
第2回 音楽クリエイター向けに新開発されたアクティブ・ニアフィールド・モニター「MSA-380S」
魔法びんのパイオニアでもあるサーモスが展開するスピーカー・ブランド=VECLOS(ヴェクロス)。この連載では同ブランドの動向を紹介しており、初回では2015年3月に発売されたアクティブ・スピーカー、SSA-40の開発ストーリーをお届けした。そして今回、新たな動きとして注目したいのが、本日11月1日に発表されたばかりのアクティブ・ニアフィールド・モニターMSA-380Sである。SSA-40はコンシューマー向けの機種として登場したが、色付けを抑えた音質がモニター・スピーカーのようだとサウンド・エンジニアたちが評価。その延長線上で開発されたMSA-380Sは、真っ向から音楽制作に向けた“モニター・スピーカー”となった。魔法びんの真空二重構造を生かしたコンパクトな筐体をはじめ、さまざまな特徴を有し、ホーム・スタジオや移動先で制作を行う音楽クリエイターを主な対象としている。本機について、VECLOSのスタッフの方々から伺った。
【Product Overview】VECLOS MSA-380S
VECLOSの第2弾製品となるアクティブ・ニアフィールド・モニター。前モデルSSA-40との根本的な違いは“音楽制作向け”というコンセプトで、それが設計の随所に現れている。スピーカー構成は1ウェイ(フルレンジ)となっており、パイオニア製のユニットを採用。口径は52mmで、ピュア・アルミニウムのダイアフラムが使われている。そのユニットを高効率で駆動させるべく専用設計された内蔵アンプは、コンパクトでありながらフル・バランス構成の増幅回路を採用。厳選されたオーディオ用パーツから成り、低ひずみ/低ノイズ/広帯域を特徴としている。そのほか、トロイダル・コイル搭載の電源回路やバスレフなど、SSA-40には無かったコンポーネントを搭載。価格はオープン・プライス:市場予想価格149,800円前後/税抜(ペア)。
SSA-40をモニター用にブラッシュ・アップするという発想
MSA-380SはVECLOSの第2弾製品であり、ブランド初のモニター・スピーカーだ。第1弾のSSA-40から色付けを感じさせないクリアな音質を受け継ぎつつ、さまざまな点が音楽制作向けにブラッシュ・アップされている。開発のきっかけについて、サーモス VECLOS課の平松仁昌氏に尋ねてみよう。
「SSA-40の発売後、サウンド・エンジニアなど社外の有識者の方々から“まるでモニター・スピーカーのようなキャラクターですね”といった意見をもらうようになったんです。そこで、SSA-40をモニター・スピーカーとしてブラッシュ・アップしたような製品を作ろうと思いました。それこそがこの音、もしくは我々の特徴を生かす製品作りなのではないかと考えたわけです」

コンパクトさと音質の絶妙なバランス
VECLOSとしては、初めて足を踏み入れることとなったモニター・スピーカーの世界。そこで勝負するにあたり、どういった特徴を製品に持たせようとしたのか?
「一言で表すなら“コンパクトさ”です。モニター・スピーカーは概して大きくて重い……コンパクトなものでも重量にして1.5kgくらいはあるので、可搬性の高いモデルを作ろうと思いました。と言うのも、現在はレコーディング・スタジオなどの特定の場所に縛られず、いろいろなところで音楽制作するというスタイルがあるのかもしれないと感じたからです。例えば複数のプライベート・スタジオを行き来しながら作ったり、ツアー先のホテルだったり、はたまた何人かで集まって制作作業をしたり。それこそノート・パソコンとオーディオ・インターフェース、小型のモニター機器を持って動き回るようなケースもあるだろうと思い、そこにジョインできるサイズと重さのスピーカーがチャンスだと考えました」
MSA-380Sは、サイズ約74(W)×98(H)×171(D)mm(0°状態)/重量約850g(1台)というコンパクトさに仕上がった。チルト・スタンドでエンクロージャーの角度を調整でき、完全に折り畳んだときの高さが98mmなので、持ち運びの際もかさばらないだろう。




