Bitwig StudioのNote Gridで作るランダムなノートエフェクト|解説:Yuri Urano

Bitwig StudioのNote Gridで作るランダムなノートエフェクト|解説:Yuri Urano

 こんにちは!Yuri Uranoです。2022年も残りわずか。皆さんはどんな1年を過ごしましたか? 筆者は久々の海外渡航に、新たな音の表現方法の研究や実践もたくさん行いました。そして自分のノウハウをこのように皆さんと共有できる機会もいただき、感謝することがたくさんの1年でした。この連載もあっという間の4回目! 今回はNote Gridを使ってランダムなノートエフェクトを作っていきましょう。

ランダムなピッチはS/H LFOモジュールで

 Note Gridはノートの処理や生成が行えるモジュラー環境です。BITWIG Bitwig StudioにはアルペジエイターなどのMIDIエフェクトも備わっていますが、Note Gridを使えばよりユニークで高度なエフェクトをカスタマイズできます。

 今回は、任意の音源にランダムなピッチとゲート(発音タイミングをコントロールする信号)を送ることで、自動演奏を可能とするノートエフェクトを作ります。筆者は音源に、前回記事で作成したPoly Gridによるシンセサイザーを使いましたが、もちろん、皆さんがお気に入りのシンセなど、さまざまなデバイスを利用することもできます。特定の音源にとらわれず、自由に差し替えられるのもNote Gridの利点です。

 それでは、まずNote Gridをコントロールしたい音源の前にインサートして画面を開いてください。Note Gridの編集エリアにはデフォルトでNote InモジュールとNote Outモジュールが立ち上がっています。今回、Note Inは使わないので削除してください。次に、編集エリアの左側にあるインスペクターパネルで、Voices欄を“True”と“Mono”に変更します。この設定によりNote Grid内部のトリガーのみで信号を発することが可能になります。

赤枠がNote Gridで、前回Poly Gridで作成したシンセの前に配置。黄枠がNote Inモジュールでこちらは使わないため削除する。緑枠はNote Outモジュール。インスペクターパネルでは、Voicesの青枠欄に表示されている数字を下方向にドラッグして“Mono”に設定すると、白枠の欄が自動的に“True”に変更される

赤枠がNote Gridで、前回Poly Gridで作成したシンセの前に配置。黄枠がNote Inモジュールでこちらは使わないため削除する。緑枠はNote Outモジュール。インスペクターパネルでは、Voicesの青枠欄に表示されている数字を下方向にドラッグして“Mono”に設定すると、白枠の欄が自動的に“True”に変更される

 それではビルドしていきましょう。最初に、ピッチをコントロールするモジュールとして、S/H LFOモジュールを使用します。S/Hとは“サンプル&ホールド”の略で、ランダムな効果を得たいときに使うオシレーターです。さまざまな周波数がランダムに出力されます。

 では、S/H LFOから信号がどのように出ているかをOscilloscopeモジュールで確認してみましょう。S/H LFOのSIGNAL OUTをOscilloscopeのSIGNAL INへ接続すると、OscilloscopeのディスプレイにS/H LFOが出力する信号が表示されます。ただし、デフォルトでは表示スピードが速いので、Oscilloscopeを選択して編集エリア左側のインスペクターパネルで、Modeを“Slow”に切り替えてください。するとスピードがゆっくりになり、信号が波形として表示されるようになります。

 このOscilloscopeのディスプレイは、中央の高さが0を示しており、ピッチとしてはC3に該当します。S/H LFOを接続した際、デフォルトではプラス側(0より上側)にだけ信号がが表示されますが、C3より低いピッチも鳴らしたいので、S/H LFOの画面で“±”表示をクリックしましょう。そうするとマイナス側(0より下側)へも動くようになります。

左がS/H LFOモジュール(Randomカテゴリー内に用意されている)で、右がOscilloscopeモジュール(Displayカテゴリー)。S/H LFOでは“±”をクリックしてオンにする(赤枠)。またOscilloscopeを選択してインスペクターパネルでModeを“Slow”にすると(黄枠)、Oscilloscopeが右の画面のように波形で表示されるようになる

左がS/H LFOモジュール(Randomカテゴリー内に用意されている)で、右がOscilloscopeモジュール(Displayカテゴリー)。S/H LFOでは“±”をクリックしてオンにする(赤枠)。またOscilloscopeを選択してインスペクターパネルでModeを“Slow”にすると(黄枠)、Oscilloscopeが右の画面のように波形で表示されるようになる

 ただ、この信号は上下に大きく動いているので、ピッチに置き換えると、音が飛ぶことが推測できます。そこで、信号を減衰させるAttenuateモジュールを使います。S/H LFOのSIGNAL OUTとAttenuateのSIGNAL INを接続し、さらにAttenuateのSIGNAL OUTをOscilloscopeのSIGNAL INに接続しましょう。この状態でAttenuateのノブを左側へ絞ると、Oscilloscopeで信号の振れ幅が小さくなったことを確認できます。

中央の小さいモジュールがAttenuateで、Levelカテゴリーに用意されている。Oscilloscopeのグラフでは、青が元の波形、赤がAttenuateで減衰した波形を表示している

中央の小さいモジュールがAttenuateで、Levelカテゴリーに用意されている。Oscilloscopeのグラフでは、青が元の波形、赤がAttenuateで減衰した波形を表示している

