製品開発ストーリー112:RME Babyface Pro

2011年にリリースされたRMEの小型オーディオ・インターフェースBabyfaceは、大ぶりなジョグ・ダイアルを備えたテーブルトップ・タイプのデザインをいち早く採用。手軽にRMEクオリティのサウンドを得られるI/Oとして、日本国内だけでも3,000台以上を出荷する大ヒット製品となった。そのBabyfaceがこのたび「Babyface Pro」としてバージョン・アップ。ボディワークから内部回路に至るすべてのパーツが見直され、プロフェッショナルの使用にも耐えるインターフェースとして生まれ変わったという。その開発の経緯について、去る7月に来日したプロダクト・マネージャーのマックス・ホルトマン氏と、RMEの創業者であり製品開発のトップを務めるマティアス・カーステンズ氏に聞いた。
7月29日に東京・赤坂のmEx-Loungeで行われた発表会時のショット。右がプロダクト・マネージャーのマックス・ホルトマン氏。左がRMEの創業者であり、開発トップでもあるマティアス・カーステンズ氏 7月29日に東京都・赤坂のmEx-Loungeで行われた発表会時のショット。右がプロダクト・マネージャーのマックス・ホルトマン氏。左がRMEの創業者であり、開発トップでもあるマティアス・カーステンズ氏



まずBabyface Proの概要だが、アナログ入出力は4イン/4アウトで、S/P DIFもしくはADATフォーマットで使えるオプティカル入出力を1系統備え、最高12イン/12アウトに対応。24ビット/192kHzまでのオーディオ信号を扱うことができ、接続タイプはUSB 2.0となっている。Mac/Windowsに加え、“クラス・コンプライアント・モード”で起動することでiOS機器でも使用が可能だ。初代Babyfaceは入出力端子がブレイクアウト・ケーブルとなっていたが、Babyface Proはリア・パネルにモノラル2系統のバランス・アナログ入出力(XLR)を装備し、2基用意されたマイクプリは最大65dBのゲインや48Vファンタム電源の供給が可能になっている。さらにサイド・パネルには2つのヘッドフォン端子に加えHi-Z対応のライン入力端子(フォーン)を2系統装備。精度0.05mm以下のCNCルーターによってアルミ・ブロックから削り出されたボディは高精度なパーツの“合わせ”も美しく、表面には引っかき傷や腐食に強く、優れた耐久性をもたらすショットブラスト処理が施されている。ホルトマン氏は「Babyfaceはジョグ・ホイールがぐらつくこともありましたが、Babyface Proではそうした事態は起こり得ません」とその仕上がりに自信を見せる。「ボディワークの見直しは、見た目の美しさだけでなく信頼性の向上にもつながります。例えばUSB端子の開口部の造形は、弊社オリジナルのケーブルと寸分の狂いなく接続できるので、ステージなどでの使用時に脱落するリスクを回避することができます」
初代Babyfaceで採用されていたブレイクアウト・ケーブルを排し、リア・パネルにはモノラル2系統のアナログ入出力端子(XLR)を装備 初代Babyfaceで採用されていたブレイクアウト・ケーブルを排し、リア・パネルにはモノラル2系統のアナログ入出力端子(XLR)を装備
端子類を本体に収めた分、筐体は初代Babyfaceと比べて一回り大きくなっている 端子類を本体に収めた分、筐体は初代Babyfaceと比べて一回り大きくなっている
 
付属のUSBケーブルはL字型のコネクターを採用。高精度に削り出された本体の端子の開口部とすき間なく装着でき、脱落のリスクが回避されている 付属のUSBケーブルはL字型のコネクターを採用。高精度に削り出された本体の端子の開口部とすき間なく装着でき、脱落のリスクが回避されている


