Nagieが使う「Pro Tools」第3回

Pro Tools付属シンセ
UVI Falconを研究する

 Nagieです。制作に関しては、僕は他社DAWからの乗り換え組なので、Pro ToolsでMIDI制作を行っていると、ほかの環境との違いが気になってきます。特に付属の音源やコンテンツに関して。Pro ToolsもAIR Xpand!2などが付属しているものの、僕のような全方位で音楽を作らなければいけない職業作家にとっては、やや物足りなさを感じていたのは否めませんでした。昨年末よりUVI Falconがバンドルされたことでそのすき間が埋まったどころか、個人的にはそれ以上の制作環境が整ったと思います。すぐインストールして、一緒に進めていきましょう。

生楽器を中心に使える音色を集めた
Plugsound Avid Edition

 AVIDは時折Pro Toolsの年間サポート対象者&サブスクリプション・ユーザーに特典として無償プラグイン・エフェクトや音源などを提供してくれています。ふるさと納税みたいな気分で、今回は何かなぁと楽しみです。今までも、TRACKTION Biotekという個性的なシンセを提供してくれていたのですが、昨年よりUVI Falconが加わりました。

▲Pro Toolsサブスクリプションまたは年間サポートに付属するUVIのソフト・シンセ、Falcon。付属のものはAAX Nativeのみだが制限の無いフル版で、アコースティック楽器を中心とした汎用性の高いライブラリー、Plugsound Avid Editionも付属している ▲Pro Toolsサブスクリプションまたは年間サポートに付属するUVIのソフト・シンセ、Falcon。付属のものはAAX Nativeのみだが制限の無いフル版で、アコースティック楽器を中心とした汎用性の高いライブラリー、Plugsound Avid Editionも付属している

 Pro Tools付属版のFalconはAAX Nativeプラグインのみという制限はあるものの、機能的には市販のフル・バージョンと全く同じです。しかも、Falcon Factory Presetという基本的なプリセットに加え、Plugsound Avid Editionという音色ライブラリーが付属。Avid EditonなのでPro Toolsでのみ使用可能です。僕は勘違いしていて、Falconは単なるサンプル・プレーヤー型の音源だと思っていたのですが、実はものすごく高機能なシンセで、サンプル・プレーヤーはそのごく一部だったんです。ともあれ、まずはそのサンプル・プレーヤーとしての良いところから紹介しましょう。

 今までは、Pro ToolsでMIDI制作を進めていると、特にクラシカルな楽器など生楽器的な音色が足りませんでした。それがFalconに内蔵されたPlugsound Avid Editionのプリセット音色で、本当にすべてカバーされたんです。例を挙げますと、先日CM音楽でME(Musical Effect)を制作したときに“もっとかわいい音が欲しい”とオーダーされ、マリンバやマーチング・スネアを入れたいなとPlugsound Avid Editionを開くと、ちゃんとあるんです。

▲Plugsound Avid Editionの収録音色カテゴリー・リスト。キーボード、ギター/ベースなどのフレット楽器、ドラム&パーカッション、シンセ、オーケストラなど、さまざまな音色を網羅する ▲Plugsound Avid Editionの収録音色カテゴリー・リスト。キーボード、ギター/ベースなどのフレット楽器、ドラム&パーカッション、シンセ、オーケストラなど、さまざまな音色を網羅する

 Avid EditionはいわゆるGM音源のように、ほとんどのアコースティック楽器を網羅して、音色も典型的な楽器の鳴り方でとても扱いやすいです。前述のマリンバだと、僕が持っているほかのソフト音色ではホールの臨場感たっぷりで、これはこれで良いのですがポップな感じには溶け込みません。かといってXpand!2だとちょっとシンセっぽくて違うんです。それがPlugsound Avid Editionだと適度に残響少なく、生楽器感で“これだ!”という感じなのです。ちょっとした仕事なら多分Falconで全部できてしまうので、“しめしめ、良いものが手に入った”とほくそ笑んでいます。

 音色をロードするにはシンプルにリスト上でダブル・クリックするか、プリセットを左のエリアへドラッグ&ドロップ。普通に使うにはこの動作だけなので、本当に素早く作業できます。また、Falconは1つのプラグインでマルチティンバーが可能ですが、僕は1インストゥルメント=1音色で使っています。

