「GRACE DESIGN M900」製品レビュー:上位機種の品質を継承したD/A内蔵多機能ヘッドフォン・アンプ

GRACE designm900
アメリカのプロ・オーディオ・カンパニー、GRACE DESIGNは、M902やM903などの高品位なヘッドフォン・アンプやM906のようなプロ・スタジオ対応のモニター・コントローラー・メーカーとして有名。そんな同社から今回、M900が登場した。早速レビューしてみよう。

2つのUSB電源システムを搭載
最新のAKM 4490 D/Aチップを採用

M900は、見ての通りシンプルなデザイン。トップ・パネル中央にボリューム・コントローラーが一つあるのみで、電源のON/OFFスイッチすら見当たらない。筐体の作りはしっかりとして重量感があり、フロント・パネルには2つのヘッドフォン端子とLEDディスプレイ。リア・パネルには、RCAピンのアウトプット、S/P DIFコアキシャル・インプット、TOSLINKオプティカル・インプット、DC電源伝送用のUSBコネクター、データ/シグナル/バス・パワー入力用のUSBコネクターが配置されている。

また、このM900はローパワー・モードとハイパワー・モードという、2つのUSB電源システムを搭載する。ローパワー・モードは、USBバス・パワーとデータ伝送を1本のUSBケーブルで共有する一般的な接続方式のこと。ハイパワー・モードは2つ目のUSBコネクターに、付属のローノイズ仕様2A-USBパワー・サプライからの電源を、USBケーブルを使用して接続するというもの。つまり、ハイパワー・モードでは、M900は電源供給とデータ伝送のラインをセパレートすることで、より高音質なモニタリングが可能となる。

スペックは、最新のAKM 4490 D/Aチップを採用し、32ビット処理機能や、384kHzのPCMまたは11.2MHz(256×)DSD対応のアシンクロナスUSB D/Aをサポート。また、4タイプのD/Aフィルターや、GRACE DESIGNが一貫して採用するカレント・フィードバック回路(電流帰還回路)によるアンプ構成、0Ωアウトプット・インピーダンスのヘッドフォン出力により、どのようなインピーダンスのヘッドフォンでも安定した音量が約束されている。また、ユニークなモードとして“クロスフィード回路”というモードを搭載。これは、部屋で実際にスピーカーを鳴らしたときのアコースティックなサウンドを、ヘッドフォン・モニター上で再現してくれる画期的な技術なのである。ちなみに、すべてのモード操作は中央の大きなノブ一つで行うことができるようになっている。

繊細で勢いのあるストレートなサウンド
空気感を再現するクロスフィード回路

それでは聴いてみよう。試聴用の音源には、鈴木雅之の2作品を使用。一つは服部隆之氏編曲のビッグバンド編成のもの、もう一つは、フル・オーケストラ編成のものである。両方とも32ビット/96kHzで収録した楽曲だ。ヘッドフォンは、SONY MDR-CD900STとAUDIO-TECHNICA ATH-W5000、比較用のヘッドフォン・アンプはGOLDMUND Telos Headphone Amplifier 2で、スピーカーはGENELEC 1031Aなどを使用した。

これは一聴して、GRACE DESIGNの音! 色付けの少ないクリーンで、勢いのあるストレートなサウンドだ。とても繊細でありながら決して弱々しい感じでは無く、高域はすっきりと抜け、低域も力強い。ボーカルは、細やかだが神経質過ぎ無く聴かせてくれるところも良い。フル・オーケストラ編成の楽曲では、若干線が細い印象だが、音圧もあり音色自体はつややかで魅力的に聴こえた。

また、クロスフィード回路をオンにしてみると、今まで頭の中で“ペッタリ”と張り付いていた音像の間に“空気”が入り込んだようなサウンドに変化した。音離れも良くヘッドフォン特有の音がダイレクト過ぎて起こる“聴き疲れ”のようなことは少ないかもしれない。全体的な音場は若干狭くなってしまう傾向にあり、これには若干の慣れが必要だろう。好みが分かれるところではあるものの、ミックス作業のモニター環境が“ヘッドフォンしかない”というような状況では、このクロスフィード回路は効力を発揮してくれるかもしれない。筆者はミックスの際にあまりヘッドフォンを使用しないが、今回試しに使って作業してみたところ、各楽器の距離感がつかみやすく、定位の決定がスムーズに行えることが確認できた。

4つのD/Aフィルターは、F-1とF-3はダイレクト感のあるシャープさが伝わり、ラウドにコンプレスされた音源向き。F-2とF-4は生き生きとした音調でスケール感も感じられ、アコースティック音源向きである。これらの効果は“ハイパワー・モード”に切り替えると、より一層感じられるようになる。今までパワー・ラインとデータ・ラインのUSBをセパレートすることによる音色、音調への効果は高いということを筆者は言い続けてきたが、それが実証されたようでうれしい気持ちでもある。

M900は、この小さな筐体にハイスペックをギュっと押し込んだ、とても機能的かつ魅力的なヘッドフォン・アンプ/モニター・コントローラー/D/A。上位機種の系譜をきちんと受け継ぎ、せん細でひずみの少ない再生音には、驚かされる。名機と言われる機材には、自身の明確なキャラクターやトーンがあるが、GRACE DESIGNにもしっかりその由緒ある家柄にも似たサウンドがあることを再認識させられた。M900は、プライベート・スタジオでのモニター・コントローラーとしてだけではなく、音をリアルに聴きたいオーディオ・ファン向けのプリアンプとしても存分に活躍してくれる。まさに小さな巨人だと感じた。

▲リア・パネル。左よりRCAピン・アウトL/R、S/P DIFコアキシャル入力&オプティカル入力、USB端子2、USB端子1が並ぶ。付属の2A USB DC電源ケーブルをUSB端子2へ接続することで、M900は自動的にハイパワー・モードになり、電源供給とデータ伝送を分割する ▲リア・パネル。左よりRCAピン・アウトL/R、S/P DIFコアキシャル入力&オプティカル入力、USB端子2、USB端子1が並ぶ。付属の2A USB DC電源ケーブルをUSB端子2へ接続することで、M900は自動的にハイパワー・モードになり、電源供給とデータ伝送を分割する

撮影:川村容一

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サウンド&レコーディング・マガジン 2017年11月号より)

GRACE design
m900
64,000円
▪周波数特性:5Hz〜45.9kHz(±3dB) ▪ビット&サンプリング・レート:最高32ビット/384kHz ▪ダイナミック・レンジ:112dB、115dB(A-weighted) ▪クロストーク(100Hz〜20kHz):107dB未満 ▪最大出力レベル:+14.1dBV(ローパワー・モード)、+15.5dBV(ハイパワー・モード) ▪出力インピーダンス:0:08Ω(ヘッドフォン)、47.5Ω(ライン) ▪外形寸法:101(W)×46(H)×133(D)mm ▪重量:470g(実測値) ▪付属品:2A USB DC電源アダプター、USBケーブル×2