「RUPERT NEVE DESIGNS R10」製品レビュー:余裕のある電源を備えた10基収納可能なAPI 500用フレーム

RUPERT NEVE DESIGNSR10
API 500シリーズは、そのコンパクトでさまざまなモジュールの組み合わせができる点で、今でも人気のアウトボードと言えるでしょう。しかし、それを収めるラック・マウント・シャーシには、電源方式などの違いでいろいろな種類があることで、実はサウンドに違いがあるというのが密かに注目されています。電源ケーブルなどを変えたりして音が変わるのと一緒で、シャーシにもそれぞれの味があるのです。メーカーの壁を越えての規格なので、それぞれのメーカーで個性が出ていると言えるでしょう。今回紹介するRUPERT NEVE DESIGNSからは、6スロットのR6が出ていましたが、10スロット・シャーシ、R10が登場。早速チェックしてみましょう。

内部ジャンパー・ピンによる
ステレオ・リンクの設定が可能

R10は既存のRUPERT NEVE DESIGNS製品らしいホワイトのカラーリングで、しっかりした作りになっています。本機は、3Uのラック・サイズで、500モジュールを10個搭載できるシャーシです。10個のモジュールを収める上部の天板には、スリットが入っており放熱対策もバッチリ。500シリーズのラックは密閉式が多いのですが、最近出てきている真空管搭載のモジュールだったり、放熱の問題は大丈夫だろうか?と思うことも増えてきているので、この点でも安心です。機能とは直接関係ないですが、モジュールを入れる際に、なかなか奥のコネクターにうまくかみ合わず入れるのが大変!と言う場合でも、わずかでも上部から見えていることで入れやすくなります。

モノラルのモジュールを2台でステレオ・コンプとして使用するときのようなリンクも、奇数/偶数の隣り合うモジュール同士を内部のジャンパー・ピンによるVCAリンクの設定で可能です。また、モジュールを取り付けるネジ部分に遊びがあり、少し動くようになっています。モジュールによって微妙にネジの位置が合わないことがあるのですが、その対策もバッチリです。よく考えられています。

背面の入出力には、バランス接続のXLRとTRSフォーンがそれぞれ用意されています。プロ機からアマチュア向け機材までさまざまに対応できるのはうれしいところ。入力に関しては、どちらか一方のみ使用する形ですが、出力に関してはパラでも使用できるので、分岐録音にも対応可能です。電源は100~240Vまで対応しているユニバーサル方式。サウンド面でも100Vより117Vで使用した方が良い印象でした。

フロント面には電源スイッチと、モジュールの消費電流を表示するLEDを搭載。後で説明する電源容量問題の監視ができるようになっています。ほかのメーカーより後発のシャーシだけあって、細かいところに配慮した作りになっていますね。

2,400mAの電源供給容量
フロント面のLEDで消費電流を確認可能

実は、この手のシャーシのあまり表に出てこないこととして、各モジュールへの電源供給の容量の問題があります。10モジュールも搭載できるとなると、特に気になる部分です。APIが定めたVPR規格では、1つのモジュールに対して電源消費容量の規定があるので、それに合わせたシャーシを用意すれば問題ないのですが、やはりそこは音と直接関係してくるところ。メーカーによってVPR規格内だったり、オーバー気味に作っていたりと、いろいろなモジュールがあるのが現状なのです。普通のオペアンプの機器と真空管の機器では、どう考えても真空管の方が電源を必要としますからね。

シャーシ的には規格内に収まっていれば問題は無いのですが、本機の場合はと言うと、モジュール用に計2,400mAというかなり余裕のある、通常の150%の電源供給容量があります。また、この電源供給のモニタリングがフロント・パネルのLEDメーターで常に行えるのです。なので、LEDを確認しながらモジュールを追加していって、容量がオーバーにならないように組み合わせを決めることができます(モジュールの抜き差し時は電源をいったん切りましょう。ものによってはトラブルが出ます)。モニタリング機能の無いシャーシの場合は、電源容量をちゃんと頭に入れて拡張を行わないと、普通に使えはするけど実は電源はギリギリまたはオーバーで本来の音は出せていなかったということにもなりかねません。オーディオ機器は電源が重要な部分ですから、この点において本機は安心ですね。

角が取れて収まりがよく
ふくよかで温かい印象のサウンドに

さて、肝心な音ですが、やはりシャーシによって違いが出ます。機器の相性や好みなどもあるので、これを選べ!とハッキリ断言はできないのですが、前に説明した電源容量の問題での違いもあるので、参考程度に読んでいただければ幸いです。今回、異なるメーカーの3つのシャーシで聴き比べてみました。もちろんモジュールは同一機種を使用。本機の場合、一番角が取れているというか温かい音になる傾向でした。決して抜けが悪くなったというわけではなく、収まりがいい印象です。低域はタイトというよりかはふくよかという感じでした。ボーカル録音の際、ほかのシャーシで硬い部分をちょっとEQで抑えていた部分が、本機ではいらなくなり、良い意味でアナログ的な音だと言えます。

シャーシとモジュールは同一メーカーのものが一番安心とよく言われますが、メーカーの壁を越えたAPI 500モジュールの場合、さまざまな種類をメーカーが違っても入れたくなるので、そういうわけにはいけません。ではシャーシは何を基準で選ぶのか? 選択肢の一つとして、電源に余裕があるものは考えられます。さらに本機の場合は、細かい部分での気遣いが感じられるので、まずは試してみてはいかがでしょうか?

▲リア・パネルには、上段にインプット×10(XLR、フォーン)、下段にアウトプット×10(XLR、フォーン)を備える ▲リア・パネルには、上段にインプット×10(XLR、フォーン)、下段にアウトプット×10(XLR、フォーン)を備える

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サウンド&レコーディング・マガジン 2017年7月号より)

RUPERT NEVE DESIGNS
R10
オープン・プライス(市場予想価格:102,000円前後)
▪DC供給電圧:±16V、+48V ▪最大供給電流:合計2,650mA(モジュール用2,400mA、ファンタム・パワー用250mA) ▪電源:100〜240VAC ▪外形寸法:480(W)×140(H)×190(D)mm ▪重量:約6.4kg