Device 29 サウンドの倍音成分をMIDIに変換して自動演奏 by 由雄正恒
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塊の中に隠された音を具象化する
私がMaxを使い始めてかれこれ20年弱。使い始めのころは音声制御は単体では難しく(ISPWなんて個人で持てるものではないし……)、シンセサイザーやエフェクターなどを介してリアルタイム音響処理のまね事を行っていました。現在のバージョン7では音響処理や映像処理機能もあって、できることが多様ですね。
今回は、普段私が作曲する中でワクワクして作ったパッチの1つを紹介します。このパッチの原型は15年ぐらい前に作っていて、幾度か手直しを行い、ライブ・エレクトロニクス作品における生楽器パートの作曲や、生楽器の音に追従する伴奏装置のプログラムとして使用しています。なお、今回配布するにあたって、このパッチだけで完結できるようにアレンジしています。
使用にあたっては、ダウンロードしたフォルダー内にある“readme”を参照し、[fiddle~]オブジェクトを指定の場所に置いてからパッチを開いてください。このパッチでは、まず[2]の[fiddle~]または[fzero~]が、サウンドに含まれている倍音(整数倍音)とその量を検出します。ひたすら検知していますので、そのままMIDIノートに変換してしまうと、とんでもない連打音になってしまいます。そこで、最初に入ってきた倍音の周波数と次に入ってくる数値が同じ場合、2番目以降は無視し、周波数が変化したときに再び変換するようにして同音連打を防いでいます(“noteout#”サブパッチ内、“off-or-on-all#”サブパッチと[coll]オブジェクト)。
ノート・ナンバーを取捨選択して“色合い”を出す
[fiddle~]では、入力源の基音と倍音の周波数を第10倍音まで検知して、MIDIノートに変換して再生させるようになっています。これにより周波数の縦の並びがノート・ナンバーとして縦に並び直されて、和音が生成されます。さらに、それぞれの倍音の量をベロシティに変換することで(“signal_to_midi_#”サブパッチ内、右上部)、人間が和音を演奏する際に自然と付く強弱を作り出しています。それと、常に変化する倍音の周波数と量を変換していますので、同時に鳴っている和音だけでなく、単音/前打音/アルペジオ/フレーズが生み出されています。
この段階でも面白い結果が作り出されているのですが、変換されたノート・ナンバーは、絵の具のすべてがそろったような状態ですので、ノート・ナンバーを取捨選択して音楽的な“色合い”が出せないものかと考えました。そこで[4]において、検知する間隔を調整することでリズムを作り出し、[5]においてあらかじめ用意したスケールまたはコード・トーンのノート・ナンバーのみを通過させることでハーモニーを作り出しています。ここで作り出されたリズムとハーモニーは、定石の音楽技法で作り出すものとは違ったものになっていることが、このパッチの面白いところです。
スケールやコードを自身で作成したい場合は、[5]の下部にある“スケールorコードの作成”で、1oct(12音)未満のノート・ナンバーを[kslider]オブジェクトでクリックしてください。ここで“write”でテキスト・ファイルとして書き出せば、後から読み込めるようになります。間違えた場合は“clear”でリセットできますが、MIDIへの変換がすべて遮断されますので、注意してください。もし再生中に“clear”をクリックしてしまった場合は、スケールかコードの再読み込みを実行してください。
[7]のオーディオ・ソースを選択して入力を始める前に、特にマイク入力の際は[6]の“tuning”でチューニングすることを忘れないでください。入力源はマイク、オーディオ・ファイル、ホワイト・ノイズです。倍音とその量が多いほど、また持続低音が強いほど、MIDI変換されるノートの量は増えます。ただし[fzero~]は基音しか検知できないのと、マルチフォニックに対応していないため、ホワイト・ノイズはMIDI変換がうまく動かず、ノートが発音されません。ビートが強いサウンドを入力する場合は、検知する間隔を上手に調整すると、タイミングが合った演奏を行ってくれると思います。入力ソースなどをいろいろと試してみると、面白い発見があるかもしれません。
由雄正恒
【Masatsune Yoshio Profile】神戸出身。作曲家、メディアマスターNo.75。コンピューターによる芸術作品の創作を専門とし、ライブ・エレクトロニクス、メディア表現を題材にした創作研究を行っている。昭和音楽大学、IAMASを卒業。現在、昭和音楽大学准教授。
http://masatsu.net
Facebook : masatsuneyoshio
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