ミックスの段階で役に立つCubaseの便利機能&ショートカットを紹介|解説:木下龍平

ミックスの段階で役に立つ便利機能&ショートカットを紹介|解説:木下龍平

 こんにちは。SUPA LOVE所属作家の木下龍平です。私が担当させていただいた連載も、早いものでいよいよ最終回となります。今回は主に曲を仕上げるミックスの段階で役に立つお話ができればと思いますので、最後までどうぞよろしくお願いいたします。

最初にやっておくと便利な“ちょっとした”処理

 今や、シンガーやミュージシャンが自宅でレコーディングをして、データのやり取りをしながら曲を制作するのが当たり前になりましたよね。ほかの人から歌やギターなどのパラデータをもらうことも多いと思うのですが、そういったデータをエディットしたりミックスする前にやっておくことで後の作業がしやすくなる、ちょっとした処理をご紹介します。

 まずは無音部分のカットについて。データを送る際、通常はプロジェクトの頭から書き出すと思うのですが、トラックによっては1曲通して常に音が入っているとは限りませんよね。例えば、数カ所しか入っていないコーラスやオブリガートのトラックは、むしろ無音の部分の方が多くなっていると思います。Cubaseにはそういったオーディオ・トラックの無音部分を自動でカットしてくれる機能があります。まずはこの処理を行うことで、プロジェクトの視認性が良くなり、イベントのエディットがしやすくなります。

 方法は簡単です。処理したいイベントを選択した状態で、メニュー・バーから“Audio→高度な処理”をクリックし、“無音部分の検出”を押してみてください。いろいろなパラメーターが表示された画面が出てきて戸惑うかもしれませんが、大事なのは“オープンスレッショルド”と“クローズスレッショルド”というパラメーターだけ。要は“この値よりも小さい音をカットしたい”という設定をすればよいのです。

イベントに含まれる無音部分を検索できる、無音部分の検出ダイアログ。赤枠内の“オープン/クローズスレッショルド”では、ゲートが開閉する際の音量を決めることが可能。設定した値よりも低いレベルの波形が無音部分として検出される。“リンク”にチェックを入れると、“オープンスレッショルド”、“クローズスレッショルド”を同時に変化させることができるので、基本的には一緒に設定してしまえばOK

イベントに含まれる無音部分を検索できる、無音部分の検出ダイアログ。赤枠内の“オープン/クローズスレッショルド”では、ゲートが開閉する際の音量を決めることが可能。設定した値よりも低いレベルの波形が無音部分として検出される。“リンク”にチェックを入れると、“オープンスレッショルド”、“クローズスレッショルド”を同時に変化させることができるので、基本的には一緒に設定してしまえばOK

 この2つのパラメーターはリンクさせて同時に設定することができます。設定したら、“処理を実行”を押すだけです。

上画像の状態での“無音部分の検出ダイアログ”で処理を実行すると、下画像のように無音部分が削除され、複数のイベントに分割された状態になる

上画像の状態での“無音部分の検出ダイアログ”で処理を実行すると、下画像のように無音部分が削除され、複数のイベントに分割された状態になる

 併せてご紹介したいのが、範囲選択した部分を切り出してくれる機能です。同じオーディオ・イベント内でも、アコギのアルペジオや低めの音域で歌ってもらった部分はどうしてもほかよりもボリュームが下がって聴こえづらくなってしまいます。私はこういうちょっとした調整をしたいとき、ボリュームのオートメーションを書くよりも、イベントの波形のレベル自体をいじってしまうのですが、そういった際にこの機能を知っておくと便利です。こちらもやり方はとても簡単で、編集したい部分を範囲選択ツールで選んだ状態にしてShift + Xを押すだけ。ぜひ試してみてください!

左の画像のように切り込みを入れたい部分を範囲選択して、Shift +Xを押すと、選択した部分の前後に切り込みが入り、独立したイベントになる

左の画像のように切り込みを入れたい部分を範囲選択して、Shift +Xを押すと、選択した部分の前後に切り込みが入り、独立したイベントになる

複数トラックのボリュームやパンを同時に調整できる機能

 ミックスの際、複数のトラックのボリュームやパンを同時に調整したいときって、よくありますよね? グループチャンネルなどでまとめてある場合は問題ないのですが、そうでない場合は一つ一つ調整しなければならず少々手間です。

 ここで知っておくと便利なのが、とてもシンプルな操作で複数のトラックのパラメーターを調整できるQ-Link(クイックリンク)という機能。同時に調整したいトラックを選択した状態で、MacならShift+Option、WindowsならShift+Altを押しながらパラメーターを操作すると、Q-Linkがオンの状態になり、選択されたトラックのパラメーターがすべて同じように動いてくれます。

複数トラック(赤枠)を選択した状態で、MacならShift+Option、WindowsならShift+Altを押しながらパラメーターを操作すると、選択されているトラックのパラメーターを同時に動かせる(左画像がパラメーターを動かす前で、右が後)。画像はミキサーの画面だが、プロジェクトウィンドウでも同様の操作が可能