Chanceモジュールで発音タイミングもランダマイズ

 ここからは音を出しながら進めていきましょう。Note Outモジュールには、ゲートを受信するGATE INとピッチを受信するPITCH INが用意されています。そこで、ゲートを出力するTriggersモジュールを用意し、そのSIGNAL OUTをNote OutのGATE INへ接続すると音を出すことができます。次に、AttenuateのSIGNAL OUTをNote OutのPITCH INへ接続すればピッチが変化します。では、いったんAttenuateのノブを100%にしてみてください。すると、先ほど推測した通り、ピッチの変化が大きく、かなりカオスな状態であることがわかります。そこで筆者はノブを絞って、心地良いと感じた10%前後に設定しました。皆さんもちょうど良いと感じる値を探してみてください。

Triggersモジュール(Dataカテゴリー)はGATE IN(赤枠)へ、AttenuateモジュールはPITCH IN(黄枠)へ接続

Triggersモジュール(Dataカテゴリー)はGATE IN(赤枠)へ、AttenuateモジュールはPITCH IN(黄枠)へ接続

 続けて、Pitch Quantizeモジュールでピッチをクオンタイズします。これはボタン状の鍵盤が並んでいて、任意のピッチを点灯させることで、そのピッチだけを鳴らすことができるモジュールです。AttenuateとNote Outの間に接続してください。

Pitchカテゴリーから、Pitch Quantizeモジュールをドラッグして、AttenuateのSIGNAL OUTにドロップすると、AttenuateとNote OutのPITCH INの間に接続できる

Pitchカテゴリーから、Pitch Quantizeモジュールをドラッグして、AttenuateのSIGNAL OUTにドロップすると、AttenuateとNote OutのPITCH INの間に接続できる

 これでピッチはランダマイズされながらも落ち着いた雰囲気になりました。しかし、現状だとポルタメントがかかったような音になっていると思います。これはゲートとピッチの信号のタイミングがずれているからです。両者を一致させるためにSample / Holdモジュールを使います。

 まずPitch QuantizeのSIGNAL OUTをSample / HoldのSIGNAL INへ接続します。次にTriggersのSIGNAL OUTをSample / HoldのTRIGGER INへ接続してください。これにより、Triggersのゲートのタイミングでピッチの信号が出力されます。

Sample / Holdモジュール(白枠)はLevelカテゴリーに用意されており、モジュール上では“S / H”と表記されている。黄色い○と上向きの矢印で表されたインプットがTRIGGER INで、ここにTriggersのSIGNAL OUTを接続する

Sample / Holdモジュール(白枠)はLevelカテゴリーに用意されており、モジュール上では“S / H”と表記されている。黄色い○と上向きの矢印で表されたインプットがTRIGGER INで、ここにTriggersのSIGNAL OUTを接続する

 さて、ゲートの信号にはもう少しランダマイズ性が欲しいと感じたので、Chanceモジュールを使いました。これはTriggersとSample / Holdの間に入れたいので、TriggersのSIGNAL OUTへドラッグします。すると自動的にモジュール同士の接続が行われます。あとはChanceの下部分にあるパーセンテージの数字で、ゲートの信号が発生する確率を設定します。これでランダムなノートエフェクトの完成です!

Randomカテゴリーから、Chanceモジュールをドラッグして、TriggersモジュールのSIGNAL OUTへドロップ。あとはChanceの赤枠部分の数字を任意に設定すれば完成

Randomカテゴリーから、Chanceモジュールをドラッグして、TriggersモジュールのSIGNAL OUTへドロップ。あとはChanceの赤枠部分の数字を任意に設定すれば完成

 いかがでしたか? 筆者はNote Gridで作ったエフェクトの信号を、ソフト音源だけでなく、ハードウェアのシンセに送って演奏させてみたりと、ハードウェアとソフトウェアの域を超えた試みも行っています。このように今まで使ったことのない音の表現方法を採り入れてみるなど、ワクワクしながら楽曲制作に取り組める環境を作ることも大切と考えているのです。皆さんも遊び心を忘れず、豊かな音楽Lifeを楽しんでください! 筆者の連載はここまでとなります。最後までご高覧ありがとうございました!

 

Yuri Urano

【Profile】フィールド・レコーディングや声を用いたアナログ・サウンドと、シンセサイザーやコンピューターを使ったデジタル・サウンドを融合させ、独自の世界観を構築するエレクトロニック・ミュージック・アーティスト。2022年7月にPRADAとリッチー・ホウティンが共に創作、およびキュレートする「PRADA EXTENDS TOKYO」に出演、また空間オーディオ・アプリ“AURA”を用いたARサウンド・スケープ体験へのサウンド・プロデュースやTEDxKobeへの楽曲提供も行うなど、さまざまな分野で活躍している。

【Recent work】

『NoWords』
Yuri Urano

 

BITWIG Bitwig Studio

BITWIG Bitwig Studio

LINE UP
フル・バージョン/ダウンロード版:50,875円|クロスグレード版またはエデュケーション版:34,100円|12カ月アップグレード版:20,900円

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.14以降、macOS 12、INTEL CPU(64ビット)またはAPPLE Silicon CPU
▪Windows:Windows 7(64ビット)、Windows 8(64ビット)、Windows 10(64ビット)、Windows11、Dual-Core AMDまたはINTEL CPUもしくはより高速なCPU(SSE4.1対応)
▪Linux:Ubuntu 18.04以降、64ビットDual-Core CPUまたはBetter ×86 CPU(SSE4.1対応)
▪共通:1,280×768以上のディスプレイ、4GB以上のRAM、12GB以上のディスク容量(コンテンツをすべてインストールする場合)、インターネット環境(付属サウンド・コンテンツのダウンロードに必要)

製品情報

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