ZOOM F8〜プロの現場に耐えるフィールド・レコーダー(2)葛西敏彦

ZOOMF8
ハンディ・レコーダーHシリーズにおいて新しいアイディアを多数投入し、レコーダー・メーカーとしての名声を高めてきたZOOMが満を持して発表したのが、マルチトラック・フィールド・レコーダーF8だ。小型/軽量かつ低価格という同社の強みとプロ・スペックを両立させた本機の実力をレポートしていく。前回のフィールド・レコーディングに続き、今回はライブPAと並行して行われるレコーディングという、今一番ホットな用途での活躍ぶりを見ていきたい。

 ダイナミック・レンジが広いライブ現場でもS/Nが良く高域がクリアな音質で録れます


レコーディングのみならずライブPAでも活躍するエンジニア、葛西敏彦氏。氏がPAを担当する公演では、必ずといっていいほどそのかたわらで何らかのレコーダーが稼働している。そんな氏に、1カ月間F8を使ってもらい、その性能を語っていただいた。

ZOOM F8


ZOOMF8Main
75dBゲインのマイクプリを8基備える、最高24ビット/192kHz対応のマルチトラック・レコーダー。各入力に対応する8つのトラックと、L/Rミックスのステレオ・トラック(192kHz時は使用不可)とを併せて10trの同時録音が可能。タイム・コード入出力や単三電池×8やACに加えて9〜16Vのバッテリーが使用可能な3電源仕様、デュアルSDカードなど、プロ仕様のレコーダーに必須の機能を実装している。また全入力チャンネルに用意されたリミッターや、1つの入力に対してゲイン違いの2tr録音をするデュアル・チャンネル・レコーディング・モードなど、現場で起こりうるトラブルを回避するための機能も満載。専用iOSアプリであるF8 ControlからBluetooth経由での遠隔操作と、メーターなどのさまざまな情報のモニタリングも行える。


どこにでも持っていける小型軽量さが重宝


●葛西さんはどんな現場でも必ずレコーダーを回していますよね?
葛西 バンド側に頼まれるのがまず一つ。演奏しているときは聴けない外音を聴いてもらって、彼らのイメージとのすり合わせをするんです。そして、いい演奏が録れたらそれを発表する場合もあります。そういう意味ではなるべくいい状態で録っておきたいし、コンソールからのラインのL/Rと、エア・マイクのL/Rで最低4tr録れると助かるんです。これまではハード・ディスク・ベースの4trレコーダーを使うことが多かったんですが、古い製品なのでUSBの転送も遅いし、振動にも弱いので、さすがに時代にそぐわない部分も出てきたなと思っていました。
●F8以前にZOOMのレコーダーを使ったことは?
葛西 ハンディ・レコーダーのH2と、MTRのR16を持っていて。R16はMTRとしてというよりも、ライブ録音のレコーダーとして使っていました。そこに特化したものがあればと思っていたところにF8が発売となったんですよね。F8は小さくで軽いですから、市販の小さなセミハード・ケースに入れておいて、あまり考えずにどこにでも持っていけるのが便利だと思いました。
●音質についてはいかがですか?
葛西 すごく良かったですね。僕の場合、ダイナミック・レンジが広い現場が多い……すごく小さかったり大きかったりするので、大きいときに合わせて、メーターで最大を−6dBくらいに合わせると、小さいときはメーターで2〜3目盛り振れるくらいなんです。それでもF8はS/Nが良く、高域がクリアで、ノイズが目立つようなことがないのが助かります。これだけポータブルなのに、75dBゲインのマイクプリが8個入っているなんて、中身はどうなっているのか僕が聞きたいくらいです(笑)。

