僕たちの“遊び”をそのまま伝えられる環境なので、今までで一番ピュアな形で音楽を届けられると思います
7年ぶりに活動を再開したGalileo Galileiのアルバム『Bee and The Whales』が、5月31日にリリースされた。札幌にある彼らのプライベート・スペース、わんわんスタジオにてセルフ・プロデュースで制作された本作は、リスナーが思い浮かべるようなGalileo Galileiらしさがありながらも、新鮮でより洗練された音像に仕上がった。その背景を解き明かすため、現メンバーである尾崎雄貴(vo、g/写真中央右)、岩井郁人(g、k/写真中央左)、岡崎真輝(b/写真左)、尾崎和樹(ds/写真右)の4名へインタビューを敢行。“すべての機材のツマミを全員でいじって音作りする”など、彼らにしかなしえない独自の制作スタイルが浮かび上がってきた。
“Galileo Galileiという人物でいる”ということが重要
——再結成、そしてアルバムの完成、おめでとうございます。すごく新鮮で、洗練された音像ですね。これは、みなさんがソロなどの活動を通して得たものが反映されているからなのでしょうか?
尾崎(雄) ありがとうございます。確かにそれぞれの経験自体は制作の中で生きたとは思うのですが、今回のアルバムを制作していてすごく良かったのは、メンバーそれぞれの仕事人的な部分が出過ぎなかったところだと思っています。
——新たなアプローチやテクニックを意図的に詰め込んだというよりは、自然に生まれたサウンドということですか?
尾崎(雄) そうですね。僕らは “Galileo Galileiという人物でいる”ということが、すごく重要だと思っています。みんなでわいわい楽しく自然に音楽を作っていたら、いつの間にかこういう風になったっていう認識なんです。
——バンドを組んでいる人にとって、まさに理想の形ですね。サウンドのテーマなどは設定されたのでしょうか?
尾崎(雄) 基本的に僕らはGalileo Galileiですごく良いものを作ろうっていうことしか考えていなくて。だから、このアルバムを聴いたときに何か感じることがあれば、多分それがテーマですね。アルバムが完成した後に、あらためて自分たちで聴いて出てきた言葉は“解放”です。今僕たちはすごく自由な状態で。お仕事としてやっていると“そうしなきゃいけないからそうする”っていう思考になっちゃうことがあるんですが、今作はそういうのがない。制作のすべてが楽しい遊びなんですよね。今はその遊びがそのまま聴いてくれる人に伝わるっていう環境なので、今までになく一番ピュアな形で音楽を届けられるんじゃないかと思っています。
——制作はすべてこのわんわんスタジオで?
尾崎(雄) そうです。みんなで集まってわいわい楽器を演奏していると、みんながやりたいことが反映された下書きみたいなものができるので、僕らはそれを“デモ”と呼んでいます。まずはそのデモをためていって、その後本腰を入れてブラッシュアップしていく感じですね。
——“こういう曲にしたい”という話は事前にしないのですね。
尾崎(雄) そうですね。でも、曲ができてきてから思い浮かんだワードを伝えることはあります。そこからみんながかいつまんで、解釈してくれているんだろうと思います。
——ワードを言われて、困ることはありませんでしたか?
尾崎(和) 基本的に困ることはないですね。どうにかすれば表現できるだろうって思っています。みんなが居るから平気っていう意識もありますね。例えば“怒っている感じにしたいよね”って言われたとして、俺がそれを表現できなくても、ほかのみんながきっと何とかしてくれるんです。
尾崎(雄) 岩井くんに“上手に弾かないんでほしいんだけどちゃんと弾いてほしい”って伝えると、すぐに“OK”って言ってくれる。普通の人なら“どうしろっていうんだよ”って思われてしまいそうですけどね。
岩井 答えが明確じゃないからこそ、自分なりの答えを出すという楽しさがあるんですよ。
——曲作りでDAWなどのツールは使いますか?
