サンレコ読者の皆様こんにちは! ドラマー、トラック・メイカー、シンガー、プロデューサー、ミキシング・エンジニア………など音楽全般の仕事を生業にしながら、WONKというバンドもやっております荒田洸です! 3回目の記事ということで最終回となっております‼ ので、締めにふさわしいものになるよう気合い入れていきましょーう。今回は、WONKで今年リリースした楽曲「Passione」の制作過程で行った処理などについて、ドラム類を中心に解説していきます。
制作をスムーズに進めるためのグループ分け
●全体構成
「Passione」のようにトラック数が多い場合、第1回で紹介したトラックのグループ分けは制作をスムーズに進めるために非常に大切です。この曲の構成要素としては、上から、
- 打ち込みのビートで構成されるBeatsグループ
- 自分がたたいた生ドラムで構成されるDrumsグループ
- スタジオ録音したStringsグループ
- サンプリング素材をまとめたSampleグループ
- スタジオ録音音源、打ち込み音源の管楽器をミックスさせたHornグループ
- 打ち込み音源のシンセ類をまとめたSynthグループ
- スタジオ録音したベースをまとめたBassグループ
- コーラス含め、ボーカル類をまとめたVoxグループ
そして、一番下に途中経過の2ミックスのRoughを配置しています。このRoughトラックはマスター・トラックではなくExt. Outから音を出力しています。これは、別スタジオで出力した2ミックスの音源に対して、自分のマスター・トラックにかけてあるエフェクト類を通したくないからです。
以上がざっくりとした全体構成になっています。この楽曲ファイルは楽曲の制作を進めるにあたって使用したファイルで、ミックスはWONKメンバーの井上幹が別の編集ソフトで行っています。トラックの書き出しと井上への音源の受け渡しについては、ABLETON Liveの制作ファイルの中で音作りをしたもの(エフェクトがかかっている状態のもの)を書き出して井上に音源を共有しています。
今回は主にドラム類について紹介しますが、その前にLive付属のお薦めサウンドを紹介します! その名もズバリ“Brass Ensemble Staccato”(Pack『Orchestral Brass』に収録)と“Strings Ensemble Pizzicato”(Pack『Orchestral Strings』に収録)。「Passione」では生で録ったホーンやストリングスにこれらをレイヤーして迫力を付けています。このシリーズはほかの音源ライブラリーもあるのでお薦めです。
The Rootsに影響を受けた混合トラックの活用
●Beatsグループ
「Passione」の打ち込み系パーカッションの中で特にこだわったのは、シェイカーの使い方です。楽曲全体を通して“shaker”“shaker 02”“Shaker Outro”の3つのトラックがほぼ鳴り続けているような構成になっています。この意図としては、ハイハットと同じ帯域に対する補強と、打ち込みの機械的なループを生ドラムのハイハットと混ぜることでショート・ディレイ的な効果を付けたいというものでした。パンニングに関しては“shaker”をハイハットの反対側へ、そして“shaker 02”は2つのシェイカー音源を左右に振り、交互に聴こえるような設定にしています。“shaker 02”のパンニングはDrum Rack内の詳細設定からサンプルごとに割り振っています。
“Shaker Outro”にはエフェクトを使ってザラついた質感を付加しました。
WONKの制作に関しては、クラップをスネアにレイヤーすることが多くあるのですが、これは自分が影響を多大に受けているThe Rootsの制作方法に起因するところが大きいように思います。「Passione」においても、クラップだけでなくスナップも含め6種類のトラックを混合させています。
キックは2種類のトリガーを使い分け
●Drumsグループ
Drumsグループをまとめたグループ・トラックには、コンプやEQなどを複数かけています。
これらのプラグインはDrumsグループ全体に影響を及ぼします。私の場合、現在のプリセットでこれらのプラグインを自分の音のシグネチャー的な使い方をしているので、個々のトラックを整理する前に音処理を全体にかけてから作業を始めています。
「Passione」では、キックに対して2種類のトリガーを使っていて、楽曲構成においてブリッジ前のフックまでと、ブリッジ以降の前半/後半で2種類の音源を使い分けています。前半では自分がトラップ系の音源制作でよく使うキックのサンプル音源をトリガーし、BOZ DIGITAL LABS Bark of Dogというプラグインで低域を強化しました。
後半のブリッジ以降は、ROLAND TR-808系キックを生ドラムにレイヤーしたサウンドを採用しています。テンポはオートメーションを書いて91〜86BPMへ徐々に下げているのですが、テンポを落としていくとともに、楽曲全体のキャラクターが変わるようストリングスが主体のサウンド感に変化させています。そのキャラクターの変化に追従するように、キックの音を電子的なサウンドに変化させました。
トリガーでレイヤーしたTR-808系キックの音処理に使ったプラグインも紹介します。
WAVES Scheps 73でEQの処理、FABFILTER Saturn 2でザラついた質感を付け、SOUNDTOYS Devil Locでさらにひずみを付与しています。
スネアはStudio Dedeで使ったトリガーを採用
最後にスネアについて。スネアで採用しているトリガーはキックのトリガーとは少し座組みが違っていて、今回の楽曲をレコーディングしたStudio Dedeでプレイバック時にかけていただいたスネアのトリガーをそのまま採用しています。このトリガーはスネア・トップの補強に使っていますが、今回のスネアの音を作るにあたってはボトムの音を中心にスナッピーを強調する仕様にしました。ボトム、スネア全体に対して行っている処理はスクリーン・ショットをご覧ください。
今回はLiveでのWONK「Passione」のドラム類を中心とした制作に焦点を当ててやってきましたが、いかがでしたでしょうか? 3回にわたる連載、最後まで行き着けるか不安でしたが、なんとか完走できました。記事が皆様の役に立っていたら最高です! そして、このような機会をくださったサンレコの皆さま、本当にありがとうございました! といった感じで最終回の連載とさせていただきます。あざました!
荒田洸
【Profile】WONKのリーダー、ドラマー。2018年には初のソロEP『Persona.』をリリースし、所属レーベルEPISTROPHではkiki vivi lily、MELRAWをプロデュース。ヒップホップ・シーンをけん引する唾奇やISSUGI、IOの楽曲をプロデュースし、バンド・マスターとしてツアー参加。STUTSプロデュースの音楽集団“Mirage Collective”でも活動中。WONKでは最新曲「Passione」を6月にリリース。
【Recent work】
『Passione』
WONK
(EPISTROPH)
ABLETON Live
LINE UP
Live 11 Lite(対象製品にシリアル付属)|Live 11 Intro:10,800円|Live 11 Standard:48,800円|Live 11 Suite:80,800円
*オープン・プライス(記載は市場予想価格)
REQUIREMENTS
▪Mac:macOS X 10.13〜13、INTEL Core I5以上またはAPPLE M1プロセッサー
▪Windows:Windows 10 Ver.1909以降、INTEL Core I5以上またはAMDのマルチコア・プロセッサー
▪共通:8GBのRAM、オーソライズに使用するインターネット接続環境