ASIAN KUNG-FU GENERATION Tour 2023「サーフ ブンガク カマクラ」【コンサート見聞録】

ASIAN KUNG-FU GENERATION Tour 2023「サーフ ブンガク カマクラ」【コンサート見聞録】

ついに完全版となった“江ノ電”がコンセプトのアルバム『サーフ ブンガク カマクラ(完全版)』を引っ提げた、全8都市15公演を巡るツアーのホール公演に潜入!

ASIAN KUNG-FU GENERATIONが2008年にリリースした、“江ノ電”こと江ノ島電鉄をコンセプトにしたアルバム『サーフ ブンガク カマクラ』。全曲のタイトルに江ノ電の駅名を冠しており、当時は15駅中の10駅分を収録していた。そして2023年7月、15年の時を経て、残りの5駅を新曲に加えた完全版『サーフ ブンガク カマクラ(完全版)』が登場。そのリリースに伴って、全8都市15公演を巡るツアーが9月22日よりスタートした。このたび編集部は、11月3日に日本青年館ホールで開催された公演に赴き、バンドサウンドを客席の隅々にまで届けるためのPAシステムについて、ドラグフリーのサウンドエンジニア、田口智也氏から話を聞いた。

DATE:2023年11月3日(金)
PLACE:日本青年館ホール
PHOTO:山川哲矢(ライブ)、小原啓樹(機材)

ボーカルにはマルチバンドコンプをかける

 インプット数はオーディエンスマイクを入れて30ch。それらの信号がステージラックAvid Stage 64から、光ファイバーケーブルでFOHのコンソールAvid VENUE | S6L-24Cに伝送される。まずはS6L-24Cの魅力を伺った。

 「サンプリングレートが96kHzなので、フェーダーの操作感と実際の出音の変化が一致していて作業しやすいです」

 エフェクトはミキサー内蔵のものに加えてWavesのネットワークプラットフォームSoundGridを採用し、Wavesのプラグインを活用しているという。

 「音作りについては、楽曲がギターロックなのでギターが常に聴こえるようにしつつも、歌は確実にメインにくるようにしています。また、ドラムとベースのグルーブがなるべく出るようなミックスも心がけていますね。EQのポイントをキックとベースで微妙にずらしていて、アタックタイムが短めのコンソール内蔵のコンプと、アタックタイムが長めのWaves Smack Attackを両ソースにかけています。コンソール内蔵のものでピークをつぶしてから、Smack Attackで音量差を整えていて、タイトな音像になるようにしています」

 ASIAN KUNG-FU GENERATIONの場合、特にボーカルの後藤正文が声を張ることが多く、田口氏はそれに合わせた処理をしているという。

 「WAVESのC6 Multiband Compressorで周波数を2ポイントくらい設定していて、声を張ったときに出すぎないようにしています。ちなみに、ギターについてはアンプから出てきた音をできるだけそのまま届けたいので、コンプレッサーはほとんどかけていません」

FOHのコンソールAvid VENUE | S6L-24C

FOHのコンソールAvid VENUE | S6L-24C

Avid VENUE | S6L-24Cの右側のラック内には、業務用CDプレーヤーTASCAM CD-500B、USBオーディオインターフェースsteinberg UR824が見える。ラックの上部には、音響測定ツールRational acoustics Smaartと、lake LM44をコントロールするLake Controllerが、ラックの手前には、d&b audiotechnikの機器をリモートコントロールするソフトウェアR1を立ち上げたコンピューターが置かれている

Avid VENUE | S6L-24Cの右側のラック内には、業務用CDプレーヤーTASCAM CD-500B、USBオーディオインターフェースsteinberg UR824が見える。ラックの上部には、音響測定ツールRational acoustics Smaartと、lake LM44をコントロールするLake Controllerが、ラックの手前には、d&b audiotechnikの機器をリモートコントロールするソフトウェアR1を立ち上げたコンピューターが置かれている

FOHのPAエンジニアを務めたドラグフリーの田口智也氏

FOHのPAエンジニアを務めたドラグフリーの田口智也氏

後藤正文(vo, g)が使用したSHURE KSM8

後藤正文(vo, g)が使用したSHURE KSM8

喜多建介(g, vo)のギターアンプ。奥のBogner EcstasyはSHURE Beta 57AとSENNHEISER e 906で、手前のSHINOS Luck 6VはSHURE SM57で収音された

喜多建介(g, vo)のギターアンプ。奥のBogner EcstasyはSHURE Beta 57AとSENNHEISER e 906で、手前のSHINOS Luck 6VはSHURE SM57で収音された

後藤正文(vo、g)のギターアンプ。手前のFender Twin ReverbにはSHURE SM57が、奥のSHINOS SHINOS & L ROCKETにはSHURE Beta57Aがセットされている

後藤正文(vo、g)のギターアンプ。手前のFender Twin ReverbにはSHURE SM57が、奥のSHINOS SHINOS & L ROCKETにはSHURE Beta57Aがセットされている

山田貴洋(b, vo)のベースアンプ用スピーカーキャビネットFender 610 PROには、SENNHEISER e 609がセットされている。キャビネット上部に置かれたアンプはtc electronic RH750で、その左にはパッシブDIのRadial JDIが設置されている。

山田貴洋(b, vo)のベースアンプ用スピーカーキャビネットFender 610 PROには、SENNHEISER e 609がセットされている。キャビネット上部に置かれたアンプはtc electronic RH750で、その左にはパッシブDIのRadial JDIが設置されている。

伊地知潔(ds)のドラムセット。オーバーヘッド、ライド、ハットにはAKG C 451 Bが、タム類にはSENNHEISER e 904がマイキングされている。スネアはトップとボトムをそれぞれSHURE SM57で、キックはSHURE BETA52Aで収音している

