OCEAN WAY PRO:アラン・サイズ氏インタビュー

アメリカ西海岸のオーシャン・ウェイ・スタジオズの設立者/CEOであるアラン・サイズ氏。マイケル・ジャクソン、エリック・クラプトン、フィル・コリンズらを手掛け5度のグラミー賞に輝くエンジニア/プロデューサーだが、そもそもスタジオを作ったきっかけは、“自分が作ったモニターで音楽を聴くためだった”という生粋のスピーカー・デザイナーでもある。この7月より、氏が手掛けるOCEAN WAY PROブランドの製品が日本でも流通する運びとなり、6月16日にサウンドインスタジオにて発表会が開催された。 今回発売される製品は、ホーン型の2ウェイ・モニター・スピーカーHR4(サブウーファーS12Aを組み合わせて3ウェイのHR4Sとしても使用可能)、同じく8インチの低域ユニットを搭載したモニター・スピーカーPro2A、リボン・マイクRM-1Bというラインナップ。会場には多くのスタジオ関係者/エンジニアが詰めかけ、サイズ氏本人による各製品のプレゼンテーションの後、サウンドインスタジオBstのコントロール・ルームにてHR4S/Pro2Aの試聴会となった。ここでは発表会後に編集部が行った、サイズ氏のインタビューをお届けしよう。(通訳:伴野由里子)
会場のサウンドインスタジオには多くのスタジオ関係者、エンジニアが集まった 会場のサウンドインスタジオには多くのスタジオ関係者、エンジニアが詰めかけた
コントロール・ルームでの試聴セッションでは、クラシックからR&Bまでさまざまなジャンルの音楽がプレイされた コントロール・ルームでの試聴セッションではクラシックからR&Bまでがプレイされた

 

高効率で広い水平指向性を誇るホーン型パワード・モニターHR4


 ーーまずHR4についてお聞きしたいのですが、前々モデルのHR2から低域ユニットを切り離したような、独特のボディ形状になっていますね。
サイズ 確かに、HR4はHR2がベースになっています。設計の主眼は、ラージ・モニターの迫力/ダイナミクスを小型スピーカーで実現することでした。“Constant Directivity Horn”という独自のボディ構造を採用しており、高域ユニットは1インチのシルク製ソフトドーム、低域は8インチのアルミコーンを採用しています。  
2ウェイ・モニター・スピーカーのHR4。ホーン型の筐体が印象的だ 2ウェイ・モニター・スピーカーのHR4。ホーン型の筐体が印象的だ
 ーー試聴ではさまざまなジャンルの音楽がプレイされましたが、一貫して音のスピード感が印象的でした。
サイズ 各ユニットは材質から吟味した結果、かなり軽量に仕上がっています。これにより、モダンな音楽にも対応するレスポンスの良さと音のスピード感を得ているのです。クロスオーバーは650Hzに設定していますが、実際に低域ユニットは2kHzまで再生が可能です。クロスオーバーする周波数帯域を広く取ることによって、2つのユニットのつながりがスムーズになるのです。ーーサブウーファーを足さないHR4でも35Hz〜25kHzと低域の特性が優れていますが、これはどのようにして実現しているのでしょうか?
サイズ ホーン部に“石”を混合した樹脂、筐体にも高密度のMDFを採用しているためボディ剛性が高く、共振を抑えています。あと、密閉型であることもポイントです。一般的にバスレフ式のスピーカーの方が低域が出ると考えられがちですが、密閉型は低域のロールオフが緩やかになる特性があります。筐体のサイズと構造、ユニット特性のコンビネーションによって、質の高い低域を実現しているのです。ーー発表会では、水平方向の指向性の広さを強調されていましたね。
サイズ スタジオで作業していると、ポジションによって聴こえ方が違ってしまう場合があります。その点、HR4は水平方向の指向性が100°もあります。仮にR側のスピーカーの外側に立ったとしても、L側のスピーカーの音が目の前にあるように聴こえるはずです。また能率が非常に高く、大音量でもさほどパワーを必要としません。ですからHR4はひずみが少なく、ホーン・スピーカーにありがちな“こもった”音がしないのです。これは低域/高域ユニットのタイム・アライメントが完ぺきにそろっていることも関係しています。OCEAN WAY PROのスピーカーは、DSPによる補正を必要としないのです。ーーホーン型のモニターにこだわる理由は?
サイズ 各ユニットの出力を電気的にではなくボディ構造で増幅できるので、結果的に効率が良くなり、広いダイナミック・レンジが得られるからです。  
サブウーファーS12Aを追加することで、3ウェイのシステムHR4Sとなる サブウーファーS12Aを追加することで、3ウェイのシステムHR4Sとなる
ーーHR4はサブウーファーのS12Aを追加することで3ウェイのシステムになりますが、例えば2台のHR4に1台のS12Aを組み合わせて、2.1chのシステムとすることは可能なのでしょうか?
サイズ エンジニアとして私が最も重要視するのは、“すべてのユニットの音が同時に耳に届く”ことです。2.1chシステムは時として低域が遅れて聴こえることがあり、私はあまり好きではありません。ですからHR4Sは、あくまで3ウェイのステレオ・スピーカーとして設計しています。このシステムを自宅に持っていれば、外スタジオでレコーディングなどの作業する際に、HR4だけを取り外して持ち出すといった使い方も考えられます。


