“2000年代の洋楽”を意識したトラック・メイク〜KNOTTが語るNovel Core「独創ファンタジスタ」

“2000年代の洋楽”を意識したトラック・メイク〜KNOTTが語るNovel Core「No Pressure」

Novel Core『No Pressure』のリード曲「独創ファンタジスタ」は、ブラスとひずんだギターが耳に残るパーティー・チューンに仕上がっている。プロデュースを手掛けたのは、Da.I(写真手前)とMaluMelo(同奥)から成る姫路拠点の音楽ユニットKNOTT。彼らはどのような手順で楽曲を制作したのだろうか?

Text:Yuki Komukai Photo:Yoshikazu Inoue

“Novel Coreのライブと言えばこれ!”という曲を作る

プロデュースのきっかけを教えてください。

Da.I Core君(Novel Core)と同じBMSGに所属するAile The Shota君の「IMA」を手掛けていたんです。おそらくCore君も僕らのことをチェックしてくれていたんだと思います。

どんなテーマをもとに制作を始めたのでしょうか?

Da.I Core君から“Novel Coreのライブと言えばこれ!”っていう曲を作りたいという話がありました。リファレンス楽曲ももらっていて、クラップなどを参考にしています。またKNOTTの中では“2000年代洋楽回帰”というのをもう一つのテーマにしていて、今聴くとむしろ新鮮なんじゃないかというのを狙って作りました。

お二人の役割分担は?

Da.I 最初のデモは妻のMaluMeloが作っています。僕は全体の音色や構成を決めたり、ドラムを少し打ち直したり、レコーディングやミックスなど、エンジニア的な部分を担うことが多いです。

DAWは同じものをお使いですか?

MaluMelo そうですね。元々STEINBERG Cubaseを使っていたのですが、5年ほど前にNuendoに変えました。

Da.I Cubaseとの違いを知りたくて導入してみたんです。映像を合わせることもできるので、CM音楽などを作るときはその機能も使っていますね。

「独創ファンタジスタ」のトラックは、STEINBERG Nuendoを使い、123trで構成されている。画面はそのプロジェクトの一部分だが、キックやスネア、クラップ、ハイハットなどが複数レイヤーされており、音作りへのこだわりを感じることができる

「独創ファンタジスタ」のトラックは、STEINBERG Nuendoを使い、123trで構成されている。画面はそのプロジェクトの一部分だが、キックやスネア、クラップ、ハイハットなどが複数レイヤーされており、音作りへのこだわりを感じることができる

「独創ファンタジスタ」の制作拠点となった、KNOTTが運営するHLGB STUDIO。ARTURIA MatrixbruteやSTUDIOLOGIC Sledge 2.0など、大量のシンセサイザーが置かれている。モニター・スピーカーはPRESONUS Sceptre S8、Temblor T10、YAMAHA MSP7 Studio、AVANTONE MixCubesを使用

「独創ファンタジスタ」の制作拠点となった、KNOTTが運営するHLGB STUDIO。ARTURIA MatrixbruteやSTUDIOLOGIC Sledge 2.0など、大量のシンセサイザーが置かれている。モニター・スピーカーはPRESONUS Sceptre S8、Temblor T10、YAMAHA MSP7 Studio、AVANTONE MixCubesを使用

ギターはあえて安っぽい音にしようと決めていた

「独創ファンタジスタ」はサビのベース、ブラス、ボーカルの掛け合いが印象的です。

Da.I ブラスはCore君からの提案です。ブラスをがっつり入れてしまうと歌を入れにくいかな……と思っていたのですが、Core君が見事にはめてくれましたね。

ベースの音がものすごく太いですね。

Da.I  イントロなどの音数が少ない部分は、OUTPUT Arcadeのアコースティック・ベース音源を使っていて、サビはOUTPUTのソフト音源substanceとIK MULTIMEDIA Modo Bassを重ねています。こだわったのは、ROLAND TR-808スタイルのサブキックでリズムを補強し、その上をベースに動き回ってもらう構成にしたことです。サブキックは動かしすぎるとリズムの乗り方が変わってしまうので、常に一定のリズムを刻むようにしています。特にフェスなどの大きいスピーカーで聴いたときに一番下が動きすぎると、初めて聴く人は乗れないと思うんです。