ウェーブテーブルやグラニュラーなど
さまざまなシンセ・エンジンを搭載

 Falconプリセットの“Falcon Factory”に目をやってみると、生楽器が少なく、ほとんどがシンセ音色です。ここが先述の勘違いをしていた部分で、実は巨大な超高機能シンセだったのです。Falconに内蔵されているモジュールはサンプラー系が8種、シンセ系が8種で、この組み合わせで自由に音作りができるんですね。試しに、“Wobble-Electronic Music”というカテゴリーの“Dbstp Pattern A 1.5”をロードすると、一時期のダブステップやEDMで流行したウォンウォンうなる過激なウォブル・ベースが発せられます。僕はサンプル音だと思ったんですが、中央のエディット・セクションでEDITタブをクリックして中を見ると、 WAVETABLEのオシレーター・モジュールが見え、音に合わせてオシレーター波形がスキャンされます。ということは、ここからどのような方向へも音を作り変えていくことができるわけですよ。

▲Falcon Factory Presetの音色“Dbstp Pattern A 1.5”を読み込んだところ。WAVETABLEオシレーター・モジュールを使った音色で、画面中央にはウェーブ・インデックスが表示され、色が明るくなっている部分の波形をスキャンしていることがグラフィカルに認識できる ▲Falcon Factory Presetの音色“Dbstp Pattern A 1.5”を読み込んだところ。WAVETABLEオシレーター・モジュールを使った音色で、画面中央にはウェーブ・インデックスが表示され、色が明るくなっている部分の波形をスキャンしていることがグラフィカルに認識できる

 現状はEDITのOSCにWAVETABLEモジュールが2つ入っているのが見えます。これにモジュールを追加するには隣の+をクリックするか右側のブラウザーよりドラッグ&ドロップします。一体幾つ分追加できるのか? 際限ないと思っていたら仕組みはこうでした。下にMAPPINGの鍵盤が見えますが、1鍵盤ごとに発音形式を変えられるんですね、例えばDRUMオシレーターを使ったBD809を鍵盤1つだけにアサインして、ほかの鍵盤は別のモジュールが鳴る、といったようにできるわけです。CPUパワーが許す限り際限なくFalconにはシンセ・エンジンを追加できるんですね。

▲C1のみサイン波を元にしたBD 809というエレクトロニック系キック音色、ほかのMIDIノートには別のシンセ音色をアサイン。もちろんCPU負荷の限界はあるが、シンセ・エンジンや音色を自由にアサインできる ▲C1のみサイン波を元にしたBD 809というエレクトロニック系キック音色、ほかのMIDIノートには別のシンセ音色をアサイン。もちろんCPU負荷の限界はあるが、シンセ・エンジンや音色を自由にアサインできる

 一方、サンプラーはただWAVファイル(やクリップ)をMAPPINGにドラッグ&ドロップすればよいという簡便さです。ちなみにのパッチはC1鍵盤のみBD809で、残りはWAVファイルという構成。このようなパッチもお手のものなのです。

 どの音色も素晴らしいのですが、最後に僕ならではの観点で紹介したいのがIRCAM GRANULARです。グラニュラーはほかのシンセではほとんどがアンビエントなパッドしか見かけませんが、IDMなどの過激なデジタル・グリッチ音を作ることができます。これはCYCLING '74 Max発祥の地、フランスIRCAMからのサンプル・グラニュラー・モジュールで、ほかのグラニュラー・シンセよりもパラメーターの種類や設定レンジが広く、ともすればスピーカーを壊しかねない過激な音の出るレンジまで設定されています。それと、グラニュラーのみならず、シンセ全体でのモジュレーションがすごい。ステップ・エンベロープなど非常に種類が多い上、ほぼすべてのパラメーター・ノブにモジュレーションをアサインでき、さらにその元のモジュレーターのノブにもモジュレーションをかけられ、複雑な状態を際限なくやりたい放題に作れます。IDMにはうってつけなのです。

▲グラニュラー・エンジンも搭載。サンプル読み出しの位置や速度、方向を変えることで、過激なサウンドを生み出すことが可能だ ▲グラニュラー・エンジンも搭載。サンプル読み出しの位置や速度、方向を変えることで、過激なサウンドを生み出すことが可能だ

 Falconは出音がパキっとしていて、とても良いです。音作りに深く入り込めば誰も聴いたことのない音を作れる上、プリセットで簡単に使いこなすこともできる素晴らしいシンセだと思います。すぐダウンロードして使いましょう。

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*AVID Pro Toolsの詳細は→http://www.avid.com/ja

Nagie

エンジニア/作曲家/プロデューサー。サイモン・ル・ボンが日本で設立したSYNのチーフ・エンジニアなどを経て、フリーランスに。作曲家の蒲池愛とaikamachi+nagieを結成し、オリジナル作品のほかCM、アニメ、映画音楽などを多数手掛ける。ボーカロイド・ライブラリー『IA - ARIA ON THE PLANETES』の開発、藤倉大の作品のエレクトロニクスなどにも携わる。本誌「Engineers' Recommend」ではエッジな新作を数多くセレクト。

2019年7月号サウンド&レコーディング・マガジン2019年7月号より転載