Avec Avecが使う「FL Studio」第1回

標準搭載の個性派プラグインと
パターン・ベースのビート制作

読者の皆様こんにちは、Avec Avecです(メイン写真左)。僕は昔からいちサンレコ読者として、有名アーティストのスタジオや機材の記事にワクワクしていたわけですが、このたび愛用のWindows専用DAW=IMAGE-LINE FL Studioについて連載させてもらうことになり感慨深いです。僕の楽曲はフリーで聴けるものも多いので、ぜひ試聴しながら読み進めていただけると幸いです。記事の中に登場する幾つかの楽曲は、SoundCloudにも公開中です。

旧ソ連のシンセを模したSawer
複雑な効果を生むLove Philter

FL Studioは僕が初めて使ったDAWです。出会ってからFL Studio一筋なので、ほかのDAWの使用経験はほとんどありません。そういうわけで、ほかのソフトと比較するような視点では書けないのですが、FL Studioユーザーの方にも、まだ使ったことがないという方にも、ソフトとしての魅力が伝わるよう書いてみたいと思います。

僕がFL Studioを重宝している理由に、標準装備のプラグインとその使いやすさが挙げられます。中でも多用しているのがSawer。旧ソ連のアナログ名機FORMANTA Polivoksをモデリングしたポリフォニック・シンセで、メイン&サブの2つのソウ・オシレーターやフィルター、LFOなどを備えています。

▲ポリフォニック仕様のアナログ・モデリング・シンセ、Sawer。その名の通りソウ(ノコギリ波)オシレーターを基調としたもので、輪郭とパンチのあるサウンドが特徴。画面左上から、時計回りにエンベロープ・ジェネレーター、トランスポーズ、グライド、ユニゾン、LFO、フィルター、サブオシレーター、オシレーターの各セクションを配置。画面中央の“IMAGE LINE”表記の下には、コーラスやフェイザー、ディレイ、リバーブといったエフェクトのほか、モジュレーション・マトリクスやアルペジエイターを備える。FL Studio 12 All Plugins Bundle(83,333円)にはフル・バージョン、FL Studio 12 Signature Bundle(パッケージ版:31,000円)やFL Studio 12 Producer Edition(18,333円)、FL Studio 12 Fruity Edition(11,111円)にはデモ版が標準装備 ▲ポリフォニック仕様のアナログ・モデリング・シンセ、Sawer。その名の通りソウ(ノコギリ波)オシレーターを基調としたもので、輪郭とパンチのあるサウンドが特徴。画面左上から、時計回りにエンベロープ・ジェネレーター、トランスポーズ、グライド、ユニゾン、LFO、フィルター、サブオシレーター、オシレーターの各セクションを配置。画面中央の“IMAGE LINE”表記の下には、コーラスやフェイザー、ディレイ、リバーブといったエフェクトのほか、モジュレーション・マトリクスやアルペジエイターを備える。FL Studio 12 All Plugins Bundle(83,333円)にはフル・バージョン、FL Studio 12 Signature Bundle(パッケージ版:31,000円)やFL Studio 12 Producer Edition(18,333円)、FL Studio 12 Fruity Edition(11,111円)にはデモ版が付属

直感的な音作りに向いており、70's風のウォームなサウンドからレイブっぽいリフまで幅広く作成可能。2/4/8声を選べるボイス・ユニゾン機能も付いていますが、分厚い音が欲しいときは2台立ち上げ、左右に振るとさらに効果的です。また、すべてのツマミにオートメーションを書けるのもポイント。フィルターのカットオフやアンプリチュードなどのオートメーションを作成すると、エフェクトでは得られないニュアンスだったりフィジカルな展開を作ることができます。

こうしたオートメーションによる音色変化は、ループ主体の楽曲によく使います。例えばソロ名義の「Moon Prism」は、Sawerで鳴らしたループ・フレーズを基調としていますが、同じ音色で繰り返していてはやや単調に聴こえがちです。そこでオートメーションを使い、前半の丸い音から徐々に音色を変えて展開を付け、フィルターなど単一のモジュールだけでは演出できないニュアンスを目指しました。

Sawerのほかは、Direct Waveというサンプラーがお気に入り。その中で使用できるSuper Rhodesというエレピのサンプルは、Sugar's Campaignの「放課後ゆうれい」や泉まくら「東京近郊路線図」などで使っており、絶妙な90's感漂う音が自分のスタイルに合っています。

▲Sample Fusionというサウンド・セットから、さまざまな音色を取り込んで使えるサンプラー、Direct Wave。任意のオーディオ素材の読み込みも可能で、WAVやSoundFont、REXなど、あらゆるフォーマットに対応する。128ボイスのポリフォニーで、モジュレーション・マトリクスやエンベロープ・ジェネレーター、2基のLFO、内蔵エフェクト(リバーブ、ディレイ、ビット・クラッシャー、リング・モジュレーターなど)でも音作りが可能。FL Studio 12 All Plugins BundleとFL Studio 12 Signature Bundleにはフル・バージョン、FL Studio 12 Producer EditionとFL Studio 12 Fruity Editionにはデモ版が標準装備 ▲Sample Fusionというサウンド・セットから、さまざまな音色を取り込んで使えるサンプラー、Direct Wave。任意のオーディオ素材の読み込みも可能で、WAVやSoundFont、REXなど、あらゆるフォーマットに対応する。128ボイスのポリフォニーで、モジュレーション・マトリクスやエンベロープ・ジェネレーター、2基のLFO、内蔵エフェクト(リバーブ、ディレイ、ビット・クラッシャー、リング・モジュレーターなど)でも音作りが可能。FL Studio 12 All Plugins BundleとFL Studio 12 Signature Bundleにはフル・バージョン、FL Studio 12 Producer EditionとFL Studio 12 Fruity Editionにはデモ版が標準装備

