『サウンド&レコーディング・マガジン』のバックナンバーから厳選したインタビューをお届け! 2003年11月号から、ザ・ネプチューンズのチャド・ヒューゴのインタビューをピックアップします。後年、ソロ・アーティストとして大成したファレル・ウィリアムスは、当時チャドとのプロデューサー・チーム=ザ・ネプチューンズとして活躍。ノリエガ、ジェイ・Z、TLC、リュダクリス、ブリトニー・スピアーズなど、多くのアーティストにトラックを提供し、次々と大ヒットを連発します。またシェイ・ヘイリーを加えたN.E.R.D.のメンバーとしても人気で、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いでした。この2020年になり再始動の片鱗を見せ、再びプロデューサー・チームとしてシーンに大きなインパクトを与えることになりそうです。
— Goat lord (@deadmau5) May 18, 2020
全米No.1プロデュース・チームの奇想天外なトラックはこうして作られる!
“今、最も斬新なビートを作るのは?”“一番ヒットしているプロデューサーはだれ?”……このような質問に対する答えを集計したとする。そのとき最も得票数が多いと思われるのが、ファレル・ウィリアムとチャド・ヒューゴからなるプロデューサー・チーム、ザ・ネプチューンズである。そんな彼らの斬新なフレージング/秀逸な音色選びは1990年代後半からシーンを席巻してきたが、自身の名を掲げた初のアルバムであり、彼らが設立したレーベル“スター・トラック”のショウケースでもある『Clones』がついにリリースされた。今作でフィーチャーされた多彩なゲストからも分かるように、ヒップホップやR&Bを中心としつつもロックやポップスまでを手掛けてきた彼らだが、これまでその制作術に関してはあまり多く語られることはなかった。そこで今回、アルバム・プロモーションのため実現したチャドの来日というタイミングで、日本の“ネプチューンズ研究”の第一人者であるエンジニア/トラック・メイカーのD.O.I.氏を招いてのインタビューを決行した。
Interpretation : Hashim Bharoocha Photo : Takashi Yashima
高校のマーチング・バンドでは
ファレルはスネア・ドラム担当で僕は指揮者だった
D.O.I. まずはプロデュースを手掛けるようになったきっかけから聞かせてください。
チャド もともと僕らは1つのバンドとしてテディ(ライリー)のレーベルと契約していたんだ。僕とファレル(ウィリアム)以外にもシェイやシンガーなどがいてね。ただ、最初はスタジオにいてテディの仕事を眺めていただけだった。僕たちの作品をリリースができるようになるまで、ほかのプロジェクトに参加したりして、とにかく楽曲の制作を始めていたんだ。でも、テディがプロジェクトによってほかのプロデューサーを探すことがあって、“何か曲ある?”と聞いてきた。そこで僕とファレルは曲を作るようになった。とにかく音楽を作りたかったから、忙しくするために曲を提供するようになって、プロデューサーとしてのザ・ネプチューンズが生まれたんだ。
D.O.I. プロデューサーをやるようになったのは、必要に迫られてだと?
チャド そう。あとはクリエイティブであり続けるためにプロデュースをやり始めたんだよ。
D.O.I. テディ・ライリーのレーベルと契約したのはいくつくらいのとき?
チャド 17歳か18歳だったね。高校出てすぐだよ。ちなみにファレルとは中学校からの友人だ。
D.O.I. 当時はどういった音楽活動を?
