SLAYが創るPSYCHIC FEVER「Highlights」リミックス 〜ダブステップの衝撃

SLAYが創るPSYCHIC FEVER「Highlights」リミックス 〜ダブステップの衝撃

ダンス・ミュージック・シーン出身なので、いかに〝インパクトのあるドロップを作るか〟にこだわりました

LDH RecordsとサンレコのコラボでPSYCHIC FEVER「Highlights」を題材曲にリミックス・コンテストを開催。ここからは3人のリミキサーが登場! それぞれが手掛けた「Highlights」リミックスの制作手法を伺っていく。トップ・バッターは音楽プロデューサー/DJのSLAY。EDMシーンにおける世界的DJ、アフロジャックに認められた日本人だ。SLAYによるリミックスは、ヘビーなダブステップ・サウンドに仕上がっている。早速、音作りのこだわりを聞いてみよう。

いかにインパクトのあるドロップを作るか

——まずは題材曲である「Highlights」についてはどのような印象を受けましたか?

SLAY まさに今のヒップホップ・トレンドを押さえた楽曲だと思いました。ジャージー・クラブのビートと音数の少なさが最高。それをうまくJポップに落とし込んだな、と感じましたね。トラックだけ聴くと結構シンプルだったので、よくあんなカッコいいトップ・ラインを作れたなと。サビで“Highlights”と歌っているところもキャッチーですごく良かったです。

——ダブステップ系のリミックスにしようと考えた理由は?

SLAY オリジナルのテンポが150BPMであることを考慮すると、これはハーフ・テンポの75BPMも可能なので、リミックスを作る際にはさまざまなアレンジが試しやすいと思いました。リミックスを作る際、自分は必ず音楽ジャンルを決めてからスタートするんです。今回は150BPMであるということが分かっていたので、それならトラップやダブステップが適しているのかなと考えました。ハウス・ミュージックだとテンポを120BPM辺りまで下げないといけないので、それでは遅すぎると思い、その選択肢は違うと判断したんです。だから、最終的にはダブステップ系のリミックスにしようと決めました。

——EDMマナーにのっとった、まさに読者のお手本にふさわしいリミックスになっていますね。曲の顔とも言えるドロップまでの盛り上げ方が完ぺきです。

SLAY 自分はダンス・ミュージック・シーン出身なので、いかに“インパクトのあるドロップを作るか”にこだわりました。そして、それを実現するために今回提供されたボーカル素材をうまく使ったんです。冒頭のボーカルからAメロ、Bメロとメロディがあるセクションにはシンセ・パッドでコード感を与えて、ドラムの音数もじわじわと増やしていきました。そのあとにビルドアップ、ドロップと来て、一度落ち着いてから2番が始まるみたいな……割とEDMシーンでは王道の曲構成にしていますね。

SLAYが使用するPKCZ®のスタジオ。ここに自身のAPPLE MacBook Proとオーディオ・インターフェースのUNIVERSAL AUDIO Apollo Soloを持ち込んでいる。モニター・スピーカーはATC SCM20A Pro MK2を設置。SLAYはMacBook Proのみで音楽制作を行うミニマルな制作スタイルが好みだという

SLAYが使用するPKCZ®のスタジオ。ここに自身のAPPLE MacBook Proとオーディオ・インターフェースのUNIVERSAL AUDIO Apollo Soloを持ち込んでいる。モニター・スピーカーはATC SCM20A Pro MK2を設置。SLAYはMacBook Proのみで音楽制作を行うミニマルな制作スタイルが好みだという

SLAYのモニター・ヘッドフォン、AUDIO-TECHNICA ATH-M50X。MacBook Proのスピーカーでミックスすることもあるという

SLAYのモニター・ヘッドフォン、AUDIO-TECHNICA ATH-M50X。MacBook Proのスピーカーでミックスすることもあるという

異なるスネアを3つ重ねて音作り

——全体を通して、ドラムがかなり音抜けして聴こえますね。

SLAY ダブステップに限らず、ダンス・ミュージックはドラムの鳴りが一番重要だと思っています。例えば上モノがチープな感じでも、ドラムがしっかりしていればグルーブも生まれますし、音楽にもノることができますよね。なので、自分はドラムの制作にはかなりの時間を費やしています。

——ドラムの音色からもダブステップの雰囲気が出ています。

SLAY ドラムの音色選びはとても大事ですね。最初の段階から“どんな音色にしたいのか”を明確に定めます。もし目指すべきリファレンスがあるんだったら、それに近づくようにしっかりと音作りしていくんです。たまに音源を聴いていると、“この曲はこのスネアじゃない方がいいんじゃないかな?”と思うこともあるので。

——音作りをする際は、どのように?

