
ハードコアの命とも言える
“ガバ・キック”の制作術
初めまして、今月から連載を担当させていただきますDJ Myosukeです。僕はIMAGE-LINE FL Studioで“ハードコア(ガバ)”というジャンルのトラックを制作しています。この連載では、自身のFL Studioの使い方やサウンド・メイクの手法を紹介していきます。さてこのハードコアというジャンル、初めて聞いたという方も少なくないと思います。そこで今回は、連載用にデモ・トラックを制作しました。記事ではデモの内容に沿って、各パートについての解説をしていきます。またサンレコのWebサイト(https://rittor-music.jp/sound/)にて試聴できますので、誌面と併せてぜひ聴いてみてください。それでは初回はハードコアの一番重要なパート=ガバ・キックの作り方を解説します。

キックの専用プロジェクトを作り
心ゆくまで音作りを続ける
ガバ・キックは、ハードコアというジャンルの核になる音です。作り方は人によってさまざまで、正解が無いものの、それだけに個性やスキルが現れます。今回は僕なりの作り方を紹介できればと思います。
デモ・トラックのプロジェクトでは、キックのオーディオ・ファイルをプレイリストに張り付けて鳴らしていますが、実のところこれは“キック専用のプロジェクト”で作ったものなんです。ガバ・キックの制作にはたくさんのプラグイン・エフェクトを使用するため、それだけで僕の環境ではCPU使用率が30%ほどに達します。なので、キックだけを独立したプロジェクトで作っているわけですね。
そのプロジェクトの中身を見ていきましょう。音源として使用したのはSONIC CHARGE MicroTonic。オシレーターの波形はサイン波に近いものを選び、ノイズなどは混ぜていませんが、内蔵のディストーションをかけています。エンベロープ・ジェネレーターはアタックをかなり短め、ディケイをかなり長めに設定。ただしディケイに関しては音作りを進めていく中で変わる可能性があり、この段階では暫定です。ちなみに僕は、キックを仕上げてから曲を作るんです。まずは“最高だ”と思うキックを作り、それにいろんな音を乗せていく流れですね。

MicroTonicで音を作ったら、それをミキサーのCh 3に立ち上げてFruity Compressorを挿しました。狙いはリリース(余韻)を伸ばすこと。ガバ・キックは“ベーベーベー”というひずんだ余韻が特徴で、それを作り出すための下準備をしているわけです。そしてコンプの後段では、Fruity Parametric EQ 2によるイコライジングを行いました。

EQとひずみエフェクトを組み合わせ
マルチバンド・ディストーション化
次にCh 3をCh 4とCh 5に分岐。Ch 4はひずませるためのチャンネルで、Ch 5はひずませずに低域を残しておくチャンネルです。まずCh 4ではCAMEL AUDIO Camel Crusherが活躍しています。ディストーション/フィルター/コンプ/マスターの4モジュールから成るフリーのプラグインなのですが、ここではディストーションのみを使用。“TUBE”というツマミを上げ、結構ドシャッとひずませています。そしてもう一つ、フリーのアンプ・シミュレーターBTE Juicy77も活躍。Camel Crusherとはキャラの違うひずみとして使用しています。



さてここでCh 4のエフェクト・チェインをお見せします。ひずみ系エフェクトの前には、必ずFruity Parametric EQ 2が挿さっていますよね。これはひずみ系エフェクトをマルチバンド・ディストーション的に使うためのものです。例えばJuicy77で、中域だけを強くひずませたい場合を考えてみましょう。前段のFruity Parametric EQ 2で狙いの帯域をブーストすると、そこだけJuicy77への入力音量が上がるため、ほかの帯域よりもしっかりとひずむようになるわけです。アンプのEQセクションを使うのも良いのですが、専用機のEQならQ幅を調整できたりと操作性が高いので、こうした方法を採っています。

続いてはCh 4のひずみサウンドとCh 5の低域メインの音をCh 6にまとめました。ここでもEQでの試行錯誤を繰り返し、出力先のCh 7でもトライ&エラーを行っています。Ch 7はCh 8へと出力。そこでの特徴的な処理はMaximusでのコンプレッションです。シングル・バンドでかけていて、アタックは短め、リリースはオーバー・レベルを防ぐためにも長めに設定しています。その後段には、またもやCamel Crusherをインサート。ただしひずみではなく、コンプを使っています。ポイントは“PHAT MODE”をONにしたことで、これによりサチュレーターをかけたようにバシッとした音になるんです。

そして、このCh 8をCh 9とCh 11に分岐。Ch 9は“noize”と名付けたチャンネルで、ガバ・キックの特徴であるザラついた質感を作るためにあります。エフェクト・チェインは、Camel Crusherでひずませた後EQでローカットし、ステレオ・イメージャーで左右に広げるというもの。こうして出来上がったCh 9の音をCh 11へ送り、仕上げのイコライジングを行いました。

ここまでで随分と完成に近付きましたが、最後にもうひと作業。MicroTonicをもう1台立ち上げて、アタック成分を作ります。ピッチ・モジュレーションなどで“ぴゅんぴゅん”と鳴るよう音作りし、ひずみ&ローカットをかけた後Ch 11へ送りました。そのほか、少しピッチ感の低いオーディオ・サンプル2種をアタック成分として混ぜ込みやっと完成! あとはEdisonなどに録って不要な部分をカットし、24ビット/48kHzで書き出すだけです。
初めての連載で不慣れな部分もあったかと思いますが、いかがでしたか? 次回はキックを使ったエフェクティブな音使い“トリック”などについて解説します。これもハードコアならではのテクニックなので、お楽しみに!
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