一部の環境において、会員限定記事の表示がうまくいかない場合が報告されています。その場合、まずはブラウザを最新にアップデートした上、WindowsではCtrl+Shift+R、Macではcommand+shift+Rでの再読み込みをお試しください。また、ほかのブラウザの利用もご検討いただけましたら幸いです。

三浦大知「Sheep」プロデューサーインタビュー UTA:楽曲の要所要所に“違和感”を仕掛けていく

UTA

 三浦大知『OVER』の2番目の先行配信曲、「Sheep」の制作手法をひも解いていこう。一音一音が緻密に作り込まれた重厚感のあるトラックと、三浦の滑らかなファルセットが印象的な本作をプロデュースしたのは、長年彼の楽曲を手掛けてきたUTAである。三浦との音楽制作の様子や、音数が少ないからこそできる音作りや仕掛けの数々について、詳しく話を聞くことができた。

音がいっぱいあったら“仕掛け”に気付かない

——三浦さんが初めて誰かと一緒にゼロから曲を作ったのがUTAさんで、それが2008年にリリースされた「Magic」だそうですね。

UTA そうだったと思います。もう16年前ですね!

——「Sheep」もゼロから一緒に制作されたのですよね。

UTA 大知君と曲を作るときは、99%ゼロからです。タイアップ曲のときは、与えられたテーマに向かって曲を作ろうとしますけど、それ以外の曲については特にテーマを設けずに、最近聴いている音楽の話なんかをしながら曲を作りますね。大知君はいつも“こっちのR&Bとこっちのヒップホップを組み合わせたらどうなるんだろう”みたいなアイディアを瞬発的に出してくれます。制作の最後の段階で、“この構成を思い切ってひっくり返してみたらどうなるのかな”という提案をしてくることもあって。最後の最後まで曲がもっと良くなる可能性を諦めないというか、思いついた面白いことはすべて試しているんじゃないかと思います。

——「Sheep」は出来上がった曲から“眠り”というイメージがはっきり伝わってくるので、テーマを掲げて曲を制作したのかと思っていました。

UTA 出来上がるまで、その作品がどんなものになるのかが分からないのが、大知君の面白いところです。それぐらいいつも本当に自由にやらせてくれるんですよ。

——この曲はあっという間に仕上がったそうですね。

UTA 僕は曲作りが結構速いほうなのですが、「Sheep」は特に速かったです。トップラインとトラックは体感2〜3時間でできていたと思います。僕は大知君とヒップホップからバラードまで、いろいろなジャンルの曲を作りますが、二人とももともとR&Bがめちゃくちゃ好きなんですよ。たまに“そろそろR&Bを作りたいよね”となることがあって、「Sheep」はその何周目かの1曲だと思いますね。

——曲作りはどのように進んだのでしょうか? 

UTA ビートからなのか、上モノからなのかは、その時々によって違うのですが、僕が曲を作るときは、音選びから始めます。それを組み立てていると大知君が早めの段階でイメージを膨らませてくれていて“こういうメロディはどうですか?”と鼻歌を歌いはじめるので、僕はそれを聴いていないようでなんとなく聴いていて、“いいね!”と思ったら振り返って声をかける、という作り方をしていましたね。

UTA_Studio

UTAのプライベートスタジオ。モニター・スピーカーはFOCAL Shape 50、モニター・コントローラーはSPL 2Control。マスターキーボードとして使っているのはRoland Fantom 7で、写真手前にはFENDER Stratocaster、アンプシミュレーターのKEMPER PowerRack、シンセmoog Subsequent 37、SEQUENTIAL Prophet-6が見える

ダンサーでシンガーだからこそのアイディアがある

——「Sheep」は音数が相当少ないですよね。それゆえ、サビの重量感のあるベースと、三浦さんの滑らかなファルセットの対比が引き立って素敵だと思いました。

UTA 僕は音をレイヤーするクセがあって、音数を減らすのを結構怖いと思うタイプなんですけど、大知君の歌のうまさと声の良さに助けられてチャレンジできました。サビのベースはSPECTRASONICS TRILIANで、高域をEQでカットした後、UNISON MANGLERを思いっ切りかけて音を太くして、歌の邪魔になる帯域をフィルターでカットしています。2番目のサビには、さらにSPECTRASONICS OMNISPHEREでジリジリした音色を重ねていますね。

——音数を減らすと一つ一つの音に注意が向きますよね。やはりその音をいかに作り込んでいくかが重要になるのでしょうか?

UTA そうですね。役割をしっかりさせる必要があると思います。サビで一番チャレンジしたのは、SPECTRASONICS KEYSCAPEのピアノを、コードではなくて単音弾きで入れたことです。これは今までやったことのなかったチャレンジでした。キックと干渉しないように、キックをトリガーにしたサイドチェインコンプをうっすらかけて、リバーブのValhalla DSP Valhalla Roomで深みを出しています。

——ピアノと言えば、アウトロも幻想的ですよね。川のせせらぎのようにも聴こえます。

UTA このピアノも全部KEYSCAPEで、ここで初めて和音が出てくるようにしています。川のせせらぎに聴こえるというのは、テープシミュレーターAUDIOTHING REELSのヒスノイズですね。柔らかくて温かみのある音色が好きで使っています。アウトロは元々最後のサビの前にくるブリッジみたいな扱いだったと思うのですが、大知君のアイディアで、あえてサビを持ってこずにここで終わるという構成になりました。

