最新ライブ・コンソールAVID Venue | S6Lを使用した
24ビット/96kHzによるマルチトラック・レコーディングを実施!
S6Lに見合う楽器を用意した
今回のイベントは、TECHNOBOYSとしては初のハイレゾ・フォーマットによるライブ録音となった。まずは佐藤氏に、本ライブのコンセプトについて聞いてみた。
「キーボード・バンドがハイレゾで録音するときに、デジタル・シンセを使っても意味がないなと思ったので、ピアノ音源を除いてすべてアナログでそろえました。PAコンソールにAVID Venue | S6Lを使い、それとAVBで接続したAPPLE MacBook ProにAVID Pro Toolsを立ち上げて24ビット/96kHzで録音するので、それに見合う楽器をと思ったわけです。打ち込みの音源も、録音用とは別に用意したPro Toolsでシーケンスを組み、OBERHEIM 4VoiceやROLAND TR-808、TR-909の音をそのままS6Lのアナログ入力に入れています。そうやって楽器の持っているサウンドのポテンシャルを最大限に録音できたらなと考えました」
Venueシステムの最新機種であるS6Lは、24ビット/96kHzに対応したほか、録音可能トラックの増加、高解像度タッチ・パネル搭載による操作性の向上、さまざまな入出力インターフェースを装備など、まさに次世代のPAコンソールと言える。実際に使用した安藤氏はS6Lの印象を次のように語ってくれた。
「AVIDのコンソールは、VenueからProfile Systemまで使用してきました。今回は急きょ私がオペレートを担当することになり、本番前々日にリワイアーの宮村公之さんから簡単なレクチャーをしていただいたんですが、そのときに空間系のエフェクト音を聴いて“今までの10年間とは違う世界に入ったな”と。それくらい音が良いと感じました。これは内部処理のビット/サンプリング・レートが上がったことが影響しているのかもしれませんね。あとタッチ・パネルになったことで、セッティングはもちろん、ライブ中の操作性も格段に向上しました」
今回は60chに近い回線数があったのだが、セッティングの際にS6Lの実力を目の当たりにしたという。
「私はTECHNOBOYSさんの楽曲を知らない状況でオペレートすることになりましたので、リハーサルで初めて楽曲を聴いて、シンセ・ソロなど各楽曲の重要なパートを把握していきました。でも、セッティング時はいただいた回線表通りに各パートをインプットしていったので、重要なパートが表のフェーダーに並ばず、裏のレイヤーに隠れてしまう場合もあったんです。それを表のフェーダーに出して、本番中に操作できるようにしたいなと宮村さんに尋ねたところ、“レイアウト”という機能を使い、即座に並び替えられたのです。今までは音を止めないとできなかったことが、S6Lでは全く音を止めることなくその場で変更可能でした。これまでのコンソールとは比べものにならないくらい機能が向上していると分かりましたね。実際、この規模のライブを私と宮村さんのツーマンでオペレートできてしまったのですから。これはとんでもない戦力になると感じました」



ステージ上に目を向けると、冒頭でも紹介したようにProphet-5やJupiter-8、さらにはARP Odysseyなどの往年の名機がずらりと並び、ツイン・ドラムの片方もSIMMONS SDSVなどを使用したエレクトリック・ドラムだ。佐藤氏がステージ機材の集音について解説する。
「主要シンセに接続したライン・ケーブルはORB PROの特注品を使っています。レンジが広く録れるのがすごく気に入っていますね。またステージ上のマイクはTUNE STUDIOの井上勝己氏にリクエストして、持ち込みをしてもらったものがあります。例えばグルーブのキモになるキックに、AKG D112とSENNHEISER E902セットしてもらい、アンビ用には客席の上にB&Kのマイクを吊してもらいました」




大きな存在感を放つアナログ・サウンド
ライブは「Visible Invisible」で幕を開けた。TVアニメ『おそ松さん』の主題歌「SIX SAME FACES 〜今夜は最高!!!!!!〜」や、途中ゲスト・ボーカルとして登場した大竹佑季が歌う「打ち寄せられた忘却の残響に」などおなじみのナンバーが披露されると、大きな歓声が上がっていた。アナログ・シンセのサウンドは楽器それぞれに存在感があり、石川が弾くProphet-5のソロや、松井による2Voiceでの即興演奏など、その魅力を存分に味わうことができた。安藤氏は「ライブ・イベントとしてしっかり成立させつつ、録音物としても完成させなくてはいけなかった。そのバランスに一番気を遣いましたね」と語るが、イベントは大盛況のうちに終了。また佐藤氏が「エンターテインメントの一部として、客席のすぐ後ろに僕の機材とS6Lを並べて置いていたんです」と言うように、終演後には佐藤氏の機材とS6Lの撮影会が始まるという、このイベントに集まった観客の機材への注目度の高さも垣間見れた。




TECHNOBOYSなりのライブ音源になる
最初に述べたように、このライブ音源は配信リリースを控えている。実際の録り音に関して佐藤氏は「S6Lの音はとにかくクリアで、オーディエンス用に設置したマイクの音だけを聴いてもすごくリアルです。色づけが少なく、アナログ・シンセも狙ったとおりの音がしていますね」と評価する。ミックスはこれから行う予定となっているが、その構想について尋ねてみた。
「ライブ音源をそのまま配信するのではなく、バーチャルなライブ空間を作るというコンセプトでミックスしようと思っています。例えば、ギタリストの演奏は所属レーベルの都合上、シンセに差し替えます。いわゆるYMOの『パブリック・プレッシャー』にインスパイアされた作り方ですね(笑)。TECHNOBOYSなりの再構築を施したライブ音源になると思いますよ。具体的には、リバーブにはAMS、スネアにはAPIのEQを使うなど、1980年代のテクノポップの音を、2016年の解釈とスペックで作ろうと。あと録り音のレンジ感は大事にしたいので、極力トータルでのコンプは使わず、元の楽器のダイナミック・レンジを残しながらミックスしたいですね」
ハイレゾに積極的に取り組む佐藤氏が、あらためてこのフォーマットについての可能性に言及してくれた。
「ハイレゾは新しい時代のフォーマットなので、制作側としてはいろいろなチャレンジができます。音楽の可能性が広がるので、皆さんもぜひトライしてほしいです。S6Lの登場によりライブのハイレゾ配信もトレンドになると思うので、今回の音源がその先駆けになればいいですね」
最後に安藤氏は、今後のS6Lとエンジニアの立ち位置について次のように語ってくれた。
「S6Lは内部処理能力が劇的に向上したので、これを使ったとき、お客さんが劇的に音が変わったと感じなければ、エンジニアとしてはダメなんです。なので、これから僕らがS6Lをどう使いこなすかが命題になってくると思いますね」
今回の音源は、OTOTOYから4月下旬に配信予定となっている。ライブに参加した人もそうでない人も、ハイレゾ音源の臨場感をぜひ体感していただきたい。