尾崎(雄) 僕らはAPPLE Logic Proを使っていて、みんなでそのプロジェクトに音を入れていくんです。岩井くんは、自分のMacでMELLOTRONの音を作ってみたり、自分で録りためていたサンプルからパッドを作ったりもしていますね。本当にみんな思い思いやるっていう感じで、そこに誰か一人の強いプロデュース力はありません。1枚のでっかいキャンバスにみんなで色を塗っていって、誰かが塗ったやつの上にさらに塗って台無しにすることもあれば、めちゃくちゃ良い色になることもある、みたいな制作の仕方なんですよ。
楽曲は楽器との“一期一会”で作られていく
——今作はサンプリングも大きな特徴かと思いましたが、岩井さんは普段から素材を集めているのですか?
岩井 楽曲提供を行う際にボイス・サンプルを録らせてもらったり、自分の声でドラムやベース、シンセのような音を作ったりもしています。今回はLAUSBUBの芽以ちゃん(髙橋芽以)の声をボイス・シンセにしたりもしていますね。
尾崎(雄) 岩井くんが持っているサンプルの量は膨大なんですよ。僕は“岩井アーカイブ”って呼んでいます(笑)。
——こういったアレンジはいつ思いつくのですか?
尾崎(雄) みんなで曲を作っていく中で、後からイメージが生まれてきます。「ギターバッグ」は、主人公がギターを背負って仲間に再会するというストーリーを作りたくて、岩井くんに実際にギターのバッグを開け閉めしてもらいました。映画の効果音みたいなものに近いかもしれないですね。
——ジャズやエレクトロニックな要素などがバンド・サウンドに溶け込んでいるという印象もありました。これは意識的ではなく、楽しんで曲を作っていく中で自然にそうなったのでしょうか?
尾崎(雄) 制作中にみんながよく“一期一会だな”という言葉を使っていて。その日、散らかったスタジオの中で一番触りやすいところにシンセが偶然置いてあって、それを弾いていたらそういう曲になっていったということが結構ありました。そこでもし“シンセはなんか違うな”って思ったら、別の楽器に変えてみることもよくあります。
岩井 僕が1日かけて考えたギター・パートがいつのまにか別の楽器に置き換わっているということもよくあるんです。全員変なプライドがないので、“せっかく考えたんだから入れようよ”みたいなことは起きないんですよ。
——“せっかくだから”という考え方はある意味純粋ではないのかもしれませんね。The 1975などの海外のインディー・ロック・バンドにインスパイアされたところはありましたか?
尾崎(雄) The 1975の新しいアルバムはすごく自由に感じました。ソング・ライティング的なところよりも、そういう感覚的なところに一番影響されますね。僕ら、サンレコもコロコロコミックと同じような気持ちで読んでいて(笑)。いろいろな人がいろいろな作り方をしていて、そういうのがドラマとして面白いと思うんです。また、サウンドをみんなで研究するというのも、制作の中で自然に起こります。“The 1975のドラムってこんなに音がでかいのに、どうしてそういう風に感じないんだろう”っていうことをみんなで話していろいろ試してみるというプロセスが、作曲の中にくっついているんですよ。
機材のツマミは全員でいじります
——今回はレコーディングをバンド内で完結されたそうですが、エンジニア的な役回りは和樹さんが?
尾崎(雄) 和樹は同じところにずっと座って画面を見ていられるので、自然とそういった役割をしていますね。
——新しく導入した機材などはありますか?
尾崎(雄) 使い方を変えた機材はあります。今までベースにしか使っていなかったアウトボードをボーカルに使ったほか、ボーカルのピッチを生成して和音にするという目的で導入したはずのEVENTIDE H8000は、結構良いコンプレッサーが入っていて、フィルターも面白いものが入っているということに気づき、今作はそれらを目的に使いましたね。
岩井 ほぼ全曲最後にもう一度アウトボードに通して、音の距離感や立体感をコントロールしたのも新たな試みでした。EMPIRICAL LABS EL8 DistressorやUNIVERSAL AUDIO 1176LN、BRENT AVERILL 1073などを使いましたね。
尾崎(雄) 僕らにとってこういうアプローチは、ギタリストがアンプやペダルで音作りをする感覚に近くて。機材がソングライティングに直結しているんですよ。
——メインのエンジニアは和樹さんが担当されていますが、音作りはみなさんでやっていくスタイルなのですね。
尾崎(雄) 和樹はデータをみんなが分かりやすいように整理したり、回線周りのシステムを組んだりしてくれています。機材のツマミをいじるのは全員なんですよ。みんなでアウトボードの周りに集まって音作りします。
——みなさんにそういった知識があるのですね!