 
Pro12Aはオーセンティックなモニター・スピーカーらしい形状 Pro12Aはオーセンティックなモニター・スピーカーらしい形状
 ーーPro2Aは典型的なモニター・スピーカーの形状に近くなっていますね。
サイズ はい。特徴としては、小型ながらかなりの低域まで再生する点が挙げられます。私が理想とするサウンドを、最小サイズかつ手ごろな価格で提供する狙いで開発しました。小型ですが、音質面での妥協は一切ありません。この価格帯で、これだけフラットな周波数特性を持つモデルを、私はほかに知りません。ーーユニットの構成は?
サイズ 音質傾向とサイズはHR4と同じですが、各ユニットはPro2A専用に設計されています。水平方向の指向性も、同じ形状をした他社のスピーカーが25°程度のところ、Pro2Aは35°〜40°をカバーします。ーーHR4、Pro2Aともに低域ユニットは8インチとなっていますが、モニターとしてはこれくらいの口径は必須とお考えでしょうか?
サイズ そうですね。低域特性と音量感という意味で、私たちが求める性能を実現するには、8インチは必要です。とは言え、日本の住宅環境でも決してトゥーマッチなサイズではないと考えています。先日、実際にHR4を日本のエンジニアのプライベート・スタジオに持ち込んで聴いてみましたが、十分に性能を発揮できていたと思いますよ。ーーOCEAN WAY PROのモニターを使うことで、エンジニアはどのようなメリットがあるのでしょう?
サイズ HR4/Pro2Aは定位がクッキリしており、周波数特性もフラットなので、ミキシング時の各楽器の配置やリバーブの量などを正確に聴き分けて適切な処理ができるようになるでしょう。エンジニアにとって、最も大事な機材はモニターです。なぜなら判断基準となる音が正しくなければ、正しいミキシングをすることは不可能だからです。逆に言えば、モニター・スピーカーさえしっかりしていてくれれば、クライアントやアーティストは満足してくれます。それこそがエンジニアにとって一番の喜びなのです。すごく良い録音/ミキシングが施された音源をOCEAN WAY PROのスピーカーで聴くと、とても幸せな気持ちになります。逆にあまり出来の良くないミックスを聴くと、部屋から出ていきたくなるでしょう(笑)。 

