DJ Myosukeが使う「FL Studio」第1回


ハードコアの命とも言える
“ガバ・キック”の制作術

初めまして、今月から連載を担当させていただきますDJ Myosukeです。僕はIMAGE-LINE FL Studioで“ハードコア(ガバ)”というジャンルのトラックを制作しています。この連載では、自身のFL Studioの使い方やサウンド・メイクの手法を紹介していきます。さてこのハードコアというジャンル、初めて聞いたという方も少なくないと思います。そこで今回は、連載用にデモ・トラックを制作しました。記事ではデモの内容に沿って、各パートについての解説をしていきます。またサンレコのWebサイト(https://rittor-music.jp/sound/)にて試聴できますので、誌面と併せてぜひ聴いてみてください。それでは初回はハードコアの一番重要なパート=ガバ・キックの作り方を解説します。

▲筆者が仲間とシェアしているプライベート・スタジオ。FL Studio 12 Signature Bundle(パッケージ版:35,000円)を使用しているが、より多くの純正プラグインが欲しい人はFL Studio 12 All Plugins Bundle(83,333円)、エントリー・ユーザーはFL Studio 12 Producer Edition(18,333円)やFL Studio 12 Fruity Edition(11,111円)をbeatcloud(beatcloud.jp/)にてダウンロード購入すれば良いだろう ▲筆者が仲間とシェアしているプライベート・スタジオ。FL Studio 12 Signature Bundle(パッケージ版:31,000円)を使用しているが、より多くの純正プラグインが欲しい人はFL Studio 12 All Plugins Bundle(99,990円)、エントリー・ユーザーはFL Studio 12 Producer Edition(24,000円)やFL Studio 12 Fruity Edition(12,800円)をbeatcloud(beatcloud.jp/)にてダウンロード購入すれば良いだろう

キックの専用プロジェクトを作り
心ゆくまで音作りを続ける

ガバ・キックは、ハードコアというジャンルの核になる音です。作り方は人によってさまざまで、正解が無いものの、それだけに個性やスキルが現れます。今回は僕なりの作り方を紹介できればと思います。

デモ・トラックのプロジェクトでは、キックのオーディオ・ファイルをプレイリストに張り付けて鳴らしていますが、実のところこれは“キック専用のプロジェクト”で作ったものなんです。ガバ・キックの制作にはたくさんのプラグイン・エフェクトを使用するため、それだけで僕の環境ではCPU使用率が30%ほどに達します。なので、キックだけを独立したプロジェクトで作っているわけですね。

そのプロジェクトの中身を見ていきましょう。音源として使用したのはSONIC CHARGE MicroTonic。オシレーターの波形はサイン波に近いものを選び、ノイズなどは混ぜていませんが、内蔵のディストーションをかけています。エンベロープ・ジェネレーターはアタックをかなり短め、ディケイをかなり長めに設定。ただしディケイに関しては音作りを進めていく中で変わる可能性があり、この段階では暫定です。ちなみに僕は、キックを仕上げてから曲を作るんです。まずは“最高だ”と思うキックを作り、それにいろんな音を乗せていく流れですね。

▲ガバ・キックの音源は、サード・パーティ製のSONIC CHARGE MicroTonicを使用。サイン波と三角波の間にあるような波形を使った ▲ガバ・キックの音源は、サード・パーティ製のSONIC CHARGE MicroTonicを使用。サイン波と三角波の間にあるような波形を使った

MicroTonicで音を作ったら、それをミキサーのCh 3に立ち上げてFruity Compressorを挿しました。狙いはリリース(余韻)を伸ばすこと。ガバ・キックは“ベーベーベー”というひずんだ余韻が特徴で、それを作り出すための下準備をしているわけです。そしてコンプの後段では、Fruity Parametric EQ 2によるイコライジングを行いました。

▲MicroTonicで作った音のリリースを伸ばすために使ったFruity Compressor。FL Studioに標準搭載されているコンプだ。設定は、リリースとともにアタックにも気を配っていて、アタック・タイム232.8msとかなり遅めに設定。音のアタマのおいしい成分がつぶれないようにしている ▲MicroTonicで作った音のリリースを伸ばすために使ったFruity Compressor。FL Studioに標準搭載されているコンプだ。設定は、リリースとともにアタックにも気を配っていて、アタック・タイム232.8msとかなり遅めに設定。音のアタマのおいしい成分がつぶれないようにしている

EQとひずみエフェクトを組み合わせ
マルチバンド・ディストーション化

次にCh 3をCh 4とCh 5に分岐。Ch 4はひずませるためのチャンネルで、Ch 5はひずませずに低域を残しておくチャンネルです。まずCh 4ではCAMEL AUDIO Camel Crusherが活躍しています。ディストーション/フィルター/コンプ/マスターの4モジュールから成るフリーのプラグインなのですが、ここではディストーションのみを使用。“TUBE”というツマミを上げ、結構ドシャッとひずませています。そしてもう一つ、フリーのアンプ・シミュレーターBTE Juicy77も活躍。Camel Crusherとはキャラの違うひずみとして使用しています。

