楽器として成功すると思っています。そのために、あらゆるタイプのミュージシャンと交流を持つことはとても重要なことで、ジャズ・ピアニストの感想、クラシックの教育を受けたピアニストの感想、エレキギタリストの感想など、多岐にわたる意見に耳を傾けています。
ーほかのMIDIコントローラーにはないSeaboardならではの利点は何でしょうか?
ローランド Seaboard RiseはほかのMIDIコントローラーにはない表現の可能性を与えてくれます。それは、“Strike”“Press”“Glide”“Slide”“Lift”という5次元(5D)タッチが実現させてくれます。標準的なキーボードにはStrike(=弾いたスピードと強さ)の力加減を変えるだけの一方向の動きしかありませんが、Seaboard Riseはそれに加えて4方向の動きでサウンドをコントロールできるようになっているのです。この5Dのコントロールはピアノ演奏の動き、ギターやバイオリン演奏の動き、スマホ画面をスワイプする動きというふうに、身体になじんだ直感的な動きなのです。Seaboard Riseは非常に革新的な楽器で、ほかのMIDIコントローラーとは大きく異なるものですが、実際に使ってみると簡単に弾くことができるはず。タッチ・センサーという直感的に使えるデザインがそれを可能にしているからです。
ー5D Touchを上手に使いこなすためのヒントがあれば教えてください。
ローランド Seaboard Riseと5D Touchのビデオをもうすぐアップする予定です。これはWebサイトやYouTubeで閲覧可能で、ビデオの中で使用方法やテクニックについても言及しています。このビデオ・シリーズはバークリー音楽大学の著名な音楽インストラクター、エリン・バーラが製作指揮をとっています。
ーシリコン製のサーフェスの耐久性についてはいかがでしょうか?
ローランド Seaboardは耐久性のある素材で作られています。本体部分はアルマイト処理されたアルミニウム製という非常に強い素材でできており、またシリコン製のサーフェスはソフトですが耐久性があり、ユーザーが使用上の注意を守ってくれていれば、何年も使用可能です。また、すべてのSeaboardは発送前に必ずテストされていますよ。
ー本体の色をブラックにした理由は? 今後はほかの色での展開もあるのでしょうか?
ローランド ブラックにした理由の一つは黒という色の持つエレガントさです。また、ピアノの白鍵と黒鍵という伝統的な色の組み合わせを考えたとき、黒は白の対極の色という点も選んだ理由であります。Seaboardはピアノの鍵盤ではありませんから。ピアノとは全く別の楽器であり、鍵盤すらなく、あるのは複数のKeywaveです。この“ピアノと違う”という点を強調すべく黒という色を選び、それが見事に功を奏したと思います。
ー日本のユーザーにはどのような使い方を期待していますか?
ローランド Seaboard Riseを好きなように自由に使ってくれることを期待しています。この楽器は世界中の人々に楽しみを運んでいるんです。みんながSeaboardを使ってさまざまなスタイルの音楽を作っていることがソーシャル・メディアなどを見るとよく分かります。それこそ、ブルックリンでダブステップを作っていたり、インドでカッワリーを作っていたり。日本のミュージシャンたちにもSeaboard Riseを気に入ってもらい、ジャズでも、フ
ァンクでも、クラシックでも、エレクトロニックでも、ヒップホップでも、アンビエントでも、それ以外のさまざまな音楽で使ってもらいたい。数カ月後にはいろいろな反応があると期待しています。
ー今後ROLIがSeaboardで目指す未来がどのようなものか教えてください。
ローランド 現在SeaboardとSEAテクノロジーによるインターフェースの可能性を広げるためにさまざまな計画を練っています。Seaboard Riseが実証したのは、音楽制作者がより簡単にアクセスできるインターフェースへと改良する一方で、私たちがインターフェースのテクノロジー部分の開発も十分に行えるという能力でした。私たちは今後もどんどん動き続けます。Seaboard以外では、デジタル時代の音楽制作の手伝いをしたいと考えていて、クリエイターたちが一貫したやり方で音楽制作できる土壌を作りたいと思っています。そのために、今後も一連のハードウェア、ソフトウェア、プラットフォーム、デベロッパー・プロダクトを作り続け、既存のSeaboard、Equator、Blend、JUCEをどんどん補強し、発展させていくつもりです。来年はROLIにとってこれまでで最もエキサイティングな年となるでしょう。