尾崎(雄) そうですね。さすがにやっちゃいけないことは今まで試してきた中で分かってきました。札幌にある芸森スタジオでエンジニアの方に横で見てもらいつつ、自分たちで録音するということなども経験してきているんです。
——ボーカルはどのようにレコーディングをしましたか? サチュレーションが効いた曲が多いなと感じました。
尾崎(雄) プリアンプのBRENT AVERILL 1073で結構ひずませています。みんなサチュレーションの効いた音が好きだというのもあって、割とアウトボードのかけ方は乱暴かもしれません。あとはオープン・リール・デッキTEAC A-3340を使うこともありました。これはドラムにも使っています。もうちょっと曲を面白くしたいときに使うことが多いですね。
——ギターはどのようにレコーディングを?
尾崎(雄) 謎の倉庫スペースみたいなところにFENDER Deluxe Reverbを入れて、マイクを立てて録っています。
岩井 アンプやペダルのツマミもみんなでいじるんですよ。
尾崎(雄) “ちょっといい?”って言ってめちゃくちゃひずませることもあります。スネアのピッチなんかも、“この高さの方が良いかな~”って話しながら、みんなで決めるんです。
——それはすごいですね!
岡崎 みんな自分の楽器の音作りを自分でしたいというプライドがないんです。楽曲に合っていればそれで良いという認識なので、自分の音がいじられたからというのでけんかになることもありません。
——ベースも倉庫スペースでレコーディングするのですか?
尾崎(雄) いえ、お風呂場です。
——お風呂場! 響きなどは気にならないのですか?
尾崎(雄) めっちゃ響きます(笑)。でも、あの手この手でノイズや響きを解消しようとするのも楽しくて。“やったー!枕1個でノイズが減ったぜ!”みたいな。
岩井 そもそも、どこでも録れるようなデッドな音にしたいという考えがないので、この家の鳴りが録れちゃったらそれはそれで面白いよねっていうスタンスでいるんです。
岡崎 今作はドラムとベースを一緒にレコーディングする曲が多かったので、かぶりがないようにリビングにはドラム、お風呂場にベースという配置にしたというのもありますね。
クリスとなら自由さを保って制作できると思った
——ミックスはPOP ETCのクリストファー・チュウさんが手掛けています。依頼したきっかけは?
尾崎(雄) クリスは家族ぐるみで仲が良いんです。クリスとだったら、今僕らがここで行っている自由さを保ちながら制作ができるんじゃないかと思ってお願いしました。
——何か伝えたことはありましたか?
尾崎(雄) クリスはBBHFの曲もミックスしてくれたし、僕らの歴史も知ってくれていたのですが、Zoomで一度話したときに、“最初はどうすればいいか分からなかった。Galileo Galileiっていうサウンドを自分の中であらためて見つける必要があった”と話していて。それが、「汐」という曲でパッと見えたらしいんです。そこから急に送られてくるミックスのクオリティが上がりました。お互いがつながりあえるグルーブみたいなものが、クリスの方にも僕らの方にもこの曲でできたんだと思います。あの瞬間はすごく音楽的でしたね。
——最後にの楽曲制作における今後の展望を教えて下さい!
尾崎(雄) この前ソニー・スタジオでポーター・ロビンソンと僕らの楽曲をセッションしたんです。そこで音楽を分かち合えている喜びみたいなものを思いっきり感じることができたんですよ。なので、これからもっといろいろなアーティストとコラボレーションしていきたいなと思っています。
Release
『Bee and The Whales』
Galileo Galilei
Ouchi Daisuki Club Records
Musician:尾崎雄貴(vo、g)、岩井郁人(g、k)、岡崎真輝(b)、尾崎和樹(ds)、髙橋芽以/LAUSBUB(cho)、日向文(cho)
Producer:Galileo Galilei、クリストファー・チュー/POP ETC
Engineer:クリストファー・チュー/POP ETC
Studio:wan wan studio、Headphone Cave