コンピューターとはUSB 2.0で接続するものの
USB 3.0機に勝るレイテンシー性能を実現


Babyface ProはコンピューターとUSB 2.0で接続する。昨今はUSB 3.0やThunderbolt対応のI/Oが増えてきているが、カーステンズ氏は「それらの規格を採用しなかった理由はズバリ“必要が無いから”です」と語る。「一部で誤解があるようですが、USB 2.0と3.0の違いは扱えるデータの量(帯域幅)であって、データ転送の速さではありません。道路の車線に置き換えると分かりやすいかと思います。交通量が多い(=多チャンネル)場合は車線数の少なさが渋滞の原因となりますが、そもそもの交通量が少なければ車線数は問題になりません。Babyface Proの入出力は最大でも12ずつですから、USB 2.0でも十分なのです。実際に他社のThunderbolt/USB 3.0インターフェースとレイテンシーの比較を行ってみましたが、前者はBabyface Proより1サンプル速かっただけですし、後者は逆に遅れが大きかったほどです」RMEは2009年に発表したFireface UCで初めてUSBを採用したが、持ち前の技術力の高さを発揮。当時はFireWireインターフェースが主流だった中で、USB接続でも安定した“使える”I/Oをリリースしてきた。カーステンズ氏は次のように振り返る。「当時はコンピューター側のUSB技術がボトルネックとなって音声を安定して転送できませんでした。そこで我々は“アシンクロナス”という別のモードを使って問題を解決したのです。が、性能面における一番の違いは、そのアシンクロナス・モードにおける転送方式です。通常はストリーミングなのですが、我々はデータを小分けにする“バルク方式”を採用したことで、より精度の高い転送を実現しています」ホルトマン氏は「Babyface Proは外部電源端子も備えていますが、USBバス・パワーによる給電でも音質や性能には全く差が出ません」と語る。「以前のBabyfaceはUSBケーブルの長さや品質によって電圧が4.4V以下になると動作しなくなっていましたが、Babyface Proは電源回りの効率を徹底的に見直した結果、3.6Vでも動作します。また、弊社の業務機のフラッグシップ・モデル=ADI-8 DS MK IIIに搭載されているAD/DAコンバーターは、ハイエンドであると同時に省電力設計のため、これらによりオーディオ性能はすべての面において大きく向上しています。先ほどUSB 2.0接続によるレイテンシーについて触れましたが、今回Babyface Proに採用したコンバーターは変換速度においても非常に優れており、これによって他社のUSB 3.0接続モデルに勝るレイテンシー性能を実現しているのです」
左側のサイド・パネル。左よりUSB 2.0端子、電源端子、MIDI入出力のためのブレイクアウト・ケーブル用の端子、S/P DIFもしくはADAT(SMUX対応)フォーマットで利用できるオプティカル入出力 左側のサイド・パネル。左よりUSB 2.0端子、電源端子、MIDI入出力のためのブレイクアウト・ケーブル用の端子、S/P DIFもしくはADAT(SMUX対応)フォーマットで利用できるオプティカル入出力
 
右側のサイド・パネル。2つあるヘッドフォン端子は左の標準プラグがハイインピーダンス(10Ω)、インイア・モニターなどに対応するミニ・プラグはローインピーダンス(2Ω)仕様。その右のIN 3/4(ともにフォーン)はHi-Zにも対応する 右側のサイド・パネル。2つあるヘッドフォン端子は左の標準プラグがハイインピーダンス(10Ω)、インイア・モニターなどに対応するミニ・プラグはローインピーダンス(2Ω)仕様。その右のIN 3/4(ともにフォーン)はHi-Zにも対応する
 

