Nagieが使う「Pro Tools」第4回

Pro Toolsでの制作をスマートにする
テクニックとショートカット

 Nagieです。僕の連載は今月が最終回……とか言っていた矢先に、Pro Tools 2019.5がリリースされました。僕の環境では、“システム使用状況”のCPUメーターが全体的に低くなり、効率良くCPUを使っているようです。まだ少ししか使っていませんが、相当快適になりました。皆さんもぜひアップデートを行ってください。
 さて、最終回はMIDI制作周りで僕が皆さんに知ってもらいたいトピックを3つお伝えします。

グループ一括表示/非表示の
フォルダー・トラック的な使い方

 まずは大ネタから。Pro ToolsでのワークフローとしてはMIDIで制作していって最終的には全部オーディオ化するというのが一般的だと思います、その過程でオーディオ・トラックとMIDIトラック、インストゥルメント・トラックが混在し、煩雑になってきます。残念ながらフォルダー・トラックでMIDIやインストゥルメント・トラックを表示/非表示して作業を効率化する機能はありませんが、僕なりにいろいろ探して現在たどり着いたMIDIトラック・マネジメント方法は“属性なしのグループ”を作るやり方です。

 Inst1とInst2というマルチチャンネルのプラグイン・インストゥルメントをインストゥルメント・トラックに作成。その下にそれぞれ8つのMIDIトラックを作りました。このMIDIはInst1とInst2の各MIDIチャンネルのデータ・トラックと思ってください。このMIDIトラックは制作過程が進んでくると、常時表示しておく必要は無くなってきます。サウンド自体は元のInst1などから出てくるので、バランス調整などは各プラグイン内で行えばよいのですから。

 そのとき、このMIDIトラックを一挙に非表示できると便利です。まず、非表示したいMIDIトラックをshiftキーなどを使用して全部選択します。次にcommand+Gを押して“グループを作成”を開き、“グローバルに従う”にチェックを入れます。さらに“グローバル”のタブをクリック。すべての属性のチェックを外し、トラック同士のパラメーター連携を作らないようにします(このとき下の“保存”でプリセットを作っておくと便利です)。最後に任意の“名前”を入力します。

▲マルチチャンネルで使用しているプラグイン・インストゥルメントを鳴らすMIDIトラックを、グループ化。表示/非表示のグループとして使うため、ボリュームやパン、ミュートなどのパラメーターを一切リンクさせないグループを作成する ▲マルチチャンネルで使用しているプラグイン・インストゥルメントを鳴らすMIDIトラックを、グループ化。表示/非表示のグループとして使うため、ボリュームやパン、ミュートなどのパラメーターを一切リンクさせないグループを作成する

 ここで設定したグループは、画面左下の“グループ”に“Inst1 MIDI”“Inst2 MIDI”のように表示されます。まず、この名前の左、一番左端にある“・”をクリックしてください、これで各MIDIグループを一挙に選択できるのが確認できます。

 ここからの操作がキモになります。“Inst1 MIDI”を一挙に非表示するには、“・”の隣のグループ名の上にマウスを持っていってcontrol+shift+クリックすると、クリックするごとに表示/非表示できます。このとき、shiftを押し忘れると“選択したトラックのみ表示”と同じ効果になってしまうので、何回も行って操作を体に染み付かせましょう。もし失敗した場合は、上の“トラック”欄横の▼をクリックして“全てのトラックを表示”などを行ってください。

▲編集ウィンドウ左下の“グループ”欄。グループ名をcontrol+shift+クリックすると、当該グループに属するトラックの一括非表示が行える(赤枠内の・も消える)。一括表示はグルプ名を同様にcontrol+shift+クリック ▲編集ウィンドウ左下の“グループ”欄。グループ名をcontrol+shift+クリックすると、当該グループに属するトラックの一括非表示が行える(赤枠内の・も消える)。一括表示はグルプ名を同様にcontrol+shift+クリック

 この“無属性のグループ”はいわばトラックの選択だけに使用しているので、通常のグルーピングに影響しません。ボリューム・フェーダーのグルーピングなどを作りたい場合は、属性を変更して別にグループを作ればよいのです。

 またグループは複数の関連付けができるので、グループのグループみたいなもの、例えば“All Drum MIDI Tracks”みたいなものを作ってみるとか、いろいろ工夫ができます。

