世界的ヒット映画のサウンド・デザイン〜デイヴ・ホワイトヘッド氏インタビュー

11月開催のInterBEEで、AVIDは世界的サウンド・デザイナーのデイヴ・ホワイトヘッド氏をオーストラリアから招聘し、ブース内でセミナーを開催した。『ロード・オブ・ザ・リング』『ホビット』シリーズや『第9地区』『キング・コング』など大作を多数手掛けてきた氏に、インタビューをする機会を得たので、ここにお届けしよう。

立ち見が出るほどの大盛況だったセミナー

ホワイトヘッド氏がここで語った多くは、オリジナルのサウンドを収録することの大切さであった。台本を読み込み、必要となる音を書き出し、コンセプト・アートや監督との対話から作品の世界観を共有するところから彼の仕事は始まる。ときには大自然に出向いて猛獣の声を録り、スケート・リンクを借り切って金属的なサウンドを収録するなど、積極的にオリジナルなサウンドを求めて世界中に出かけているという。

デイヴ・ホワイトヘッド氏のセミナーは立ち見が出るほどの盛況 デイヴ・ホワイトヘッド氏のセミナーは立ち見が出るほどの盛況

生録に限らず、『第9地区』では異星人の声を作るために彼らの言語を作るところから始め、宇宙船の音はROLAND JP-8080を2時間ほど演奏した中から使える部分を抜き出すなど、その手法の引き出しは実に多い。『チャッピー』ではキャラクターのモーション・データからMIDIデータを生成し、NATIVE INSTRUMENTS KontaktにSEのサンプルを読み込んで、ロボットと動きの連携を図った。

『チャッピー』で、モーション・グラフィックから起こしたMIDIデータを使った例を説明するホワイトヘッド氏。ノートごとに異なるサンプルをアサインしておくことで、ノート・ナンバーの変更でサウンドの差し替えも容易に行えたという。ニール・ブロムカンプ監督作品では『第9地区』『エリジウム』にも参加している 『チャッピー』で、モーション・グラフィックから起こしたMIDIデータを使った例を説明するホワイトヘッド氏。ノートごとに異なるサンプルをアサインしておくことで、ノート・ナンバーの変更でサウンドの差し替えも容易に行えたという。ニール・ブロムカンプ監督作品では『第9地区』『エリジウム』にも参加している

そんなエピソードの数々をユーモアを交えて紹介しながら、“凝り固まったやり方ではなく、常に新しい方法とツールにアップデートしていくことが大事”という彼のメッセージは、受講者に大きな刺激を与えることになった。インタビューはこのセミナーに次いで行ったものだ。

その作品のシグニチャー・サウンドは自分で作るべき

─セミナーではさまざまな素材をたくさん録ることに主軸が置かれていました。同時に“無数のプラグインも使う”とおっしゃっていましたが、具体的にはどんなものをよく使うのでしょうか?

ホワイトヘッド たくさん使うんだよ(笑)。使うプラグインは頻繁に変わる。最近はINA-GRM GRM Toolsが好きだね。クリエイターには最適なプラグインだ。Evolutionが特にいいね。ミュージシャンにもうってつけだと思う。トーンの雰囲気をコントロールできるし、マジカルだよ。ほら、こうやって洞窟の音をコントロールしていくと……(ゴーという低音からコーという高音にシフトしていく様子を実演してくれる)。テクスチャーにパンチを加えることができるんだ。銃声の加工に使うのにも便利だね。素材は、SOUNDMINER SoundMiner Proでライブラリーを管理している。Pro Toolsに素材をインポートしたら、そのトラックをコピーして、処理用のトラックを作る。いつでも戻れるし、結果をファイル化できるからね。僕は基本的には情報を仲間と共有することにしているけれど、時にはどんなプラグインを使ったのか秘密にすることもあるし(笑)。まあ、そういう秘密は滅多にないけどね。

INA-GRM GRM Tools Evolutionを実演するホワイトヘッド氏 INA-GRM GRM Tools Evolutionを実演するホワイトヘッド氏

─作成したライブラリーはどのように管理しているのでしょうか?

ホワイトヘッド 作品単位にフォルダーにまとめて、その下に“森”とか“洞窟”とか、さらにフォルダー分けしている。ルールを決めているので、それに則ってやることにしているんだ。

─ということは、作品ごとに全く新しいライブラリーを構築するのですか?

ホワイトヘッド そうだね。最初はそこからトライすることにしている。もちろん、ストックとか市販のライブラリーを使うこともある。でも最初は自分たちで収録するところから始めるんだ。監督は、オリジナリティのあるサウンドを求めて僕にオファーしてくれるわけだから。例えば、“ドアを閉める”とか、そういう音はライブラリーを使うこともあるよ。でも、シグニチャー・サウンドと呼べるようなものは、その作品に合ったものを自分で作るべきだと思っている。例えば、その映画の主たる動物の鳴き声とかね。

─誰もが知っている例で言えば、『スターウォーズ』のダース・ベイダーの呼吸音とか?

