早くダブ・プレートにして現場でかけたいという思いを優先する
世界の各都市で活躍するビート・メイカーのスタジオを訪れ、音楽制作にまつわる話を聞く本コーナー。今回紹介するのは、音楽都市ブリストルを拠点に活動する、ダブステップ/グライムのベテランDJ兼プロデューサーのカーン&ニーク。レーベルBandulu Recordsを主宰する傍ら、ゴーゴン・サウンド名義でステッパーズ・ダブ楽曲も制作し、それぞれソロやコラボレーションでの制作も行う。2月に待望の1stアルバムを発表予定。
キャリアのスタート
カーン 僕が17歳くらいの頃にニークは既に地元のクラブでDJをしていて、ブリストルで最も早くダブステップをプレイしていた一人だった。友人の紹介で一緒にDJをするようになり、曲も作ってみようとなった。その後、自分たちのDJセットでかける曲を作るために毎週一緒に制作をするようになったんだ。ニークの方がDJとしての経験が長くて知識が豊富だったので、彼がアイディアを持ってきて、僕がオペレーションをするような感じで始まった。最初のリリース曲「Percy」なんてニークが持ってきたサンプルを元に、勢いだけで2時間くらいで作ったトラックだよ(笑)。最初からカーン&ニークとゴーゴン・サウンドというスタイルの違う二つのプロジェクトを並行してやっていこうと決めて、カーン&ニークの受け皿としてレーベルBandulu Recordsも始めたんだ。
ビート・メイクの手順
ニーク ネタはフィールド・レコーディング、レコード、映画のサントラ、YouTubeやTikTok、Instagramでランダムに見つけた音もある。古い携帯の着メロとかね……それを、これまた古い携帯電話で録音するんだ。それだけで独特のテクスチャーが加わるから、今も録音用に持ち歩いている(笑)。
カーン そうやって集めたサンプルを2人で聴いてアイディアを出し合うところから僕らの音楽は作られている。とっかかりになるものをAPPLE Logic Proでアレンジするんだ。偶然性を重視して、ABLETON LiveでサンプルをMIDIキーボードで鳴らしたり、コードみたいに同時に弾いてみることもある。ヒントをもたらすサンプルを使うことで曲の方向性が定まって、あれこれ考えなくても自然と曲になっていくんだ。
モニター/ミックス・ダウンについて
ニーク フロアでの鳴り方を良くするためには、クラブに頻繁に行くことだね(笑)。僕らはDJセットでかけるために曲を作っていたから、週末までに完成させて、すぐに現場の本番でかけることを繰り返してミックスの技術が磨かれたと思う。
カーン 僕らの音楽の核心はサブベースにあるので、自宅や音量制限のある環境ではなかなか再現できないけど、僕の場合は長年使っているモニター・スピーカーなので把握できる。スピーカーに指をかざして、その振動で判断したりもするよ、ゴルファーが風向きをチェックするみたいに(笑)。あとは、2012年頃に作った鉄板のサブベースのプリセットを元に調整するんだ。当時、ローファ(Loefah)の曲はサブベースが強烈だという同業者間の認識があって。彼の曲をかけたときのモニターでの鳴り方や波形を参考にした。
ニーク そもそも僕らはプロっぽい音作りを目指したことが無かった。ローファの曲も洗練されていないところが魅力で個性なんだ。そういう意味で、遊び心は大事にしている。
カーン グライムって、実はパンク・ロックのアティチュードだと思うんだ。DIYで、正解は無く、むしろ正しいとされているものを無視してやりたいようにやる。完成度を追求するよりも、早くダブ・プレートにして現場でかけたいという思いが優先されていた。それが僕らのアプローチでもあるし、ブリストルという街の音楽環境に後押しされていたかもしれない。
読者へのアドバイス
ニーク 恐れることなくなんでもサンプルしまくろう!
カーン 正解である必要はない。自分が良く聴こえると思うことを優先して!
SELECTED WORK
『Lupus et Ursus』
カーン&ニーク
(Bandulu Records)
自分たちがほかの音楽から受けた影響を反映し、クラブ・ミュージックを基調にしながら、よりダークでウィアードな方向性になった。