複数トラック(赤枠)を選択した状態で、MacならShift+Option、WindowsならShift+Altを押しながらパラメーターを操作すると、選択されているトラックのパラメーターを同時に動かせる(左画像がパラメーターを動かす前で、右が後)。画像はミキサーの画面だが、プロジェクトウィンドウでも同様の操作が可能

 ミキサー画面では“Q-Link”というボタンが点灯するので分かりやすいですね。ちなみに直接このQ-Linkボタンを押せば、常時“Q-Link”がオンの状態になってくれます。

 また、Q-Linkのすぐ左隣にある“Abs”というボタンは“アブソリュート・モード”というもので、こちらを押すと選択したトラックのパラメーターが、操作した値と完全に同じになります。相対的に動く“Q-Link”と、状況に応じて使い分けるとよいでしょう。

ミキサー画面の上部。赤枠がQ-Linkのボタン。このボタンを押せば、Q-Linkが常にオンの状態になる。Q-Linkの左隣のAbsボタン(黄枠)は、クリックした状態でパラメーターをいじると、選択したトラックのすべてのパラメーターが完全に同じになる

ミキサー画面の上部。赤枠がQ-Linkのボタン。このボタンを押せば、Q-Linkが常にオンの状態になる。Q-Linkの左隣のAbsボタン(黄枠)は、クリックした状態でパラメーターをいじると、選択したトラックのすべてのパラメーターが完全に同じになる

ショートカット登録しておくと便利な機能を一気に紹介!

 最後に、これまでに紹介していない“ショートカットに登録すると便利な機能”をまとめてご紹介します。

●全体を表示

 デフォルトでShift+Fに割り当てられています。プロジェクトウィンドウやキー・エディターのイベントすべてが画面に収まるように横の倍率を調節してくれる機能です。

●トラック上のすべてを選択

 オートメーションを書いている場合、オートメーション・カーブも含んですべてのイベントが選択されるようになっています。登録しておくと、ボリュームをまとめて調整するときなどに便利です。

“トラック上のすべてを選択”を実行すると、上の図のようにオートメーション・カーブも含んですべてのイベントを選択してくれるので、ボリュームをまとめて上下させたいときなどに便利

“トラック上のすべてを選択”を実行すると、上の図のようにオートメーション・カーブも含んですべてのイベントを選択してくれるので、ボリュームをまとめて上下させたいときなどに便利

●選択した最初のトラックの名前を変更

 ショートカット・キーをクリックして、文字を入力するだけでトラック名を変更できるようになるので、地味に便利です。トラックの名前はトラック名をダブルクリックして変更できますが、なるべくキーボードとトラックボール(マウス)を行き来しない方が時短になると思います。

●マーカーを挿入

 デフォルトのショートカットにも“マーカー1を設定”“マーカー2を設定”……といったものはありますが、“マーカーを挿入”にショートカット・キーを登録しておけば、キーを押していくだけで、自動で番号順にマーカーを入れてくれます。

●左ロケーターをプロジェクトカーソル位置に設定/右ロケーターをプロジェクトカーソル位置に設定

 こちらもデフォルトでショートカットが設定されているのですが、テンキーの付いていないノート・パソコンでは使えない設定になっています。結構使用頻度が高いと思うので、別のキーを割り当てておくとよいでしょう。

 全4回にわたりお付き合いいただき、ありがとうございました。これは持論ですが、基本的に自分が使っているCubaseをほかの人が触る機会ってほとんどないと思うので、ショートカットや設定などは好き放題カスタマイズしてしまってよいと思います。例えば自分も、元々ショートカット・キーが設定されていたとしても、押しやすい位置に割り当て直したり、あまり使わないものはちゅうちょ無く上書きしてしまっています。こういった自由度の高さがCubaseの魅力です。ぜひ、皆さんなりの使い方を探してみてください。

 

木下龍平
【Profile】SUPA LOVE所属の作詞作曲編曲家。15歳よりベースを始める。専門学校を卒業した後、バンドやアーティストのレコーディング、ライブのサポートのほかに講師としても活動。近年ではTVアニメ『ドラえもん』のキャラクター・ソング 「ジャイアントドリーム」の作編曲や、TikTokで話題になった「チグハグ」のアレンジを担当した。声優/アニメ作品のほか、アイドルやJポップ・アーティストへ幅広く楽曲を提供している。

【Recent work】

『サクラフレフレ』
THE SUPER FRUIT
(TSUBASA RECORDS)
※共同作曲、編曲で参加

 

STEINBERG Cubase

LINE UP
Cubase LE(対象製品にシリアル付属)|Cubase AI(対象製品にシリアル付属)|Cubase Elements 12:13,200円前後|Cubase Artist 12:35,200円前後|Cubase Pro 12:62,700円前後
*オープン・プライス(記載は市場予想価格)

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 11以降
▪Windows:Windows 10 Ver.21H2以降(64ビット)
▪共通:INTEL Core I5以上またはAMDのマルチコア・プロセッサー、8GBのRAM、35GB以上のディスク空き容量、1,440×900以上のディスプレイ解像度(1,920×1,080を推奨)、インターネット接続環境(インストール時)

製品情報

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