チャド 基本的に高校のバンドで演奏してたよ。ファレルはドラマーで、僕はサックスを吹いていた。そのうち僕の家でテープ・デッキを2台使ってレコーディングの実験もするようになった。小さいCASIOのサンプラーと家の近くの楽器屋から盗んだ安いリズム・マシンを使ってね(笑)。でも言っておきたいんだけど、成功してからそのリズム・マシンは返しに行ったよ(笑)。友達でギャングに入っている連中などがいて、僕も反抗するために何か盗もうと思って手に入れたけど、それを使って当時から家でレコーディングしていた。ファレルは当時から曲を書いていたから、僕の家に来て一緒にレコーディングするようになったんだ。
当時、学校にマーチング・バンドがあって、みんなで制服を着て演奏していた……例えばバスドラを5つ並べて、たたきながらマーチングするんだ。僕らは高校のときにそのマーチング・バンドに入っていて、結構ハマっていてね。ファレルはスネア・ドラム担当で、僕は指揮者だった。みんなでルーティーンを作って、スネアを8つくらい使ってたたいたり、スティックを投げるパフォーマンスなどもしていた。休み時間のときは、だれかがドラムをたたいて、ほかの奴がラップをしたりね(笑)。
音楽を通してコミュニケートしようとしているから
僕らが作る曲がチャートに入る
D.O.I. トラック制作であなたとファレルには明確な役割分担はあるんですか?
チャド 明確にはないけど、ファレルはドラマー出身だから、自然とドラム・パターンを作ることが多い。僕はたまにメロディを書くけど、歌詞を書かない。僕の役割はワンマン・バンドみたいなものだよ。例えばファレルがビートを作ったら、僕はそれを演奏し直したり、生演奏を加えたりする。ファレルはビートやリリックを作るけど、僕はそこにいろんな楽器の音を加えたり、ミックスしたり、曲全体を組み立てることが多いね。
D.O.I. 初期のころからそうだったんですか?
チャド 大体そうだね。80%はそうやって曲作りしているけど、曲にとって一番いい方法を採用している。時々は役割が変わることもあって、僕がコードやビートを作ることもあるよ。僕も以前は1人で曲作りしていたからね。ファレルと組むようになったときに彼はビート作りもやっていたし、リリックや曲も書いていた。それでコラボレーションをするようになったんだ。
D.O.I. あなたがすべてプログラミングをしているわけではないんですね。
チャド いつも僕がやっているわけじゃない。ファレルもビートの打ち込みを結構やっているよ。彼が基本的な部分をプログラミングして、僕がそこにいろんな音を重ねたり、サンプリングしたり……もちろんビートのプログラミングを僕がやることもあるけどね。
D.O.I. ザ・ネプチューンズの存在を一躍有名にしたのは1998年にリリースされたノリエガの「SUPER THUG」だと思うのですが、こういった斬新なビート・メイキングはどのようにして確立していったのでしょう?
チャド 僕らは新しいヒップホップ・ロック・サウンドを生み出そうとしていた。当時はまだギターの演奏ができなかったから、クラビコードのサウンドを代わりに使ってね。僕らにとってクラビコードがエッジの効いたギター・サウンドだったわけさ。
D.O.I. その後、ジェイ・Zの「アイ・ジャスト・ウォナ・ラヴ・U」やリュダクリスの「サザン・ホスピタリティ」などによってトップ・プロデューサーと呼ばれるようになったわけですが、あなた自身が注目しているプロデューサーはいますか?
チャド DJプレミアやマーリー・マールはずっとリスペクトしているし、ジェイ・ディーもドープだ。ティンバランドやドクター・ドレーも尊敬している。最近の人だとカニエ・ウェストやジャスト・ブレイズ、ジャジー・フェイはいいね。アルケミストもいいと思うよ。僕らのインスピレーションはあらゆる音楽からきているんだ。
D.O.I. どういった点に大ヒットを連発している要因があると思いますか?
チャド 分からないけど、ひょっとしたら僕らがほかの音楽にもオープンだからかもしれない。それに曲のシンプルさも重要だと思う。僕らは一緒に仕事するアーティストのファンだし、純粋に音楽ファンだから、リスナーの気持ちが分かるんだ。だから、僕らがつまらない曲を作っていたら知らせてほしい(笑)。どんどん上達して、大勢のリスナーの心を動かしたいし、音楽を通してコミュニケートしようとしているから、僕らが作る曲がチャートに入るんじゃないかな。
多様性のある曲の入った『Clones』のプロデュースは
DJ的なアプローチで取り組んだ
D.O.I. 昨年は特にあなた方にとってエポックメイキングとなる数々のヒット曲に恵まれましたが、スター・トラック・レーベルをスタートすることになったきっかけは?
