第2回〜ディレクターの最重要の仕事=歌入れ!!(デモ編)

前回はプロデューサー(通称P)、A&R、ディレクター(通称D)の違いについてお話ししました。さて今回から、いきなりディレクターの最重要の仕事と言われる歌入れについて数回にわたってお話しします。歌モノは言わずもがな“歌”が主役になる場合が多いです(まあコンセプトによっては歌を楽器のように扱う曲もありますけどね)。

デモが歌のニュアンスを左右する!

歌入れは通常、原盤制作(原盤についてはまたゆっくり説明します)の終盤。詞曲が決まり、オケのアレンジ/録音がされ、歌入れに臨むことが普通です。ただし、通常、歌詞の聴こえ方、歌の表情のつけ方、サウンド・アレンジの方向性、そしてもちろんキー(Key)やテンポを決めるためにデモを作ります。そのときも、もちろん歌入れは必要です。実はこのデモの歌入れがとても大切なのです

まず、歌モノのデモを作る目的は以下となります。
●アレンジの方向性を探る(声とサウンドの相性確認!)
●テンポを決める(曲の雰囲気、歌詞の聴こえ方、歌の表情などをチェック)
●キーを決める(歌手の一番いい声が出せるキー、もちろん曲の雰囲気、歌詞の聴こえ方、歌の表情などもチェック)
なので、“デモだから仮でいいや”と思って臨むと、本番で痛い目を見ますよ。

まず、用意するオケはシンプルでも良いのですが、その時点で最終的な完成系のイメージ、方向性がちゃんと出ているオケを用意しましょう。特にリズムは完成イメージにできるだけ近いものが良いと思います。もしくは迷っている場合はデモのレコーディングで何パターンか用意しておくのも良いと思います。昔、デモで8ビートのループでアレンジを作って歌入れをして、その後リズムを跳ねた16ビートに変えたことがあります。そうするとデモの歌はあまり参考にならなくなります。

マイクなど“歌録りセット”を所有するディレクターもいる

それから、録音の環境も大切です。皆さんはなかなか防音のスタジオで録音というわけにいかないと思います。しかし、少なくとも歌入れのときは歌手が思い切り歌っても大丈夫な環境を作りたいものです。周囲に遠慮して抑えて歌うと、その曲に合う一番良いサウンド、キーやテンポなどが決められなくなります。録音の時間帯やリハスタ、カラオケボックスなどを利用して歌手の人が思いっきり歌える環境を探しておくことも大切です。

もちろん、できるだけ良い音質でしっかり録っておくことも重要。デモの段階で人に聴かせることになった場合でも安心ですし、キーやテンポをデータ上で変える場合でもちゃんとした音になります。

また、自宅録音の場合、マイクやマイクプリの選択肢はあまりないかもしれませんが、プロフェッショナルのプロジェクトでは、デモの録音時に歌手に合ったマイクやマイクプリの選択を試す場合もあります。もしくは私もそうでしたが(レコーディング・エンジニアはもちろん)、ディレクターが“歌録りセット”を持っていて、それで作業する場会があります。“歌録りセット”、つまりマイク、マイクプリ、コンプのセットを持っていて(マイク・ケーブル、電源ケーブルも独自のモノを持っている人が多い)、デモはもちろんのこと、本番のレコーディングでもそれを使います。そうすればスタジオは変わるかもしれませんが、機材のセットアップが同じなので音色がそろうため、デモのデータも本番のレコーディング・データの抑えとして使える可能性が出てきます。また使い慣れた機材なのでその後の処理の仕方もイメージしやすいです。

ちなみに私が手嶌葵さんのディレクターとして制作に携わっていたときの“歌録りセット”は、マイクはBRAUNER VM1、マイクプリにGRACE DESIGN Model 201、コンプはTUBE-TECH CL1Bで、デモやレコーディングの度にスタジオへ運んでいました。皆さんも“歌録りセット”を持っておくと便利かもしれません。

モニターに関しても考えておきたいです。良いヘッドフォンの用意はもちろんですがクリックも気にしたいところです。クリックはヘッドフォンからの漏れなどを考慮して単独で音量、音色をコントロールすることはもちろんですが、テンポによっては4分音符と8分音符、どちらのクリックが良いのか、アクセントはあった方が良いのか、音色は……など歌手とコミュニケーションを取りながら歌いやすいクリックに変更できるように配慮と準備をしておきましょう

今回は主に環境の話をしました。次回は実際にデモで制作チームや歌手とどのようなコミュニケーションを取って録音をすべきかというお話です。それでは次回お楽しみに!

▲筆者の“歌録りセット”。手嶌葵さんのディレクターをしていた際には、マイクはBRAUNER VM1、マイクプリにGRACE DESIGN Model 201、コンプはTUBE-TECH CL1Bを持ち込んでいた ▲筆者の“歌録りセット”。手嶌葵さんのディレクターをしていた際には、マイクはBRAUNER VM1、マイクプリにGRACE DESIGN Model 201、コンプはTUBE-TECH CL1Bを持ち込んでいた

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【中脇雅裕】
プロデューサー/音楽ディレクター。CAPSULE、中田ヤスタカ、Perfume、手嶌葵、きゃりーぱみゅぱみゅなどのヒット作品に深くかかわる。アーティスト/クリエイターの成功とメンタルの関連性に日本でいち早く着目し、研究を重ねている。http://nakawaki.com

※本連載は毎月15日・30日近辺に更新していく予定です。お楽しみに!