評価の高いSteadyClockは
第三世代となる最新バージョンを搭載


こうした内部回路の刷新に伴い、評価の高い内蔵のクロック・ジェネレーター=SteadyClockもバージョン・アップ。カーステンズ氏は「Babyface Proは、その第三世代となるSteadyClock 3を現時点で唯一搭載したモデルとなります」と語る。「クロック・ジェネレーターには入出力信号の周波数を一致させるPLLという電子回路があり、これでジッターを抑制しています。SteadyClock 3ではデジタル/アナログの2段構えのPLLのうち、特にアナログ部の性能が飛躍的に向上し、従来よりさらにジッターを抑制でき、より安定した動作を可能にしているのです」仕様面ではほかにもレベル・メーターがINPUT/OUTPUTの2系統に増えたほか、トップ・パネルにはアサイナブルな4つのボタンが追加され、スタンドアローンでの動作時もすべての操作/設定が可能になっている。ほかのRME製I/Oと同様、本体にはDSPを搭載し、付属ソフトのTotalMix FXを介して3バンドのパラメトリックEQ、ローカット、オート・レベル、位相反転などをチャンネルごとに設定可能。Control RoomセクションではトークバックやDIMに加えスピーカーA/Bの切り替えにも対応するなど、モニター・コントローラーとしても合理的かつ有用だ。カーステンズ氏は「当初は本機をシンプルに“Babyface 2”と呼んでいました」と明かす。「ところが各パーツの開発や実装があまりにもうまく行ったので、ある日突然、“これはプロの使用にも耐えるインターフェースなのだから、Babyface Proと呼ぶべきだ!”と感じ、大号令を発したのです(笑)」その言葉通り、Babyface Proは筐体こそコンパクトだが、RMEが持つ最新のデジタル・オーディオ技術が惜しみなく投入されている。ホルトマン氏は「弊社の開発チームは、日本の刀工のように、自らの技を上達させて、できる限り最高のオーディオ・インターフェースを生み出そうとしているだけです」と語る。「例えば市場から“Thunderbolt接続のI/Oを作れ!”と強要されて作るのではなく、自らの情熱にのみ駆り立てられて開発を行っています。それをドイツ伝統のクラフツマンシップと呼んでいただいても構いませんが、我々はまず、自らの喜びのためにこうした製品を作っていることは知っておいていただきたいですね」最後にカーステンズ氏にRMEのサウンド哲学について尋ねてみたが、これはどうやら愚問だったようだ。「例えば内部のフィルターで高域を抑えて“ウォームな音”にすることは簡単ですが、我々は絶対にそのようなひどいことには手を染めません。“RMEサウンド”を説明することは不可能です。無色透明なのですから! 
レベル・メーターは前モデルからINPUT/OUTPUTの2基に増えているが、“不要に電力を消費するディスプレイは採用しない”質実剛健な仕様。とは言え表示はよく練られており、ジョグ・ダイアルの上にある4つのボタンでイン/アウトのゲイン調整やルーティングなどの設定が行える。下にあるSELECT/DIMボタンの両方を長押しすることでiOS機器で使用できる“クラス・コンプライアント・モード”に入る レベル・メーターは前モデルからINPUT/OUTPUTの2基に増えているが、“不要に電力を消費するディスプレイは採用しない”質実剛健な仕様。とは言え表示はよく練られており、ジョグ・ダイアルの上にある4つのボタンでイン/アウトのゲイン調整やルーティングなどの設定が行える。下にあるSELECT/DIMボタンの両方を長押しすることでiOS機器で使用できる“クラス・コンプライアント・モード”に入る
リア・パネル。左よりバランス・アナログ出力2/1、バランス・アナログ入力2/1(すべてXLR) リア・パネル。左よりバランス・アナログ出力2/1、バランス・アナログ入力2/1(すべてXLR)
 SPECIFICATIONS
□接続タイプ:USB 2.0
□入出力:4イン/4アウト(アナログ)、12イン/12アウト(アナログ+デジタル)
□ビット&レート:最高24ビット/192kHz
□外形寸法:108(W)×35(H)×181(D)mm
□重量:680g
●マイク/ライン入力1/2
□ゲイン・レンジ:-11dB〜+65dB
□入力インピーダンス:2kΩ(バランス)
□周波数特性:18Hz〜20.8kHz(44.1kHz時)、5Hz〜92kHz(192kHz時)
□全高調波歪率:<-104dB
●ライン/インストゥルメント入力3/4
□入力インピーダンス:470kΩ
□周波数特性:5Hz〜20.8kHz(44.1kHz時)、2Hz〜92kHz(192kHz時)
●ライン出力1/2
□出力インピーダンス:300Ω(バランス)
□ダイナミック・レンジ:115dB(Unweighted)
□周波数特性:0Hz〜20.8kHz(44.1kHz時)、0Hz〜89kHz(192kHz時)
□全高調波歪率:<-102dBREQUIREMENTS
□Mac:OS X 10.6以降、INTEL Core 2 Duo以上のCPU
□Windows:Windows 7/8以降、INTEL Core 2 Duo以上のCPU
□iOS:iOS 7以降 問シンタックスジャパン http://babyface.me/pro