シンセだけでなく、エフェクトも良いものがたくさん入っています。中でもLove Philterという、名前からして良い感じのフィルターがフェイバリット。8つのフィルター・ユニットを備えていて、それぞれを接続して使えるため複雑な効果が生み出せます。僕はシンプルなフィルターとしてだけでなく、サイド・チェイン・コンプのような効果を作り出すこともあります。

▲Love Philterは、8基のフィルター・ユニットを統合したエフェクト。画面左上の1〜8の数字が各ユニットを表しており、それぞれで個別の設定を作ることができる。フィルター・タイプは、ハイパス/バンド・パス/ハイシェルフ/ローシェルフ/ノッチ/ピーキングなどを選ぶことが可能。X/Yのモジュレーション・パッド(画面右上)や、入力音のエンベロープを調整しモジュレーション・ソースとして使える“Input Envelope Follower”(画面左下)での音作りも可能 ▲Love Philterは、8基のフィルター・ユニットを統合したエフェクト。画面左上の1〜8の数字が各ユニットを表しており、それぞれで個別の設定を作ることができる。フィルター・タイプは、ハイパス/バンド・パス/ハイシェルフ/ローシェルフ/ノッチ/ピーキングなどを選ぶことが可能。X/Yのモジュレーション・パッド(画面右上)や、入力音のエンベロープを調整しモジュレーション・ソースとして使える“Input Envelope Follower”(画面左下)での音作りも可能

パズル感覚でビート・メイクできる
ステップ・シーケンサーやプレイリスト

続いては、FL Studioでのビート制作について紹介します。FL Studioは、もともとステップ・シーケンサーから発展したソフトなのでビートが打ち込みやすく、ループ・ミュージックとの相性は抜群です。現在もステップ・シーケンサーが標準装備されており、ビート制作で活躍。ノートの位置を視覚的にとらえられる、パズル感覚の入力方式に助けられることもしばしばです。それがほかのDAWには無い特殊な部分なのでしょうが、かと言って生演奏的なグルーブが作れないわけではなく、クオンタイズをかけないビートも感覚的に生み出せます。

▲最大64ステップのステップ・シーケンサー。“Graph Editor”機能をONにすれば各パートのベロシティやピッチなどを棒グラフとして閲覧可能。打ち込んだ結果は、ピアノロール上に展開することもできる。パターンにグルーブを与える“Swing”機能も有用 ▲最大64ステップのステップ・シーケンサー。“Graph Editor”機能をONにすれば各パートのベロシティやピッチなどを棒グラフとして閲覧可能。打ち込んだ結果は、ピアノロール上に展開することもできる。パターンにグルーブを与える“Swing”機能も有用

例えば僕の楽曲「おしえて」のビートは、ステップ・シーケンサーで作ったスクエアなループと、ピアノロールによるクオンタイズ無しのフレーズをバランス良く配置したことで、独特のグルーブが得られました。ピアノロールのフレーズには、グリッドからあえて大きくズラした個所やポリリズムなどが多数あり、1小節だけ取り出すとやや複雑に聴こえます。しかしこうしたフレーズにスクエアなループを合わせ、2小節や4小節単位で聴いてみるとポップに感じられるのです。

FL Studioのトラック編集画面(プレイリスト)は視認性が高く、そうしたフレーズの組み合わせもスムーズ。楽器や素材によってループの長さを変えたいときも便利で、ハイハットは1小節、キックは4小節、クラップは2小節……といった複雑な組み合わせも積み木やパズルのような感覚で作れます。これが“遊び”の要素となり、高揚感のあるトラック制作を可能とするのです。

▲FL Studioのトラック編集画面、プレイリスト。一般的なDAWと同様に、オーディオ/MIDIを問わずクリップを並べることができる ▲FL Studioのトラック編集画面、プレイリスト。一般的なDAWと同様に、オーディオ/MIDIを問わずクリップを並べることができる

パターン・ブロックが無くなったものの
制作の効率はアップ

僕は長い間バージョン9を使っていて、しばらくの間アップデートしていませんでした。なので前のバージョンであるFL Studio 11で“パターン・ブロック”機能が無くなったことに大きな影響を受けました。

パターン・ブロックとは、ステップ・シーケンサーやピアノロールで作ったパターンをブロック状のオブジェクトとしてプレイリストに配置できる機能でした。各パターンが長さを表すだけの四角いオブジェクトになるので、組み替えたり構成を作るときに便利。僕は、主にステップ・シーケンサーのパターンをブロックとして扱っていました。1つのパターン・ブロックを作ると、“Make unique”機能で一部をエディットした2つ目のパターンが作れます。さらにそれをエディットすれば3つ目になるので、繰り返していけば幾らでもパターンを作れるわけです。しかしその結果がすべてプレイリストに反映されるため、場合によっては画面がとっ散らかってしまうことも……。ここがバージョン11でアップデートされ、作成したパターンをストックしつつ選んで表示できるようになったので、視認性が格段に上がりました。ループを多用する僕としては、非常に助かりますね。

以上、FL Studioの主な使い方などについて書いてきましたが、楽曲制作ではやはりいつでも“遊び”の感覚を大事にしたいと思っています。僕にとって、FL Studioはそういった感覚を常に思い出させてくれるDAWです。

FL Studio シリーズ・ラインナップ

FL Studio 12 All Plugins Bundle(92,583円)
FL Studio 12 Signature Bundle(パッケージ版のみの販売:31,000円)
FL Studio 12 Producer Edition(22,222円)
FL Studio 12 Fruity Edition(11,852円)

<<<Signature Bundle以外はbeatcloudにてダウンロード購入可能>>>