「STEINBERG/Cubase Pro 10」製品レビュー:ピッチ/タイミング補正ツールなど多くの機能が進化したDAW

STEINBERGCubase Pro 10
STEINBERG Cubaseの新バージョン、Cubase 10が発売されました。ラインナップはCubase Pro 10、Cubase Artist 10、Cubase Elements 10の3つ。トラック・メイカーである私が実際に最上位版のCubase Pro 10を使用してみて“良い”と思った新機能を幾つか紹介していきましょう。

黒を基調としたデザインに進化
作業効率が向上したVariAudio 3

今回はCubase 9.5からCubase 10へのメジャー・アップデートということで、ユーザー・インターフェースも全体的に黒を基調とした落ち着きのある見た目に。なお、Cubase Pro 10の動作環境はmacOS 10.12 Sierra以上、Windows 7/8.1/10の64ビット版のみに対応しています。

まずは私が普段からボーカルのピッチ補正には必ず使っている、ピッチ補正ツールのVariAudio 3から見ていきましょう。全体的に使い勝手や編集の自由度がとても向上しています。以前のVariAudio 2では、プロジェクト・ウィンドウの左ゾーンにあるインスペクターから“ピッチ&ウェーブ”“セグメント”などの各ツールを切り替えながら作業する必要がありました。しかし、今回からそれらの操作が一括してスマート・コントロールに集約。具体的には、セグメントの上方にカーソルを持って行くと“ピッチの移動”、下方の中央で“分割”、下方の左右どちらかで隣のセグメントとの“結合”などです。これによりインスペクターとサンプル・エディター間を行き来することなくスムーズに操作でき、以前と比べものにならないくらい作業効率が上がりました。

また、VariAudio 3ではフォルマント調整も可能に。ボーカルのニュアンスをほんの少し明るく、または低くしたいときなどに便利でしょう。セグメントごとのボリューム調整も行えるようになったので、ピッチ編集をしながらダイナミクスも同時に整えることができます。

さらに“ピッチの平坦化が適用される範囲”も指定することが可能になりました。セグメントの始めと終わりのニュアンスは残し、真ん中のみを平坦にピッチ補正したりなど、とてもフレキシブルにピッチ編集が行えます。

ほかにもVariAudio 3ではMIDIデータをリファレンスできる機能が追加。例えばボーカル・メロディのMIDIノートがある場合、それらをサンプルエディター上に表示させながらボーカル・オーディオのピッチ編集が可能となります。これは視覚的に分かりやすくて非常に便利です。

オーディオ同士のタイミングを合わせる
オーディオ・アラインメント機能

次に紹介するのはオーディオ・アラインメント機能。これは、オーディオ同士のタイミングを瞬時に合わせることができる機能です。例えばリード・ボーカルを基準に、そのハモリやダブルのタイミングのズレを修正するということが簡単に行えます。今までは時間をかけて一つ一つのオーディオを手作業で修正していたものが、一瞬で可能になったのは本当に“素晴らしい”の一言。

▲オーディオ・アラインメントの設定パネル。タイミングを合わせる際の、基準となるオーディオを“参照先”に、修正したいオーディオ“Targets”に設定する。下方にある“Alignment Precision:”では、修正の程度を調整可能だ ▲オーディオ・アラインメントの設定パネル。タイミングを合わせる際の、基準となるオーディオを“参照先”に、修正したいオーディオ“Targets”に設定する。下方にある“Alignment Precision:”では、修正の程度を調整可能だ

またタイム・ストレッチを使わずに調整することもできるので、ドラムのマルチマイク・レコーディングなどにも使えるでしょう。オーディオ・アラインメントの処理レベルも変更可能なので、ある程度ズレを残したいときに有効です。まるで魔法のような新機能! “DAWでここまでやれちゃうの?”と感動しました。実は以前からこの技術自体は存在しており、他社のプラグインを使えば同じようなことは行えたのですが、今回のCubase Pro 10に標準搭載されたのはとてもうれしいですね。

最後はMixConsoleスナップショットという機能。皆さんも“別パターンのミックスを試してみたい”と思うことはよくあることでしょう。そこでこの機能を使うと、MixConsoleの設定をスナップショットとして最大10個まで保存/呼び出しすることが可能です。例えばEQの設定だけ、センドだけ、または選択したトラックだけの情報を呼び出すこともでき、より積極的にミックスが行えるでしょう。これまで私はプロジェクトを複製して別パターンのミックスを試していたのですが、1つのプロジェクト内で完結できるので非常に効率的です。各スナップショットにはメモも残せるので、細かい内容を後から思い出せて便利ですし、気軽に別パターンのミックスを試せるのは“心強い!”としか言えません。

そのほかの細かい変更点として、一見地味な内容に思えますが右クリック・メニューの刷新が挙げられるでしょう。以前から私は、右クリック・メニュー内で“この機能はどこにあるんだっけ?”と探すことも多かったのですが、今回から主要な項目だけ表示されるようになりました。まさにユーザー目線での改善だと思います。また、右クリック・メニューよりワンクリックでオーディオ・ミックス・ダウンが実行できるようになったのもうれしいところ。ほかにもサイド・チェインが以前と比べてよりスムーズに設定可能となっていたり、今回のバージョン・アップでは全体的に“一手間減った”と感じる要素も多いと私は思いました。

ここでは紹介しきれませんでしたが、プラグインにおいてはひずみ系エフェクトDistroyerが追加されたほか、チャンネル・ストリップの各モジュールにメーターが装備されたりなど、Cubase Pro 10では大きくその機能やスペックが強化されています。現時点ではまだ反映されていませんが、ARA 2にも対応予定ということなので今後も楽しみです。もし、バージョン・アップに悩んでいる方や購入を検討している方が居たら、私は強くCubase Pro 10をお薦めするでしょう!

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サウンド&レコーディング・マガジン 2019年2月号より)

STEINBERG
Cubase Pro 10
オープン・プライス(市場予想価格:57,000円前後)
【REQUIREMENTS】 ▪Mac:OS 10.12/10.13/10.14 INTEL 64ビット・マルチコア・プロセッサー(Core I5以上を推奨) ▪Windows:Windows 7/8.1/10(すべて64ビット版のみ)、INTEL 64ビット・マルチコア・プロセッサー(Core I5以上を推奨)/AMDマルチコア・プロセッサー、Direct X 10/WDDM 1.1に対応したグラフィック・ボード ▪共通:8GB以上のRAMを推奨(最低4GB)、30GB以上のディスク空き容量、解像度1,920×1,080のディスプレイを推奨(最低1,440×900)、OS対応のオーディオ・デバイス(ASIO対応デバイス推奨)、インターネット環境(インストール、ライセンス・アクティベーション、ユーザー登録などに必要)