チャド 自分たちですべての決断ができるようにクリエイティブ・コントロールが欲しかったんだ。これまではほかのレコード・レーベルのために曲を作ってきたけど、レーベルというのは自分たちが欲しているものを僕らに要求してくる。僕らは独自の基準に基づいてレコードを出していきたいし、境界線を自分たちで設定したい。それに、ただのヒップホップ・レーベルでなく、もっと普遍的なことがやりたいからね。新しくてクリエイティブなアーティストのホームとなり得るレーベルを作り上げたいと思っているよ。
D.O.I. ケリスやクリプスからスーパー・キャットやスパイモブまでがスター・トラックの所属となるわけですが、アーティストの選定基準は?
チャド 何か新しいことを表現しようとしていることだ。みんながまだ聴いてないけど、聴くべきアーティストを出していきたい。音楽というのは1つの決まったサウンドでなくていい。昔はいろんな音楽があったし、各時代には特徴的なサウンドがある。若い世代にさまざまな音楽があることを知ってもらいたいし、それを実現するには模範となって異なったサウンドを持ったいろんなグループにデビューするチャンスを与えないとね。もちろんヒップホップも1つの決まったサウンド/アティチュードでなくてもいい。独特のサウンドを持っていて、何かを伝えようとしているアーティストを出していきたいんだ。
D.O.I. 今回スター・トラックのショウケース的な『Clones』をリリースしたわけですが、このアルバムの制作期間は?
チャド 3カ月くらいかな。まずはビートを作って、それからアーティストを探したんだ。
D.O.I. 制作を始めるに当たって考えていたアルバムのイメージは?
チャド 実は、ほとんど何も計画せずに作ったんだ(笑)。僕らが制作するときの大半は衝動的に作っているだけだ。多様性のある曲の入ったアルバムを作って、みんなにレーベルを立ち上げたことを知らせたかったから、プロデュースはある種DJ的なアプローチで取り組んだ。DJというのは、そのときのはずみとオーディエンスの反応によってレコードをプレイしているだろ? レコードに針を落として、次々とレコードを回してくわけさ。言ってみれば、ザ・ネプチューンズもそうやって活動してきたんだ。そのときの衝動で即興的に作っていく……“レコードを作らなきゃ”ということになったら、ビートを作って起用したいアーティストに電話をしてレコーディングだ。そして、完成したらすぐにリリースする。それがザ・ネプチューンズのやり方さ。
最近はTritonを使うことが多くて
ベース音などではMicroKorgも何度か使った
D.O.I. 今作も含め、あなた方の作るトラックはとても独特で斬新ですが、発想の源は?
チャド 日常生活から出てくるんだよ。面白い音をどこかで聴いたり、レコードからいい音を見つけたり、道を歩きながら面白い音を聴いてインスピレーションを受けることもある。でも、最も重要なのは、スタジオに入って“今から曲を作るぞ”という姿勢を持つこと。取りあえず使いたい音を見つけなければいけないけど、それは以前レコーディングした音やサンプリング音、もしくはプリセット音かもしれない。そこからリズムと音色の面白いコンビネーションを見つけていく。あまり深く考えないで、メトロノームを走らせて、とにかくレコーディングを始めるんだよ。演奏していくうちにいろんな面白いフレーズを発見していくんだ。さまざまな音楽スタイルに対してオープンでいれば、ヒップホップ・ビーツを作るときにいろんなことを試すことができる。
D.O.I. トラックにはシンセ音が数多く使われていますが、どういったモデルをお使いですか?