エンクロージャーは、SSA-40と同じくサーモス魔法びんの真空二重構造筐体を応用したもの。そして52mm径ピュア・アルミニウム製ダイアフラムやフル・バランスのディスクリート・アンプ、TRSフォーン・バランスの音声入力、背面のバスレフ・ポート、トロイダル・コイルを用いた電源回路など、さまざまな点が音楽制作向けにアップデートされている。
SSA-40よりも筐体やダイアフラムを大きくし、バスレフ・ポートなどを取り入れたのはモニター・スピーカーとしての用途を考えた結果だ。「コンパクトさは維持したかったわけですが、もう少し低域が見えた方がいいと思ったんです」と平松氏。
「しかし筐体を大きくすると、いろいろなところが共振するようになりました。随所に変な響きやビビりが発生するようになったのです……そんな状態だったので、どこに何をすればベストなのかよく考えながらチューニングしましたね。例えば筐体の中に仕込む吸音材。綿(わた)のような材を使いましたが、どのくらいの大きさのものをどこにどの程度取り付けるのか試行錯誤の連続でした。効果的だったポイントは、バスレフ共鳴管の周りやスピーカー・ユニットの裏側。ユニットの裏側に取り付けたのは、流速(=空気の流れのスピード)を下げるためなんです。スピードが出過ぎると風切り音のようなものが生じるので、それを吸収する狙いですね。とは言え、全部止めてしまうと今度はバスレフがあっても無くても一緒だという話になるので、バランスに気を配りました。吸音材に加えて、基板(=アンプ回路)のイコライジングも突き詰めましたね。周波数特性を測りながら何度もチューニングしましたが、最後はやっぱり“聴感”でした。試作機のチェックにはプロのサウンド・エンジニアの方にも参加していただき、とことん作り込んだんです」

高品位な電源回路やフル・バランスの増幅段
入念なチューニングを経て完成したMSA-380S。各種コンポーネントについてVECLOS課の池田裕昭氏に教えてもらった。
「音声入力の方から説明しますと、本機ではSSA-40のようなBluetoothもしくはステレオ・ミニのオーディオ・インではなく、TRSフォーン・バランスの入力を採用しています。そして内蔵のアンプ。新しいスピーカー・ユニットを最大限に駆動させるために設計したもので、増幅段の回路はフル・バランスのディスクリート構成です。部品はオーディオ用のものを厳選して使っており、例えばオペアンプは低ひずみでワイド・レンジなFETアンプを採用。アンプ駆動に必須の電源については、回路にオーディオ用の電解コンデンサーやトロイダル・コイルを使いました。また電源ラインの前段にアイソレーション・コイルを配置するなどし、電源をクリーンな状態に保っています」


入力に続き、出力の方に関して池田氏がこう続ける。
「スピーカー・ユニットにパイオニア製の52mm径フルレンジ・ユニット、バスレフは共鳴管がストレートなタイプを使っています。共鳴管にはウェーブ状のものもありますが、低域が大きく膨らむので、中高域の解像感や定位感の良さをキープするためにもストレート型を採用したんです。解像度や定位と言えば、シリンダー状のエンクロージャーが不要な回折を低減しているのも一役買っていますね」


「そのエンクロージャーの特性を深く理解しながら技術協力してくださったパイオニアさんに、とても感謝しています」と、平松氏が付け加える。
「パイオニアさんは、スピーカー・ユニットを供給するという立場からどういったアンプ回路を設計すればよいのか、もしくはエンクロージャーにどのような吸音を施せばよいのかなど、さまざまな部分をコンサルテーションしてくださったんです。SSA-40の開発にもご協力いただいたので、我々の考えや製品の特徴を十分に理解してもらえたのが奏功の要因だと思っています」
MSA-380Sの価格はペアで15万円ほど。本稿で言及した部分以外にもハイグレードなパーツを使うなど、まさにクリエイターに向けて全力で開発されている。平松氏はインタビューをこう締めくくる。
「価格についてはチャレンジングだと思っていますが、11月15日(水)〜17日(金)の間、幕張メッセで行われる“Inter BEE 2017”にて実機を展示しますので、まずは体験しに来てもらえたらと思います。そこで多くのご意見を伺いたいですね」
次回でいよいよ最終回を迎えるVECLOS連載。ファイナルは、名うてのレコーディング・エンジニアによるMSA-380Sのレビューをお届けする予定だ。
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