サウンド&レコーディング・マガジン2019年4月号〜6月号では、全3回にわたり『次世代の音響空間 スペーシャル・オーディオ・ミキシング』と題した連載を掲載。立体音響の研究開発に携わってきたシーイヤーの村山好孝氏協力のもと、空間音響に造詣の深いエンジニアの飛澤正人氏に、スペーシャル・オーディオ・ミキシングの可能性や実践方法などを解説していただきました。今回はスペーシャル・オーディオ・ミキシングの簡易な解説と共に、『モンスターハンター』などで知られる作曲家の牧野忠義氏作曲の音源をご紹介。スペーシャル・オーディオ・ミキシングと通常の2ミックスの違いを体感してみてください。
スペーシャル・オーディオ・ミキシングの音源をチェック!!
下の音源は、スピンソルファ代表取締役で作曲家の牧野忠義氏が手掛けたフル・オーケストラの壮大な楽曲「Demon's Castle Opening」を、スペーシャル・オーディオ・ミキシングしたものと、通常のミックスのものです。スペーシャル・オーディオならではの空間の広がりや、音の動きを感じられるはず。ボーカルは小寺可南子氏が担当しています。
「Demon's Castle Opening(Spatial Audio Mixing ver.)」
「Demon's Castle Opening(Normal Mixing ver.)」
牧野忠義
小寺可南子
スペーシャル・オーディオとは?
Text by:飛澤正人
私はここ数年、Ambisonicsとバイノーラル・レンダリングを基礎としたスペーシャル・オーディオ・ミキシングによる楽曲制作に取り組んでいます。スペーシャル・オーディオ・ミキシングの基本の考え方は、既存のL/Rではなく“W/X/Y/Z”の4トラックを使用した“3D空間の情報を持ったデータ形式”です。それには2chや5chなど決まったスピーカーにアウトプットする従来のチャンネル・ベース・オーディオとは異なった考え方をする必要がありました。この“従来の考え方を変える”というのは簡単なことではありませんが、その分表現の幅が広がり、ミキシングの楽しさが何倍にも増えたという実感があります。そして、リスナーへの伝わり方にも変化を感じることができました。
ではスペーシャル・オーディオ・ミキシングをすることにより、どんなことが可能になるのでしょうか。大きくは、①左右だけでなく、前後や上下、奥行きなどの空間的な表現ができる、②インタラクティブに360°のVR映像に連動できる、という2点です。そのほかにも音が360°全方向から注がれることで、より一層没入感のあるサウンドを作成できたりと、ミキシングのアイディアが何倍にも広がっていくことは間違いありません。
飛澤正人
村山好孝