チャド さっき話に出たノリエガの「SUPER THUG」を制作していた当時も今も基本としては同じ機材を使っていて、シーケンサーはKORG 01/Wで、ドラム音にはENSONIQ ASR-10だ。そのほかにもROLAND JV-1080、JV-2080とか、いろんな音源を使っている。最近はKORG Tritonを使うことが多くて、KORG MicroKorgも何度か使った。MicroKorgはすごくシンプルだ。声を通すこともできるし、かっこいいベース音も入っているしね。今作に入っているクリプスとの「Blaze Of Glory」ではベースと高音の音色にも使っている。今はアナログ・シンセもたくさん持っていて、時々使うよ。
D.O.I. それは『Clones』の付属DVD(輸入盤のみ)に写っていたモジュラー・シンセのこと?
チャド 実はまだそのDVDを見ていないんだけど、多分それだよ。でも、そういう機材を持っていないといい音楽が作れないとは思わないでほしい。最近では、やろうと思えばラップトップ・コンピューターでもすべて制作できるからね。
D.O.I. DVDにはMOOG Minimoog Voyagerも写ってましたね。
チャド これまでに何度か使ったし、今作に入っているスヌープ・ドッグとの「It Blows My Mind」のアウトロのメロディで使っている。
D.O.I. 今作もシーケンスは01/Wで?
チャド シーケンスは全部01/Wだね。Tritonは音源しか使わないんだ。01/Wはものすごくシンプルな16トラックのシーケンサーでレコードとスタート・ボタンくらいしかないし、僕らが使い慣れていて、熟知したものだからね。実はファレルが新しい機材の使い方を覚える時間がないから使っているだけなんだけど(笑)。僕はTritonでシーケンスを組むこともあるけど、ザ・ネプチューンズとしての仕事はすべて01/Wでシーケンスを組んで、シンプルにしていている。
D.O.I. 01/Wの音色も使うことは?
チャド たまにね。チープな音色が面白いんだ。01/Wのプリセットを調整して使った音も幾つもある。例えばリュダクリスの「サザン・ホスピタリティ」で使われている“ウィーン”と鳴っている音は01/Wをいじって演奏したものだね。
ドラム音はTritonのプリセットでファレルがビートを打ち込み
僕がそれに音を加えている
D.O.I. 今作の収録曲で使った機材を教えてください。まず、バスタ・ライムスとの「Light Your A** On Fire」は非常に独特なエフェクトがかかっていますが、あのアイディアは?
チャド あれはTritonのプリセットをプレイしているだけだよ(笑)。
D.O.I. (笑)そんな音色入ってました? ディレイなどをかけているわけではない?
チャド そう。ちなみにアルバム・バージョンには、サブリミナルな音がいろいろ入っているし、ボーカルにピッチ・シフトもかけた。あとクラブのエクステンデッド・ミックスにはMicroKorgのボコーダーを使っている。“Shake Your Ass”と歌っている部分にかけているよ。
D.O.I. この曲のイントロはアナログ・シンセっぽくていい音ですね。
チャド あれは確かROLAND Juno-106だね。
D.O.I. ロスコー・P・コールドチェインとの「Hot」はオールド・スクールの影響をいろいろと感じますが、そういった古いヒップホップは今も聴いていたりしますか?
チャド そうだね、オールド・スクール・ヒップホップにはすごく影響を受けているよ。僕らはそれを聴いて育ったわけだから。オールド・スクールのころはすごくシンプルだったし、ラッパーの言葉は全部聴き取れた。当時のヒップホップの方がいろんなタイプのビートがあったし、すごく自由だったと思う。今はヒップホップには決まったサウンドがあって、決まった服装を着ないといけないとみんなが思っている。
D.O.I. ちなみに、あなたにとってのヒップホップ・クラシックは?
チャド エリックB.&ラキムの「エリックB.・イズ・プレジデント」やAudio Twoの「Milk」などだね。オールド・スクールのころのラップはビートをなぞるスタイルが多かったから、僕らもそういった要素を取り入れている。
D.O.I. 今作以外ではクリプスの「グラインディン」が、僕がこれまでに聴いた中で最高のヒップホップ・トラックの1つだと思うのですが、フックで出てくるスペーシーなパーカッション風の音は何を使ったんですか?