リズムに関しては、耳を澄ますとうっすらカチカチとした音が鳴っているのが独特だと思いました。

MaluMelo ハイハットなどの生っぽい感じはXLN AUDIO Addictive Drumsで、ほかの打ち込みっぽい音はNATIVE INSTRUMENTS Maschineで作りました。

Da.I この曲に限らず、シェイカーなどをほぼノイズにしか聴こえないくらいの感じでうっすら入れてグルーブを出すことはよくあります。この曲は2000年代の洋楽を意識していたので、サビにオケヒットやカウベルを入れているんです。一瞬“あれっ”と思わせる引っかかりを作れたと思います。

ほかにリズム隊でこだわった部分はありますか?

Da.I スネアは4つほど音をレイヤーしています。胴鳴りが太いものにローミッドを任せて、上にローカットした乾いた音色のものを重ねました。クラップも同じく4つくらい音色をレイヤーしています。アタックが速いものと遅いものを同時に流すと、アタックが遅いものが後ろに流れて奥行きを演出してくれるんです。そうやって似た音色を2つ、また違う音色を2つの計4つ混ぜて音を作りました。

似た音色を2つずつ重ねるのですね。

Da.I コンプレッサーで処理をしてしまうと一個の音だけが強くなってしまう。似た音色を重ねた方が、複数人でたたいているような感じになって厚みが出るんです。

ギターはかなりひずんでいます。

Da.I ギター・リフは打ち込み感丸出しの安っぽい音にしようと決めていました。2000年代の洋楽は打ち込みの音色や奏法のリアルさが今に比べると劣っていたのですが、それがむしろ新しく聴こえると思ったんです。

ギターは、より打ち込み感を出すためにAIR Xpand!2(右)の音をXLN AUDIO RC-20 Retro Color(左)で少し汚し、最後にノイズ・ゲートをかけてサスティンをタイトにしたという

ギターは、より打ち込み感を出すためにAIR Xpand!2(右)の音をXLN AUDIO RC-20 Retro Color(左)で少し汚し、最後にノイズ・ゲートをかけてサスティンをタイトにしたという

ギターのフレーズやコード進行はMaluMeloさんがデモの段階で作っているのでしょうか?

MaluMelo そうですね。ライブで盛り上がる乗りの良さを求めるとあまりコードを動かせないので、リファレンス楽曲と同じにならないようにするのが難しかったです。Core君の歌いやすいコードになるように考えながら作りました。

Da.I 最初はBメロのギターがメインのリフだったのですが、複雑すぎてパッと聴いたときに乗れなかったんです。なので曲の頭はもっとシンプルなリズムに変更しました。

ライブで拡声器を使うことを想像した

ブースで拡声器を使ってレコーディングしたという話をNovel Coreさんからお聞きしました。

Da.I ライブのときに実際に拡声器を使っても面白いと思ったんです。拡声器を通した音のみだと弱かったので、普通に録音したものと混ぜて使っています。最初はハウリングするのかなと思っていたのですが、案外うまくいきました。

MaluMelo 拡声器の音を混ぜているのは“Know it, know it~”の部分ですね。ここはリズムの打ち方も変えているんです。ライブで一回落として、その後また盛り上げるというように、会場の盛り上がりをイメージして作りました。

昨今は、拡声器のようなハードウェアの音質をシミュレートしたプラグインもありますが、やはり実物を使うと音が違うものなのでしょうか?