明りょうな録り音が得られるリボン・マイクRM-1B


 
リボン・マイクRM-1Bの実機もブースに用意され、ヘッドフォンで試聴できた リボン・マイクRM-1Bの実機もブースに用意され、ヘッドフォンで試聴できた
 ーーRM-1Bはリボン・マイクですが、この型式にこだわりがあったのですか?
サイズ 私はエンジニアとしてさまざまなリボン・マイクを使ってきましたが、多くの場合、使用するシチュエーションは限定されたものでした。その意味で、RM-1Bはこれまでのリボン・マイクとは全く性格が異なります。理想としたのは、“オリジナルのNEUMANN U47に近い音質キャラクターを持ちつつ、高域はリボンならではのスムーズさを備えた”マイクです。普段の仕事では、トランペットなどの管楽器を録る場合にリボン・マイクを使う機会が多いです。確かに高域はキンキンしないのですが、実際の録り音はトランペットに聴こえないという場合も多かった。私は、リボン・マイク特有の高域特性を備えつつ、“楽器らしい音”で録れるマイクを作りたかったのです。ーーそのためにどのような技術を使っているのですか?
サイズ リボン・マイクの弱点はドライバーの磁力が不足しがちなことでした。そこで私たちはネオジム永久磁石を2つ組み込むことで12,000ガウスを発生させ、通常のリボン・マイクよりも8dBほど高いゲインを実現しています。また、リボン・マイクは筐体内部で共鳴が発生しやすいという弱点がありましたが、私たちは構造的にこれを解決し、結果として自然でありながら明りょうなサウンドが得られるマイクに仕上げました。個人的に、RM-1Bはボーカル・マイクとしても優秀だと思います。エンジニアのショーン・マーフィにもRM-1Bを試してもらいましたが、「TELEFUNKEN Ela M  250に匹敵するマイクだ」と感心していましたね。ーーいずれもエンジニアにとっては大きな武器になりそうな製品ですね。
サイズ 昨今は配信&ヘッドフォンによる音楽聴取が主流になりつつありますが、個人的に、リスナーはどんな形で音楽を聴こうが構わないと考えています。演奏が素晴らしく、良い音で録音/ミックスされていさえすれば、という条件付きですがね! そのためにも、エンジニアは優れたマイクを使い、ミキシング作業はスピーカーを使って行うべきです。音のバランスや空間的な位置を体で“感じ”ながら作業するために、質の高いモニター・スピーカーは欠かせない機材なのです。 

SPECIFICATIONS


HR4
1,240,000円(ペア)
■キャビネット:密閉型
■HFドライバー:1インチ・ソフトドーム
■LFドライバー:8インチ・アルミコーン
■HFパワー・アンプ:125W
■LFパワー・アンプ:125W
■周波数特性:35Hz〜25kHz
■最大ピーク・レベル:116dB
■外形寸法:645(W)×354(H)×354(D)mm
■重量:26kg HR4S(サブウーファーS12Aと組み合わせた3ウェイ・システム)
1,980,000円(ペア)
※S12A単体:380,000円(1台)
スピーカー・スタンド:280,000円(ペア)■S12Aドライバー:12インチ
■S12Aパワー・アンプ:800W
■周波数特性:25Hz〜25kHz
■外形寸法(S12A):455(W)×455(H)×544(D)mm
■重量(S12A):35kg Pro2A
760,000円(ペア)
■キャビネット:背面バスレフ型
■HFドライバー:1インチ・ドーム
■LFドライバー:8インチ・コーン
■HFパワー・アンプ:125W
■LFパワー・アンプ:125W
■周波数特性:35Hz〜25kHz
■最大ピーク・レベル:110dB
■外形寸法:282(W)×405(H)×352(D)mm
■重量:20kg RM-1B
520,000円
■出力:−36dB
■周波数特性:20Hz〜20kHz
■磁性体:ネオジム永久磁石と無電解ニッケルメッキ処理による純鉄導体
■外形寸法:76(W)×152(H)×51(D)mm
■重量:3.4kg※価格はすべて税抜き表示 問い合わせ:ステラ
電話:03-3958-9333
www.stella-inc.com