第6回〜ボーカリストへの「伝え方」について考える

コミュニケーションの基本はやはり「直接顔を見て話す」こと

コントロール・ルームでの私とアレンジャーの会話。

「ねぇ、もちょっとウィスパーな歌い方が良いかなー?」

「いや、逆にはっきり歌った方が印象的かも」

「そうかな、オケに合わなくない?」

「んー、じゃあ、もう一度プレイバックしてみる?」

「すいませーん、じゃあ、アタマからもう一回プレイバックお願いします」

(音楽が数分流れる)

「やっぱり、ウィスパーが良くない? 何にしろ、今はちょっと中途半端かな」

「ウィスパーならオケのバランス変えたいな」

「なるほど。ピアノ(の音量)落とそうか」

「いやいや、落とすならリズムかなー」

そんなやりとりの中、ボーカル・ブースから、

「おい、何やってんだよー!(怒)。いつまで待たせんだよー。ちゃんとディレクションしろよ!!!」

本当にあった話です。

皆さんのボーカル・ブースはどうなっていますか?

一般的なプロフェショナルなスタジオのボーカル・ブースは、コントロール・ルームと完全に遮断されています。

そして、ボーカル・ブースには大体カメラがあり、ボーカリストがマイクとどのくらいの距離で歌っているか、とか、歌っている表情を見てレコーディングに集中できているか、などチェックしています(このカメラを嫌がるボーカリストも多いです)。

しかし、ボーカル・ブースからコントロール・ルームの様子は伺えません。

もちろん、何をしゃべっているかも分かりません。

なので、このように10分くらい放置されると耐えられなくなるのは当たり前。大体、キレます。

レコーディング中のボーカリストとのコミュニケーション。本当に大切なんですが、でも、やっちゃうんですよね、こういうこと。

私がディレクターになって間もないころ、先輩に教えられたのが、

「ボーカリストやプレイヤーとは、できるだけブースに行って話せ!」でした。

トークバックでしか話さなくなるとお互いSっぽくなります。

あるボーカリストとのトークバックでの会話。

「もう一回そこ、歌おうか」

「なんで?」

「ニュアンスがね……」

「ニュアンスがどうなの?」

「ともかく、もうワンテイクちょうだい。そんな感じでいいから」

「こんな感じでいいなら、いいじゃん。次行こうよ」

「いや! なんか良くないからもう一回!」

「えー、まじでー!!」

やはり、歌録りの場合、自分がブースに行くか、ボーカリストをコントロール・ルームに呼んで顔を見ながら問題個所を同じ場で聴いて具体的にどうすればもっと良くなるかを話し合うと、コミュニケーションの深さが変わります。

頑張り屋のボーカリストには、こちらが休憩タイミングを作る

ボーカリストと私の会話

「ちょっと1番のサビアタマ聴いてくれる?」

「うん」

(ひとしきり聴いて)

「どうかな、もう少しウィスパーな方が印象的にならないかなー」

「そうだね。でも、弱くならない?」

「そっかー、じゃあウィスパーで重ねてみる?」

「いいかも!」

「でも、疲れてない?」

「大丈夫!」

さて、こんなコミュニケーションを取りつつ歌録りを進めるのですが、「疲れてない?」と聞くとボーカリストは頑張り屋さんが多いので「疲れていない!大丈夫!」と言います。が、結構疲れている場合があります。

連続で歌うとどうしても声が疲れますし、緊張感も薄れますので、休憩を入れた方が良いときがあります。

とはいえ、調子が良いときにレコーディングを中断するのも良くないので、ボーカリストの声や表情から読みとりつつ絶妙な仕切りがディレクターには要求されます。

「あっ、ちょっと休ませた方がいいな」

と思ったら、一番簡単なのはプレイバックをブースで聴いてもらうことです。

「ちょっと、もう一回聴いても良い?」

これで数分のブレイクができます。

「緊張感が途切れたな」

と思ったら、ボーカリストをブースから出して、例えばコントロール・ルームでプレイバックを聴きつつ歌舞伎揚(スタジオのマストアイテム/詳しくは前回のコラムを参照ください)を勧めてプチティータイムにするとか。

「これはちょっと休ませよう!」

と思ったら。「ゴメン!機材トラブったからちょっと待ってね! ご飯食べちゃおうかー?!」と1時間以上の休憩を取ることも考えます。

ただ、プロフェショナルなスタジオは料金が高いです。また、エンジニアさんも時間でフィーを支払う場合が多く、スタジオでは何もしなくても1時間で数万円が飛んでいきます。

昔は予算もあったので1~2時間休憩するくらい問題無かったのですが、今や休憩するのもなかなか贅沢なことになってしまいました。そんな、予算のことも気にしながら休憩を取るか考えます。

場合によっては「今日はやめよっか!?」と言う判断も必要です。

ボーカリストの体調が悪かったり声がつぶれかけてしまったり、続けても良くなるはずがないと判断したら、とっととやめた方が効率的です。

もちろん、そんなことにならないように仕切るのがディレクターの仕事ではあるのですがね。

ともかく、ディレクターはどこまで気が使えるか。そんなことで、一番疲れるのはディレクターかもしれません。

今回はボーカリストとのコミュニケーションと休憩のお話でした! 次回もボーカルレコーディングにまつわるお話をお届けします!

中脇雅裕@Honolulu

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【中脇雅裕】
プロデューサー/音楽ディレクター。CAPSULE、中田ヤスタカ、Perfume、手嶌葵、きゃりーぱみゅぱみゅなどのヒット作品に深くかかわる。アーティスト/クリエイターの成功とメンタルの関連性に日本でいち早く着目し、研究を重ねている。http://nakawaki.com

※本連載は毎月15日・30日近辺に更新していく予定です。お楽しみに!