チャド あの音は01/Wのプリセットにゲート・リバーブをかけたものだね。僕は多くの場合、エフェクトを加えることでプリセット音を変化させている。ちなみにドラム音はTritonのプリセットで(笑)、ファレルがビートを打ち込んでいる。それに僕がフックのあの音やハイハットを加えていったんだ。
D.O.I. リズムを打ち込むときにクオンタイズはかけているんですか?
チャド 場合によるけど、通常はキックとスネアをクオンタイズさせて、ハイハットはそうでないことが多い。だから、実際にだれかがドラムをたたいているように錯覚させるんだ。
D.O.I. どういったパートから手を付けていくことが多いのでしょう?
チャド 例えば今作に入っているジェイ・Zとの「Frontin'」では、ファレルはこれしか作っていなかった(コード進行を歌い始める)。僕はそこで音色を変えたり、中間のブリッジ(ベース・ラインを歌う)を加えて、それでファレルがボーカル録りをした。大抵そういう作業の後に、僕はいろんな音を削っていく。ファレルのボーカルを際立たせるために、トラックをミュートさせたりね。
もしくはスヌープ・ドッグとの「It Blows My Mind」ではメインのメロディを僕が作って、それに対してファレルは“単調にならないようにブレイクダウンが必要だ”と言ったから、僕はTritonのシーケンサーを使いながらブラス・セクションを演奏してホーンを加えていった。スヌープのボーカル録りの後に、僕はサウンド・エフェクトをいろいろ加えて、ケリスがコーラスを歌った。トラックの中で聴こえる吐息みたいな音は実際に僕の吐息なんだけど、それにフランジャーをかけて、パンニングしている。ミックスするときにミュートも何カ所かでやったね。マリファナについての曲だったから、最後にあのヘンなメロディを入れたんだ(笑)。ディレイを多用したり、ミックス・トリックをいろいろ利用したわけさ。僕の場合、トラック制作の作業段階によって幾つかのスイッチが自分の中にあって、それを場面によって切り替えているんだ。ザ・ネプチューンズのプロダクションでは、ファレルが思いついたトラックに僕が演奏したビートや音を加えてたりした後は、ミキシング・エンジニアのスイッチに切り替えてビートの音質をいじるんだ。最も重要なのは、ドラムの音を太くして、体で感じれるようにすること。そして最後のステージではDJのスイッチを入れて(笑)、ドープなリリックのところでトラックをミュートさせるんだよ。
サンプリングのネタはインスピレーションのためで
実際のサンプルは使わない
D.O.I. ドラム音で使用しているASR-10は僕も好きな機材なのですが、どういったところを気に入っているんですか?
チャド ネタをチョップするのがすごく簡単だし、耳で確かめながらチョップできるから、グラフを見ながらいちいちズームしなくてもいいんだ。AKAI PROFESSIONAL MPCシリーズだとスクロールしながら0ポイントを見つけなければいけないからね。僕の制作メソッドではASR-10での方がやりやすいんだ。
D.O.I. ASR-10の方が直感的だと?
チャド そうなんだ。音をサンプリングして、あるキーで演奏したいときはすぐに割り振れる。ほかの機材はやたらとボタンが多くて、ズーム・インしたり、ダイアルを使わないといけない。“こういうビートを作ろう”と考えてネタの割り振りが終わったころには曲のアイディアを忘れてしまうよ(笑)。新しい機材の多くはあまりにも複雑でクリエイトする時間が無くなってしまうけど、そういう意味でASR-10は優秀な機材だよ。プリセット音もたまに使うけど、最近はTritonのドラム音をASR-10に取り込むことが多いね。
D.O.I. DJプレミアやピート・ロックのように古いソウルなどのレコードからサンプリングしてトラックを作ることに関してはどう思いますか?
チャド 僕らもサンプルはインスピレーションを得るために使っている。ファレルが古いレコードをサンプリングして、それからアイディアを得ることもある。ファレルがチョップしたループを聴きながら、僕がそれを真似てキーボードで演奏し直すんだ。例えば、こういうメロディのループだったら(レコードのソウルっぽいループを歌う)、それをキーボードでハーモニーを変えたり、キーを変えながら演奏し直すんだ。リズムも変えたりするから曲が出来上がるころには、元ネタが分からないようなものになっているよ。だから、サンプリングのネタはインスピレーションのためで、実際のサンプルは使わないんだ。
D.O.I. それはクリアランス問題を避けるため? もしくはクリエイティブな理由で?