AUDIOTHING REELS

アウトロのピアノSPECTRASONICS KEYSCAPEにかけたテープシミュレーターAUDIOTHING REELS。シンプルで使いやすく、仕上がりが柔らかくて温かみがあるところを気に入っているという

——バースの“手を振り細胞におやすみ”の直後にピアノが1音だけ響くのも印象的です。

UTA ああいう“違和感”を作るのが好きで、大知君と曲を作るときによくやるんですよ。例えば2020年の「Not Today」も、あえてボーカルに隙間を空けて“あれ、一瞬止まったな!”と感じるようにしています。人の耳って予定調和じゃ満足しないじゃないですか。ここのピアノも実は余韻を急に切って、世界がパッと変わるようにしています。これって、音数が少ないならではの遊び方ですよね。音がいっぱいあったらそういう仕掛けには気が付かないじゃないですか。

「Sheep」プロジェクト画面

「Sheep」のAbleton Liveプロジェクト画面。黄枠が2番のサビの前の部分。ピアノが1音だけ鳴る部分(紫)、スネアが1音だけ鳴る部分(白)、SPECTRASONICS Omnisphereで作ったベースのスライドをリバースしたもの(黄色)などの意図的に入れた“違和感”を、実際に曲を聴きながら見てみてほしい

——リリースのトレモロも引き込まれる理由の一つに思います。

UTA これは soundtoys Tremolatorで、DEPTHがだんだん深くなるようにオートメーションを書いています。あとはサビの直前に、それまで1回も鳴らしていないスネアを1音だけ入れているのも“違和感”の一つです。2サビの前には、OMNISPHEREで作ったベースのスライドをリバースして入れるなど、さらなる仕掛けを加えています。音数は少ないけど熱量はめちゃめちゃあるみたいな、“ぐっとくる感じ”を作りたかったんです。

soundtoys tremolator

サビ前で1音だけ鳴るピアノXLN AUDIO Addictive Keys 2には、soundtoys Tremolatorをかけていて、DEPTHがだんだん深くなるようにオートメーションを書いている(画面上部)

——コーラスは、ひずんだ低い声が突然入ってきたり、ランダム感のある裏メロが入っていたり、ハッとさせられます。

UTA 低い声はsoundtoys Little AlterBoyで大知君の声のピッチやフォルマントを変えたものです。2サビ後半の裏メロは、デモ録りのときに大知君にいろいろ歌ってもらったものをどんどん入れていきました。ものによっては、トレモロをかけてみたり、ピッチをしゃくってみたり、逆にフォールさせてみたり、いろいろ加工しています。こういう声が入ると、不思議な世界が広がる感じが生まれるんですよね。

——UTAさんは多くのアーティストと楽曲を作られていますが、三浦さんの個性、魅力とはどんなところだと思いますか?

UTA アイディアが無限なところだと思います。ダンサーでありシンガーでもあるから、歌うだけの人にはない音やリズムの入れ方があるんですよ。“ここのキックの位置を半分後ろにずらしてみませんか”とか“ここでブレイクしていいですか”とか、聞いたことのないようなアイディアが出てきます。だからこそ僕は、その要望に絶対に応えたいと思っているんです。最初は“そんなことする……?どうなんだろう”って思ったこともありましたが、やってみたら“ありかもしれない”と思うことが結構あって。大知君とのそういうやりとりがあったからこそ、自分自身も成長できたのかなと思いますね。

——今後はどんなことにチャレンジしていきたいですか?

UTA 大知君はNao’ymtさんとアルバム『球体』を作ったじゃないですか。“次はUTAさんと作りたい”という話もしてくれていたので、僕と大知君にしかできないアルバムを作ってみたいなと思います。

UTA

UTA
【Profile】音楽プロデューサー。三浦大知、東方神起、AIへの提供曲でレコード大賞優秀作品賞、BTSの楽曲でiTunesワールド・チャート首位、Billboard Japan Hot 100の8位を獲得。日本や韓国のポップスにとどまらず、海外とのリレーションを生かし活動の場を広げている。これまで楽曲提供したアーティストは、三浦大知、BTS、AI、ATSUSHI(EXILE)、久保田利伸、SHOKICHI(EXILE)、RIRI、JUJU、山下智久、SKY-HI、Crystal Kay、嵐など。​

Release

『OVER』
三浦大知
SONIC GROOVE:AVCD-98157 発売中

Musician:三浦大知(vo)、KREVA(rap)、Furui Riho(vo)、Nao'ymt(prog)、TOMOKO IDA(prog)、TSUGUMI(prog)、XANSEI(prog)、Seann Bowe(prog)、Adio Marchant(prog)、Grant Boutin(prog)、Will Jay(prog)、okaerio(prog、all)、Coleton Rubin(prog)、Nate Cyphert(prog)、Seiho(prog)、UTA(prog)
Producer:Nao'ymt、TOMOKO IDA、XANSEI、Grant Boutin、okaerio、U-Key zone、Seiho、UTA
Engineer:D.O.I.、Neeraj Khajanchi、松井敦史、Masato Kamata
Studio:Daimonion Recordings、NK SOUND TOKYO、他

関連記事