SLAY 例えばキックだと、頑張って低域を出そうとしてEQでいろいろ調整したりするんじゃなくて、元から低域が出ているサンプルを選ぶことが大切です。近年はクオリティの高いサンプルがめちゃくちゃいっぱいあるので、それらを使うとすごく時短になります。あとはサンプルを何個かレイヤーして理想の音に近づけていくという方法もあります。今回は異なるスネアを3つ重ねて音作りをしました。

ドロップ部分のドラムに関するトラック。上からキック、スネア×3tr、メインのハイハット、そして“トップ・ループ”としてバスにまとめられたパーカッション類とハイハットの4trが並んでいる。トップ・ループはローカットを入れて、ハイハットの一部として使用しているそう

ドロップ部分のドラムに関するトラック。上からキック、スネア×3tr、メインのハイハット、そして“トップ・ループ”としてバスにまとめられたパーカッション類とハイハットの4trが並んでいる。トップ・ループはローカットを入れて、ハイハットの一部として使用しているそう

——SLAYさんのリミックスを聴いていると、キックとスネアが特に際立って聴こえます。

SLAY それはサイドチェインの効果ですね。例えばこの曲だと、まずメインとなるスネアを1つ決めます。そして、それをトリガーとしてそのほかのスネアやハイハット、上モノ全体にサイドチェインコンプをかけているんです。ちなみにボーカルにも薄くサイドチェインをかけています。こうすることでメインのスネアを際立たせることができますし、その部分だけ突出してレベルが上がるということも防げるんです。

——ボーカルにもかけているんですね。

SLAY 曲中ではボーカルも大事なパートになってくるので、あくまで薄く。ポイントとしては、ボーカルがあるセクションとドロップのセクションではサイドチェインコンプの具合をオートメーションで調節しているところですかね。ドロップになると結構ガッツリかかるんですけど、AメロやBメロではボーカルがきちんと聴こえるようにしています。

——キックにもサイドチェインを設定していますよね?

SLAY はい。キックをトリガーとしたサイドチェインコンプをベースやオケ全体に用いています。もはやこれはダンス・ミュージックに必須のテクニックですね。ダブステップの場合は、キックとスネアが鳴るときは大きくリダクションするように設定すると、ダブステップ感がより演出できます。ただし、キックに関してはスネアみたいにレイヤーしないことが多いです。もともと良いキックのサンプルを持っているというのもあるんですが、レイヤーして音がにごったりすると逆効果になるので。

良いリミックスは制作段階からテンションが上がる

——ダブステップと言えば、サブベースや上モノのシンセについても気になります。

SLAY サブベースはXFER RECORDS Serumで、エンベロープくらいしか触りません。その音を“808 SAUCE”というABLETON LiveのAudio Effect Rackに通します。これはw-inds.の橘慶太君から教えてもらったもので、コンプやEQ、サチュレーションなどがまとまっていて便利なんです。

ABLETON LiveのAudio Effect Rack

ABLETON LiveのAudio Effect Rack

w-inds.の橘慶太とは普段からABLETON LiveのAudio Effect Rackなどを共有し合っていると話すSLAY。画像はAudio Effect Rackの808 SAUCEで、サブベースやROLAND TR-808系キック・ベースに特化したエフェクト・チェインだ。マクロ・ノブで簡単に音色調整できるほか、一つ一つのエフェクトを開いて微調整することもできる

——上モノのシンセ類はどのような音源を?

SLAY AメロやBメロではシンセ・パッドでコードを鳴らしていて、これはSPECTRASONICS Omnisphereですね。ドロップではSerumがちょっと入ってたりしますけど、どちらかというとサンプルを細かく切り貼りしたり、レイヤーしたりしています。この辺りは曲によって変わりますね。

——ソフト・シンセやサンプルを駆使されているのですね。

SLAY そうですね。曲のジャンル感やリファレンスを決めたら、あとはそこにたどり着くために試行錯誤するだけなので。制作中に“あれもいいな、これもいいな”ってブレはじめると、だんだん曲が完成から遠のいてしまいますからね。あとは自分自身がそのリミックスでノれるかどうか、好きかどうかも大事です。良いリミックスは、作っている段階からテンションが上がることが多いですからね!

 

 SLAYのリミックス・アドバイス 

▶ リミックス前に音楽ジャンルやリファレンスをしっかりと設定しよう
▶ イメージに近い音色のサンプル素材を選ぶことが時短への近道!
▶ サイドチェインコンプをフル活用してキック/スネアを際立たせよう

 

SLAY
音楽プロデューサー/DJ。アフロジャックとLDH EUROPEが開催したリミックス・コンテスト“Global Remix Battle I”にて才能を見出され、アフロジャック主宰のWall RecordingsのサブレーベルWALL UPからリリース。2021年よりLDH music & publishingと専属作家契約。

LDH Recordsからのデビュー・チャンス!〜リミックス・コンテストの詳細はこちら

【特集】リミックス・コンテスト開催!