▲ミキサーのCh 3をCh 4とCh 5に分岐させたところ(赤枠) ▲ミキサーのCh 3をCh 4とCh 5に分岐させたところ(赤枠)
▲筆者の周りにもユーザーが多いサード・パーティ製のフリー・プラグインCAMEL AUDIO CamelCrusher。画面はCh 4に挿したもので、ディストーションとマスターをアクティブにしている(赤枠) ▲筆者の周りにもユーザーが多いサード・パーティ製のフリー・プラグインCAMEL AUDIO CamelCrusher。画面はCh 4に挿したもので、ディストーションとマスターをアクティブにしている(赤枠)
▲サード・パーティ製でフリーのアンプ・シミュレーター、BTE Juicy77。Camel Crusherとともにひずみエフェクトとして使用している ▲サード・パーティ製でフリーのアンプ・シミュレーター、BTE Juicy77。Camel Crusherとともにひずみエフェクトとして使用している

さてここでCh 4のエフェクト・チェインをお見せします。ひずみ系エフェクトの前には、必ずFruity Parametric EQ 2が挿さっていますよね。これはひずみ系エフェクトをマルチバンド・ディストーション的に使うためのものです。例えばJuicy77で、中域だけを強くひずませたい場合を考えてみましょう。前段のFruity Parametric EQ 2で狙いの帯域をブーストすると、そこだけJuicy77への入力音量が上がるため、ほかの帯域よりもしっかりとひずむようになるわけです。アンプのEQセクションを使うのも良いのですが、専用機のEQならQ幅を調整できたりと操作性が高いので、こうした方法を採っています。

▲Ch 4のエフェクト・チェイン。Camel CrusherやJuicy77といったひずみ系エフェクトの前段には必ずFruity Parametric EQ 2を挿し、ひずみへの送り量を帯域ごとに調整している ▲Ch 4のエフェクト・チェイン。Camel CrusherやJuicy77といったひずみ系エフェクトの前段には必ずFruity Parametric EQ 2を挿し、ひずみへの送り量を帯域ごとに調整している

続いてはCh 4のひずみサウンドとCh 5の低域メインの音をCh 6にまとめました。ここでもEQでの試行錯誤を繰り返し、出力先のCh 7でもトライ&エラーを行っています。Ch 7はCh 8へと出力。そこでの特徴的な処理はMaximusでのコンプレッションです。シングル・バンドでかけていて、アタックは短め、リリースはオーバー・レベルを防ぐためにも長めに設定しています。その後段には、またもやCamel Crusherをインサート。ただしひずみではなく、コンプを使っています。ポイントは“PHAT MODE”をONにしたことで、これによりサチュレーターをかけたようにバシッとした音になるんです。

▲FL Studio 12 Fruity Edition以外のグレードに標準搭載されているマルチバンド・ダイナミクス、Maximus。この曲ではシングル・バンドで使っていて、オーバー・レベルによるひずみを防ぐためにもアタック短め/リリース長めでかけている(赤枠) ▲FL Studio 12 Fruity Edition以外のグレードに標準搭載されているマルチバンド・ダイナミクス、Maximus。この曲ではシングル・バンドで使っていて、オーバー・レベルによるひずみを防ぐためにもアタック短め/リリース長めでかけている(赤枠)

そして、このCh 8をCh 9とCh 11に分岐。Ch 9は“noize”と名付けたチャンネルで、ガバ・キックの特徴であるザラついた質感を作るためにあります。エフェクト・チェインは、Camel Crusherでひずませた後EQでローカットし、ステレオ・イメージャーで左右に広げるというもの。こうして出来上がったCh 9の音をCh 11へ送り、仕上げのイコライジングを行いました。

9スクリーンショット-2017-06-27-15.21.22 ▲Ch 8をCh 9とCh 11に分岐して出力しているところ(赤枠)。Ch 9ではさらなるひずみ処理を加えていて、Ch 11でCh 10からのシグナルとミックスしている

ここまでで随分と完成に近付きましたが、最後にもうひと作業。MicroTonicをもう1台立ち上げて、アタック成分を作ります。ピッチ・モジュレーションなどで“ぴゅんぴゅん”と鳴るよう音作りし、ひずみ&ローカットをかけた後Ch 11へ送りました。そのほか、少しピッチ感の低いオーディオ・サンプル2種をアタック成分として混ぜ込みやっと完成! あとはEdisonなどに録って不要な部分をカットし、24ビット/48kHzで書き出すだけです。

初めての連載で不慣れな部分もあったかと思いますが、いかがでしたか? 次回はキックを使ったエフェクティブな音使い“トリック”などについて解説します。これもハードコアならではのテクニックなので、お楽しみに!

FL Studio シリーズ・ラインナップ

FL Studio 12 All Plugins Bundle(99,990円)
FL Studio 12 Signature Bundle(パッケージ版のみの販売:31,000円)
FL Studio 12 Producer Edition(24,000円)
FL Studio 12 Fruity Edition(12,800円)

<<<Signature Bundle以外はbeatcloudにてダウンロード購入可能>>>