チャド 両方かな(笑)。クリアランスしなくても済むのはもちろん助かるし、古い音楽というのは、そもそもインスピレーションを与えるためにある。だから、そこからインスピレーションを受けるのは悪くないことだ。それに、僕らは演奏したいフレーズは演奏できるからね。
D.O.I. キーボードやギターを弾いている映像を見たことがありますが、ほかに演奏する楽器は?
チャド 子供のころから僕はクラシック・ピアノを弾いて、その後でサックスを吹くようになった。そこからジャズにハマったんだ。あと、さっきも言ったように高校生のときにマーチング・バンドの指揮者だった。
リズム系のサウンドにはあまりエフェクトを使わない
使うとしたらChannelStripくらいだ
D.O.I. 『Clones』のDVDで映っていたのはあなた方のプライベート・スタジオですか?
チャド そう。部屋は3つあって、すべて中核となるDIGIDESIGN Pro Tools|24 Mix Plusシステムにつながっている。1曲作り始めて、それを上の部屋に持っていって作業もできるわけさ。
D.O.I. コンソールは無いのでしょうか?
チャド 今は無いね。下の部屋に古いAMEKがあるだけだよ。そこには長く居ないかもしれないから、ちゃんとしたスタジオにはしていないんだ。
D.O.I. レコーダーはPro Toolsのみ?
チャド そうだね。エフェクトに関しても大抵Pro Toolsのプラグインを使っている。あと、ボーカルにはAVALON DESIGNのマイクプリを使っていて、マイクはAKG C12だ。
D.O.I. ミックス時の作業の流れは?
チャド 実は音をすべて加える前にミックスしてしまうんだ。だから、僕らのトラックはシンプルなんだよ。既にある音を取りあえずミックスしておき、最後に必要のないパーツを削る。そこでまた必要な音を加えていくんだよ。
D.O.I. エンジニアリングはどの程度手掛けているのでしょうか?
チャド エンジニアと一緒に作業している。エンジニアに少し自由に作業させてあげて、それを聴いた後に僕が調整するんだ。コンプレッションとボーカルのEQは任せて、その後に音量レベルを調整したり、リバーブを加えていく。
D.O.I. ミックスでよく使用する機材は?
チャド 大きなスタジオで仕事するときはAUSBURGERのモニターが好きだね。でも、僕らのスタジオではMACKIE.をモニターに使っているだけだ。プラグインに関してはMETRIC HALO ChannelStrip、LINE 6 Amp Farm、DIGIDESIGN Lo-Fiなどをよく使うね。
D.O.I. リズム系に特に多用するものは?
チャド あまり使わないんだ。使うとしたらChannel Stripくらいだな。
D.O.I. あと、マスタリングはスターリング・スタジオのクリス・アセンスが手掛けていますが、彼にオファーした理由は?
チャド 以前に僕らがプロデュースしたクリプスの『ロード・ウィリン』も手掛けてもらったことがあって、それが良かったから今回も一緒に仕事してみたんだ。
D.O.I. 最後に。あなた方が制作するトラックに刺激を受けているクリエイターに向けてのメッセージはありますか?
チャド 音楽のルーツを理解してほしいね。ルーツを理解すれば、これからどこに進むかが分かるんだ。それに音楽への愛情をもって制作してほしいね。僕らもこんなに有名になるとは思わなかったけど、音楽が大好きだからやってこれたんだ。金儲けのためじゃなくて、みんなが踊りたくなるような音楽を作りたい。それが一番大事なんだよ。リスナーを感動させたいのなら、過去にどのような音楽がリスナーを感動させたかをリサーチするべきだ。それを勉強することで、未来のために新しい音楽を作れるようになるんだ。
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