新型真空管「Nutube」を備えるAPI 500モジュール=CONISIS 5601 & 5602

CONISISから発表されたAPI 500互換モジュールの5601(写真右の2台)と5602(左の2台)。5601はマイク・プリアンプで、5602はハイとローの2つのトーン・コントロールを備えるライン・プロセッサーだ。いずれも新型の真空管“Nutube”を備えており、500互換モジュールのサイズで60'sライクな真空管サウンドを味わえる。レコーディング・エンジニアの橋本まさし氏に試してもらったので、その実力をレポートしていこう。

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橋本まさし
レコーディング・エンジニア。1992年にスタジオ・サウンド・ダリを設立し、現在までチーフを務める。エレファントカシマシや山崎まさよし、MISIA、土岐麻子、氣志團など幅広いアーティストを手掛けてきた。

真空管マイクプリの魅力を再認識できる音

5601と5602のチェックが行われたのは、橋本氏が主宰するスタジオ・サウンド・ダリ。まず5601は、主にピアノ録りのためのマイクプリとして使用された。第一印象を尋ねてみると「サウンド・ダリにあるV72やV77の音を思い出しました」と橋本氏。いずれもTELEFUNKENのビンテージ真空管マイクプリである。
「やっぱりトランジスターのマイクプリとは音が全然違う……別モノと言っていいくらいです。例えば1960年代などにも、優れた録音作品がたくさんありますよね。それらには真空管のマイクプリが使われていたわけですが、時代が進みトランジスターのマイクプリが台頭してくると影をひそめてしまいました。V72などのビンテージ機は、素晴らしい音がする反面SN比的に不利だったりとデメリットもあります。なので5601のように、コンディションを気にし過ぎることなく使える真空管マイクプリはありがたい存在ですし、現行製品の数もごく限られているので希少価値も高いと思います

5601のキャラクターに関して、氏はこう詳述する。
「非常に繊細かつクリアで、ストレスの無いサウンドです。周波数レンジ/ダイナミック・レンジ共にとてもワイドで、空気感もよく再現するため、生の演奏を目の前で聴いているのと近い感じがしますね。真空管マイクプリの良さは、V72などを通して分かっていたものの、サウンド・ダリではNEVE 1073(トランジスター・アンプ)を使うことが多かったんです。でも今回5601を試してみて、あらためて真空管マイクプリの魅力に気付かされました。例えば、トランジスターのマイクプリで録ったバック・トラックに5601を用いた歌などを入れると、立たせるための処理が必要になるかもしれません。なので5601の良さを自然な形で生かすには、音数の少ない小編成の曲やジャズなどの一発録音に用いるのが良いと思います」

5601には、Nutube真空管へのバイアス電流を調整する“TUBE DRIVE”というノブが装備されている。
「上げれば上げるほどひずみが増えていくのですが、単体で聴いていても、そこまで劇的な変化は感じられません。だからこそ、ミックスで“このパートをちょっと目立たせたいな”と思ったときに効果的なんです。バイアス電流を変化させると、動作が落ち着くまでにやや時間がかかるので、そこに留意した上で使うと良いでしょう」

心地よい音が得られる独特のEQカーブ


TUBE DRIVEノブは、5602にも備えられている。橋本氏は「5601でフラットに録音した後、その音を5602に通してトーン・コントロールしつつ、TUBE DRIVEをかけるのが良い流れだと思います」と語る。
「5602は、ベースやピアノ、ボーカルの各トラック、それからマスターに挿してチェックしました。恐らくハイ/ロー共に独特のカーブを持つシェルビングEQなのですが、上げると気持ち良くブーストされるため、EQというよりは“トーン・コントロール”と言った方がしっくりと来ます。ハイは2kHz辺りから上にかかるようで、高域に厚みが欲しいときに使うイメージ。ローは450Hzくらいから下をコントロールするようですが、ブーストすると上の方も同時に上がるような気がします。これはハイにも通じる特性で、“目的の帯域を気持ち良く聴かせるために、ほかの帯域も同時にコントロールするようなカーブ”が設定されているのだと思います。音をしっとりとまとめてくれるので、2台用意してマスタリングに使いたいですね

Nutube真空管の特徴を生かしつつ、個性的なキャラクターを獲得した5601と5602。これらを使いこなして独自のサウンドを追求してみてはいかがだろう?

【TOPIC!】新型真空管“Nutube”とは!?

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KORGが、ノリタケ伊勢電子とコラボレーションして開発した新型の3極真空管。従来の3極真空管と同様に、アノードやグリッドといった電極、フィラメントなどのパーツを有するが、ノリタケ伊勢電子の蛍光表示管技術を応用することで構造を工夫し、大幅な省電力化/小型化/品質向上を図っている。まず省電力化については、小型化(容積比でこれまでの真空管に対し30%以下)に伴い実現。従来真空管の2%以下の電力で動作するため、消費電力は12mW/片チャンネル、動作電圧は5Vからである。すなわち9V電池が1本でもあれば動かせるわけだ。サウンドについては、真空管らしい豊かな倍音と優れたリニア特性を特徴としている。すべて日本製となっており、連続期待寿命は30,000時間。

【製品紹介】5601(オープン・プライス/市場予想価格85,000円前後)/5602(オープン・プライス/市場予想価格85,000円前後)

CONISISから2月に発売されたAPI 500互換モジュール。マイクプリの5601/ライン・プロセッサーの5602共に“Nutube”という新型の真空管を搭載し、高音質かつマイルドな60’sスタイルのサウンドを特徴としている。その他のパーツもトランスやメタルカン半導体、タンタル製コンデンサーなどビンテージ機器を思わせるラインナップだ。5601はパネルの上から位相反転、ファンタム電源(+48V/電源ラックのファンタム電源のオン&オフ)、ハイパス・フィルター(コンデンサーによる−6dB/octのローカット)の各スイッチとゲイン・ノブ、Nutubeによるひずみを増減するための“TUBE DRIVE”ノブなどを配置。5602には、上から高域と低域のEQ、出力音量、TUBE DRIVEの各ノブや、出力音量をVU表示するレベル・メーターなどが備わっている CONISISから2月に発売されたAPI 500互換モジュール。マイクプリの5601/ライン・プロセッサーの5602共に“Nutube”という新型の真空管を搭載し、高音質かつマイルドな60’sスタイルのサウンドを特徴としている。その他のパーツもトランスやメタルカン半導体、タンタル製コンデンサーなどビンテージ機器を思わせるラインナップだ。5601はパネルの上から位相反転、ファンタム電源(+48V/電源ラックのファンタム電源のオン&オフ)、ハイパス・フィルター(コンデンサーによる−6dB/octのローカット)の各スイッチとゲイン・ノブ、Nutubeによるひずみを増減するための“TUBE DRIVE”ノブなどを配置。5602には、上から高域と低域のEQ、出力音量、TUBE DRIVEの各ノブや、出力音量をVU表示するレベル・メーターなどが備わっている