プッシュ式エンコーダーで設定も簡単


●これだけコンパクトだと、操作性が犠牲になる面もあるのかと思いますが?
葛西 それが、よく考えられているんですよ。説明書を読まなくても大抵の操作はできました。こうしたレコーダーの設定変更は、3つの操作子を組み合わせるのが多いんですが、それがちょっと煩わしい。ところがF8はプッシュ式のエンコーダーとMENUボタンの、2つでいけるのがですよ。あと、遠隔操作できるiPhoneアプリのF8 Controlもあるので、ミュージシャン本人がライブでのオケ出しに使う場合などにも便利でしょうね。
●それは意外な活用法かもしれませんね。
葛西 R16もそうでしたが、ZOOM製品は機動性が高くて、かゆいところに手が届く感じがあるんですよ。例えば、地方に出ていてホテルでDAWを使って作業するときに、F8をオーディオ・インターフェースとして使えば荷物を一つ減らせますよね。以前は別のオーディオ・インターフェースを持参していたのですが、F8だと1台で2役になります。プリプロを録るときにも、ノート・パソコンとF8を持っていけば、自分の作業場に組んであるシステムをバラさなくても済みますし。あと、ライブをDAWで48trマルチ録音するときに、サブ機として使えるレコーダーがないかな?と先日相談を受けて、ちょうどこのF8があったので重宝しました。PAコンソール側でマトリクスを組んで8chアウトにしてもらえば、サブとしては十分ですからね。
●先ほどはライン+マイクで4tr録音する例をお話しいただきましたが、F8は8tr録音できますから、残りの4trはどう使いますか?
葛西 一つはステージから客席を狙うマイクをペアで。これは歓声などを収録するためのものですね。あとは歌モノだったらラインをボーカルとオケとで分けて録音することも多いです。
●F8は、ハンディ・レコーダーH5/H6のオプション・マイクも接続できる仕様になっています。
葛西 例えばイベントなどで時間の無いときに、サッとセッティングできるのはいいですよね。いつもはAKG C451のペアを立てるのですが、その時間すら惜しいというときも場合によってはありますから。それであとはPAコンソールからステレオでもらえば4trで録れる。実は周りにマイクを内蔵したH4Nを使っている人が多くて、僕がPAしている横によく置かれて、“L/Rのアウトをください”とよく言われるんです。それでH4Nを買おうかなと思っていたんですが、F8があればその用途も足りますね。
●今後、どのような使い方ができそうですか?
葛西 ライブだけじゃなく、本来のフィールド・レコーディングもしたいですね。ちょうどフィールド・レコーディングでアルバムを作りたいという相談を受けたので、“こういうレコーダーがあるのでできますよ”という話になり、楽しみにしています。
▲左サイド・パネル ▲左サイド・パネル▲右サイド・パネル▲右サイド・パネル▲リア・パネル▲リア・パネル

葛西敏彦


寺尾紗穂、オオルタイチ、平賀さち枝、蓮沼執太、bonobos、ゲスの極み乙女。、森は生きている、大友良英などさまざまなアーティストのスタジオ作品およびライブPAで活躍するエンジニア。舞台作品の音響やサウンド・インスタレーション、リミックスなども手掛けるToshihikoKasaiZoomF8

ライブ収録で活躍するF8


和田永 エレクトロニコス・ファンタスティコス!〜初合奏遭遇篇〜


ElectronicosFantasticos12015年11月23日 アサヒ・アートスクエア今回取材に伺った、葛西氏がPAを担当した公演は、Open Reel Ensembleのメンバーである和田が、廃家電を使用して電子楽器を作り、演奏するという試み。ブラウン管に表示される縞模様を音に変換したり、換気扇とOHPを組み合わせてシンセにし、演奏する和田。生々しい電子音が響き渡り、楽器以上に突発的なトラブルが起こり得る現場だったが、F8はそのライブ感をそのまま収音してくれていた。この公演は一回限りのものとのことで、その重要な記録の一端をF8が支えた。
PAエリアにはAKG C451×2本を設置。コンソールからのステレオ・ラインと合わせて、F8に録音 PAエリアにはAKG C451×2本を設置。コンソールからのステレオ・ラインと合わせて、F8に録音
ElectronicosFantasticos2Presented by ZOOMZOOM F8に関するお問い合わせ:ズーム http:/www.zoom.co.jp/
ZOOM
F8
オープン・プライス(市場予想価格15〜16万円前後)
■記録フォーマット:WAV、MP3 ■ビット&レート:最高24ビット/192kHz 入力ゲイン:+10〜+75dB(マイク) ■ノイズ:−127dBu以下(A-weighted、入力ゲイン+75dB、150Ωinput) ■周波数特性:10Hz〜80kHz(192kHz動作時) ■外形寸法:178.2(W)×54.3(H)×140.3(D)mm ■重量:960g(本体のみ)