
ゲーム音楽の制作に効くPAZ Analyzer
僕が普段手掛けているRPGやアドベンチャー・ゲームの音楽では、ギターやピアノ、ストリングスといった生楽器系のサウンドを中心として制作しており、ナチュラルに仕上げることがほとんどです。タイトルによっては自らミックスまで行いますので、作業にプラグイン・エフェクトは欠かせません。中でもWAVESの製品は“パパッと使えて、なおかつ音のクオリティがアップする”という特徴があるため、短期間で納品しなければならないこともあるゲーム音楽に合っていると思います。
ゲーム音楽というものは、プラットフォーム(ゲーム機などのハードウェア)が大事な要素です。SONY PlayStation4などのコンシューマー機なのか、NINTENDO Nintendo 3DSのようなポータブル機なのか、はたまたスマートフォンなのか、プラットフォームによってスピーカーの周波数特性が大きく異なるため、それに合わせて音楽のミックスを変える必要があるのです。音作りのポイントは低域の処理。コンシューマー機の場合はテレビのスピーカーを使用するため周波数レンジを比較的ワイドにすることができ、モニター・スピーカーで気持ち良く鳴るようミックスすればいいのですが、ポータブル機やスマートフォンは違います。低域がテレビほどは再生されず、ボトムを効かせたミックスだと上の帯域に良からぬ影響が出たりもするので、音作りの段階で多めにローカットしておく必要があるのです。またそうすることで、小さなスピーカーで鳴らしたときにも聴きやすくなります。
この処理を行うときに役立つのが、オーディオ・アナライザーのWAVES PAZ Analyzer。マスターにインサートし、低域のピークがどこにあるのかを確かめるのに使っています。ただ、解析の結果に頼り過ぎるのは良くないと思っていて、まずは耳でチェックし、“低域が多いかな?”と感じたときに、それを検証するような意味合いで使っていますね。PAZ Analyzerで30Hzなどの超低域にピークが見えたら、まずはその辺りからEQなどでカットしていきます。
低域のチェック以外では、ミックスのリファレンス音源の周波数特性を確かめたり、ベース音色などのステレオ・イメージ(左右の広がり具合)を確認するために使用。前者の場合は、リファレンス音源の周波数特性に自分の楽曲を近付けていくような音作りを行います。後者に関しては、近ごろのソフト・シンセにステレオのベース音色がよくプリセットされているので、その検証です。ダンス・ミュージックなどではステレオに広がったベースがカッコ良く聴こえることもありますが、生楽器系の音楽には中央でどっしりと鳴る低音の方がマッチすると思うので、“本当にモノラルかどうか”をチェックするようにしているのです。耳ではモノラルに聴こえていても、実はわずかに左右へ広がっているということもあるので確認は大事。PAZ Analyzerには必要な機能が1つにまとまっていて、解析結果を元に音作りするとゲーム機でもうまく再生されます。そうした信頼感から、よく使っていますね。

音に温かみを加えるVintageWarmer2
先述の“モノラルにするための処理”にしばしば使っているのがPSP VintageWarmer2。コンプレッサーなのですが、モノラル/ステレオの切り替えスイッチが付いているため、左右の広がりが気になるサウンドを確実にモノラル化できるんです。しかしメインは、何と言ってもコンプとしての機能。名前からイメージできる通り、入力音にビンテージ・アウトボードのような温かみを加えられるので、そういったテイストが欲しいときにマスターへインサートするんです。
操作が簡単なのも特徴で、中央辺りにあるDriveノブを上げていくとコンプレッションが深まるという仕様。リリース・タイムのエディットなども可能ですが、僕はあまり気にすることなくワンノブ型のコンプに近い感覚で使っています。また、Driveノブによる自然なサチュレーションやKneeノブを上げたときに音の輪郭が立つ感じも気に入っていて、これで音圧を上げてからWAVES L3-16でリミッティングする流れが多いですね。L3-16の音はハイファイ傾向なので、そこに温かみを付加する役割でもVintageWarmer2を重宝しています。

