さまざまな現場で信頼を集めるデジタル卓=YAMAHA TFシリーズ

第1回 新宿SAMURAI

YAMAHAが小型のPA用デジタル卓として発売しているTFシリーズ。リコーラブルに再設計された独自のマイクプリ“D-PRE”のほか、タッチ・パネルのマルチタッチ操作やAPPLE iPadアプリTF StageMixによるワイアレス・コントロールなど数多くの特徴を備え、主にPA会社と中小規模スペースへの導入が進んでいる。本連載ではTFシリーズを活用している現場を訪れ、ユーザーのコメントからその有用性に迫る。今回訪問したのは、32チャンネル・フェーダー構成のTF5を導入しているライブ・ハウス、新宿SAMURAIだ。

タッチ・パネルのレスポンスが良い

昨年6月にオープンした新宿SAMURAI。オール・スタンディングで150人のキャパシティを有し、内装の美しさや接客にも気を配ることで居心地の良さを演出している。出演者はロック・バンドからアイドルまで多岐にわたるが、そのサウンドを支えているコンソールがTF5だ。

TF5はインプット・チャンネルとして48chのミキシング・キャパシティを持ち、本体に搭載された32個のマイク・イン(ライン入力にも対応)にはディスクリート仕様のクラスAマイクプリ“D-PRE”が採用されている。オペレートを務めるSOWER creative crew所属のPAエンジニア、堀田麗雄氏はTF5のサウンドについてこう語る。
高域がよく抜けて、分離も良いと思います。その特徴はインプットの数が増えたときに顕著で、音数が多くても団子状態にならないんですよ。音楽によってはサウンドの重心を下げる必要があるものの、内蔵のチャンネルEQなどを活用すれば十分に対応できます」

堀田氏は、TF5のさまざまなセクションのコントロールに本体のタッチ・パネルを愛用している。
指の動きに対してのレスポンスが良いと感じますね。また、マルチタッチに対応しているため、EQのQ幅を指2本で調整できたりして便利です。iPadでのリモート・コントロールとよく似た操作性なので、フロアとPA席を行き来してサウンド・チェックするときにも同じ感覚で操作することができます
店長の大橋隼平氏がリモート・コントロールのメリットについて、こう付け加える。
「エンジニアがフロアの前方へチェックしに行くとミュージシャンとの距離が縮まることにもなり、コミュニケーションが増えるのも良いですね。出演者の方からライブ終了後に“本当はこんな音で鳴らしたかったんだけど……”と言われたことがほとんど無いんです」

クローズアップ・ポイントその① タッチ・パネル

▲TFシリーズのタッチ・パネルはマルチタッチに対応し、直感的なコントロールが可能。写真はマルチバンド・コンプを写したもの。堀田氏はこのマルチバンド・コンプについて「使いやすくて質も良いと思う」と語る ▲TFシリーズのタッチ・パネルはマルチタッチに対応し、直感的なコントロールが可能。写真はマルチバンド・コンプを写したもの。堀田氏はこのマルチバンド・コンプについて「使いやすくて質も良いと思う」と語る

クローズアップ・ポイントその② ワイアレス操作

▲専用のAPPLE iPadアプリTF StageMixを用いれば、各種パラメーターをワイアレスで操作可能だ。写真は、インタビューに答えてくれた堀田麗雄氏がEQを調整しているところ ▲専用のAPPLE iPadアプリTF StageMixを用いれば、各種パラメーターをワイアレスで操作可能だ。写真は、インタビューに答えてくれた堀田麗雄氏がEQを調整しているところ

エフェクトのインサートが可能なAUXバス

物理操作子の中で堀田氏がよく使用しているのは、TOUCH AND TURNノブ。タッチ・パネル内の調整したいパラメーターに触れてから回すと、ただちにアサインされるというものだ。
ざっくりとした音作りはマルチタッチで素早く済ませて、細かい調整をTOUCH AND TURNノブで行っています。例えば、出演者が多くリハーサルの無いイベントなどでは、演奏前のサウンド・チェックにもあまり時間をかけられません。そういうときにはマルチタッチ操作でざっくりと設定を決めて、細かい調整をTOUCH AND TURNノブで行うようにしています。スピーディに求める音へたどり着けるため、重宝しているんですよ」

このほかお気に入りの機能として紹介してくれたのは、ステレオのAUXバスやカスタム・フェーダー・バンクだ。
TFシリーズにはステレオのAUXバスが全6系統用意されていて、インプットのグルーピングとして活用しています。ボーカルや打楽器を1つにまとめ、一括して音量調整するような使い方ですね。AUXバスにはエフェクトを挿せるので、ボーカル類をまとめるときは内蔵のマルチバンド・コンプなどを使っています。このマルチバンド・コンプは音ヤセしにくく、変なピークも発生しにくいので使いやすいんですよ。また、カスタム・フェーダー・バンクを使用することで、好きな入出力チャンネルを選び、フェーダーへ自由にアサインできます。例えばマイク・イン1〜8をフェーダー1〜8に割り当てて、隣のフェーダー9〜16にマイク・イン17〜24をアサインするようなことも可能になりますね」

バー・カウンター用のスピーカーに時間差補正のためのディレイをかけるなど、ライブ・ハウスの隅々にまで生かされているTF5。コスト・パフォーマンスについても「バランスが取れていると思います」と堀田氏が語る通り、中小規模の現場において、十分に活躍してくれるだろう。

クローズアップ・ポイントその③ カスタム・フェーダー・バンク

▲カスタム・フェーダー・バンクを用いれば、写真のようにインプット・チャンネル26の隣にAUXバスを配置するなど自由なレイアウトが可能 ▲カスタム・フェーダー・バンクを用いれば、写真のようにインプット・チャンネル26の隣にAUXバスを配置するなど自由なレイアウトが可能

 【製品紹介】YAMAHA TF5 (オープン・プライス:市場予想価格500,000円前後)

32本のチャンネル・フェーダーを装備するデジタル卓。インプットは全48chで、本体には32個のマイク/ライン・インや2系統のライン・インL/Rを備える。出力系に関しては、ステレオとサブから成るメイン・バス、8モノラル+6ステレオのAUXバス、8つのDCAグループを実装し、本体に16個のライン・アウトを装備。チャンネル・プロセッサーのほか8基のプロセッサーを搭載し、多彩な音作りが行える。内蔵のUSBオーディオI/OをMac/Windows機に接続すれば最大34trの録音/再生が可能。本体のUSB端子では、外部のUSBストレージを用いて2trの録音/再生が行える。 32本のチャンネル・フェーダーを装備するデジタル卓。インプットは全48chで、本体には32個のマイク/ライン・インや2系統のライン・インL/Rを備える。出力系に関しては、ステレオとサブから成るメイン・バス、8モノラル+6ステレオのAUXバス、8つのDCAグループを実装し、本体に16個のライン・アウトを装備。チャンネル・プロセッサーのほか8基のプロセッサーを搭載し、多彩な音作りが行える。内蔵のUSBオーディオI/OをMac/Windows機に接続すれば最大34trの録音/再生が可能。本体のUSB端子では、外部のUSBストレージを用いて2trの録音/再生が行える。