第15回~“歌を作る”=ボーカルのOKテイク制作⑤~ピッチの話

皆さん こんにちは~。8月に入りました! 夏休みの計画はどうですか? 私は休みでないのですが、シンガポールでこの原稿を書いています。後はフェスに行ったり……。折角いろいろ動くので、SNSで写真でもアップしようかな。もしよかったらFacebookなど覗いてみてください。中脇雅裕で検索可能です!

ピッチ補正はするべき? しない方がいい?

さて、ボーカルのOKテイク制作も5回目。今回はピッチの話をしましょう! ボーカルのOKテイクを作る中できっとこのピッチのことに関してはいろいろな意見があると思います。例えば、ピッチをプラグインなどで積極的に直す方向か、直さない方向か……とか。

私の意見は、“最終的に聴いた感じが良ければなんでもいいんじゃない⤴”です。w

あるエンジニアさんが、“レコード芸術を作るためにレコーディングはするんです”と言っていたことが私にはシックリ来ていて、最終的に音源として良いモノであれば何をしてもOKというのが私の意見です。

かなり歌唱力を評価されている日本の某女性シンガーはピッチが良過ぎるので、リスナーに親近感を持ってもらうためにあえてピッチの悪いテイクを選ぶこともある、と聞いたことがあります。

また、クラシックのオペラ歌手はオケよりほんの少し高いピッチで歌って声を浮き出させる、と聞いたこともあります。

ここで皆さんに伝えたいのは、ピッチが良い=ピッチが正確=良い歌ではないということです。

多くの歌は、歌詞をメロディとともに表現する手段です。そして、歌は聴く者にある種の感情を呼び起こします。

ボーカル・エディットはそれを支える手段です。ピッチもその表現の切り口の一つです。

ボーカルのOKテイクを作るために、皆さんは“完ぺきなボーカル”をイメージしているはずです。その完ぺきなボーカルはどんなピッチ感で歌い、そのことでどのような表現になっているかちゃんと考えてくださいね。

何度も言いますが
ピッチが良い=ピッチが正確=良い歌
ではないのです。

ピッチが改善したように聴こえるテクニック×3

とはいえ、このような話はピッチがある程度整っていて、それをさらに繊細にエディットして表現するときの話。つまり、ピッチに対して問題が無い場合、次に気にするポイントの話です。

もちろんピッチが悪い歌は、“下手だな~”となってしまします。前回までにも書いたように、私は歌録りでは表情や声の質を最優先にレコーディングしています(分からない人はこの連載を復習してくださいm( )m)。

なので、ピッチが明らかに悪いものはガッツリ修正してしまいましょう。自動で修正してくれるプラグインで良いと思います。ちなみに私は仮OKのボーカル・トラックにピッチ修正ソフトの種類ごとにかけ録りして、複数の“ピッチを自動で修正したトラック”を作ります。場合によってはANTARES Auto-Tuneを二重に入れる場合もあります。

それでも修正できない場合、やはりのCELEMONY Melodyneの登場となります。まあ、このソフトはやっぱり便利ですね。

なので私の場合、いろいろなプラグインでピッチを修正したボーカル・トラックが複数できます。

▲筆者が使っているピッチ補正ソフト。左上からSOUNDTOYS Pure Pitch、ANTARES Auto-Tune、WAVES Tune ▲筆者が使っているピッチ補正ソフト。左上からSOUNDTOYS Pure Pitch、ANTARES Auto-Tune、WAVES Tune

そして修正していない仮ボーカルOKトラックでピッチが気になる部分に対し、修正したトラックの中から良いものを選んで編集していきます。

このときピッチを修正したトラックを選んだことで何か表情が変わってしまっていやだな~と思ったら、修正ソフトを使用しないでピッチを直す方法があります。

まずはタイミングです。ちょっとピッチが低いなと思ったら少し前に出してみてください。逆にちょっとピッチが高いなと思ったら後ろにしてみてください。意外と良く聴こえる場合があります。

次にボリュームで調整する方法もあります。ピッチが気になるところのボリュームを少し落とします。これも効果があるケースが多いです。

さらに、実はボーカルのミックス・バランスによってもピッチ感は変わります。ボーカルが大きくてオケが小さい場合、比較的ボーカルのピッチが甘くても気にならなくなることもあります。

これで仮ボーカルOKトラックのピッチが整いました。

3度目になりますが、
ピッチが良い=ピッチが正確=良い歌でなはい!
のです。ピッチが整ったからと言って、安心しないでください。本当にそのボーカル・テイクは思っていた表情が出ているのか、何度もプレイバックして確認してみてくださいね。
そして必要なら各プラグインのオートメーションなどを駆使して、さらにピッチで表情を付けていきます。

この作業にルールはありません。良い音楽をお手本にして、いろいろと試行錯誤していくしかないですね。

次回はボーカル・トラックのボリュームの書き方などを考えてみたいと思います。

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【中脇雅裕】
プロデューサー/音楽ディレクター。CAPSULE、中田ヤスタカ、Perfume、手嶌葵、きゃりーぱみゅぱみゅなどのヒット作品に深くかかわる。アーティスト/クリエイターの成功とメンタルの関連性に日本でいち早く着目し、研究を重ねている。http://nakawaki.com

※本連載は毎月15日・30日近辺に更新していく予定です。お楽しみに!