スピード重視の音作りに向くV-EQ
ここまでマスターに挿すプラグインを紹介してきましたが、チャンネルでよく使うのはWAVESのV-EQ3とV-EQ4。いずれもパラメトリックEQで、V-EQ3はNEVE 1066と1073のEQ部をシミュレートしたもの、V-EQ4は1081のEQ部を再現したものです。冒頭で述べた通り、ゲーム音楽の制作には“時間との勝負”という側面があります。それこそ1日にモックアップ(クライアント向けのデモ)を2〜3曲作らなければならないこともあるので、そうしたときは一つ一つのプロセスについて素早く意思決定したいものです。V-EQ3とV-EQ4は周波数ポイントを選んで設定するタイプのEQで、連続可変には対応していません。またQ幅も動かせないので、ざっくりと設定するしかないのですが、その仕様がスピード重視の音作りにマッチするんです。“おおまかな音色を決めて、すぐに曲作りを始めたい”といった場合に最適で、音質についてもアナログライクな温かみがあるため、自分の好みに合っています。また、少しひずむからか音圧が若干上がり、まとまりが良くなるのもメリットです。

V-EQ3やV-EQ4の後段には、アナログ卓SSL SL4000Eのチャンネル・ストリップを再現したWAVES SSL E-Channelなどをインサートします。SSL E-Channelはキャラクターの立ったプラグインで、挿すと分かりやすく音が変化します。イメージとしては、アナログライクながらソリッドになる印象。ドラムやベース、ギター、ピアノ、ストリングスなどさまざまなパートに使っていて、“SSLのサウンド”が欲しいものには楽器を選ばずかけています。マスターに挿す方もいらっしゃるようですが、僕の場合は以前お世話になったエンジニアの方がチャンネルで使っていて、仕上がりがとても良かったので、それに倣っている形です。

手軽にアナログ的な質感にできるH-Delay
アナログ的な音質と言えば、WAVES H-Delayもよく使うプラグイン。手持ちのディレイの中では最も頻繁に使っているかもしれません。パートによってインサートで使用するかセンド&リターンで用いるのかを判断していますが、何より面白いのは機能面。例えばLoFiボタンを押すとディレイ音の高域がまろやかになって中低域が持ち上がり、テープ・エコーのような質感を得られます。また、右下のANALOGノブを上げることでもLoFiボタンに通じる音色変化を付加でき、手軽にアナログライクな音にできるプラグインです。デジタル・ディレイ系のプラグインには原音が忠実に返ってくるものが多いと思うので、ソースの音を聴いてH-Delayを使うかデジタル・ディレイ系にするのかを決めていますね。

今回のテクニック解説では、WAVESプラグインが大半を占めました。同社の製品は直感的に操作できて音が良く、動作に関しても軽快かつ安定性抜群。ゲーム音楽の制作では音源をたくさん立ち上げるのでCPUに負荷がかかりがちですが、WAVESプラグインならその環境で立ち上げてもプロジェクトが重くなりにくく、助かっていますね。
【TOPIC】H-Delayの“LoFi”ボタンと“ANALOG”ノブについて
今回土屋さんに評価していただいたH-Delayは、特定のビンテージ・ギアなどを参考にした製品ではなく、“WAVESのアナログ・ハードウェア・モデリング技術と今日的なデジタル技術をブレンドした理想的なプラグイン”というコンセプトを発展させたものです。同じ系統の製品はHybrid Lineシリーズとして展開しています。
H-Delayのテクノロジーについて解説しておくと、初期のハードウェア・デジタル・ディレイではサンプル・レートを意図的に下げることで、周波数レンジを狭めながら同じメモリー量でより長いディレイ・タイムを確保していました。この振る舞いを“LoFiボタン”で再現しているのです。またH-Delayには“ANALOG”というノブも装備されていますが、これは倍音や質感に影響するアナログライクなキャラクターを加えるもので、4つの異なるモードを選択することができます。(解説:メディア・インテグレーションMI事業部 サポート岡田裕一)