皆さん、こんにちは。南アフリカ発祥のダンス・ミュージック、アマピアノを制作しているプロデューサー/DJのaudiot909です。この連載では、IMAGE-LINE FL Studioを使ったアマピアノの制作についてお伝えしています。いよいよ私の連載は今回で最後。これまでの話から、アマピアノの制作には“FL Studioがいかに欠かせないものであるか”ということがお分かりいただけたかと思います。
最終回ではアマピアノの名曲を幾つかピックアップし、その曲で使われていると“考えられるであろう”FL Studio付属音源とそのプリセットを紹介します。後半では私がFL Studioで気に入っているところや、アマピアノの制作をレベル・アップさせるためのTipsを紹介して、この連載を締めくくりたいと思います!
ピアノロールに別チャンネルのMIDIノートも表示 リズムやコードの作成/編集に便利な機能
まず挙げるのはアンクル・ワッフルズとトニー・ドゥアルドが共同制作した楽曲「Tanzania(feat. Sino Msolo & BoiBizza)」。アンクル・ワッフルズのアルバム『RED DRAGON』に収録されています。
アンクル・ワッフルズは、ドレイクからもラブ・コールを受ける南アフリカの女性DJ/プロデューサー。今年はコーチェラ・フェスティバルにも出演し、世界中から注目を集めました。「Tanzania」はアンクル・ワッフルズの大ヒット曲で、同フェスティバルでもDJプレイされています。パワフルさと優美さを兼ねそなえた“2022年のアマピアノ”を代表する楽曲の一つ。細かいログ・ドラムのラインが印象的です。
51秒付近から怪しげなシンセ・メロディが入ってきますが、アマピアノではこういった単音のメロディで陶酔感を演出したり、グルーブを引き出したりすることがよくあります。このシンセの音源を完全に特定することはできませんが、FLStudio付属ソフト・シンセGMSのプリセット“Digichord”で再現してみましょう。
より原曲の音色に近づくようにFILTERセクションのCUTOFFを0.85%から0.48%へ、ENVELOPEセクションのDECを0.45%から0.33%へ、そして画面中央にあるSUSTAINノブを1.00%から0.70%へ微調整してみました。フィルター・カットオフ値を下げたことで高域が削れるため、柔らかい音色になったかと思います。
ちなみに0:43〜から入ってくるシンセのバッキングについては、GMSのプリセット“Classic Detune TE”、もしくは“Supersaw TE”が近いサウンド。試しに後者でこのバッキング・フレーズを弾いてみましょう。同じフレーズを1オクターブ上で重ねて演奏してあげることで、より類似したサウンドを再現することができました。
次に挙げるのはDBN Gogo、Musa Keys&Dinho「Possible」。DBN Gogoというアマピアノ・アーティストが一躍有名になった楽曲です。
1分25秒辺りから不気味なリフを奏でるシンセ・ベースが登場しますが、この音はFL Studio付属シンセ、Harmlessのプリセット“Liquid 2 State GOL”でそのまま再現することが可能です。
私のお気に入りプリセットも一つご紹介。曲にもよりますが、私が作るアマピアノではGMSのプリセット“Chiptune ArpLS”を多用しています。バッキングに便利なので一推しです。今回もデモを用意したので、SoundCloudで聴いてみてください。
私がFL Studioにおいて気に入っているポイントは、まだ他にもあります。その中の一つとしてChannel rack内にあるピアノロールにMIDIノートを打ち込む際、同じPattern内にある別チャンネルのMIDIノートが灰色で表示されるという機能がデフォルトで搭載されています。
つまり、他のチャンネルで打ち込んだMIDIのフレーズを参照しながら打ち込みができるということ。これは、ハーモニーを考えたり、ドラムなどのリズムを打ち込んだりする際に有用です。デモでは2種類のログ・ドラムを使用していますが、その打ち込み時も非常に役立ちました。FL Studioが“いかにユーザーのことを考えて”作られているのかを実感できます。
FL Studioのプロジェクトをダウンロードして楽曲制作のテクニックを学ぶ
近年、アマピアノにはさまざまなサブジャンルが多数存在しています。例えば南アフリカのローカル・ダンス・ミュージックの一つ、バカルディ・ハウスのグルーブを取り入れたスギジャ(Sgija)。そして重低音志向のアマピアノ=クォンタム・サウンド(Quantum Sound)。
さらにはJay Music「Hoekom Ft. Meneer Cee」のように、アマピアノのアイデンティティの一つと言える“シェイカー”が全く鳴らない楽曲も登場。もはやアマピアノを一言で説明するのが困難になってきたのと同時に、私を含む国内のアマピアノ・フリークはその進化に日々驚いています。
この連載ではアマピアノの制作術を第1回から紹介してきた訳ですが、いずれも私がオーソドックスだと考える内容を中心に扱ってきました。最先端のアマピアノを作るには常に最新の情報を追いかける必要がありますが、これまでの連載で紹介したテクニックや知識を基礎として覚えておくことで、最先端のアマピアノを制作する際にも必ず役に立つことでしょう。
最後はアマピアノ制作におけるTipsを1つご紹介。YouTube上で“曲名またはアーティスト名、ジャンル名+Free FLP”を加えて検索すると、該当した楽曲におけるFL Studioのプロジェクト・ファイルを再生する動画が出現します。
こういった動画の概要欄には、楽曲のプロジェクト・ファイルをダウンロードできるリンクが貼られている場合が多いです。つまり、ダウンロードして自分のFL Studioで立ち上げることによって、どのようなプラグインやテクニックが使われているのかを理解することができるでしょう。中には冒頭で紹介した「Tanzania」など、人気のアマピアノ曲がアップされているケースもあるので非常に役立ちます。皆さんも気になる楽曲があれば、ぜひ試してみてください。
全4回の連載を通して、アマピアノの魅力を感じていただけたでしょうか? 今年、私は“日本人の感性で再解釈したアマピアノ”をテーマにしたアルバムを幾つかリリースする予定です。詳細はnoteとTwitterで。またお会いしましょう!
audiot909
【Profile】プロデューサー/DJ。もともとはハウスを得意とするDJだったが、2020年からアマピアノの制作に着手。同年にはラッパーのあっこゴリラをフィーチャーしたシングル「RAT-TAT-TAT」を発売。同曲はSpotifyの公式プレイリストにピックアップされるなど、自主リリースながら異例のヒットを飛ばす。また音楽活動と並行して記事の執筆、南アフリカに居るプロデューサーへのインタビュー/対談、ラジオ出演など、さまざまなメディアにてアマピアノの魅力を発信しつづけている。Twitterアカウント:@lowtech808
【Recent work】
『Willy Nilly』
Vinny Blackberry & audiot909
(Vinny Blackberry & audiot909)
IMAGE-LINE FL Studio
LINE UP
パッケージ版発売決定!
FL Studio 21 Fruity:19,800円|FL Studio 21 Producer:33,000円 |FL Studio 21 Signature:39,600円|FL Studio 21 Signature クロスグレード:25,300円|FL Studio 21 Signature 解説本バンドル:41,800円|FL Studio 21 クロスグレード解説本バンドル::27,500円
REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.13.6以降、INTELプロセッサーもしくはAPPLE Silicon M1をサポート
▪Windows:Windows 8.1/10/11以降(64ビット)INTELもしくはAMDプロセッサー
▪共通:4GB以上の空きディスク容量、4GB以上のRAM