ホワイトヘッド その通り。それがシグニチャー・サウンドだよ。作品のために、録音に自然の中に録音に行くことはとても楽しい。ライオンの鳴き声を録りにいったりとかね。後の作業はスタジオにこもってばかりだから。オーケストラを録音するときに、ローエンドに気を配ったり、ダイナミクスをきちんととらえらているかを確認したりするよね? それと同じで、現場に出て音を感じてやるのがいいと僕は思うんだ。

録り音とミックスのレンジとダイナミクスに気を配るのは音楽と同じ

─セミナーで、低域/中低域/中高域/高域の配分に気を配るべきだというお話をされていましたが、それは1つのサウンドというより、シーン全体のことでしょうか?

ホワイトヘッド シーン全体だね。例えば森にいる。雨が降る音の高域、雷の高域と低域、木の葉のこすれる中域、鳥が鳴く、風が吹く……といったように、そういうさまざまな音で構成されている。それぞれの役割を帯域で考えるんだ。音楽と同じなんだ。僕ももともとバンドをやっていたからね。ミュージカルで配役が決まっているように、劇中のサウンドにもそれぞれ役割があるんだ。ダイナミクスが重要な点も音楽と同じだよ。静かなところで、観客が落ち着いた感じになる。そこに大音量でインパクトを与える。それも音楽的な感覚で表現できるはずだ。そうやって全体的なサウンドをまとめあげるのはクリエイティブな仕事だよね。セミナーで“新しいプラグインをチェックしろ”と言ったし、僕も常に新しいプラグインを買っていて財布がすっからかんだけど(笑)、僕が1993年にPro Toolsを手にした学生のころはお金が無くて、サード・パーティのプラグインを買うこともできなかった。だから、Pro Toolsに持っていく前に良い音を録ることを心掛けているのは当時から変わらない。アビイ・ロード・スタジオでいい音で録れたチェロには何も要らない、というのと同じだね。ちなみに、よく使うのマイクはSCHOEPS、SANKEN、DPA、SENNHEISER。BURCUS BERRYのコンタクト・マイクも使うし、本当にたくさんのマイクを持っているんだ。

帯域を意識することが重要だと語るホワイトヘッド氏。例えば爆発音にも高域成分が加わることでパンチが出るという 帯域を意識することが重要だと語るホワイトヘッド氏。例えば爆発音にも高域成分が加わることでパンチが出るという

─サウンド・デザインのお仕事をされる前は、どんな音楽をやってらしたのですか?

ホワイトヘッド パンク・バンドやヘビー・メタル・バンドでベースを弾いていた。最近でも去年、テレビ番組のために作曲もしたよ。まだ音楽も続けているんだ。

─ではどういうきっかけでサウンド・デザインのお仕事を始めることになったのですか?

ホワイトヘッド 1990年に、大学の映画制作学科にあったMIDIルームのテクニシャンとしての仕事を得たんだ。音楽をやっていたから、そっち方面には強かったから。そこで働いているときに学生の作品にサウンドを付ける機会があって、その作品を見たある映画監督が“これを仕事としてやってみないか?”と声をかけてくれたんだ。そこから2作品くらいかかわった後に、『ロード・オブ・ザ・リング』のチームに加わることになった。根がミュージシャンだから、今もって、朝起きたときにサウンド・デザインのことよりも音楽のことが思い浮かんでしまうね。自宅にはROLANDのSystem-1やJP-8080もあるし、MOOG、DAVE SMITH INSTRUMENTS Prophet-’08、OBERHEIM Matrixとか、とにかくたくさんシンセがある。RHODESもあるし、ギターもあるし、モジュラー・シンセも始めたばかりだ。チェロもあるよ……ノイズしか出せないけど(笑)。とにかく、コンポーザーとしての感覚は仕事にも生きてる。『ロード・オブ・ザ・リング』とか『キング・コング』でキャラクターが太鼓をたたくシーンの音とか、巨人が歩く音とかも、僕が映像に合わせてプレイしているんだ。サウンドトラックとしてはクレジットされていないけどね(笑)。あと、息子が2人いるんだけど、彼らが聴いている現代のエレクトロニック・ミュージックからも影響は受けているよ。

─セミナーで、低域にドロップしていくSEはあなたが流行させたとおっしゃっていましたが、EDMなどの影響もありそうですね。

ホワイトヘッド 『ロード・オブ・ザ・リング』の最初の作品だからそれよりも前かな。当初は冒頭10分だけというオファーだったんだけど、JBL PROFESSIONALのレンジの広いスピーカーを入手できたので、1kHzのトーンからピッチを落として作ってみたんだ。結局作品全体にかかわることになったけれど、後に『トランスフォーマー』や『カンフー・パンダ』とかでも似たようなサウンドが使われたりした。光栄なことだよね。

常に新しいプラグインのチェックは欠かさないと語る氏 常に新しいプラグインのチェックは欠かさないと語る氏

Interpretation:Kazumi Mihashi(AVID)

【関連外部リンク】
AVIDブログ:サウンド・デザイナーのデイブ・ホワイトヘッド氏がプラグイン、映画製作、イマーシブ・オーディオ、Pro Toolsについて語る
http://www.avidblogs.com/ja/dave-whitehead-broadcast-asia/
WHITE NOISE(デイブ・ホワイトヘッド氏のプロダクション)
https://whitenoise.co.nz/