僕ら界隈で、今回のコロナ禍で一番ホットなのはやはり配信関連。音楽家たちをメイン・ターゲットと定め、音質をウリにしたサービスの登場や、今や配信も興行時代で前売りから投げ銭までありつつも自社の手数料の低さをウリにするなど、配信サイト間の戦いもかなり激化してきた。それまで“特別な世界だった”配信技術のコモディティ化の速度に日夜驚かされている。賛成派と“にわかYouTuberか? 音楽家は音楽やれよ”と言う批判派に二分し、YAMAHA Netduetto β*1を使って、いかにして遅延を抑えた遠隔ライブを果たすのかが注目される毎日。いやぁホント、キープ・ポジティブも大変だよ。
1 インターネット越しに、リアルタイム音楽セッションを行うことができる技術。後継となるSYNCROOMがローンチ予定
配信新時代であらためて密かに話題となっているのが著作権問題。その中でも要注意なのは原盤権だ。例えば最近目にするDJたちの生配信プレイ。こちらはたとえ配信サイト自体がJASRACなどと包括契約を結んでいたとしても、原盤権はグレー。というかアウト。合法的に配信したいのならば使用する曲それぞれを原盤所有のレコード・メーカーにお伺いを立て、要求された条件をクリアし、もちろんお支払いも済ませないとプレイできない。さらに、著作権上でもピッチ(テンポ)を変更したりするならば同一性保持権*2に引っかかる可能性もあるし、海外の曲を使いまくったDJ動画をアーカイブした日にゃシンクロ権*3や送信可能化権&公衆送信権*4なんてさまざまな問題も……。
2 著作者人格権の一種であり、著作物及びその題号につき著作者の意に反して改変を受けない権利(著作権法第20条)。DJのピッチ・チェンジが、適用除外となる“著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変”かは議論の余地がある
3 映画やDVD、テレビCMなどにおいて映像と同期して音楽を録音する場合に処理が必要。海外楽曲のシンクロ権については権利者に直接許諾申請が必要となることが多い。往々にして高額
4 著作物をインターネットなどのサーバーにアップロードして公衆に送信し得る状態にできる権利(同第23条)。著作物をサーバーなどにアップロードするだけでも著作者の許諾が必要
この配信新時代、渡るDJにゃ闇ばかり。さらに原盤に関してはDJだけでなく、ヒップホップやレゲエ界隈の方々が“トラック”と呼んでいる、ライブを行う際に使ういわゆるカラオケの問題も含む。個人的にこの問題を深く切り込んだものを見聞きしたことが無いのだが、多くの場合、使用するカラオケはレコーディング=原盤制作時に作成されたもので、当然その権利も原盤権所有者=レーベルなどにあるのではないかと俗っぽく推測している。そのトラックを使ったライブ映像を配信したりアーカイブ化することは……一体どうなんだろうか?
古くからパイレーツ・ラジオなどをはじめとする同様の問題を抱え進化してきたアメリカなどでは、シンプルに報酬請求権*5などで内容に応じた額の支払いで解決してきている。では日本も? まだまだ許諾権を崩したくない権利者も多く、ますますネットが勝手な場にされてしまう恐れもあり(良しあしの問題とは別にそうした部分が少なからず存在することがネットをここまで急成長させた理由の一つではある)、そう簡単に事が進む状況とは言えないと感じている。
5 自分の実演が録音されたCDなどが、放送や有線放送で使われた場合、放送事業者などに対して使用料(報酬)を請求できる権利
それでもこの国の、特にダンス・ミュージック・カルチャーがコロナ禍を乗り切るには配信は必須。レンタル・レコード事業者が度重なる訴訟の果てに、多額の著作権使用料から原盤使用料、著作隣接権使用料を支払うことになっていったように*6、配信サイトなどのネット・メディアもそろそろ白黒つけていかねばと思っている。その前に、まずはDIY気取りで“YouTuberになるつもりじゃないんですけどね”などと言い訳混じりで、覚えたばかりの配信のイロハを使って日夜グレーな配信を繰り返す人たちに、そうした権利関係の仕組みとその歴史くらいは学んでほしいと切に願っている。必要とする現場が声を上げない限り、歴史は動いたとしても決して好転はしないのだから。
6 1984年に貸レコード暫定措置法が施行、1985年には改正著作権法が施行され、レコード製作者に貸与権と報酬請求権が付与された
MUSIC DON’T LOCKDOWN
グランドフェス -Vol.2- Supported by FALCON
音楽にかかわる人々を「封鎖」せず、音楽を楽しむ人々同士を「封鎖」しないために、いとうせいこうが発起し、本稿筆者のWatusi(COLDFEET)も携わるオンライン・フェス「MUSIC DON’T LOCKDOWN」。そのの拡大版となる「MUSIC DON’T LOCKDOWN グランドフェス」Vol.2が6月26〜28日の3日間、無観客配信スタイルで開催決定!
6月26日(金)
12:00〜22:00 投げ銭のみ
出演:須永辰緒、Zeebra、DJ TAMA、DJ TATSUKI、サイモンガー・モバイル、ザ・スリーメン、ロミハリマリー、紙芝居の◯◯一味、しりあがり寿、他
6月27日(土)
18:30〜24:40 600円+税 いとうせいこう監修限定パンフレット付き
出演:いとうせいこう、Watusi (COLDFEET)、菊地成孔、宇川直宏 (DOMMUNE)、ANI(スチャダラパー)、Zeebra、高木完、東生亭世楽、DJ WADA(Co-Fusion)、KO KIMURA、Naz Chris、KITKUT、川松真一朗(都議)、入江のぶこ(都議)、奥澤高広(都議)、南雲由子(板橋区議)、他
6月28日(日)
18:00〜22:00 1,000円+税 いとうせいこう監修限定パンフレット付き
出演、GO-BANG'S(森若香織、會田茂一、FairyRock)、THE BASSONS(DARTHREIDER a.k.a. ReiWordup、Daisaku Katsuhara、Koji Ota、DUB MASTER X)、清水宏、ラサール石井、ぜんじろう、インコさん、グレート義太夫、中島岳志、いとうせいこう、他
詳細は下記まで。
https://mdl.spwn.jp/
Watusi (COLDFEET)
【Profile】Lori FineとのユニットCOLDFEETのプログラマー/ベーシスト/DJとして、国内のみならず欧米やアジア各国でも多くの作品をリリース。国内では中島美嘉、hiro、安室奈美恵、BoAなどの楽曲プロデュースを手掛け、アンダーグラウンドとメジャーとの接続を試みてきた。2015年には“21世紀の正しいディスコ”をキーワードにしたユニット、Tokyo Discotheque Orchestraをスタート。DUBFORCEや“いとうせいこう is the poet”のメンバーとしても活動している。TOKYO DANCE MUSIC WEEK発起人の一人。ライブ・ストリーミング・イベント、MUSIC DON'T LOCK DOWNにもかかわる
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