伊地知潔(ds)のドラムセット。オーバーヘッド、ライド、ハットにはAKG C 451 Bが、タム類にはSENNHEISER e 904がマイキングされている。スネアはトップとボトムをそれぞれSHURE SM57で、キックはSHURE BETA52Aで収音している

モニター卓にはYAMAHA CL5を採用

モニター卓にはYAMAHA CL5を採用

太陽光で生成した電気を蓄えるATLASBXの蓄電器。ステージ上の楽器などに電源を供給している

太陽光で生成した電気を蓄えるATLASBXの蓄電器。ステージ上の楽器などに電源を供給している

メインスピーカーは角度調整が容易なKSL8

 ミックスされた信号は、ステージラックの出力から舞台袖にあるオーディオプロセッサーlake LM44、d&b audiotechnikのアンプ内蔵プロセッサーD80を経由して、各スピーカーに入力される。

 「メインスピーカーはd&b audiotechnik KSL8が6台、サブウーファーはSL-GSUBが2台、インフィルはV8で、リップフィルはT10です。今回の公演も含め、基本的にホールではスタッキングにしています。壁の反射をできるだけ避けたいというものあり、KSL8は指向性が80°のものを使っていて、抜けてしまう内側の部分をインフィルとリップフィルでカバーするという方法を採っていますね。KSL8の良いところは、積んだ後でも容易に角度を変えられるところです。リハーサルのときに“ホールの上まで音が届いていないな”と思ったら、レベルだけでなく角度で解決できます。また、軽いのでスピード感のある設置ができるというのも選定の理由です」

 田口氏が日本青年館ホールでPAを担当するのは初めてとのことだが、驚くべきことに事前のシミュレーションはせず、目分量でスピーカーの位置を調整したという。

 「ホールの場合は、ソフトでシミュレーションするよりも、目で見て決めていった方が良い結果が得られることが多いと実感しているんです。今回は2階がステージに近かったので、メインスピーカーをなるべく上に向ける必要がありました。まずはそれを基準として、ほかのスピーカーの配置を決めています。ホールの上下で聴こえる音の差をなくすため、アンプ内蔵のプロセッサーD80のEQで、メインスピーカー下部の2台のハイ、一番下のローを少し削り、上の2台は全体のレベルを少しだけ上げています」

 開演すると、まずは一塊となったバンドサウンドの迫力に圧倒される。リズム隊の心地良いグルーブ感が2階席にまで伝わってきて、田口氏が取材時に話していた工夫が見事に音に反映されていると感じた。“メンバー4人のみ”というピュアな構成での疾走感あふれる2時間20分。音に身を任せているうちに、あっという間に過ぎてしまった。

FOHのPA席前から見たステージ

FOHのPA席前から見たステージ

メインスピーカーは、d&b audiotechnik KSL8を6台、サブウーファーはSL-GSUBを2台スタッキング。内側にはインフィルV8が設置されている

メインスピーカーは、d&b audiotechnik KSL8を6台、サブウーファーはSL-GSUBを2台スタッキング。内側にはインフィルV8が設置されている

リップフィルはd&b audiotechnik T10(写真手前)を設置

リップフィルはd&b audiotechnik T10(写真手前)を設置

ステージ袖に置かれたアンプやプロセッサー。左のラックはFOH用で、上からプロセッサーのlake LM44×2台、d&b audiotechnikの4chアンプD80×3台。右のラックはモニター用で、4chパワーアンプLAB.GRUPPEN FP10000Qと、d&baudiotechnikの2chアンプD12×3台の姿が見える

ステージ袖に置かれたアンプやプロセッサー。左のラックはFOH用で、上からプロセッサーのlake LM44×2台、d&b audiotechnikの4chアンプD80×3台。右のラックはモニター用で、4chパワーアンプLAB.GRUPPEN FP10000Qと、d&baudiotechnikの2chアンプD12×3台の姿が見える

ステージ袖のラックの背面。左はFOHのステージラックAvid Stage 64で、右はモニターのラックYAMAHA Rio3224-D×2台が設置されている。Rio3224-Dの上部には、イヤーモニター用送信機WISYCOM MTK952が2台見える

ステージ袖のラックの背面。左はFOHのステージラックAvid Stage 64で、右はモニターのラックYAMAHA Rio3224-D×2台が設置されている。Rio3224-Dの上部には、イヤーモニター用送信機WISYCOM MTK952が2台見える

 

 MUSICIAN 

後藤正文(vo, g)、喜多建介(g, vo)、山田貴洋(b, vo)、伊地知潔(ds)

 MUSIC 

  1. 藤沢ルーザー
  2. 石上ヒルズ
  3. 鵠沼サーフ
  4. 荒野を歩け
  5. 江ノ島エスカー
  6. ホームタウン
  7. 七里ヶ浜スカイウォーク
  8. 追浜フィーリンダウン
  9. 腰越クライベイビー
  10. 極楽寺ハートブレイク
  11. 長谷サンズ
  12. その訳を
  13. 日坂ダウンヒル
  14. 西方コーストストーリー
  15. Surf Wax America
  16. 柳小路パラレルユニバース
  17. 稲村ヶ崎ジェーン
  18. ループ&ループ
  19. アンダースタンド
  20. 由比ヶ浜カイト
  21. 和田塚ワンダーズ
  22. ボーイズ&ガールズ
    ―ENCORE ※公演ごとに変更―
  23. ソラニン
  24. 君の街まで
  25. 君という花
  26. 遥か彼方
  27. 転がる岩、君に朝が降る
  28. 鎌倉グッドバイ

 STAFF 

企画:Spectrum Management
制作:SEVEN'S ENTERTAINMENT / Livemasters Inc.
後援:Ki/oon Music

関連記事