Da.I 息づかいやブレスがちゃんと拡声器の音になるんですよ。プラグインを後からかけるのとは違うと思います。マイクとの距離で音が変わる感じもすごく良かったです。

サウンドハウスで590円ほどで購入したという拡声器。録音する際は音量を絞り、マイクから距離を取って録音したそうだ

サウンドハウスで590円ほどで購入したという拡声器。録音する際は音量を絞り、マイクから距離を取って録音したそうだ

マイクは何を使いましたか?

Da.I  JZ MICROPHONESのVintage 47を使いました。ウォームな音で、声のおいしい部分を的確に収めてくれます。

拡声器を使っているパート以外もボーカルをかなりひずませているのはどういう意図があったのでしょう?

MaluMelo これだけはCore君が送ってくれたリファレンス楽曲の通りかもしれないですね。

Da.I ひずませた方がなじみが良かったのもあります。PLUGIN ALLIANCEのElysia Karacterを使いました。素直にひずんでくれて、変な味付けが無いんです。高域や低域のドライブ感をそれぞれ選択できますし、使い勝手も良くて気に入っています。声がセクシーなところはひずませすぎるともったいないので、要所要所で調整しました。

Novel Coreのボーカルを録音したJZ MICROPHONESのVintage 47

Novel Coreのボーカルを録音したJZ MICROPHONESのVintage 47

Da.Iさんはミックスも手掛けられています。オケのパンチもあるのに、ボーカルがはっきり聴こえるなと思いました。

Da.I ボーカルはアタックをつぶさないようにコンプレッサーで処理しています。ひずませているのでアタックが消えてしまうと、音が奥に行ってしまうんです。アタック感は楽曲全体でも意識していて、2ミックスにSHINYA'S STUDIO 1U 4000 BusCompをかけたあと、ELYSIA Nvelope 500を通してちょっとだけアタック感を戻すようにしています。

API Lunchboxに入ったモジュール。左からELYSIA Xpressor 500、Xfilter 500、Nvelope 500。Nvelope 500は楽曲のアタック感を付加するために使用

API Lunchboxに入ったモジュール。左からELYSIA Xpressor 500、Xfilter 500、Nvelope 500。Nvelope 500は楽曲のアタック感を付加するために使用

曲全体にアナログ感のあるノイズが乗っていますね。

Da.I 最後にORBAN/PARASOUND Model 622B Parametric Equalizerを通して曲を書き出しているんです。SN比はあまり良くないのですが、質感やなじみが良くなるので使っています。使った音色も必要の無いノイズが乗っているものが多かったので、これも理由の一つかもしれません。

最後に2ミックスを通したORBAN/PARASOUND Model 622B Parametric Equalizer。「使っている人をあまり見かけないが、音のなじみと質感が良くなります」とDa.I

最後に2ミックスを通したORBAN/PARASOUND Model 622B Parametric Equalizer。「使っている人をあまり見かけないが、音のなじみと質感が良くなります」とDa.I

必要の無いノイズをあえて残したのはなぜですか?

Da.I やっぱり奥行きが出るからですかね。例えばスネアのサステインの一番後ろにちょっとだけ入っているノイズが音圧を上げていくと前に出てきて、ゴースト・ノートのようになりグルーブが生まれることもあるんです。

 

KNOTT

KNOTT
【Profile】兵庫県姫路市を拠点に活動する、Da.I(写真手前)とMaluMelo(同奥)による音楽ユニット。楽曲制作からレコーディング、ミックスやマスタリングまでを手掛けるほか、HLGB STUDIOを運営。Novel Core以外にもBMSG所属アーティスト、Aile The Shotaの「IMA」をプロデュースしている。

Release

Musician:Novel Core(vo)
Producer:Novel Core、Ryosuke “Dr.R” Sakai、MATZ、KM、Yosi、KNOTT、UTA、Aile The Shota、Matt Cab、Yuya Kumagai
Engineer:Ryosuke “Dr.R” Sakai、HIRORON、MATZ、D.O.I.、SHIMI from BUZZER BEATS、Da.I (KNOTT)
Studio:STUDIO726 TOKYO、magical completer、HLGB、他

関連記事