 このTipsはオーディオ・トラックにも使えます。グループは26×4個もあるので、気にせずどんどんトライしましょう。

“モニター用マスター”で遅延解消
便利な音源テンプレート使用法も

 次はリアルタイム入力のモニター遅延を回避する方法です。作業が進んだり、あるいは一度完成したミックスに手直しするとき、多くの場合マスター・フェーダーのプラグインが原因で、どうしてもモニターに遅延が発生します。オーディオ・トラック録音の場合は、ダイレクト・モニターなどでモニター信号の遅れは回避できます。でもソフト音源の場合は、モニターの遅れを回避できません。残念ながら、MIDIも遅延された位置に記録されるので、遅れを気にせずクリック基準で演奏してもデータは結局遅れた位置に記録されてしまいます。それを回避するために、モニター用のバスを作成します。

 まず、設定メニューから→I/O...を開き、“バス”のタブで“新しいパス”をクリックします。

▲I/O設定。“新しいバス...”をクリックして、“MON”と名付けたステレオ・バスを作成する ▲I/O設定。“新しいバス...”をクリックして、“MON”と名付けたステレオ・バスを作成する

 “新規パス”の窓が開きますので、Stereoで作成。ここでは“MON”という名前にします。スクロール・ダウンすると、一番下に“MON”パスができています。このMONの“アウトプットへのマッピング”にチェックを入れ、出力先をメイン出力(この場合A 1-2)にします。

▲作成したステレオ・バス“MON”に対してアウトプットをマッピング。マスターと同じ出力先を選ぶ(赤枠) ▲作成したステレオ・バス“MON”に対してアウトプットをマッピング。マスターと同じ出力先を選ぶ(赤枠)

 これで、このセッションにはマスター・フェーダーが使用するメイン・アウトへのパスとは別に、並行したMONというパスができることになります。

 さらに、メインのマスター・フェーダーの隣に、もう一つマスター・フェーダーを作成しましょう。そしてアウトを“MON”に設定します。これで演奏するインストゥルメント・トラックのアウトプットを“MON”に変更すれば、演奏しても遅延なく、リアルタイムで音が聴こえるようになります。あとは通常のMIDIレコーディングをすればOKです。

▲遅延のあるマスタリング系プラグイン・エフェクトをインサートしたマスター・フェーダー(左のマスター1)と、モニター用のマスター・フェーダーMON(右)。当該インストゥルメントをインサートしたトラックの出力を、MONに設定するのがポイント ▲遅延のあるマスタリング系プラグイン・エフェクトをインサートしたマスター・フェーダー(左のマスター1)と、モニター用のマスター・フェーダーMON(右)。当該インストゥルメントをインサートしたトラックの出力を、MONに設定するのがポイント

 最後に小ネタです。Pro Toolsのトラックは10個のインサート・スロットがありますが、インストゥルメント・トラックやAUXトラックにも複数のインストゥルメント・プラグインを挿すことができます。10個のインストゥルメントをインサートし、使用するもの以外を非アクティブにしておくのは便利。使いたいインストゥルメントを変更したときは最上段のメニューの“インストゥルメント”からMIDI出力先を変更するだけです。

▲インストゥルメント・トラックのインサートに複数のインストゥルメントを挿しておき、使用するものだけをアクティブ、他を非アクティブにしておく。アクティブ/非アクティブを切り替えた後は、MIDIのアサインを設定し直す。なおプラグインのアクティブ/非アクティブはcontrol+command+クリックで切り替える ▲インストゥルメント・トラックのインサートに複数のインストゥルメントを挿しておき、使用するものだけをアクティブ、他を非アクティブにしておく。アクティブ/非アクティブを切り替えた後は、MIDIのアサインを設定し直す。なおプラグインのアクティブ/非アクティブはcontrol+command+クリックで切り替える

 こうやってテンプレートを作ると、プラグイン・リストから探さなくて済む分だけ作業が効率化します。また、1つのシンセのプリセットのどれが良いか迷うことがあると思います。候補のプリセットをどんどんインサート・スロットにコピーして非アクティブにしておけば、さらに9つ分の候補を貯めておくことができます。シンセの内部で候補プリセットのマネジメントをするよりも効率的に作業を進められます。

 いかがでしたでしょうか? この連載が皆さんの少しでも役に立ったことを願います。それでは、またの機会までに、それまでにTipsを貯めておきたいと思います。

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Nagie

エンジニア/作曲家/プロデューサー。サイモン・ル・ボンが日本で設立したSYNのチーフ・エンジニアなどを経て、フリーランスに。作曲家の蒲池愛とaikamachi+nagieを結成し、オリジナル作品のほかCM、アニメ、映画音楽などを多数手掛ける。ボーカロイド・ライブラリー『IA - ARIA ON THE PLANETES』の開発、藤倉大の作品のエレクトロニクスなどにも携わる。本誌「Engineers' Recommend」ではエッジな新作を数多くセレクト。

2019年8月号サウンド&レコーディング・マガジン2019年8月号より転載