【PMCモニター・スピーカー特集②】森崎雅人(サイデラ・マスタリング) × PMC

世界中の大手スタジオからパーソナル・ユースまで、PMCの導入事例は非常に多い。ここでは国内で18年以上PMCを愛用するユーザーとして、森崎雅人氏に登場いただく。オノ セイゲン氏率いるサイデラ・マスタリングのチーフ・エンジニアであり、MB1とともに幾多の作品を手掛けてきた音の職人だ。PMCを使い続ける理由や利点、そしてニュー・モデルResultの試用コメントをいただいた。

PMC は“クライアントのOKをもらい続けるモニター”(森崎)

PMCの良さはプロの“正確な音が出る”ということです。プロフェッショナル・モニターの条件として、音色が正確なこと、躍動感やグルーブが分かりやすいこと、そして音に説得力があることの3点が挙げられます。PMC MB1はそれらすべてが備わっている。マスタリング・エンジニアの観点から言うと、逆にそれらが1つでも欠けていたらモニターとしては使えません。クライアントからOKが出ないのです。

自分の中でPMCは、“クライアントからOKをもらい続けたスピーカー”と言えます。BBCやハリウッドなど世界中の第一線のスタジオでも使われているだけに、多くの偉大なアーティストやプロデューサーを納得させてきたスピーカーです。結局は、どんなスピーカーでもアーティスト/プロデューサーを説得できないとプロにとっては意味が無いんです。そのためには、音の良い面も悪い面もそのまま再現してくれないといけない。PMCは“ここがダメだよ”と言ってくれるので、いつもモニターと対話するように僕は作業しています。オーディオ・リスニングとプロ・モニターで決定的に違うのは、前者はリスナーが聴いて気持ち良ければどんな音でもいいのに対して、プロ・モニターは複数の制作者が聴いて次にすべきことを話し合うコミュニケーション・ツールでもある、という点です。当然ながら、隅々まで正しいサウンドを届けてくるかどうかが重要なのです。

サイデラのMB1の鳴り方を表すならば、“スモール・モニターのようなバランスで鳴るラージ”と言えます。そのメリットは何だと思いますか?……爆音にしなくても細部が見えるということです。大体85〜90dBの音量で作業できてしまう。僕のマスタリングは、アルバム1枚に対して大体7〜8時間かけて作業します。爆音でそれだけ長い時間モニターしていたら、耳が終わってしまう。適切な音量で細部まで見渡せるということは、プロにとって非常に大事なことです。PMCは非常に正確な音が出るスピーカーなので、マニュアルにも書いてあるように正しいセッティングを施すことで、1つ1つの楽器の輪郭が鮮明になり、歌詞がしっかり聴こえ、オケと歌のバランスも分かりやすくなるんです

❶ サイデラ・マスタリングに常設されているPMC MB1(両サイド後ろ)。現在はデジタルのSONYのTA-DA9100ESで駆動している。高いポテンシャルを引き出すために振動対策にも万全を期しており、氏いわく「ピントの合ったサウンド」を可能としている ❶ サイデラ・マスタリングに常設されているPMC MB1(両サイド後ろ)。現在はデジタルのSONYのTA-DA9100ESで駆動している。高いポテンシャルを引き出すために振動対策にも万全を期しており、氏いわく「ピントの合ったサウンド」を可能としている

ですから、サイデラ・マスタリングではPMCの良さを最大限に引き出すためのセッティングを行っています。その1つが振動対策。カメラで言う、ピントが合った状態により近づけるということですね。具体的には、コンクリートの躯体の上にインターロッキング・ブロック、2〜3mmのゴム・シート、バーチ合板、コンクリート・ブロックを重ねて土台を作り、砂を充填したスピーカー・スタンドの上にコルクとブチル・ゴム・シートを乗せてPMCを置いています。またMB1は構造上、フロントバッフル上部から低域が出てくるので、サウンドがブレないようにスピーカーの天板には鉛の重りも載せています。ダクトを押さえ込むイメージでしょうか。こうして多様な材料を組み合わせることで固有の振動が起こらないようにしています。良いスピーカーを使うならば、このように振動に気を遣うべきですね。例えば、公道を走るスポーツ・カーは、いざレースとなったらチューニングを施しますよね。それと同じことをサイデラ・マスタリングではこのPMCに行っているわけです。ポテンシャルが高いモニターほどその効果が現れます。

新モデルのResult6も含めてPMCはボーカルの質感がしっかり分かる(森崎)

新しいResult6を試したところ、PMCの伝統がしっかり継承されていると感じました。実はリアにボリュームが付いているのですが、これがセンター位置だと意外とおとなしくて真面目な音だったんです。これでは最初にお話しした“説得力のある音”という部分は弱いぞと。ですので、試しにボリュームをフルテンにしてみたところ印象が大きく変わって、元気良く説得力がある音になりました。その鳴りの良さはYAMAHA NS-10Mにも通ずるものを感じましたね。恐らくResult6はレコーディングやミキシングで使う方が多いと思いますが、アーティストは良いプレイバックのサウンドを聴かされると、その次の演奏が良くなるんです。そこにつながるかどうかは非常に大事。もちろんResult6も正確なセッティングは必要で、それはマニュアルにもしっかり書いてあります。ポンと置いてお手軽に良い音が出るわけはなく、ユーザー側もそれに対応して環境を整えてほしいというメッセージが込められている。そうした部分も含めて、プロ仕様のスピーカーだと思います。

❷ 新モデルResult6も森崎氏にテスト・チェックしてもらった。「PMCのノウハウがしっかり継承されており、特にボリュームをフルテンにしたときに説得力のあるサウンドが得られます。リスニング・エリアが広いので、スタジオのニアフィールドとして使った際に、エンジニア席とクライアント席の音質差が少ないのも利点です」と森崎氏 ❷ 新モデルResult6も森崎氏にテスト・チェックしてもらった。「PMCのノウハウがしっかり継承されており、特にボリュームをフルテンにしたときに説得力のあるサウンドが得られます。リスニング・エリアが広いので、スタジオのニアフィールドとして使った際に、エンジニア席とクライアント席の音質差が少ないのも利点です」と森崎氏

PMCが最も素晴らしいのは、ボーカルの質感がしっかり分かるところ。一番聴きたいところを細かく見せてくれて、その帯域を上と下が支えるというイメージでしょうか。僕の理想は、モニター時にスピーカーの存在が消えて、演奏者が浮かび上がる状態なのですが、それに近いことがサイデラ・マスタリングのMB1では可能になっています。エンジニアだけでなく、アーティストまでも説得できるブランドであり、プロとしては代えのきかないスピーカーです。

●PMCスピーカーに関する問合せ:オタリテック http://www.otaritec.co.jp