こんばんは。作曲家のこおろぎです。筆者は普段、舞台作品の劇伴音楽やドラマ、CMの音楽を手掛けていて、その制作にPreSonus Studio Oneを使用しています。今回はStudio Oneのブラウズ(プラグインやサンプルのブラウザー)や標準搭載のサンプラーについて書きます。
ブラウズにドラッグ&ドロップするだけでイベントをMIDIファイルやサンプルにできる
“どういう部分から音楽を作りはじめますか?”と、よく聞かれるのですが、いつも何となく“決まっていない”と答えています。曲を作るときには、ピアノ音源が1つだけ挿さっているソング・テンプレートを立ち上げます。ピアノ音源を除いては空っぽの状態ですが、そこからが作曲のスタートです。
音楽の作りはじめ方についてよく考えてみると、あえて決めていないし、むしろ意図的に手の付け方を曲ごとにバラバラにしていると思います。最初に鳴らす楽器を変えたり、リズムのパターンを変えたり、リズムではなくメロディやコードから作りはじめたり、先にセリフを録音したりと、とっかかりはさまざま。また、初めに生楽器を録音するか、サンプルから作りはじめるかによっても結果が変わってくるので、考えつく限りの手法を試してみます。
舞台の劇伴音楽の場合、1つの演目で30曲前後は作ります。曲によって楽器の使い方やリズムを変えることで、各場面の雰囲気の違いを演出しやすくなるわけですが、制作の手順を固定化し、常にドラムから作るような流れにしてしまうと、必ずドラムが入った曲になってしまいます。また、ピアノから始めてほかの楽器に置き換えたとしても、やっぱり“ピアノから作った感じの曲”になってしまう。しかし、毎曲違う入り口から始めると音楽での演出にダイナミズムが生まれますし、作曲の技術も進化し続け、新鮮なものを生み出していくことにつながるのではないでしょうか。
そして、このような作り方にはStudio Oneの“ブラウズ”が強力です。ブラウズはソング画面の右側に配置されており、インストゥルメントやエフェクトといったプラグインをはじめ、オーディオ・ループやワンショット・サンプルなどのストレージ内のツールを検索し、ドラッグ&ドロップでアレンジ画面に立ち上げられるものです。
ループやワンショットはブラウズ内でプレビュー(試聴)可能で、お気に入りが見つかればすぐアレンジ画面にインポートできます。
また、トラック画面上のオーディオ・イベントやMIDIイベントをブラウズにドラッグ&ドロップすると、独立したファイルとして保存されます。
サンプル化したいオーディオを書き出し、Studio OneのSound Setsフォルダーに保存して……というプロセスは不要です。このスピード感によって、さまざまなサウンドを次々に試していけます。
さらに、プラグインのプリセットもブラウズ上に表示させることが可能。よく使ったり探すのが大変だったりするプリセットをアレンジ画面と地続きの場所から見つけられるのは効率的ですし、好きな名前を付けたユーザー・プリセットを検索することもできます。Studio Oneは全体として階層が少なく、直感的にコントロールできるのがストレスフリーで良いと思います。
ブラウズには、インストゥルメントやエフェクトといったプラグインのカテゴリーを表すタブのほか、ファイルというのもあって筆者はよく使っています。サンプルの閲覧にはもちろん、MIDIイベントやMusicloop(MIDIデータや音源、インサート・エフェクトなどを一体化させたファイル)をドラッグ&ドロップで直接ブラウズに書き出しておき、ライトモチーフとして引用したり、アレンジ・バージョンを作ったりするときに再度アレンジ画面にインポートする要領です。
こうした“素材の行き来のしやすさ”につながることとして、ソング間でデータをコピー&ペーストできるのもStudio Oneの利点でしょう。例えば、同時に立ち上げた2つのソングのうち、片方のオーディオ・イベントをコピーして、もう片方にペーストするようなことも可能です。
ドラム・ループを“新規Impactに送信”で自動的にワンショットに切り分ける
ここからは、私がよく使うStudio Oneの純正プラグイン、SampleOne XTとImpact XTを紹介します。どちらもサンプラーですが、用途が違います。
●SampleOne XT
グラフィックの鍵盤が付いたサンプラーで、ピッチ・トランスポーズやフィルター、アンプ、それらに対するエンベロープ・ジェネレーターなどを備えています。ドラッグ&ドロップでのサンプル・インポートのほか、オーディオI/Oからの入力ソースやソフト音源、トラックの出力を録音してサンプル化することもできます。筆者のSampleOne XTの用途は、ハーモニー作りやサンプルのピッチ変更、ループの作成などで、自分で録音したデータや効果音、ドラムといった素材を読み込んで加工しています。
●Impact XT
グラフィックのパッドを備えたドラム用サンプラー。A〜Hの8つのバンクを持ち、各バンクに16個のパッドを装備するため、最大128個のサンプルをインポートして扱えます。便利なのは、任意のドラム・ループをトラック画面やブラウズで選択し、右クリック・メニューから“新規Impactに送信”を選ぶと、そのループ内の打楽器音が自動的にスライスされ、ワンショットとして各パッドに割り当てられる点。
私は、こういった自動スライスのワンショットを元に、新たにリズム・パターンを組むことがあります。ワンショットをトラックに並べてリズムを組むより、サンプラーに読み込んでMIDIでコントロールしたほうが不規則なリズムも作りやすく、表現の幅が広がると思います。
なお、SampleOne XTとImapct XTはショートカットで立ち上がるようにしています。実は私、サードパーティのフォーマットで自作のライブラリーを発売しているのですが、自分だけが使う音については素材の読み込みが速いSampleOne XTとImapct XTを使っています。
今回は、Studio Oneの中でもかなり基本的な部分に言及しました。長年のユーザーの方々にはおさらいに、ビギナーの方には参考にしてもらえたらと思います。また来月も、よろしくお願いいたします。
こおろぎ
【Profile】宮崎県出身。ギター演奏から音楽の世界へ入る。バンド活動のほか、フリーのBGMを配布して知名度を高めるという手法を経て、プロの音楽家として活動するようになる。舞台を中心にドラマ、CM、ゲーム、アトラクション、ストック・ミュージックなど幅広い分野の音楽を制作。生楽器、シーケンス、サンプリングなど、あらゆる手法を駆使してサウンドを構築する。
PreSonus Studio One
LINE UP
Studio One 6 Professional日本語版:52,800円前後|Studio One 6 Professionalクロスグレード日本語版:39,600円前後|Studio One 6 Artist日本語版:13,200円前後
※いずれもダウンロード版
※オープン・プライス(記載は市場予想価格)
REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.14以降(64ビット版)、INTEL Core i3プロセッサーもしくはAPPLE Silicon(M1/M2/M3チップ)
▪Windows 10(64ビット版)、INTEL Core i3プロセッサーもしくはAMD A10プロセッサー以上
▪共通:4GB RAM(8GB以上推奨)、40GBのハードドライブ・スペース、インターネット接続(インストールとアクティベーションに必要)、1,366×768pix以上の解像度のディスプレイ(高DPIを推奨)、タッチ操作にはマルチタッチに対応したディスプレイが必要