今をときめくトップ・クリエイター7組に、作品で使用する珠玉のオーディオ加工テクを伺う当特集。第5回はボカロP/シンガー・ソングライターの須田景凪に披露していただきます。
その1:Vocal 〜自分の声を加工してアクセントとなるサンプルを作る
参考楽曲
「ダーリン」須田景凪(ワーナーミュージック・ジャパン)
【Time】0:58~
赤ちゃんの笑い声のボイス・サンプルのような音ですが、実は僕の声を加工したものなんです。移調でピッチを上げて、コンプでバキバキにつぶして、EQでいらない部分をカット①。それからディエッサー、コーラスをかける、というような工程で作っています②。
こういった特殊なサウンドとして、既存のサンプルを使うこともあります。ただ曲の流れに沿った形で笑っている声が欲しいとなると、サンプルを探すよりも作ってしまった方が早いんですよね。歌をレコーディングするときと同じように、どこのグリッドも基準にせず、オケを聴きながら録音したままのリズムで入っています。アクセントとして大きな効果になっていると思います。
その2:FX 〜異なるサンプルを重ねてシネマティックなテクスチャーに
参考楽曲
「ダーリン」須田景凪(ワーナーミュージック・ジャパン)
【Time】1:42~
2回目のサビ前にドアを閉める音のサンプルを配置しているのですが、その音にストリングスやシンバル、キックなどをリバースした素材を幾つか重ねています。さらに、自分で打ち込んだストリングスもオーディオ化して合わせました。中でもキックは、低域の成分を少しカットして、32分音符の細かいトレモロで揺らしています。普通にドアが閉まるよりもゾワゾワする感じに聴こえるような、映画音楽的なアプローチというか……シネマティックなサウンドの後にバタンとドアが閉まるようにすることで、曲が描いている景色を補完するようなイメージになっています。
また、ドアを閉める音は始まりをグリッドから少し後ろにずらしました。普段から前後にずらすことは多くて、目で見える情報より聴感上でポイントを合わせています。
その3:Guitar 〜リバースとピッチ・シフトを組み合わせてギター・ソロのうねりを演出
参考楽曲
「パメラ(self cover)」須田景凪(ワーナーミュージック・ジャパン)
【Time】2:29~
ギター・ソロの一節で、録音時にはそのまま単音で伸ばしていたものを、フェード・イン/アウトするようにうねる効果を付けています。ここではSTEINBERG Cubase付属のダイレクトオフラインプロセシングを使用しました。これは波形を見ながらオーディオにさまざまな処理を加えることができるため視覚的に分かりやすいので、よく使っている機能です。まず後ろの方を、ピッチ・シフトを使ってピッチが徐々に下がっていくようにします①。帰結部分がフェード・アウトするようにゲインのオートメーションを書くのも忘れないように。
次に、先ほど加工したオーディオ・ファイルをリバースし、長さを調節して手前に配置。こちらは逆に、ピッチを徐々に上げて、さらにフェード・インするようにゲインのオートメーションを書きましょう②。ギターだけでなくピアノやボーカルにも効果のある、変化球的なテクニックですね。
その4:Chorus 〜デジタルと人間の中間のような響きを持つクワイア
参考楽曲
「落花流水」須田景凪(ワーナーミュージック・ジャパン)
【Time】2:35~
「落花流水」のコーラスは、途中までは自分でハモリを付けたコーラスが基本になっていますが、Dメロでは人力とデジタルの中間のようなクワイアにしています①。加工されている感じはありつつも、その中にちゃんと自分の声も聴こえてくるようにするという意図がありました。そのため加工にはあえてボーカル・シンセを使わず、生の歌声とピッチ補正プラグインで加工した歌声を混ぜています
プラグインは、オクターブ上のコーラスにWAVES Vocal Benderを、オクターブ下のコーラスにはWAVES SoundShifterをかけています②。Vocal Benderは、元の歌のニュアンスを残したままピッチを上下できる印象があり、なじませたいときにはこちらを選んでいます。逆に異質な存在感を強調したい場合はSoundShifterの方が好きですね。
須田景凪
【Profile】2013年よりバルーン名義でボカロPデビューし、若い世代から多くの支持を得る。2017年からは須田景凪名義でシンガー・ソングライターとしての活動もスタートさせた。